雇用された職場で障害者いじめが発生したら?|障害者虐待の対応と相談先


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もし職場で障害者いじめが発生したらどうすればよいのでしょうか。2012年に障害者虐待防止法が施行され障害者に対する虐待行為を明確に禁じました。虐待を受けたと思われる障害者を発見した人にも通報の義務があります。今回は、どのような行為が虐待に当たるのか、障害者が虐待を受けていると思われる場合はどうするべきかを解説します。

障害者に対する虐待の種類と具体例

厚生労働省は毎年「使用者による障害者虐待の状況等」を発表しています。2017年度の報告では、前年度に比べて障害者虐待があったという通報・届出件数も、実際に虐待が認められた件数も増加しました。2018年度では、通報・届出件数は増加、虐待と認められる件数は減少しています。

虐待にはどのような種類があり、2018年度に実際どのくらい虐待が起こっていたのかを具体的に見ていきましょう。

障害者虐待の現状

2018年度は、全体としては、職場での障害者虐待があったという通報や届出は増えていますが、実際に虐待があったと認められたケースは2017年度より減りました。具体的には、

  • 通報・届出のあった事業所数:1,656事業所(173事業所増加)
  • 通報・届出のあった障害者数:1,942人(512人減少)
  • 実際に虐待が認められた事業所数:541事業所(56事業所減少)
  • 実際に虐待が認められた障害者数:900人(408人減少)

という数字になっています。

しかし、障害者が正社員かどうかにかかわらず虐待は発生。虐待が認められた事業所の規模を見ると、5人以上30人未満の事業所が全体の52.7%を占め、2017年度よりも0.4%増加しています。

虐待の種類と具体例、刑法との関係

障害者に対する虐待は5つに分類されます。最も多いのが経済的虐待であり、次に多いのが心理的虐待。虐待は障害者の尊厳を傷つける行為であるとともに、刑法違反となり、逮捕者が出る場合もあります。

経済的虐待

虐待の中で最も多いが経済的虐待です。障害者の財産を不当に処分する、その他障害者から不当に財産上の利益を得るなどの行為が該当します。

具体的には、賃金を払わない、本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用するなどの行為です。2018年度では83.0%が経済的虐待でした。窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、横領罪などに問わる可能性があります。

心理的虐待

2番目に多く見られるのが心理的虐待で、2018年度では9.7%が該当。2017年度より1.7%の増加です。障害者に激しい暴言を浴びせたり、きわめて拒絶的な対応または不当な差別的言動を行ったりするなどして、障害者に著しい心理的外傷を与える行為のことです。

具体的には、怒鳴る、悪口を言う、仲間はずれにする、子ども扱いするなど。脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪などに問われる可能性があります。

身体的虐待

2018年度では4.4%の割合で認められたのが、身体的虐待です。障害者に怪我をさせたり、怪我するおそれのある暴行を加えたり、正当な理由なく障害者の身体を拘束したりすることです。

具体的には、殴る、蹴る、叩きつける、つねる、無理やり飲食物を口に入れる、やけどさせる、しばりつける、閉じ込めるなどの行為。殺人罪、傷害罪、暴行罪、強要罪、逮捕監禁罪などに問われる可能性があります。

放置等による虐待

放置等による虐待とは、障害者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置を行ったり、虐待されている障害者を放置したりするといった行為です。2018年度は全体の2.0%が該当し、2017年度より0.1%増加しています。

具体的には、食事や水分を与えない、入浴や着替えをさせない、病気やけがをしても受診させない、第三者による虐待を放置する、など。保護責任者遺棄罪に問われる可能性があります。

性的虐待

障害者にわいせつな行為をしたり、わいせつな行為をさせたりすることは性的虐待です。認められた件数としては最も少ないものですが、毎年6件〜11件の間で推移しています。

具体的な行為としては、性的な行為や接触を強要する、障害者の前でわいせつな会話をする、わいせつな映像を見せる、など。強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制わいせつ罪、準強制性交等罪、傷害罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪などに問われる可能性があります。

障害者虐待の種類と刑法の関係

  概要 具体例 刑法との関係
経済的虐待 障害者の財産を不当に処分したり、その他障害者から不当に財産上の利益を得たりすること 賃金を払わない、許可なく最低賃金以下で雇用する、本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用する 窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、横領罪など
心理的虐待 障害者に対して著しい暴言を浴びせたり、著しく拒絶的な対応または不当な差別的暴言を行うなどして、障害者に著しい心理的外傷を与えること 怒鳴る、ののしる、悪口を言う、仲間はずれにする、子ども扱いする、無視する、など 脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪など
身体的虐待 障害者に怪我をさせたり、怪我するおそれのある暴行を加えたり、正当な理由なく障害者の身体を拘束したりすること 殴る、蹴る、叩きつける、つねる、無理やり飲食物を口に入れる、やけどさせる、しばりつける、閉じ込める、など 殺人罪、傷害罪、暴行罪、強要罪、逮捕監禁罪など
放置等による虐待 障害者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置を行ったり、虐待されている障害者を放置したりすること 食事や水分を与えない、入浴や着替えをさせない、病気やけがをしても受診させない、第三者による虐待を放置する、など 保護責任者遺棄罪など
性的虐待 障害者にわいせつな行為をしたり、わいせつな行為をさせたりすること 理由もなく不必要に身体に触る、裸の写真やビデオを撮る、性的関係を強要する、障害者の前でわいせつな会話をする、わいせつな映像を見せる、など 強制わいせつ罪、

強制性交等罪、

準強制わいせつ罪、

準強制性交等罪、

傷害罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪など

障害者虐待の防止と対応策

虐待は障害に対する無知や無理解から生じることが少なくありません。「ついやってしまった」という小さなことがきっかけとなり、エスカレートして虐待に至るケースも多く見られます。そのため、まずは職場の人たちが知識をもち、障害を理解すること、障害者が働く中で困ったことがあった場合の相談窓口を設置・利用することが、虐待防止には不可欠です。

虐待を防止するには

虐待防止にとって最も重要なのは、障害に対する理解と配慮をもつこと。研修を実施したり相談窓口を設けたりすることで、虐待防止につなげられます。

研修の実施

障害者虐待を防止するための研修では、次の5つを押さえましょう。

  • 障害に対する理解や配慮を深める
  • 何が虐待にあたるのかを知る
  • 障害者支援の方法を知る
  • 相談や苦情がある場合はどこが窓口になるかを知る
  • 通報義務があることを知る

使用者による虐待は、障害に対する無理解や無配慮、虐待行為に対する知識の不足が原因となることも多く、障害と虐待についての知識を深めなければ根本的解決は困難です。

また、障害者支援は支援する側にも身体的・心理的な負担が大きく、そのストレスから虐待が始まるケースがあります。チーム体制で障害者をサポートするなどの支援方法を知り、体制を整えることで、こうした負担を軽減しなければなりません。困ったときはどこに相談すべきか研修の中で明確にしておけば、障害者も支援者も状況を第三者に相談することができ、具体的な解決に結びつけやすくなるでしょう。

最後に、障害者虐待防止法によって障害者虐待と思われる状況を発見した者に通報義務があることも研修で伝えなければなりません。虐待を放置することも虐待です。通報するかどうかの判断にあたり、虐待者や被虐待者の「自覚」は必須ではありません。また、相談・報告・届出を行った人が、それを理由に不利益な取り扱いを受けないこと(通報者保護)も、しっかり伝えましょう。

相談・苦情処理体制の整備

障害者雇用にあたって、障害をもつ労働者が相談できる窓口を設置することは、障害者雇用促進法でも求められています。障害者相談窓口の設置は、従業員の悩みや苦情への早期解決や合理的配慮の提供につながるだけでなく、虐待が起きてしまった場合は、速やかな状況把握・改善にもつながります。

障害者虐待の通報・届出後、どうなる?

虐待を受けている障害者本人が障害者虐待担当窓口に虐待のことを知らせることを「届出」、本人以外が知らせることを「通報」と呼びます。障害者虐待の相談・通報・届出の担当窓口は、市区町村や都道府県、労働局に設置されています。

通報・届出があると所轄の労働局に報告され、労働局、労働基準監督署、または公共職業安定所の職員が関連法令に基づき、事業所の訪問調査を実施。もし虐待が認められれば、関連法令に基づいて必要な指導が行われます。

「これは虐待では」と感じたら

「これは虐待では」と感じたら、市区町村や都道府県、労働局の窓口に知らせましょう。東京都と神奈川県の通報・届出窓口は、以下のリンクから見ることができます。

それ以外の都道府県でも、都道府県名と「障害者虐待 通報」などでインターネット検索すると連絡先を見つけられるでしょう。インターネットで見つけられない場合は、労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーや、市区町村の障害者虐待防止センターなどに連絡しましょう。

実際に報告された障害者虐待事例と対応

使用者による障害者虐待の状況等の報告では、実際に起こった虐待事例についても記載されています。あなたのまわりでこのようなことが起こっていないか、確認してみてください。

事例1|身体障害者

身体障害者である労働者が、上司によって職場内の倉庫に複数回閉じ込められた。障害者が事業主に相談し、事業主が調査を実施。上司が事実を認めたため、事業主が当該上司に指導を行い、当該障害者と上司が仕事上で接触しないよう事業主が指示した。

労働局は、引き続き適切な対応を行うよう指導した。

事例2|知的障害者

知的障害者である労働者が、事業主から以下のような行為を受けた。

  • 作業が遅いことを叱責される
  • 反論すると脇腹を殴られたり、腰を蹴られたり、襟をつかまれたりする
  • 「帰れ、二度と来るな」と言われる

通報により発覚し、緊急対応が必要な事案であると判断されたため、労働局、市、県が合同で訪問調査を実施。調査により、身体的虐待および心理的虐待が認められた。また、時間外労働に対する割増賃金の不払いも発覚。労働基準監督署が監督を実施したところ、経済的虐待も認められ、是正勧告を行った。

事例3|精神障害者

採用の際「健常者なら時給900円だが、障害者だから800円だ」と言われて同意してしまった。後に納得できないと考え、賃金額の見直しを申し出たが改善されなかった。

労働局が調査を実施し、経済的虐待および障害を理由とする差別として心理的虐待と認められた。事業主に対して改善指導を行い、採用時に遡って時間給900円とした支払いを命じた。

事例4|発達障害者

発達障害者である労働者が、上司から以下のような行為を受けた。

  • 抱きつかれる
  • 身体を触られる
  • 尻を叩かれる

労働局による訪問調査で性的虐待であると認められた。セクシュアルハラスメントの被害者や行為者に対する措置を適切に行い、再発防止策を講じるよう、事業主に指導を行った。

いじめ、虐待のない職場への転職も考えて

障害者いじめや虐待は、職場の特定の人だけが行っている場合もあれば、事業所全体で起こっている場合もあります。もし事業所全体で虐待が恒常化しているなら、いじめや虐待のない職場へ移ることも積極的に考えたほうがいいでしょう。いじめが恒常化している事業所は障害者の尊厳を傷つける職場であるとともに、業績悪化の可能性もあるからです。

障害者虐待が恒常化している事業所をもつ会社は、障害者雇用の助成金を受給するのが困難になり、障害者の支援体制を整えにくく、虐待が公になれば企業イメージが低下します。また、コンプライアンスの点でも問題となり、民間だけでなく自治体や官公省庁からの受注も難しくなります。

このような職場は、障害者に心身の苦痛を与えるとともに、障害者にとって安定した就労にもつながりません。もし、事業所全体にいじめや虐待が見られるなら、通報・届出だけでなく、転職も重要な選択肢の1つです。

【参考】
厚生労働省「「平成29年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表します」
厚生労働省「「平成30年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表します」
東京都福祉保険局「障害者虐待とは」

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