高次脳機能障害者支援法とは?「高次脳機能障害者支援センター」の設置と就労支援


本ページはプロモーションが含まれています

2025年12月に成立した「高次脳機能障害者支援法」が、2026年4月から施行されます。障害についてまだあまり知られておらず、誤解を受けやすい高次脳機能障害への理解を促し、当事者の自立した生活・社会参加の実現に向けた支援促進を目的として定められました。
高次脳機能障害者支援法で規定される責務や取り組み、新しい支援機関「高次脳機能障害者支援センター」について、法律の条文とともにご紹介します。

高次脳機能障害とは?定義と法律の概要

高次脳機能障害のある人の多くは、「外見から障害があることがわかりにくい」という点で、周囲から理解されない苦しみを抱えてきました。高次脳機能障害についての社会全体の理解を促進し、公的機関や医療機関を含む支援体制の整備が急務となっています。そこで制定されたのが、高次脳機能障害者支援法です。

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害者支援法における高次脳機能障害の定義の図。詳しくは、以下本文。

高次脳機能障害とは、けがや病気による脳損傷の後遺症として現れる認知障害のことです。高次脳機能障害者は、全国に約23万人いると言われています。法律における定義は、高次脳機能障害者支援法の第2条に記載されています。

【高次脳機能障害とは(第2条第1項)】
「疾病の発症又は事故による受傷による脳の器質的病変に起因すると認められる記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語、失行、失認その他の認知機能の障害として政令で定めるもの」

記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害に加えて、失語や失行、失認が明記されている点が、当事者や支援団体などから評価されています。

高次脳機能障害のある人は、その障害が外から見えにくく、誤解されやすいという困難を抱えています。障害の特性に対する理解が進んでいないため、「困っていると思われていない」「わがままや性格の問題であると言われやすい」といった場面に直面しやすいのです。

(関連コラム)

  • 高次脳機能障害とは?症状・障害特性のパターンとリハビリテーション

高次脳機能障害者支援法の概要

高次脳機能障害者支援法の基本理念と定められた主な施策の図。詳しくは、以下本文。

高次脳機能障害に関する社会の理解を促進するとともに、高次脳機能障害者の自立・社会参加に必要な全般的支援体制を整備するため、2025年12月16日に、議員立法である高次脳機能障害者支援法が全会一致で可決・成立しました。

法案は、超党派の議員で構成される「高次脳機能障害者の支援に関する議員連盟」によって取りまとめられたものです。2026年4月1日から施行されます。施行後3年を目途に、見直しも検討されます。「ただ法律を作って終わり」ではなく、総合的・計画的な施策の策定・実施、および実施した施策の公表を含むPDCAサイクルを回すことで、より体系的・実効的な支援を実施するためです。

高次脳機能障害者支援法では、支援に関する基本理念として以下の4つをあげています。

【高次脳機能障害者への支援に関する基本理念】

  1. 自立と社会参加の機会が確保され、尊厳を保ちつつ他者と共生することが妨げられないために、支援を行う
  2. 支援は、社会的障壁の除去に資するものである
  3. 個々の事情に応じて、関係者が連携し、あらゆる手段で“切れ目ない支援”が行われなければならない
  4. 居住する地域にかかわらず、等しく適切な支援を受けられるようにする

こうした理念のもとで、次のような施策について規定しています。

【高次脳機能障害者支援法で規定されている施策】

  • 高次脳機能障害者とその家族を対象とする施策
    • 地域での生活の支援
    • 教育的支援
    • 就労の支援
    • 権利利益の擁護(差別・いじめ・虐待等の防止)
    • 司法手続における意思疎通手段確保への配慮
    • 高次脳機能障害者の家族等への支援
    • 相談体制の整備
    • 情報共有の促進
  • その他の施策
    • 国民に対する普及・啓発
    • 医療業務従事者等への知識の普及・啓発
    • 自治体・民間団体への支援
    • 調査研究等
    • 専門人材の確保

これらを実現するため、高次脳機能障害者支援法では国や自治体の責務、障害者雇用を行う事業主が努力すべきことなどを定めています。

高次脳機能障害者支援法で定められた国・自治体の責務

高次脳機能障害者支援法では、国・自治体が行うべき取り組みとともに、今回新たに「高次脳機能障害者支援センター」の設置・指定も規定されました。

国・自治体が行うべき取り組みの概要

高次脳機能障害者支援法で定められた国・自治体の取り組みの図。詳しくは、以下本文。

国・自治体が行うべき取り組みは、医療機関同士の相互協力の推進、情報提供などです。加えて、地域生活支援(第11条)、教育的支援(第12条)、就労支援(第13条)、専門人材の確保(第29条)なども定めました。

地域生活支援(第11条)

第11条では、「高次脳機能障害者が、その希望に応じて、地域において自立した生活を営むこと」を可能にするため、

  • 必要な訓練を受ける機会の確保
  • 社会的活動への参加の促進
  • 生活の質の維持・向上のための支援
  • 共同生活を営むべき住居や地域生活を営むべき住居の確保

などの施策を講じることを定めています。

自立的な地域生活に向けた訓練とは、社会生活への適応のための訓練です。性別、年齢、障害の状態、生活の実態に応じて、本人の意思を尊重しながら進められます。

教育的支援(第12条)

第12条では、学校における高次脳機能障害のある児童・生徒・学生への支援について規定しています。同条第1項は18歳未満の児童・生徒への支援、同条第2項は大学および高等専門学校の学生への支援に関するものです。

第12条の規定が設けられた目的は、「年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするため」です。具体的な施策としては、以下のものがあげられています。

【高次脳機能障害がある児童・生徒などへの支援施策】

  • 可能な限り高次脳機能障害児童生徒等が高次脳機能障害児童生徒等でない者と共に教育を受けられるようにする
  • 高次脳機能障害児童生徒等に対して、適切な教育的支援を行う
  • 高次脳機能障害児童生徒等の個別の教育支援計画を作成する
  • いじめの防止などの対策を推進する
  • 個別の指導に関する計画の作成を推進する

個別の教育支援計画は、長期的支援計画です。教育関連業務を行う関係機関と医療、保健、福祉、労働等に関する業務を行う関係機関・民間団体と連携して作成します。

大学および高等専門学校における支援については、第1項ほど細かい規定は見られず、「個々の高次脳機能障害者の特性に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」となっています。ただし、「特性に応じ、適切な教育上の配慮」が必要としている点から、やはり個々の状況に応じた教育現場での対応が必要です。

就労支援(第13条)

第13条では、高次脳機能障害者が就労できるよう、国および公的機関が行うべき施策を定めています。

【高次脳機能障害者への就労支援施策】

  • 一人ひとりの特性に応じた適切な就労機会を確保する
  • 一人ひとりの特性に応じた就労の定着のための支援を行う
  • 高次脳機能障害者の就労支援に必要な体制の整備に努める
  • 学校において就労のための準備を適切に行うための支援ができるよう、必要に応じて措置を講じる

就労機会の確保や定着のための支援は、

  • 公共職業安定所
  • 地域障害者職業センター
  • 社会福祉協議会
  • 教育委員会
  • その他の関係機関および民間団体

が相互に連携して取り組むものとしています。

専門的知識を有する人材の確保等(第29条)

第29条は、高次脳機能障害についての理解促進および現場の支援を支える専門人材の確保・育成に関する規定です。医療・保健・福祉・教育・労働だけでなく、捜査・裁判に関する業務においても、そうした専門人材の確保を求めています。

施策としては、以下の3つがあげられています。

【専門的知識を有する人材の確保等に向けた施策】

  • 高次脳機能障害の個々の特性や、高次脳機能障害に関する理解を深めるための研修を実施する
  • 高次脳機能障害者への支援に関する専門性を高めるための研修を実施する
  • その他の必要な措置を講じる

高次脳機能障害のある人は、記憶や言語によるコミュニケーションなどに困りごとを抱えるケースが少なくありません。特に、心身の負担が大きい捜査・裁判といった場面では、事実の説明や主張がうまくできず、誤解を受けたまま判断されてしまうこともあります。障害があることによる社会生活や名誉に関する不利益を軽減・解消できるよう、人権擁護の点からも専門人材の育成と確保が求められています。

今回注目されるのは都道府県の取り組み

以上に加えて、都道府県は、専門的な診断・治療・リハビリのための医療機関の確保に務めなければなりません。さらに、課題・情報の共有、関係者間の連携の緊密化、地域の実情に応じた体制整備の協議を行う「高次脳機能障害者支援地域協議会」を設置するよう務めなければならないと定められました。

高次脳機能障害者支援地域協議会の構成メンバーは、

  • 高次脳機能障害者本人とその家族
  • 学識経験者
  • 医療機関(リハビリを含む)
  • 保健関係機関
  • 福祉サービス事業者
  • 教育機関
  • 就労支援機関

などとされています。

そして今回特に注目されているのが、都道府県による「高次脳機能障害者支援センター」の設置・指定です。次項で詳しく見ていきましょう。

高次脳機能障害者支援センターとは?指定と業務内容

高次脳機能障害者支援センターに関する規定の図。詳しくは、以下本文。

高次脳機能障害者支援センターに関する具体的な規定は、高次脳機能障害者支援法の第19条〜第23条にあります。

業務内容と指定、秘密保持義務に関する規定(第19条・第20条)

第19条は、高次脳機能障害者支援センターの業務内容や、それを実施する事業者の指定に関する規定です。

【高次脳機能障害者支援センターの業務内容】

  • 高次脳機能障害者とその家族、関係者に対して、専門的な相談・情報提供・助言を行う
  • 高次脳機能障害者に対して、円滑な社会生活の促進のために、一人ひとりの特性に応じた専門的支援を行う
  • 医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対して、高次脳機能障害に関する情報提供および研修を行う
  • 高次脳機能障害に関して、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連絡調整を行う
  • その他の附帯業務を行う

以上を行うにあたり、高次脳機能障害者支援センターの役員・職員や従事する人々には、第20条で秘密保持義務を定めています。

なお、民間の事業者が高次脳機能障害者支援センターの業務を行う場合は、事業者側からの申請を受けて都道府県が指定するという形になります。民間事業者が業務を行うにせよ、都道府県自らが業務を行うにせよ、

  • 地域の実情を踏まえる
  • 高次脳機能障害者とその家族、関係者が、できる限り身近な場所で支援を受けられるように配慮する

という点も規定されました。

立入調査・改善命令・指定取消しに関する規定(第21条・第22条・第23条)

もし、指定した高次脳機能障害者支援センターに何らかの問題が見られる場合は、都道府県が当該センターに報告を求めたり、事業所立入調査を行ったりすることができます。その結果によっては、改善命令を出すこともあります。

この報告や調査、改善命令に対して不適切な対応があった場合は、都道府県は指定の取消し行うことができます。不適切な対応の具体例は、以下の通りです。

【指定取消しにつながるセンター側の対応例】

  • 都道府県から求められた報告をしなかった
  • 都道府県から求められた報告について、虚偽の報告をした
  • 都道府県による立入調査を拒否したり、妨げたり、忌避したりした
  • 都道府県による立入の際に、質問に答えなかった
  • 都道府県による立入の際に、質問に対して噓をついた
  • 都道府県からの改善命令に違反した

なお、立入調査や質問をする都道府県職員は身分証を携帯し、関係者が提示を求めた際は、その身分証を提示することとされています。

障害者雇用に関する事業主を対象とした条文

障害者雇用を行う事業主を対象とする規定に関する図。詳しくは、以下本文。

高次脳機能障害者が自立的な社会生活を営むにあたっては、就労に関する規定を無視することはできません。国・自治体による施策に加え、障害者を雇用する事業主の取り組みも重要です。そこで、高次脳機能障害者支援法では、第6条および第13条第3項で、事業主が務めるべきことを定めています。

まず第6条に規定されるのは、高次脳機能障害者またはその家族の雇用の継続です。高次脳機能障害者支援法の基本理念に従い、安定した生活と社会参加ができるよう、雇用継続による経済的安定をもって協力することが求められます。

第13条第3項でも、高次脳機能障害者の雇用について「その雇用の安定を図るよう努めなければならない」と定められました。第6条との違いは、雇用安定を図るために、具体的に何をする必要があるのかを記述している点です。

【高次脳機能障害者の雇用安定のための施策】

  • 本人がもつ能力を正当に評価する
  • 適切な雇用の機会を確保する
  • 本人の特性に応じた適正な雇用管理を行う

これらを実現するためには、ほかの障害者の雇用にも必須とされる合理的配慮の手続きに従った建設的対話と業務内容・環境の調整を行っていくことが重要です。

(関連コラム)

  • 【高次脳機能障害】休職者の職場復帰に向けて事業所がやることは? 3つのポイントで安心できる復職へ
  • 高次脳機能障害「自己理解」と望ましい支援方法とは?—NIVR調査研究報告書から

高次脳機能障害者支援法は4月から施行

高次脳機能障害者支援法の成立後、当事者団体や関連団体からは歓迎の声が発表されました。

「本法の成立は、当事者・ご家族、ならびに関連団体の皆様が長年積み重ねてこられた切実な願いが結実したものであり、本学会としても心より歓迎の意を表明いたします。(中略)高次脳機能障害の中核的な症状でもある失語症が支援の対象として明確に位置づけられたことは、極めて大きな意義を有するものと受け止めています」(日本高次脳機能学会)※1

「当事者と家族が切望しておりました高次脳機能障害者支援法が成立いたしました。これは、高次脳機能障害支援の新たな幕開けとなります」(高次脳機能障害友の会)※2

高次脳機能障害に関する「知らないから、わからない」という現状を打破し、当事者やご家族への理解と支援が進む社会の実現には、一人ひとりの理解と実践が大きな推進力となります。より多くの領域における理解・支援を進められるよう、国・自治体や関係団体によるパンフレットや資料、学びの機会などを活用していきましょう。

※1 引用:「高次脳機能障害者支援法」の成立にあたって|日本高次脳機能学会
※2 引用:高次脳機能障害者支援法成立|高次脳機能障害友の会

【参考】

ルミノーゾチャンネル あなたの働きたいを応援する就労移行支援事業所
就職、職場定着に真に役立つ情報をわかりやすく解説。
あなたの就労に活用ください。
TOP