【高次脳機能障害】休職者の職場復帰に向けて事業所がやることは? 3つのポイントで安心できる復職へ


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高次脳機能障害は、けがや病気などによる脳の損傷が原因で生じる認知障害のことです。損傷部位によって多様な障害が現れるため、可能な職務や必要な配慮はそれぞれの人で異なります。3つのポイントを押さえながら、高次脳機能障害で休職している社員の職場復帰をサポートしていきましょう。

高次脳機能障害をもつ方の職場復帰の流れ

高次脳機能障害はけがや病気による脳損傷が原因で生じます。そのため、高次脳機能障害をもつ方が休職している場合、最優先となるのはけがや病気の治療です。

けがや病気から回復しても、認知障害によって従来できていたことが難しくなっているケースが多いため、医学的リハビリテーションによって機能の回復や低下した機能を補うための対処策の習得が必要となります。

本格的な職場復帰には、新しい暮らし方にご本人が慣れること、仕事で必要な能力・スキル(集中力・注意力・記憶力・作業遂行能力など)をあらためて向上させたり、他の手段で補ったりする練習をしてからとなるでしょう。

以上を大まかに見た一般的な復職の流れは、下図のようになります。

高次脳機能障害をもつ休職者がご自身の生活や仕事に向けたトレーニングをする間、事業所ではご本人の障害特性・配慮が必要な事項の確認、新しい職務・労働条件の検討、社内での障害理解を深める勉強会や研修などをしていきましょう。

本格的な職場復帰前に職業生活の練習ができるよう、「リハビリ出勤」の制度を整えておくのもおすすめです。

復職へのサポートは3つのポイントを意識して

高次脳機能障害をもつ方の復職に向けて事業所が行う取り組みでは、3つのポイントを押さえることが大切です。

<高次脳機能障害をもつ方の復職 事業所側のポイント>

  1. 障害特性や必要な配慮事項を確認する
  2. 職務・配置・労働条件を検討する
  3. 復職予定部署のメンバーに説明する

障害特性の理解や特性に応じた合理的配慮の提供は障害者雇用全般で重要な視点であることは、高次脳機能障害をもつ方の雇用においても同じです。ただ、高次脳機能障害の場合、それまでできていた「当たり前のこと」をやるために別の手段や大きな労力が必要になるケースが多く見られます。ご本人も職場の上司・同僚の方も新しい働き方や業務の割り振り、コミュニケーションの取り方を習得する必要があるでしょう。

復職後のコミュニケーションや業務遂行にかかる負担を軽減するため、休職者ご自身が復職に向けた準備をしている間に、その方の障害特性や職場で必要になる配慮事項、労働条件などを支援者やご本人と共有し、どのような職務が可能なのか、どの部署に配属すれば働きやすいのかといった検討を進めてください。

では次項から、それぞれのポイントについてより詳しく見ていきましょう。

ポイント1: 障害特性や必要な配慮事項を確認する

まずは、休職者の障害特性や必要な配慮事項を確認しましょう。高次脳機能障害は、損傷する脳の部位によって障害の状況が異なるため、具体的にどのような障害が現れているかには大きな個人差があります。障害の状況やそれに対応した配慮事項を適切に把握できるよう、休職期間中に準備を進めてください。

障害特性と障害の状況を把握する

高次脳機能障害をもつ方の主な障害特性には、大きく分けて注意障害、記憶障害、半側空間無視、遂行機能障害、社会的行動障害、失語、易疲労などがあります。どれがどのように、どの程度現れるかは個人差が大きいため、丁寧な確認が必要です。

<高次脳機能障害の主な障害特性>

大分類 障害の概要
注意障害 注意を持続する、集中する、すばやく注意を切り替える、周囲に注意を払うなどが難しい
記憶障害 昔のことが思い出せない、新しいことを覚えにくい
半側空間無視 左側または右側にある物や空間に注意が向きにくくなる
遂行機能障害 目標や予定の達成、計画にそった行動、柔軟な対応が難しい
社会的行動障害 行動・言動・感情のコントロールが難しい
失語 会話や読み書き、計算といった言語の使用が難しい
易疲労 脳が疲れやすく、集中力・注意力の低下、あくび、眠気などが現れやすい

高次脳機能障害者向けの復職プログラムを提供している障害者職業総合センター(NIVR)の職業センターでは、各人の障害特性を把握するために「特性チェックシート」を用いています。これ自体に10ページ弱の質問項目があることからも、障害特性が多岐にわたることがうかがえるでしょう。

休職者が外部支援機関(病院、地域障害者センター、就労支援機関など)の復職サポートを受けている場合、障害特性の状況は支援者から共有されます。支援機関とつながっていない場合は、ご本人やご家族に尋ねてみてください。また、高次脳機能障害をもつ方が職場復帰したあとも継続的な相談やサポートができるよう、ぜひ社内の障害者雇用担当者やジョブコーチ、産業医の他、地域障害者センターや就労支援機関等にもご相談ください。

支援者による障害特性の確認が済むまでの間に「特性チェックシート」の項目を読んでおくと、高次脳機能障害をもつ方がどのような課題を抱える可能性があるか、大まかにつかむことができます。

なお、障害の状況は時間や体調、訓練によって変化します。休職期間の前半に見られる状況と後半に見られる状況が異なる可能性が大きいため、定期的に確認していきましょう。

必要な配慮事項を確認する

障害特性によって何らかの課題があり、ご本人の自己対処では解消しにくい場合は、職場の環境整備やメンバーによるサポートが必要です。障害の内容が多岐にわたるため、自己対処や周囲のサポートの仕方もさまざまです。

その中で、「こういった障害特性には、このような対処策が効果的であるパターンが多い」というケースをNIVRがまとめた「対処策リスト255」があります。先ほどの障害特性の大きな分類ごとに、ご本人が対応できることと職場環境整備が必要なこと、周囲からの声かけ等が必要なことが列挙されたものです。一例を挙げると、以下のようなものがあります。

<対処策リスト 255に掲載されている工夫の例>

障害の種類 課題のタイプ 対処策の例
注意障害 ミスを減らす 注目が不要な箇所はロールふせんで隠す

箇条書きの手順書を準備し、進んだところに目印(マグネットなど)を置く

記憶障害 定型化 1日のスケジュールをできるだけ固定して過ごす

作業手順などは、繰り返して習慣化する

遂行機能障害 作業の工夫 抱えている仕事とその期限の一覧表を作り、優先順位について目で見てわかるように整理する

作業の具体的な見本を机においておく

失行・構成障害・失認 (環境調整の工夫) 衣類の前後・表裏が分かりやすくなるような目印をつける

書字が難しくてもキーボードで入力できる場合は、できるだけキーボード入力を用いる

具体的な対処策や必要な配慮事項は、休職者ご本人や支援者から共有されます。その予習や新しい職務の検討資料として「対処策リスト 255」を活用するとよいでしょう。

ポイント2: 職務・配置・労働条件を検討する

高次脳機能障害で休職している方の場合、障害によってできること・できないことが休職前から大きく変化し、現状の障害特性に合わせた職務や労働条件を新たに設定するケースが多く見られます。

高次脳機能障害をもつ方の職務を検討する際は、次の3つの観点で考えるとよいでしょう。

  • 作業方法が定型的
    1. 判断基準が明確
    2. 判断しなくていい
    3. 手順書を作りやすい
  • 対象者をサポートできる人的体制
    1. 作業方法を助言できる
    2. ダブルチェックする
  • 作業方法を覚えやすい
    1. ご本人が過去に経験している
    2. 専門的な知識がなくてもできる

さらに、障害者雇用における職務再設計モデルも役立ちます。

<職務再設計モデル>

モデルの概要 再設計の手順
切り出し・再構成モデル

他のメンバーの担当職務から少しずつタスクを切り出す

1.      すでにある仕事から定型反復作業などを切り分ける

2.      切り分けた作業を組み合わせてスケジュール化し、一人分の仕事として再構成する

積み上げモデル

担当する職務のうち簡単なタスクから始め、徐々に担当できるタスクを増やして最終的に担当職務全体を担うことを目指す

1.      はじめは既存職務から作業を切り出し、限定的な職務(タスク)を担当する

2.      目標とする職務に向けて、一定の時間をかけて少しずつ職務内容や責任の幅を広げていく

特化モデル

強みを活かした職務を任せ、苦手なタスクのみ他のメンバーが担当したり支援したりする

1.      強みを活かす既存職務や再構成された新しい職務を選定する

2.      職務の一部に苦手な左魚がある場合は、その部分だけ別の担当者に任せたり支援したりなどして、本人が得意な分野に専念・特化できるようにする

職務内容の他に、障害特性である疲れやすさに応じた休憩時間や勤務時間の再設定もご検討ください。

ポイント3: 復職予定部署のメンバーに説明する

職場復帰の時期が近づいて復職後に配属する部署が決まったら、その部署でご本人と関わる社員に対して、障害特性や必要な配慮事項を説明する必要があります。説明にあたっては、プライバシーへの配慮を行ってください。具体的には、説明する項目や内容・表現、説明する対象者について休職者ご本人の同意を得る、障害特性などを説明する対象は配属部署の社員に限定するといったことです。

誰がどのように説明を行うかについては、以下のパターンがあります。

  • 休職者ご本人が説明する
  • 人事担当者が説明する
  • 休職者を支援している機関の担当者が説明会や研修会を実施して説明する
  • 障害特性や必要な配慮事項などを記載した資料を配付して説明する

誰が・誰に・どのような説明をするか迷った際は、社内の支援担当者や地域障害者職業センター、障害者職業・生活支援センター、その他の就労支援事業所などにご相談ください。

可能であれば「リハビリ出勤」で練習を

障害特性や配慮事項の把握、職務・労働条件等の再設定などをご検討いただく際に、ぜひあわせてご検討いただきたいのが「リハビリ出勤」の制度導入や活用です。

リハビリ出勤は、簡単な業務や短時間勤務などで復職する方の体や生活リズムを実際の職業生活に慣らしていく期間。どのくらいの期間で実施するかは人それぞれですが、ひとつの目安は1カ月です。職場でご本人と一緒に仕事をする方にとっても、コミュニケーションやサポートの練習になります。リハビリ出勤の期間が終わったら、産業医や支援者、ご本人などの意見をもとに本格的な職場復帰の可否を判断しましょう。

JEEDが発行している『障害者雇用マニュアル6(コミック版)高次脳機能障害者と働く』にもリハビリ出勤の例や概要が掲載されていますので、ぜひご一読ください。

高次脳機能障害をもつと「できないこと」に目が向けられやすくなります。しかし、重要なことは「今、何ができるか」を大切にして職務を進めていくことです。今ご本人ができること、得意なことをしっかり把握できるよう、社内外の支援者と継続的に連携しながらサポートを続けていきましょう。

【参考】
NIVR『実践報告書No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント』
JEED『障害者雇用マニュアル6(コミック版) 高次脳機能障害者と働く』
高次脳機能障害情報・支援センター

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