「引き出し屋」に依頼する前に!「ひきこもり支援」で問題の引き出し屋裁判で損害賠償命令


ひきこもり支援で多くの問題につながってきた「引き出し屋」。ひきこもり当事者の家族の依頼や強制的な移動、監禁を立証することが難しいといった事情から、長らく野放し状態となっていました。しかし、近年「引き出し屋」や依頼した家族の責任を認め、損害賠償を命令する判決が出始めています。「引き出し屋」の問題点や「引き出し屋」に頼らないひきこもり支援方法を解説します。

「引き出し屋」とは

「引き出し屋」とは、暴力的な方法を用いて当事者を自宅から施設に移動させ、監視下で生活させる「ひきこもり支援」事業者のことを指します。

これまで、ひきこもり支援を自称する事業者が強制的にひきこもり状態にある方を自室・自宅から連れ出し、自由が制限された環境で生活させる事例が多く報告されてきました。

そうした事例では、ひきこもり状態の方の家族が本人の承諾なく事業者と契約し、本人の意思を無視して自宅から遠い場所にある施設へ入所させるという方法が多く見られます。さらに、事業者の言葉に従わないことを理由に精神科の閉鎖病棟に強制入院させた事例もありました。

ひきこもり当事者にとって、「引き出し屋」は突然自分の居場所に押し入ってくる侵入者です。その乱暴なやり方に強い恐怖を感じ、施設を出たあとも悪夢やPTSDなどで苦しみ続ける方もいます。

引き出し屋裁判で親と事業者に賠償命令、明確に「不法行為」とする判決

「引き出し屋」のやり方やひきこもり当事者への影響の重大さから、その被害を訴える裁判が複数起こされてきました。ところが、当事者の家族が依頼者であるという事情もあってなかなか被害者以外の人からの協力を得られず、強制的な移動や監禁などを立証することが難しかったのが実情です。

しかし、「引き出し屋」が行うこうした方法の一部を不法行為と認め、損害賠償を命じる判決が出始めています。

2022年3月25日に出た判決では、ひきこもり状態の男性を無理やり施設へ連行し、監視付きの部屋に閉じ込めたことを不法行為にあたるとして、施設を運営していた事業者に慰謝料など計110万円の賠償を命じました。

2022年1月27日に出た判決では、原告女性の同意がないまま連れ出したこと、監視下において原告女性が自らの意思で外出することが「著しく困難だった」ことを認め、さらに原告女性の意に反してでも連れ出すよう依頼したなどとして、事業者および事業者と契約した原告女性の母親に対して連帯で計約55万円の損害賠償を命じました。

また、1月の判決は原告女性に対する不法行為と女性が発症した適応障害、PTSDとの因果関係も認めています。

<判決が出た引き出し屋裁判の内容と判決>

判決の時期 裁判の内容 判決
2022年3月 ひきこもり状態の男性を無理やり連行し、監視付きの部屋に閉じ込めた。 慰謝料など計110万円の賠償命令
2022年1月 事業者は原告女性の同意なしに連れ出し、監視下において自由な外出を著しく困難にさせた。親は原告女性の意に反してでも連れ出すよう依頼した。 事業者と親に連帯で計55万円の賠償命令

これら2つのケースで賠償を命じられた事業者は東京都や熊本県で活動していた自称ひきこもり支援事業者で、既に破産申請しています。

「引き出し屋」による管理下での死亡事例、集団訴訟も

東京都や熊本県で活動していた事業者に対して起こされた裁判には、ひきこもり状態にあった方が死亡したことに対する責任を問うものもあります。

提訴したのは神奈川県のひきこもり状態にあった男性の遺族。2021年1月1日に「第三者の保護が望めない状態の要支援者を業者が放置したため」男性が死亡したとして、約5000万円の損害賠償を求めています。

亡くなった男性は支援開始時点で20年にわたる完全なひきもり状態で、男性の親が事業者と契約して合計1304万円を支払っていました。

男性は事業者の自立支援センターで過ごした後、熊本県の研修所に移され、事業者の管理の元で一人暮らしと仕事を始めたといいます。しかし、男性は再びひきこもり状態となり、仕事もやめて孤立していました。

本来は定期的に家族に報告が入るはずが、支援開始から1年もたたないうちに報告はなくなります。男性がアパートで餓死状態で発見されるまでの約1年半は、家族への報告が完全に途絶えている状態でした。男性が死亡したことについて、事業者は家族に「フォローを続けるなら追加費用が必要だった」と言ったとのことです。

また、東京都や神奈川県などで活動する別の自称自立支援事業者については、複数の元入所者から2020年10月28日に集団提訴されています。

原告となったひきこもりの当事者の方々は、突然スタッフが自宅を訪れ、着替えや入浴の時間も与えられないまま無理やり施設へ連行されたこと、監視カメラや鉄格子がついた窓などがある部屋で生活させられ、携帯電話や所持金も取り上げられたことなどを訴えています。

当該事業者は施設から脱走する利用者が複数見られることなどで知られており、元入所者は強い恐怖感や自由のない生活の記憶から、施設を出た後も苦しんできました。ひきこもりの方の自立支援をうたいながら、ひきこもり当事者に「働けないくらい精神を傷つけられた」と言うほどの生活をさせていたとされます。

なぜ「引き出し屋」に依頼してしまうのか?

検索エンジンで「引き出し屋」と検索すると、検索結果に出てくる事例はどれもひきこもり状態の当事者を強制的に自室や家から連れ出す強引な方法を使って施設に連れていかれたと訴えるものばかりです。それにもかかわらず、ひきこもり当事者の家族が「引き出し屋」に依頼してしまうのは、なぜなのでしょうか。

ひとつには、家族の困惑や焦りがあります。ひきこもり状態が長引くほど、ひきこもり当事者も家族自身も年をとっていきます。「このままでは自分が死んだ後、この子はどうなるのか」といった心配が現実味をもって迫ってくるのです。

解決策を求めて地域の相談窓口を頼ってみても、なかなか支援を受けられなかったというケースも聞かれました。窓口担当者にひきこもりに関する理解や知識がなかったり、ひきこもり支援の体制づくりが十分でないといった事情から、さまざまな窓口をたらい回しにされたり「本人が来ないと支援できない」などと言われたりしてしまうようです。

ひきこもり状態の本人とのコミュニケーションがうまくいかないこと、信頼関係をうまく築けないことなどが続き、本人だけでなく同居する他の家族も疲れ果ててしまいます。お互いが何を考えているか分からないことにストレスがたまり、ときには激しいケンカに発展するご家庭も見られます。

さらに、ひきこもり状態にある人と犯罪者を結びつけて報じるようなニュースやコメントに強い不安を覚えた方もいました。

身近な支援窓口で適切な支援を受けられない、家族だけでは現状を変えられないという苦しい状態を抜け出すべく、一部の方は「大金を払ってでもひきこもり状態を解消させたい」として、ひきこもり当事者の意思を多少無視してでも何かしら手を打ってくれそうな支援事業者を頼ろうとするのです。そこには、「ここしかない」という悲痛な思いが見られます。

しかし、高額な費用を請求し暴力的な方法で自称「ひきこもり支援」を行う事業者は、ひきこもり当事者の思いや状況を理解しないまま行動を強制する傾向が強く見られます。こうした方法では、本来支援に不可欠な信頼関係を事業者と当事者の間に築くのは困難であり、むしろひきこもり状態の悪化や精神障害などにつながることさえあります。

よかれと思ってしたことにもかかわらず、当事者と依頼者である家族との関係が決定的に壊れてしまう事例が後を絶ちません。「引き出し屋」を頼ることは、事態を好転させるより悪化させる可能性が極めて高いと言わざるをえないのです。

ひきこもり支援の「アウトリーチ」と「引き出し屋」の違い

ただ、ひきこもり状態にある当事者を支援者が訪問すること自体は、ひきこもり支援として知られる方法の1つでもあります。「アウトリーチ」と呼ばれる方法です。「引き出し屋」とみられる事業者も、自分たちが行っているのはアウトリーチであると主張していることがあります。

しかし、そのやり方を比較すると、「引き出し屋」による自宅への訪問は本来のアウトリーチとは大きく異なることが分かるでしょう。

まず、ひきこもり支援のアウトリーチでは、ひきこもり状態にある当事者を訪問すること自体が当事者にとっては大きな脅威であると理解されています。そのため、無理に会おうとせず、事前に家族からひきこもりの状態や原因などのヒアリングなどを行い、十分に準備が行われます。

当事者と会ったり話したりすることができる状態になっても、本人の意思に反して長時間滞在したり、強い言葉で説教を続けたりすることはありません。アウトリーチで行われるのは、本人からの相談への対応、本人の希望に合った支援の紹介、支援窓口への橋渡しなどです。

アウトリーチは、信頼関係を築くことを前提に、最大の配慮をもって実施されます。

これに対して、「引き出し屋」は「強制的に連れ出してはいない」と主張しながらも、実際は契約者である親の意向を重視し、ときにはそれさえも無視して行動します。

裁判の事例でもご紹介したように、当事者の「同意していない」「納得していない」「一緒に行かない」といった気持ちや主張を無視したり、身支度の時間を与えないまま連行したりすることも珍しくありません。

「引き出し屋」による訪問とアウトリーチの最大の違いは、「引き出し屋」による訪問では「説得」「話し合い」と称して、ひきこもり当事者が嫌がっているのに長時間にわたって居座り、厳しい言葉を投げ続けるなどの行為を行い、ときには「親御さんの意向」「契約」「義務」といった言葉を用いて、当事者に行動を強制しようとする振る舞いが見られることです。

「引き出し屋」は、支援というよりも監視の雰囲気が強く、当事者の生きづらさの理解・解消よりも、ルールを一方的に押し付けながら恐怖や不安を利用して順応させようとします。「働いていないくせに」「親に迷惑をかけているくせに」など、当事者を見下す姿勢が見られることもあるでしょう。こうしたやり方を「支援」と称し、契約者に対して高額な費用を請求してくることも大きな特徴です。

「引き出し屋」問題については、ひきこもり当事者からの声「ひきこもり人権宣言」とともに以下の関連記事でもご紹介しています。

(関連記事)
「ひきこもり人権宣言」当事者の思いと適切な支援とは

適切なひきこもり支援を探すには?

ひきこもり状態に至る過程やその原因は、人によってさまざまです。原因が1つだけの場合もありますが、多くでは複数の原因が見られます。そのため、適切なひきこもり支援を一律に決めることは困難です。

ひきこもり支援は、その人に合った内容ややり方で進めることが何よりも大切です。「部屋から出る」ことだけに注目するのではなく、本人の抱える生きづらさがどのようなものか、それを和らげるにはどうすればよいかを考えてみてください。

その第一歩としておすすめなのが、当事者会や家族会への参加を考えること、支援窓口への相談を検討してみることです。

当事者会・家族会に参加する

ひきこもり状態にある方やその家族が、「今自分たちはどのような状態なのか」を捉え直すきっかけとなる代表的な場は、「当事者会」や「家族会」です。

当事者会や家族会では、自分が置かれている状況を他のひきこもり当事者や家族と比較したり、他の人がどうやって苦しさを和らげているかを知ったりすることができます。ひきこもり状態から社会との関わりを回復した方が参加していることもあるため、ロールモデルを見つけられるかもしれません。

たとえば、ひきこもり当事者や経験者たちが立ち上げた「ひきこもりUX会議」では、各地で当事者会を開催。男性不信や女性特有の悩みを抱える女性のひきこもり当事者が参加しやすい「ひきこもり女子会」の他、当事者を対象とした大規模な実態調査も行っています。

「当事者会に行ける気がしない」という方は、ひきこもりUX会議が発行するメールマガジンの購読がおすすめです。メールマガジンでは、当事者対象のイベント情報や活動報告、相談への回答などが記載されています。

ひきこもりの家族をもつ方を対象とする「家族会」も各地で開催されています。家族会では、「こんなに苦しいのはうちだけなんだ」「なぜ、うちの子だけ」と思っていたことが他の家族にも見られることだったと分かります。同じ悩みをもつ家族同士で支え合うきっかけづくりもできるでしょう。

当事者会や家族会は、行くまでのハードルが高いと感じられるものです。最初のうちは「会場の入り口まで来ただけ」ということもあります。しかし、「行ってみたい」と思うだけでも大きな第一歩。「次は会場の椅子に座ろう」「会場で5分間だけ話を聞いてみよう」など、自分のペースに合わせて一進一退しながら参加できれば十分です。

また、コロナ禍では当事者会や家族会のオンライン開催も増えています。自宅から参加可能で、カメラオフでも参加できます。直接会うことに抵抗がある場合はオンライン開催のものを中心に選ぶとよいでしょう。

公的窓口「地域若者サポートステーション(サポステ)」を利用する

公的なひきこもり支援窓口のひとつに「地域若者サポートステーション(通称、サポステ)」があります。各都道府県に設置されており、働きたいけれど働けない若者の相談に応じています。

サポステにはさまざまな専門スタッフがおり、一緒に現状について話し合ったり解決策を検討したりできるのが特徴です。専門スタッフの内訳は地域によって異なりますが、たとえばキャリアコンサルタント、臨床心理士、産業カウンセラーなどがいます。

サポステでは、就職に向けてのスキルアップや訓練もサポートしています。同じ悩みを持った人たちとコミュニケーションの練習をしたり、パソコンスキルを学ぶ講座を受講できたりしますし、その他の職業トレーニングも可能です。就職活動の支援、就職後の定着支援も実施しています。

就労したい場合は就労移行支援事業所などへ

「なるべく早く働けるようになりたい」と考えているなら、就労移行支援事業所の利用を検討するのもよいでしょう。障害者手帳を持っている方、医師や自治体から就職に困難があると認められた方が利用できます。

就労移行支援事業所の利用期間は2年間の上限があるものの、生活リズムを整えたり仕事に役立つスキルを習得したりなど、それぞれの人に合った支援計画を作成した上でサポートを受けられるのが特徴です。この「障がい者と仕事マガジン」編集部がある就労移行支援事業所ルミノーゾのように、就職後の職場定着支援を実施している事業所もあります。

就労移行支援事業所の利用には一定の条件や手続きが必要となるため、まずは各事業所の相談窓口に相談してみてください。

ひきこもり支援は信頼関係構築と生きづらさの解消を軸に

ひきこもり状態から脱するべく強制的な手段をとってしまうと、ひきこもりの原因である何らかの生きづらさが解消されないまま家族同士の関係が悪化する事態を招きかねません。

ひきこもり状態の方は自宅や自室にひきこもることで社会から自分を守っており、ひきこもらざるを得ないほどの生きづらさを抱えています。ひきこもり支援を受ける際は、当事者の方と信頼関係を築きながら、そうした生きづらさの解消を図れるような方法になっているかどうかを軸に判断するとよいでしょう。

ときに外出や就職といった選択肢が出てくることもあるかもしれませんが、ひきこもり当事者の意思を尊重しながら決めていくことが何よりも大切です。

【参考】
ひきこもり支援うたう「引き出し」業者に賠償命令、無理やり連行・閉じ込めは「違法」(2022年3月25日)|弁護士ドットコムニュース
加藤順子「無職なだけで拉致・監禁、病気でもないのに強制入院 被害男性が法廷で訴えた「引き出し屋」の恐怖」|Yahoo!ニュース
加藤順子「「引き出し屋」問題 破産手続き中のひきこもりの自立支援業者らを遺族が提訴」|Yahoo!ニュース
監視カメラに鉄格子、所持金は取り上げられ… 引きこもり支援の「引き出し屋」を集団提訴(2020年10月29日)|東京新聞

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