「ひきこもり人権宣言」当事者の思いと適切な支援とは


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甘えや怠けといった「ひきこもり」に対する一方的なイメージは、基本的人権を侵害することがあります。特に「引き出し屋」による行為は多くの当事者を傷つけ、家族との関係悪化を招いてきました。こうした状況を変えるべく発表されたのが「ひきこもり人権宣言」です。ひきこもりの実態と合わせてお伝えします。

「ひきこもり人権宣言」とは

2021年12月、ひきこもり当事者を中心とする団体「暴力的「ひきこもり支援」施設問題を考える会」が「ひきこもり人権宣言」を発表しました。

ひきこもりに対する根強い偏見や一方的な介入に対して、「ひきこもることは命と尊厳を守る権利の行使である」「差別と抑圧の歴史をひきこもり当事者の力で終わらせるために、ここに、ひきこもりの権利を定め、ひきこもりの人権を宣言する」という内容です。

「ひきこもり人権宣言」は7つの条文と解説から成り、宣言を出すに至った背景や「引き出し屋」の弊害、必要な支援の方向性などを述べています。

ひきこもり当事者の方が直面する偏見や暴力とはどのようなものなのか、ひきこもりは「甘え」とひと括りにすることがなぜ問題なのか、あらためて考えなければなりません。

内閣府調査における「ひきこもり」の定義

ひきこもりのイメージが実態と乖離していることを端的に示しているのが、内閣府による『令和元年版 子供・若者白書』「特集2 長期化するひきこもりの実態」で用いられた定義です。

内閣府調査における「ひきこもり」の定義は、外出の頻度や継続する期間、外出が少ない(あるいは外出しない)生活になったきっかけ、家族以外の人との会話の頻度などを基準としています。

ただしこの基準においては、たとえば外出をほとんどしない人であっても、そのきっかけが体の病気、育児や介護であったりする人は「ひきこもり」ではありません。
外出をほとんどしない生活を続けながら仕事をしていたり、専業主婦・主夫や家事手伝いであったりする場合も、「ひきこもり」の定義には該当しなくなります。

そのようにして得られた「ひきこもり」の男女比は、男性76.6%、女性23.4%でした。

ひきこもり当事者の実態と定義との乖離

しかし、実際は専業主婦・主夫であっても何らかの生きづらさを抱え、「自分はひきこもりだ」と感じる当事者がいます。育児や介護をしていても、自己否定感に押しつぶされそうな生活が続き、外の社会との接触を絶っている女性の存在も指摘されてきました。

内閣府調査では外出をほぼしない(全くしない)期間を「6か月以上」としています。これについても、実際には「3か月間ひきこもり生活を続け、その後アルバイトをするようになったけれど職場で問題に直面し、再び数か月間のひきこもり生活になる」というパターンがあることを視野に入れない定義となっています。

内閣府調査の定義からこぼれ落ちるひきこもりの数は、無視できないほど大きいものといえるでしょう。

そこで、ひきこもり当事者・経験者などで構成される一般社団法人ひきこもりUX会議では、ひきこもりの定義を「自認」としました。

外出ができても、働いていても、一部の人と接することができるとしても、本人がひきこもりであると自分で思うなら、その人はひきこもり当事者であるとする定義です。

こうした定義のもと、ひきこもりUX会議は2019年に日本初となる当事者の大規模調査「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」を実施。同調査では選択式の回答以外に自由記述による回答も設けています。自由記述は合計46万字にもおよび、ひきこもり当事者の現状や生きづらさ、自己否定、支援の問題点などが寄せられました。

「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」の有効回答数は1686名(オンライン回答94.2%、書面回答5.8%)で、回答者のうち6割超が女性でした。

ひきこもりの原因は「親」「職場での人間関係」「社会」など複雑・多様

ひきこもりになる原因は何でしょうか?

「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」によれば、多いものから順に

  • こころの不調・病気・障害
  • 家族との関係
  • 不登校
  • からだの不調・病気・障害
  • 友人・知人との関係
  • 職場での人間関係

となっています。さらに、68.8%の人がこれらの要因が3つ以上あると回答しました。

また、性的マイノリティーであることが、ひきこもりの原因であるという声もあります。この調査の回答者のうち約5%が「性別」に「その他」を選び、そのうち約半数が「性自認や性的志向」がひきこもりの原因やきっかけになったと回答しました。

ひきこもりの原因として、いじめや不登校、親との関係、職場での人間関係(パワハラやセクハラなど)、就職の失敗など、比較的多く聞かれるものはあります。しかし、この調査結果が示すのは、具体的にどのようなことが原因なのか、その1つだけなのか他にも原因があるのかといったことは、それぞれの当事者によって異なるということです。

ひきこもりの当事者が就職しようと支援を求めたのに対して、もし「ひきこもり=甘え」という偏った捉え方で対応し、事情等を考慮せず長時間の叱責を続ければ、本人の自己否定感を強め、ひきこもりの生活に戻らせてしまうことにつながるでしょう。

ひきこもり支援を本末転倒な自称“支援”にしてはいけません。勝手に「こうだろう」と決めつけて対応するのではなく、当事者の方の状況や特性、そして主体性を尊重した支援が求められています。

ひきこもり支援の「アウトリーチ」と「引き出し屋」問題

ひきこもり支援の1つの方法に「アウトリーチ(訪問支援)」があります。ひきこもり当事者の自宅に支援員が出向き、当事者や家族に働きかける支援方法です。家族からの相談を受けて訪問を開始し、本人と話したり利用できる支援につなげたりなどします。

このアウトリーチと同じような手法で大きな被害を生み出しているのが、いわゆる「引き出し屋」です。

アウトリーチは、ひきこもり当事者にとって元来「恐ろしい」やり方といえます。社会から身を守るために家や自室にひきこもったのに、社会のほうが家に侵入してくるからです。そのため、アウトリーチを実施する際は本人の了解があること、本人が望んでいることを大前提としなければなりません。

ところが、「引き出し屋」と呼ばれる「暴力的“自称”支援集団」は、家族の要望を受けただけで本人の了解なく自宅や部屋を訪れ、大きな声やきつい言葉で長時間にわたり「説得」したり、部屋のドアを壊して踏み込んだりするといった手段をとります。その後、当事者は無理やり施設に入れられてしまうことさえあります。

このようなやり方によって、当事者がPTSDを患って長期間にわたり苦しむ、施設を脱走し行方不明になる、家族との関係を断絶する、そして最悪の場合、亡くなるという深刻な事例が多く報告されてきました。

「引き出し屋」は、当事者の主体性や尊厳を軽視し暴力的な手段で解決を試みようとする人々や自称“支援”の方法をとります。これに対して、当事者の生きる権利や必要な支援を主体的に選ぶ権利を訴えたのが「ひきこもり人権宣言」です。

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【参考】
『ひきこもり人権宣言』|暴力的「ひきこもり支援」施設問題を考える会一般社団法人ひきこもりUX会議 公式サイト

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