「以下同文」のない卒業証書、翔和学園“「よき人生」の羅針盤” 開催


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2024年3月17日、表参道駅近くにある東京ウィメンズプラザで、翔和学園による公開イベント“「よき人生」の羅針盤”が開催されました。当日は多くの保護者や関係者、翔和学園の学生たちが訪れ、会場はほぼ満席状態。午後のパフォーマンスでは、先日取材した学生たちも堂々たる姿で制作・練習の成果を披露しました。

3月卒業式シーズンに翔和学園の一大イベント開催

3月17日、東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区)で行われたのは、NPO法人翔和学園(東京都中野区)の公開イベントです。内容は、中学部・高等部の卒業証書授与、1/2成人式、新成人の儀、学園OBインタビューなど盛りだくさん。午後には、11月の「STARS爆誕」に続く「SUPER STARS 爆誕」として、在学生によるさまざまなパフォーマンスや作品が披露されました。

オープニングに流れるスライドショーは、翔和学園の歴史、学園での日常風景や夏のイベントの思い出など。翔和学園が大切にしてきた学生たちの青春の経験、“「差異脳」を「才能」に変える”という想いにあふれる構成です。

午前のプログラムは式典が中心。卒業証書や修了証書をもらった学生、1/2成人式や成人式といった一つの節目を迎えた学生たちは、昼休みの記念撮影で先生方や保護者の方と一緒に笑顔で写ります。中には、ステージ上で胴上げされる学生も。「胴上げされるのは初めて!」と興奮した声が響いていました。

個性豊かな午後のプログラム「SUPER STARS 爆誕」


イベントオープニングのスライドショーと「朝の日課」、学生たちによる発表の様子
撮影・加工:編集部

午後のプログラムは、在学生たちによる「SUPER STARS 爆誕」です。個人プロジェクトで取り組んできた創作やパフォーマンスを磨き上げ、会場の人々に披露するプログラム。幕開けは、毎日行っている「朝の日課」です。

朝の日課では、打楽器を使って他の学生たちと呼吸を合わせ、ダンスで体を動かします。「線路は続くよどこまでも」にのせた手遊びとジャンケン、「なべなべそこぬけ」でペアの相手と動きを合わせるなど、社会交流のスイッチを入れるプログラムです。コミュニケーションや集団での活動に参加しやすくする準備運動としての役割を果たしています。

「諦めない」心と体でパフォーマンス完成へ


「けん玉&ダンス」で大技を決める藤野君(左・中上)と「ヤクザ映画」を制作・主演した生田君(中下・右)
撮影・加工:編集部

日課の終了とともに会場の照明が落ち、一瞬静まったステージに登場したのは、「けん玉&ダンス」の藤野君。この半年間失敗を繰り返しながらも練習を続け、気持ちがすさんでしまったときでさえ手放さないほど、けん玉が好きな青年です。「けん玉マスターのアイドルになる」という想いを胸に、失敗しても諦めない強い心と体を育ててきました。

大好きなアイドルの曲と共にパフォーマンスをスタート。ダンスとけん玉の技を交互に披露していきます。スポットライトが当たる中、最後に大技「飛行機」を見事成功させました。

場面かん黙がある生田君も、前回取材時から大きく成長していました。ステージに一人で登場し、自らシナリオや演出を手がけ、主演も務めた「ヤクザ映画」を紹介。壇上で客席に睨みをきかせ、二刀流のポーズを決めます。編集部メンバーも、この時初めて生田君の声を聞きました。

作品は、生田組と水川・西山組(水川先生・西山先生)の抗争の物語。体幹の安定やパフォーマンス向上のために一緒に筋トレを始めたM君も友情出演しています。水川組長の変顔で生田組長が笑ってしまうなどコミカルな場面も交えつつ、ラストは同盟関係となった生田組と水川・西山組が肩を組み、一件落着となりました。

絵で個性と才能を極める、それぞれの道


N君による世界各地のタワーの絵(左)と、M君によるトイプードルの色鉛筆画・類似度判定(右)
撮影・加工:編集部

翔和学園の学生には、絵を描くことが好きな人が多く見られます。色鉛筆、ペン、マーカー、油彩など、用いる画材はさまざま。どのようなスタイルで描くか、どのように技術を向上させていくかなどは、学生の個性に応じて変わります。

色鉛筆で作品制作を行うのは、タワー画のN君と、生田君の映像作品に友情出演したM君です。

N君はタワーの絵を描き続け、ついに100枚の絵を完成させました。美術担当の水川先生は、彼の力強い描き方やユニークな形の捉え方などを高く評価しています。その個性を活かすため、既存の練習方法ではなく、何枚も描きながら自分で改善点を見つけていくという方法で描き続けてきました。

M君の色鉛筆画は、ティーカッププードルの絵です。色鉛筆画の技法書をもとにリアルな生き物の描き方を学ぶなど、N君とは反対のやり方で技術を磨いてきました。今回の作品では、柔らかくカールした毛並みがよく表現されています。

ステージでは、見本画像とM君の色鉛筆画の類似度をAIに判定させる試みも発表。目標は、類似度80%。AIによる判定は、79.66%と悔しい結果です。「悔しい」という自身の気持ちを「拳法六姿勢」に込めて披露し、ステージを後にしました。

休憩時間の展示スペースには、先ほどのN君やM君たちによる原画を展示。作品の前には、落ち着いてお客さんに絵の説明を行うN君、M君の姿が。彼らの作品が糸口となり、情報や想いを伝え合う交流が生まれていました。


S君によるスライド発表とリアルな人物画
撮影・加工:編集部

他方、一人で黙々と油彩の人物画を制作し続けてきたS君は、スライドショーを用いて自身のプロジェクトと作品の紹介を行います。S君は声で話すことにハードルがあるものの、頭の中では多くのことを深く考えている青年。発表内容は「なぜ写実的な人物画を描くのか」という自身の活動を深く掘り下げたテーマで行われました。

説明によれば、「人間の存在を写実表現によって浮かび上がらせていこうとする試み」の中、大きな筆で人物の全体像を捉えてから細部を描き込む方法が、人間の持つエネルギーをうまく表現できるのだといいます。これは18〜19世紀に多く使われた描き方。「自分がやっていることは先人がやり尽くしたのではないかと思えるかもしれない」と前置きした上で、それでも「新しい考えを取り入れつつ進んでいく道は必ずあるはず」と締めくくりました。

美術史の中に自らを位置づけ、自分がリアルな人物画を制作する意義を問うS君。より理想的な表現を求めて、技法の研究も行っています。

絵×しゃべり×2人のコラボ朗読劇


増村君の作品≪樹木人形物語≫(左)、Kさんと増村君による朗読劇の様子(右)
撮影・加工:編集部

もう一つ、今回のステージで目を引いたパフォーマンスがあります。それは、絵と語りが巧みな学生2人によるオリジナルの朗読劇。一人は圧倒的な密度で作品を描き込む増村君、もう一人は今回初めてイベントのステージに上がるというKさんです。

2人の共通点は、絵と物語を自分で作り、それを自分でしゃべることができること。増村君は、もともと仏教の「十界」をモチーフに、独自の「宇宙界」などを加えた十二界曼荼羅を描いてきました。今回は、より独自性高い世界を描いた作品≪樹木人形物語≫を制作。描いた内容を漫談のような口調で語るという才能にも、翔和学園は注目しています。

Kさんは、コラボ朗読劇の前に、ぬいぐるみをモチーフとした動物たちの絵本を制作して朗読しました。主人が留守にしている間にケンカをしたり、仲直りをしたり。コミュニケーションの大切さを伝える絵本です。

2人がコラボした朗読劇は、増村君が描いたユニークな作品の一部を映しながら、登場人物たちの会話を二人で繰り広げるものです。主人公が「名札」をもらうために、さまざまな登場人物の元を訪れるという物語の中で、ユニークな性格や生き様が設定された男女キャラクターのセリフを分担しつつ、口調も多彩に変化させていきました。

投影されている絵の一部も、動画編集によって動きます。効果音や音楽なども、物語や人物設定に合わせてのせられ、とても見応えのある朗読劇でした。

「よき人生」に向けた翔和学園のSEL教育

こうした学生たちの発表には、学生たちの個性や才能を活かすだけでなく、社会性と情動性を適切に伸ばすSEL教育(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング教育)の観点も含まれています。

SEL教育には次の5つの要素があります。

  1. 自己への気づき
  2. 他者への気づき
  3. 自己コントロール
  4. 対人関係
  5. 責任ある意思決定

毎日の「チェックイン」「チェックアウト」と呼ばれる短い面談を中心に、「今の自分の感情」を確認し、1日の過ごし方の見通しを立て、実際の過ごし方や具体的な出来事と自分の感情の変化を振り返ります。

こうした取り組みによって、学生たちは「自己コントロール」の力や「責任ある意思決定」を重ね、本番のステージへつなげてきました。

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OB壇上インタビュー

翔和学園で才能を見いだし、青春を謳歌してきた学生たちは、やがて社会へ羽ばたいていきます。一般企業の障害者雇用、就労継続支援事業所など、働く場所はそれぞれ。午前のプログラムで行われた学園OBへのインタビューでは、学園を巣立った先輩たちの働き方、ライフスタイルなどが語られました。

「多様なキャリアデザイン」のグループとして登場した河井君は、コンビニエンスストアが大好きな青年です。
翔和学園でのコンビニ実習がきっかけとなり、16年間、コンビニでアルバイトを続けました。今は、コンビニ店長となって3年になります。

強みは「自分の意思を貫くこと」という河井君。「翔和学園出身でコンビニ店長になったという事例を知ってもらえれば」とエピソードの掲載を快諾してくれました。

実は、河井君と伊藤寛晃学園長の付き合いは長く、翔和学園で、同じ制服を着て一緒にコンビニ実習を行った仲でもあるようです。翔和学園以前から教師と教え子の関係にあったとのこと。「友達ができず、教室で一人でいる姿を見て『誰一人取り残さない』ことを心に決めた」と言う伊藤学園長。その後、河井君は次第にやんちゃになり、仲間に囲まれて元気に過ごすようになったと笑っていました。

「卒業証書授与」グループとして登壇したのは、飲食店に勤務する佐久間君です。就職して1年半ほど。
週5日勤務する職場では、日々7kgの肉を使った仕込みを行い、職場の方から「なくてはならない存在」と評価されています。インタビューでは、「飲食業に携われて嬉しかった。一番入りたい会社に入れた」と答えていました。

佐久間君は、もともとは疲れやすく、作業も30分と続かないことが課題でした。一緒に登壇した中村先生は「中学校の不登校の理由は『学校の前の坂が長すぎてつらいから』」というエピソードを語り、就職後に30分で疲れてしまったと聞いたときは「やばい」と思ったそうです。同時に、佐久間君の学園での成長、「弱さを克服するのではなく、それを見つめて仲間に助けを求められる、素直な若者になった」ことを嬉しそうに語りました。

佐久間君は、在学中から飲食店を開きたいという夢を持っていました。夢の実現に向けて調理師免許取得の勉強を続けながら、実務経験を積むために原先生と就職活動へ。働きたい会社を自分で探して挑戦し、見事採用となりました。

翔和学園の卒業証書


卒業証書を受け取る4名と一人ひとりにエールを送る伊藤学園長
撮影・加工:編集部

翔和学園では、それぞれの学生の就職が本当の「卒業」です。OBインタビューでは、コロナ禍で卒業証書授与式ができなかった4人が、正式に伊藤学園長から卒業証書を一人ひとり受け取りました。

「翔和学園で培った人間の生きていく気力を持ち続け、良き人生を築いていってください。翔和学園は、夢に向かって自分の可能性を信じ、社会に貢献していくあなたの人生とともにあり続けます」

「以下同文」と省略されることが多い卒業証書の文面は、翔和学園にはありません。目の前にいる学生に向けて、ゆっくりとていねいに読み上げられる言葉は、一人ひとりの頑張りを評価し、これからの歩みに向けて贈られる温かいエールです。

学園で学び、実習生として後輩の世話を焼き、就職活動を経て社会人へ。先輩方の背中を見ながら、自分の人生を歩むべく、学生たちは今年も日々の活動に取り組んでいます。

【取材協力】
NPO法人 翔和学園

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