ギフテッド教育のポイント「社会脳」とは?翔和学園「ギフテッド教育フォーラム」


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2023年12月16日、中野区の翔和学園で第2回ギフテッド教育フォーラムが開催されました。前回に引き続き、どんぐり発達クリニック院長の宮尾益知医師を講師に招き、日本におけるギフテッド教育のポイントを解説。「2つの脳」のうち「社会脳」の重要性が強調されました。

翔和学園「第2回ギフテッド教育フォーラム」開催

2023年12月16日、東京都中野区の翔和学園にて、第2回ギフテッド教育フォーラムが開催されました。講師は、第1回に引き続き、どんぐり発達クリニック院長の宮尾益知医師。保護者、教育者、支援者など、広い教室で50人以上の方が講演に耳を傾けました。

今回のテーマは、ギフテッド教育のポイントです。特に強調されたのは、ギフテッドの子どもたちの社会性を育てること。「社会脳」や「SEL(Social Emotional Learning)」などが詳しく解説されました。

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「2つの脳」とギフテッド教育でも重要なSEL


撮影:編集部

「ギフテッドの子どもたちの特徴を考えるとき、『2つの脳』という観点から考えると面白い」と宮尾医師は言います。

「2つの脳」とは、「社会脳」と「認知脳」のこと。社会脳は、社会の中でうまく折り合いをつけていく「自己を知り他者を軸として働く」仕組み。「DMN(Default Mode Network)」とも呼ばれます。他方、認知脳は目の前の課題の論理的解決に向けて働く仕組みであり、「WMN(Working Memory Network)」と呼ばれます。

人の行動は、この2つの脳が協働して生まれているとのこと。例えば、算数の問題を解くとき、認知脳がリソースの70%を使って働き、残り30%を社会脳が使っているというイメージです。多くの人の場合、両者は前頭前野と頭頂葉の「顕著性ネットワーク」によってコントロールされ、シーソーのようにバランスを保ちながら働いているといいます。このバランスをとることが重要であると、宮尾医師は説明しました。

「複雑な社会の一員として健全な社会生活を営むには、他者の心や意図を理解し、ともに喜んだり悲しんだりする共感、シンパシーが必要。自己を知る、他者を知るということをバランスよくできるかどうかが重要になるということです」(宮尾医師)

しかし、ギフテッドの子どもたちの場合、こうしたバランスがうまくとれないという特徴があります。自己を認識する部分と他者を認識する部分の関係がアンバランスで、「要するに自分中心に考えていて、他者(の心や意図)を認識するということが、あまりできない」という課題も。この点に、ギフテッド教育の大きな意義があります。

具体的には、ギフテッド教育では社会脳の活性化を図る点がポイントとなります。そして、「認知脳が非常に高く、社会脳が低い」というアンバランスな状態を軽減する方法のひとつと考えられる手法が、SEL(Social Emotional Learning)です。

SELについて、宮尾医師は「他の人々とうまくやっていったり、自分や相手の感情を理解することによって、社会の中で適切に行動できるための知識やスキルを学習すること」と解説。「明確な根拠に基づく方法で体系的に社会性や感情の学習を進めるもの」として、アメリカの学校教育で取り入れられているSELのフレームワークと5つのカテゴリーが紹介されました。

【SELの5つのカテゴリー】

  1. 自分を理解する力(SELF-AWARENESS)
  2. 自分で自分を統制する力(SELF-MANAGEMENT)
  3. 他者を理解する力(SOCIAL AWARENESS)
  4. 他者とうまくやっていく力(RELATIONSHIP SKILLS)
  5. 適切な意思決定をする力(RESPONSIBLE DECISION)

ギフテッドの子どもたちを対象とする場合、「一般的に自己抑制ができるようになる4歳からSELを始めるとよい」と宮尾医師は言います。「自分には悪いところもある、それを直そう」と考えて取り組めるようになる11歳くらい、自分の認知活動を自ら捉える「メタ認知」が現れる12~14歳くらいなど、発達の段階に合わせてSELの取り組みを進めていくとよいとしました。

「ぼーっとする」ことの効果

社会の中で生きていくために脳を活性化させるためには、いわゆる「ぼーっとしている時間」などに働くDMNが非常に大切です。宮尾医師いわく、DMNは「脳のアイドリング状態」です。

しかし、DMNは何もせずに「ただぼーっとしているだけ」の状態ではありません。脳内では過去・現在・未来に思いを巡らし、漠然とした記憶を掘り起こしたり、関連する脳内の情報同士を整理したりしています。このとき、社会的関係についても働いているのだそうです。

例えば、人は毎日さまざまな情報に触れ、頭の中に取り込んでいます。新しい情報は、以前取り込んだ情報と関連付けられ、「知識の流れ」をつくり出します。それまで何となく疑問を持ってきたところと関連付けられたり、重要な発見や発明につながったりすることもあるでしょう。これらの流れの中で、社会に思いを巡らし、社会という世界とその中にいる自己との関係も考えていくのです。

DMNを活性化させるには、「ぼーっとしている時間」、例えば寝る前の30分間を「大事な時間」として扱う必要があるというわけです。

ここで気をつけなければならないのは、昨今の情報社会との関わり方です。ギフテッドの子どもたちと情報社会の親和性について、宮尾医師は次のような警鐘を鳴らしました。

「社会脳が低い人たちが、サイバー空間で、他者の身体や視線を感じないまま他者と関係を持っても、うまく社会脳を活性化させることは難しい。それにもかかわらず、「いいね」などの希薄な他者性をすぐに受け取れることで、潜在的な自己愛を満たすプロセスへの依存症を引き起こす」(宮尾医師)

現代社会の生活にインターネットは欠かせません。SNSを活用して情報収集をしている人もいれば、オンラインゲームで遠隔地の人と一緒に遊んでいる人もいます。刺激的な情報にあふれ、強い感情を引き起こされることもあるでしょう。

しかし、サイバー空間への依存は、リアルな他者の認識による社会性の活性化につながらず、それでいて刺激が強いという大きな問題点があります。DMNが働く「ぼーっとする時間」も妨げてしまうのです。

DMNの活性化を困難にする原因はさまざまですが、問題解決に向けたひとつの方法として医学的アプローチもあり得ると宮尾医師は説明しました。これは、ADHDの薬物療法を指しています。「一定の年齢まではSELを活用した社会性の獲得に注力し、それで成功すれば薬物療法は行わなくてもよい」としつつ、困りごとが続く場合は、それらの医学的アプローチも選択肢のひとつとなる可能性を示しました。

※フォーラム後に開催された懇親会では、「センサリールーム」などがDMN活性化に寄与する可能性も話題となりました。翔和学園では、これらの方法について「特別支援教育という文脈の中でも、今後検証していく必要があるだろう」としています。

翔和学園での社会性・他者性の育て方

ギフテッド教育における社会脳への注目がポイントとなった今回のフォーラム。主催した翔和学園でも、「社会性」として「よりよい人間関係をつくれる力」を育ててきました。

例えば、学園に通う子どもたちや学生は、日々「PBL(Project Based Learning)」を通して、目的・目標の達成に向けた集団活動、少人数活動、個人活動に取り組んでいます。

そのひとつが、集団PBLとしてペットボトルを使った水ロケットプロジェクトです。それまでの水ロケットの世界記録は、2020年に認定されたカナダの全長4.04mのロケット。これを超える巨大な水ロケットの打ち上げを成功させようというプロジェクトでした。

製作は、それぞれの得意分野を生かしながら進行。あるメンバーは、使用する12Lペットボトルが空気圧で破裂しないよう、毎晩根気強くカーボンファイバーを巻きつけ、別のメンバーは、ロケット上部に使う円すい形の発泡スチロールの先端を、民間ロケット会社の技術者をも唸らせる精度で磨き上げました。集団活動が苦手な一方で、極めて写実的な絵を描くメンバーは、目を引く鮮やかな青を基調とした横断幕をデザインしています。

ロケットの打ち上げは、開始から2年後となる2022年3月。北海道の大樹町で多数の報道陣を前に行われました。ところが、衝撃でロケット本体が折れてしまうなど、打ち上げ結果は失敗。「諦めるか、続けるか」という岐路に立たされました。

そして、翔和学園の生徒たちは「諦めない」ことを選択。さまざまな調整を行うとともに、メンバー同士の連携を強化し、同年8月2日に再挑戦し、見事打ち上げ成功となりました。ロケットの全長は7.72m、到達した高度は16.78m。11月にギネス世界記録「最大の水ロケット」として認定されています。

打ち上げは、SPACE COTAN株式会社の全面協力のもと、同社が“本物の場所”として運営する大樹町「北海道スペースポート」で実現。技術的アドバイスや新規部品開発では、インターステラテクノロジズ株式会社、元NEC・本田技研工業株式会社の北章徳さん、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社、同大学ものづくり部門で人工衛星の部品も手がける野方電機工業株式会社が協力しています。

翔和学園におけるギフテッド教育は、「高IQである」ということにとらわれず、それぞれの才能を見いだし、社会性とともに育てていくものです。そのため、個々人の事情に合わせてPBLを進めながらも、他のメンバーと協力して最後までやりぬく機会を大切にしてきました。

本人が興味を持つことだけを専門的に広げて終わらせるのではなく、こうした集団活動によるPBLを通じた社会性向上の取り組みが、それぞれの才能を大きく開花させ、学園が掲げる「人間の生きていく気力」の育成につながっていくのです。

第3回ギフテッド教育フォーラム開催、教育相談も受付中

翔和学園によるギフテッド教育フォーラムの第3回が、2024年2月18日(日)に、聖蹟桜ヶ丘のアウラホールで開催されます。第3回は一般財団法人ロートこどもみらい財団との共催で、東京都教育委員会の後援を受けての開催です。

テーマは、「ギフテッド教育の新しい潮流をつくる」。午前の基調講演に宮尾益知医師、長野保健医療大学の福田恵美子特任教授が登壇し、日本型ギフテッド教育の在り方や、遊びと人間発達の関係性などに迫ります。午後は、公立の特別支援学級や一般社団法人ロートこどもみらい財団、そして翔和学園の現場からの実践報告と、シンポジウムが行われる予定です。参加申込みは、Webフォームまたは電話で受け付けています。

また、翔和学園では、発達障害・引きこもり・不登校などの課題をもつお子さんに関する教育相談も随時受け付けています。入学をご検討中の方、ご家庭での教育方法など、困りごとのご相談は、以下のQRコードから予約可能です。

【画像提供・取材協力】
翔和学園

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