翔和学園「ギフテッド教育」の実態は?年齢を超えたSEL教育


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2024年3月17日、翔和学園が20周年記念をかねた発表イベント「『よき人生』の羅針盤」を開催します。翔和学園はギフテッド教育で知られていますが、現在はSEL教育を軸に個々の才能を引き出す取り組みを展開。学生達の個別プロジェクトや成長、17日のイベントに向けた準備の様子などを取材しました。


翔和学園の小中学部・高等部・大学部

翔和学園とは、何らかの事情で学校に通えない子どもたちの学びと成長を支援するフリースクールや、就労に向けて学びとスキルを深める生活訓練・就労移行支援などを提供しているNPO法人です。東京都中野区と長野県長野市に校舎があります。

小中学部と高等部は、発達障害や「学校と合わない」など、なんらかの事情で学校へ通えない子どもたちのためのフリースクール。年齢や学年を超えて一緒に活動し、同時に個別の学習も本人のペースで進めていきます。

かつては高IQの小中学生に特化した「ギフテッド・アカデミッククラス」を設置していましたが、現在はIQによる募集制限を撤廃。「すべての子どもたちの才能を見出し、伸ばすための教育」としてギフテッド教育を位置づけ、社会性教育を主軸に多様なサポートを行っています。高等部では、大学受験を目指し高卒認定試験に向けた準備も可能です。また、一定の学力が身についているお子さんについては、長野県の通信制高校「コードアカデミー」との併修も可能です。

大学部は、大学でも専門学校でもない「学びの場」。生活訓練や就労移行支援などの障害福祉サービスを利用しながら、自立した生活や就労に向けて学びとスキルを深めます。修了の目安は3年ですが、「社会参加」にたどりつくまでサポートし続ける点が特徴です。

2024年3月現在、小中学部には8名、高等部には3名、大学部には42名の学生が所属しています。

翔和学園のSEL教育

翔和学園のSEL教育について話す榛谷先生(右)、クチナワさん(左上)、やまださん(左下アバター)

撮影・加工:編集部

翔和学園では、学生の社会性を伸ばすためにSEL教育を実践しています。

SELとは「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」の略。SEL教育は社会性と情動性を適切に伸ばすための教育であり、

  1. 自己への気づき
  2. 他者への気づき
  3. 自己コントロール
  4. 対人関係
  5. 責任ある意思決定

という5つの要素で構成されます。

翔和学園では、⑤責任ある意思決定のために、①〜④も重視した取り組みを実施。1日の過ごし方からコミュニケーション手段、集団クラスへの参加まで、多様な場面で行われています。

SEL教育で1日の感情変化と原因を確認

翔和学園の1日は、「チェックイン」と呼ばれるセルフモニタリングから始まります。その後、「ふれあい囲碁」や「朝の日課」などのルーティンで「社会交流のスイッチ」を入れ、個別プロジェクトや集団クラスでの学習へ。最後に「チェックアウト」を行い、1日を終えます。

このチェックインとチェックアウトは、「今の自分の感情」を確認する時間です。ブルー・グリーン・イエロー・レッドの4色が使われ、それぞれ下表のような感情を表しています※。

色の意味
ブルー 悲しい、だるい など
グリーン 落ち着いている、楽しい など
イエロー イライラ、興奮している など
レッド 不安、怒っている など

※参考:マリリー・スプレンガー著、大内朋子・吉田新一郎訳『感情と社会性を育む学び(SEL)子どもの、今と将来が変わる』第3章および第4章

最初のうちは自分の感情を自分で判断したり、率直に伝えたりすることが難しい場合もあるとのこと。SEL教育の取り組みについて教えてくれた榛谷(はんがい)先生は、「明らかに調子がよさそうじゃないのに『グリーンゾーンです』と答えてる子がいる場合、『今、先生にはこう見えるんだけど、どうなの?』と言うと、『実はイライラしてます』と教えてくれます」と語りました。

自分の今の感情を「ふつう」と答える学生も多いそうですが、「『ふつう』という感情はない」(榛谷先生)として、自身の感情をまずはカラーゾーンで捉え、その感情と原因を言語化しながら確認。さらに自己コントロールへつなげていくために、毎日チェックインとチェックアウトを実施しています。

チェックインでは、「今こういう状態の自分が、どのような一日を過ごすのか」という「見通し」も立てます。例えば、気持ちの整理をするためにテントで休む、楽しくおしゃべりをする時間を作るなど。集団クラスに参加できない場合は、その理由を確認しつつ、個別のプロジェクトや学習に取り組みます。

そして、1日の終わりに行うチェックアウトでは、チェックインで立てた見通しをもとに、1日の過ごし方と今の感情の確認を行います。チェックイン時の感情が、どのような理由で、どう変化したのかを振り返る時間です。

「朝来たときはブルーゾーンやイエローゾーンだった子が、チェックアウト時にグリーンになったら、この子にとって1日いい過ごし方ができたなって。じゃあなんでこの感情が変わったんだろうって、1日の出来事を具体的に見ていきます」(榛谷先生)

感情の変化の理由は、「楽しかったから」という漠然としたものではなく、「美術の授業で絵を褒めてもらえたから」「うまく描けたから」などの具体性が重要。そうした経験をもとに「明日は、こうしよう」という次の見通しへとつなげていきます。

このような振り返りを通じて「自己コントロール力」を身につけていくことが、SELの大切な目標となります。

なお、こうした確認やサポートには、教員と学生の信頼関係が何よりも大切とのこと。「チェックインではその子がその瞬間に話したいことを聞き、その子の世界観に入り込んで信頼関係を築くということも外せない要素」と榛谷先生に教えていただきました。

VTuber「やまだ」さんとのコミュニケーション

画像(左) 撮影:編集部

画像(右)出典:Vtuber見習い やまだの翔和学園授業紹介丨翔和学園yotube

翔和学園の取り組みで、もうひとつユニークな点が、VTuber「やまだ」さんの活躍です。もともとは、YouTubeなどで活躍するVTuberとしてのデビューを目指しながら翔和学園にリモートで通う“留学生”でした。他の学生との交流を深めていくうちに、彼らを支援する職員として勤務する道へ入ったそうです。

翔和学園の学生には、アニメやゲームが好きな人や、デジタルに抵抗感がない人が比較的多くいます。やまださんは常にモニターに映ったアバターの姿で学生達と交流していますが、アニメキャラクターのような姿と魅力的な声で大人気。話し相手や相談相手として親しみやすく、よく話しかけてくる「常連」の学生がいたり、ときには「やまだ待ち」の列もできたりするとのことでした。

学生の中には、「先生」という肩書きを持つ大人とのコミュニケーションに身構えてしまう子がいます。そうした学生でも、「やまださんには話せる」という場合があります。まずは、やまださんとの信頼関係を構築しながら、コミュニケーションの輪を広げる試みを進めています。

VR活用のリラクゼーションや遠隔交流も

VTuberによる支援という、教育分野ではまだ少ない取り組みに意欲的な翔和学園ですが、他にもVR空間を活用したリラクゼーションや社会性教育の取り組みも進めています。

説明してくれたクチナワさんによれば、防音個室「だんぼっち」の中でVRゴーグルを装着し、アロマや芝生マットなども活用しながら五感を刺激するリラクゼーション空間を実現したいとのこと。現在はVR空間での「3D酔い」克服が先決ですが、安定して活用できるようになったら「遠隔地の仲間と交流したり、学生が自分でアバターを使って他の人に観光案内などをしたりする活動も考えている」と語りました。

新しい技術を積極的に取り入れた取り組みが、空間を超えて他者とつながるSEL教育に結実するかもしれません。

 PBL(個別プロジェクト)で才能育成

社会性教育とともに翔和学園が力を入れている教育が、個別の才能を伸ばす教育です。これは、主にPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)として行われますが、その成果を集団活動の中で発表したり、他の学生とコラボしたりするなどの社会性教育にもつなげています。

自学ノートで学びを深める

撮影:編集部

学生達が必ず作成している「自学ノート」。写実的な人物画を描いているS君は、石膏デッサンや鉛筆画、アクリル画と取り組みを進めたあと、「油絵で人物画をやりたい」という希求が出てきました。こだわりは、筋肉や骨格をしっかり捉えた人物を描くことです。そうした指導が多く行われている中国やスペイン、ロシア、韓国の指導法を自ら学習して自学ノートにまとめるとともに、美術史の勉強を進めてきました。

探求を進めながら描き続けるS君に大きな変化が現れたのは、学園が取り組んだ巨大水ロケットプロジェクトのとき。構図について学んでいたS君に、プロジェクト告知のための横断幕のデザインを依頼できるか尋ねたところ、青と白を基調とした素晴らしいデザインを生み出しました。

出来上がった横断幕を見て、仲間の学生たちは大喜び。賞賛や感謝の気持ちがS君に伝えられ、それをきっかけにロケット製作にも少し参加するようになったそうです。

S君がデザインした水ロケットプロジェクトの横断幕

画像提供:翔和学園

皆と力を合わせた結果、世界で最も大きな水ロケットは見事に打ち上げ成功。ギネスブックには、S君がデザインした青い横断幕を掲げた集合写真が掲載されています。

「100万回繰り返せる」ことで才能を伸ばす

撮影・加工:編集部

けん玉に挑戦し続ける藤野君も、学園で成長を続けている学生の一人です。入学当初は集団クラスに入らず、個別に静かに過ごすクラスにいました。何も言われなければ学園にあるテントの中で寝ていたり、スマートフォンでゲームをしていたり。そんな折り、先生から言われた「学校はゲームをする所ではない」という言葉に納得し、スマホを学園に預けるようになり、授業への参加率が大きく向上したそうです。

今夢中になっているけん玉を始めたのは、2023年9月からです。最初の1か月間は「大皿」という技を1分間でできるだけ多く成功させることにチャレンジ。2か月後の11月には、イベントのステージ上で多くの新技にも挑戦しました。観客が見守るステージで何度も失敗しながら、それでも諦めずに挑戦し続け、8種類中6種類の技が成功。大きな拍手が贈られました。

担当の向井先生が感じる藤野君の才能は、「100万回繰り返せるくらいけん玉が好き」なこと。「びっくりするくらい失敗しているんですけど、ずっとやり続けられる。やりたくないって言ったことは、一度もありません。のせられやすいのも、彼の良いところですね」と笑顔で話します。藤野君自身も、「今までの僕とは違うよ」と言葉を重ねました。

「まずピシッとする。あいさつもする。態度も良くする。諦めず、最後までやり続ける。もし成功しなかった場合は、次もまた本気を出してやる。次は絶対成功するぞって、輝くんだ」(藤野君)

3月17日に向かえるステージで「けん玉マスターのアイドル」になるべく、作業療法士やダンスセラピーの専門家などから助言を受けながら、体の使い方も含めてトレーニングを積んでいます。

「3月17日、待ってるよ! ファンのみんな、僕を美しく、輝くイケメンにするために、(ファンの皆が)僕をかっこよくするといい!」(藤野君)

「ファンがいるからこそ輝く、ということですね」(向井先生)

1年間の集大成イベントを3月17日に開催

教室に掲げられたイベントまでのスケジュール

撮影・加工:編集部

藤野君をはじめとする多くの学生が熱心に準備を進めるイベントが、1年間の集大成であり翔和学園の20周年記念イベントでもある「『よき人生』の羅針盤」です。

開催は、3月17日(日)の午前9時半から午後4時。会場は東京都渋谷区の「表参道駅」から徒歩5分に位置する「東京ウィメンズプラザ」です。

当日は、学生達の「1/2成人式」や卒業証書授与式、社会人として活躍する学園OBへの壇上インタビュー、新成人の儀を午前に実施。昼休みを挟んで、午後は在籍する学生たちによるパフォーマンスが展開されます。

精密な色鉛筆画を披露する予定のM君は、トイプードルの絵を制作中。色鉛筆画の技法書にある難しい専門用語を調べながら、描き方を習得してきました。自身が飼っている白いトイプードルを描くことを目標に、今回は前段階として茶色のトイプードルを描きます。こだわりは、「毛並みのふわふわ感」。もともと他の人との会話が苦手で、過度な緊張や筋力の弱さが活動の支障となっていたM君でしたが、筋トレなど身体面へのアプローチも行い、取材にしっかりした声で答えてくれました。

M君と一緒に筋トレを始めた生田君は、「極道映画」としてショートムービーの制作を進めています。場面かん黙があるため、取材には筆談とパフォーマンスで応じてくれました。映画『アウトレイジ』が好きという本格派で、担当の浅沼先生と一緒にシナリオやかっこいいポーズを練り、「生田組長」として主演を務めます。

「(生田君は)教室の中でもあまりしゃべらないんです。彼がどんなふうに話すのか、迫力を出せるのか、楽しみにしていてください」(浅沼先生)

左:M君の色鉛筆画。練習を重ねるごとに精緻な描き込みが増えていく

右:筆談とパフォーマンスで答える生田君。目力がとても強い

撮影・加工:編集部

また、けん玉の藤野君が憧れているN君は、世界各地の「タワーの絵」を披露します。その数、なんと100枚。シカゴにある「ウィリス・タワー」の他、お気に入りのタワーとして韓国の「Nソウルタワー」や「ロッテワールドタワー」、モスクワの「オスタンキノ・タワー」などを紹介してくれました。入学したときからタワーが好きで、既存の描き方にとらわれず、多くの絵を「生み落とす」中で上達を目指しています。

「N君は、形の捉え方や色の塗り方がすごく独特。ためらうことなく、一気に決定して描くことができて、お手本ともずいぶん構図が違うんです。彼なりに再構成して、迷わず、力強く描く。それが魅力です」(水川先生)

左2枚 提供:翔和学園

右2枚 撮影:編集部

加工:編集部

学生とともに取材に応じてくれた先生方は、自分を表現できなくて苦しんでいる方や保護者の方、そうした子どもたちの担当の先生方などにも、ステージを見てほしいと語りました。

 

「保護者の方にも先生方にも、『場面かん黙の子も自己表現するんだ』『もしかしたら、この子も自己表現するのかも』と思ってもらえるといいなと考えています。保護者や先生がそう思うだけで、その子との関係性が絶対変わってくると思います」(中村先生)

 

「会場に来られるお客さんや友達、先生といった相手を意識することが、『もっと頑張ってみる』『分かりやすく変えてみる』など、自分の可能性を広げることにつながる」と榛谷先生。「友達に見せたい、先生に見せたい、そこからもっといろんな人に…と広がっていったらいいですね」。

 

ステージに立つ学生達のいきいきとした表現を、ぜひ間近で感じてみてください。

 

【翔和学園 「よき人生」の羅針盤】開催情報

日時 2024年3月17日(日)

9:30~16:00

会場 東京ウィメンズプラザ
会場所在地 東京都渋谷区神宮前5丁目53-67
アクセス 東京メトロ銀座線「表参道駅」徒歩5分

【参加申込みフォーム】

 

【取材協力・画像提供】

NPO法人 翔和学園

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