週20時間未満の超短時間労働が障害者雇用率算定対象に! 障害者総合支援法改正案のポイント


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障害者総合支援法の改正案が、10月26日に国会へ提出されました。多岐にわたる項目が含まれるこの改正案では、障害者雇用に関する見直しや制度の新設も見られます。今回は、障害者の超短時間労働や在宅ワーク、就職後の支援に関するポイントを見ていきましょう。

障害者総合支援法改正案が国会提出へ

障害者の社会参加や就労に大きく関わる法律「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)の改正案が、2022年10月14日に閣議決定され、同月26日に第210回国会(令和4年臨時会)に提出されました。

今回の改正案には、障害を持つ方の地域生活の支援体制をより充実させること、障害者雇用の支援と質を向上させること、精神障害者への支援整備など、多数の項目が含まれています。これらの整備や新しい支援の創設には、障害者総合支援法以外に障害者雇用促進法や精神保健福祉法、難病法、児童福祉法の改正も必要とされています。

障害者の就労にとってポイントとなるのは、「就労選択支援」の創設と超短時間で働く障害者を新たに法定雇用率の算定対象とする点です。

改正案が可決されれば、2024年4月1日から施行予定。ただし、「就労選択支援」は公布後3年以内の政令で定める日から、その他一部の内容については、2023年から施行となる予定です。

今回は、改正案の中で障害者の超短時間労働が実雇用率の算定対象に加わる点、および障害者の在宅ワークに関わる点などをピックアップして見ていきましょう。

週10時間以上20時間未満も実雇用率の算定対象に

これまで、障害者の実雇用率の算定対象は週20時間以上働く方のみでした。週20時間未満で働く障害者については事業主側に雇用義務はなく、雇用しても算定対象とならない状況が続いてきました。

しかし、障害者の就労に関する調査研究により、週20時間未満であれば安定して働ける方がいること、障害特性により長時間勤務の難しい方が一定数いることなどが明らかになっています。特に精神障害をもつ方に、週20時間未満の就労を行ったり、希望したりする方が多く見られます。

そこで「週20時間未満の労働時間であれば働ける」という障害者の雇用機会を拡大すべく、今回の改正案において実雇用率の算定対象に加えることが盛り込まれました。新たに算定対象となる障害者の範囲は大臣告示で、具体的なカウント数は省令で規定される予定です。

現在の改正案で提示されている内容は、以下のとおりです。

<雇用率制度における算定対象とカウント方法(案)>

週所定
労働時間
30時間以上 20時間以上
30時間未満
10時間以上
20時間未満
身体障害者 1 0.5
身体障害者
(重度)
2 1 0.5
知的障害者 1 0.5
知的障害者
(重度)
2 1 0.5
精神障害者 1 0.5※ 0.5

※一定の要件を満たす場合は「1」とカウント (2022年度末までの措置だが、省令改正で延長予定)

上の表にあるように、新たに実雇用率の算定対象となるのは、週所定労働時間が10時間以上20時間未満で働く障害者のうち、重度の身体障害者、重度の知的障害者、そして精神障害者全体となっています。

また、この施策が実現すれば、週10時間以上20時間未満で働く障害者を雇用した場合に支給される「特例給付金」の制度は廃止となります。特例給付金は障害者の超短時間労働の雇用機会拡大を図るために設置されたものですが、超短時間労働が算定対象に追加されれば機会拡大へ直接つなげていけるためです。

在宅就業障害者支援制度の登録要件を緩和など他の制度も調整

障害者総合支援法改正案では、障害者雇用調整金等の障害者雇用促進法に関わる支援や制度の変更も提案されています。

<障害者雇用調整金等の見直しと助成措置(案)>

  • 障害者雇用調整金等の見直し
    • 法定雇用率達成企業(100人超)への「調整金」支給額
      • 達成人数が10人を超える場合、超過人数分の単価を引き下げる
    • 法定雇用率達成企業(100人以下)への「報奨金」支給額
      • 達成人数が35人を超える場合、超過人数分の単価を引き下げる
  • 新しい助成金の設置
    • 雇入れや雇用継続を図るために必要な雇用管理に関する相談援助の支援
    • 加齢に伴い職場への適応が困難となった障害者への雇用継続支援
  • 在宅就業障害者支援制度に関する見直し
    • 登録要件の緩和(団体登録に必要な在宅就業障害者の人数要件を10人から5人に引き下げ)
  • 事業協同組合のスキームを活用して複数の中小企業の実雇用率を通算できる特例の見直し
    • 有限責任事業組合(LLP)を対象に追加

障害者雇用調整金等の見直しの背景には、現在の単価で進めると助成金の支出のほとんどを調整金や報奨金が占めているということがあります。障害者雇用における事業主の取り組みが進んだというポジティブな結果であるものの、支援を要する雇用の質向上を目的とした支出が限られているのが現状です。そこで、雇入れにかかる支出を減らすかわりに、働く障害者や障害者を雇用し続けている事業主への支援を増やすため、調整金や報奨金の支給額調整が提案されました。

さらに、障害者の在宅ワークに関わる制度の見直しも見られます。

コロナ禍によって社会全体で在宅ワークへの移行が選択肢に入り、障害者の働き方にも大きな影響を与えました。在宅ワークがより身近な働き方として感じられるようになり、在籍する企業で在宅ワークを行うだけでなく、企業から在宅ワーカーへ外注するノウハウも蓄積されつつあります。

こうした障害者の在宅就業を支援するため、在宅就業障害者支援制度に「在宅就業支援団体」として登録できる団体の要件緩和が改正案に盛り込まれました。多様な働き方の浸透に向けて、より多くの団体が登録できるようになると考えられます。

なお、在宅就業支援団体とは、在宅で働く障害者と業務を発注する企業の橋渡しを行いながら、障害者の業務遂行を支援したり雇用管理を行ったりする団体です。

多様な働き方の浸透と必要なところに必要な支援を

超短時間労働の障害者が実雇用率算定対象とされる意義は、とても大きいものです。
障害をもつ方の中には、週20時間未満でなら働ける方が少なくありません。時間を限れば仕事をして収入を得られるにもかかわらず、「週20時間以上」という制度の壁によって就労の機会を得られなかったり、症状の悪化で就労自体を諦める方がいたりしました。そこに超短時間労働という選択肢が制度として加れば、「長時間働くことが当たり前」という前提がなくなり、より多くの方が就労の機会を得られることになります。

超短時間労働は、企業の障害者雇用にとってもメリットがあります。

これまで、いきなりフルタイムで障害をもつ方を雇用することによって、業務の切り出しやサポートが十分にできないまま課題を抱えてしまうケースがありました。しかし、週20時間未満から始めることができれば、サポートや準備にかける時間をより確保しやすくなります。その後で症状が悪化して勤務時間が減った場合も、引き続き実雇用率の算定対象とすることができるため、離職の防止につながるでしょう。

改正案には、就労の継続や質の確保も含まれます。

近年、社会全体で多様な働き方が推進されており、障害者の就労でもそうした環境づくりが必要となっています。今回の障害者雇用に関する改正案が可決されれば、従来の制度からはじき出されてしまっていた方々の就労機会が拡大するとともに、就職後の適切なサポートや環境づくりの促進が期待されます。

【参考】
障害者、望む仕事に就きやすく 改正法案を閣議決定|時事通信(2022年10月14日)
社会保障審議会障害者部会(第133回)|厚生労働省
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案を国会に提出いたしました|厚生労働省

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