【障害者編】障害者の超短時間労働の実態調査 当事者のメリット・デメリットと事例


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障害をもちながら働く場合、ごく限られた時間でしか働けない方々がいます。週20時間未満で働く超短時間労働は法定雇用率の算定対象外ですが、それによって生活の質が向上し、職場にとっても欠かせない存在となった方は少なくありません。今回は、超短時間労働がもつ障害者にとってのメリット・デメリットとともに、実際に超短時間で働く方々の事例をご紹介します。

NIVRによる障害者の超短時間労働に関する実態調査

働く障害者の中には、週20時間未満という超短時間労働で雇用されている方々がいます。

従業員数43.5人以上の民間企業には、障害者雇用促進法に基づいて法定雇用率2.3%の障害者雇用が義務づけられていますが、障害者雇用率の算定対象は週所定労働時間が20時間以上の障害者のみ。週所定労働時間20時間未満の障害者雇用は、算定対象ではありません。

しかし、超短時間で働く障害者が一定数いること、障害者雇用において重要な雇用形態であることは決して無視できるものではなく、短時間労働に関連する支援制度として2020年に特例給付金制度も創設されました。

一方で、超短時間での障害者雇用を希望する当事者や企業のニーズや実態、課題はいまだに明確ではなく、特例給付金制度があること自体を知らない企業や障害者も多く見られます。

そこで、障害者職業総合センター(NIVR)は、短時間労働での障害者雇用の実態を把握すべく「障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究」を実施(調査研究報告書 No.165)。就労継続支援事業所へのアンケートやヒアリング、超短時間労働での障害者雇用を行う企業や専門家へのヒアリングなどを行いました。

超短時間労働という選択肢は障害者にとってどれほど重要なのでしょうか。今回は、就労継続支援事業所と企業へのアンケート、ヒアリング調査の結果を中心に、実際に超短時間で働く障害者、超短時間労働を希望する障害者にとってのメリット・デメリットを見ていきましょう。

超短時間労働が障害者にもたらす3つの大きなメリット

週20時間未満という超短時間労働がもつ障害者にとってのメリットは、大きく3つあります。その根本にあるのは、「自分の障害特性や体調に応じて柔軟な働き方ができる」ということです。

メリット1: 体調に応じて勤務時間調整をできる

1つめのメリットは、病状の変化や体調に応じて勤務時間の調整ができることです。

障害をもつ方は、障害のない方以上に病状や体調の影響を受けやすい生活を送っています。障害特性によっては疲れやすかったり体調を崩しやすかったりする場合もあります。

正社員雇用の一般的な勤務時間は週所定労働時間40時間。法定雇用率の算定対象となる労働時間でも、週20時間以上、週30時間以上といった長さが求められるのが現実です。こうした労働時間で働くと病状や体調の悪化によって休職・離職せざるをえない方の場合、最初から雇用してもらえないという大きな問題が発生します。

しかし、超短時間の働き方ができる職場であれば、病状や体調が安定しているときは週20時間程度、悪化しているときは週2~4時間のように、柔軟な調整が可能となります。

メリット2: 安心して長く働ける

2つめのメリットは、超短時間労働が可能になることで、安心して長く働けることです。

超短時間という選択肢も含めて状況に応じた週所定労働時間の調整ができることは、病状や体調、さらにはライフステージに合わせて柔軟な働き方を可能にします。
「疲れても休めない」
「睡眠時間を削って仕事と家のことを両立させなければ」
という無理のある状況を避け、同じ職場で安心して長く働き続けられるのです。

障害のない方でも、出産・育児・介護、自分自身の病気といったライフステージや大きな体調の変化を理由として「今の働き方はできない」と感じることがあるでしょう。そうした場合も働けるよう、近年は国によって多様な働き方が推進されてきました。障害者雇用の現場では、そうした超短時間労働も多様な働き方の1つとなっています。

会社が一方的に定めた長い労働時間を一律に適用するのではなく、社員の状況に応じた労働時間の選択が可能となることは、長期にわたる職業生活の維持に大いに役立つ仕組みです。

メリット3: 生活の質が向上する

3つめのメリットは、超短時間労働によって自分の特性に合った勤務時間・業務で働き、生活の質の向上を図れることです。

仕事とプライベートの具体的なバランスは、人によって大きくことなります。「ワークライフバランスがよい」と感じられるには、無理な働き方ではない、家族や友人との時間、趣味の時間、体調の回復の時間を確保できるといった要素が必要だからです。

自分にとって無理な時間で働き続けたことで休職や離職となってしまった場合、自らを責めて「自分は働けないんだ」と悲しい思いをする方がいるでしょう。また、週20時間未満で働く障害者の方には、それまでさまざまな職場で働いてきて「このくらいの勤務時間がよい」という経験則を持っている方もいます。

自分自身に合った労働時間を週20時間未満から選べることで、余暇活動の時間を確保してストレス解消ができたり、健康を維持しやすくなったりします。ひいては、生活の質全体の向上につながるでしょう。

超短時間労働に見られる障害者にとっての3つのデメリット

一方、超短時間労働のデメリットとしては、収入の低さや間口の狭さが挙げられます。生活の質とどうバランスをとるかが難しいところです。

デメリット1: 収入が少なくなる

超短時間労働の第一のデメリットは、収入が少なくなることです。

週30時間未満の働き方では時給制になることが多く、働いた時間分のみ報酬が支払われるケースがほとんど。週20時間未満の超短時間だけでなく、法定雇用率の算定対象となる週20時間以上30時間未満の短時間労働でも、収入の不安定さや少なさが、しばしば課題として挙げられます。

超短時間で働く方の中には、家族に収入があったり障害年金ももらったりしている方もいます。収入と健康、生活の質のバランスを見ながら働いているようです。

デメリット2: 求人数が多くない

超短時間労働の2つめのデメリットは、求人数があまり多くないことです。

障害者の超短時間労働は、企業にとってもメリット・デメリットがあります。そのデメリットの最たるものが、障害者雇用における法定雇用率達成につながらないことです。法定雇用率の算定対象となるのは週20時間以上働く障害者。そのため、法定雇用率達成を目標とする企業は超短時間労働の障害者雇用を選択肢に入れていないケースがあるのです。

とはいえ、一部では「法定雇用率の達成につながらなくても本人に合った働き方を重視する」という考えのもと、超短時間労働での障害者雇用を進める企業が見られるのも事実です。超短時間労働を希望する方は、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、ハローワークなど、複数の関係機関にぜひ相談してみてください。

デメリット3: キャリアアップが難しい

3つめのデメリットは、勤務時間が短いことでリーダー職のような業務量が多いポジションに就きにくいことです。

キャリアアップの難しさは障害者雇用全体の課題となっており、どのような社員育成が必要かも多く議論されてきました。その中で、特例子会社や就労継続支援事業所などでは、実際にリーダー職、より上位の管理職として活躍する障害者が少しずつ増えてきています。

今後、各事業所において超短時間労働の必要性と有効性に対する理解が深まれば、資格取得やスキルアップなどのサポートもより充実し、キャリアアップできる可能性が高まっていくでしょう。

短時間労働をする障害者はどんな人たち?


最後に、障害をもちながら実際に超短時間で働く方にどのような方がいるのかを見ていきましょう。

NIVRの調査では企業へのヒアリング時に、その事業所で働く超短時間労働の障害者についても聞き取りを行っています。その中から3例をご紹介します。

パニック障害で退職後、超短時間労働で就職

最初は、ストレスからパニック障害を発症した方の事例です。それまで様々な仕事をしてきた方で、ストレスによりパニック障害を発症しました。

はじめは週所定労働時間20時間以上で働いたものの、心身への負担が大きく退職することに。ご自身の障害特性に合った働き方をするため、障害者枠での超短時間労働を希望して就職しました。その後は、CADを用いた図案作成業務を1日2時間、週1回の勤務スケジュールで担当しています(ヒアリング調査時点)。

勤務日以外は家事をメインとした生活を送り、地域活動支援センターで行われる音楽や刺繍などの活動も楽しめているとのことです。

事故で身体障害、B型事業所から一般企業へ就職

2例目は、20代の身体障害をもつ方の例です。

事故により脊髄を損傷したことで外出自体が困難となっているため、B型事業所でPCを用いたテレワークを行ってきました。B型事業所での作業を10カ月行った後、一般企業に就職。現在は在宅で1日3時間、週3日で働いています(ヒアリング調査時点)。

ホームヘルパーの支援を受けながら生活しているため働く日数を増やすことは難しいものの、1日の勤務時間や作業内容を増やしていきたいといいます。

一般企業で働く中で発症、50代になってからピアサポーターに

3例目は、一般企業で働いてきた中で発症し、過活動となった方の例です。

機械工として経験を積んできた方で、働く中で発症し過活動(睡眠時間1時間)となります。発症後は通院を継続するも、服薬管理に困難を抱えていました。

その後、地域活動支援センターの利用を開始し、50代になってピアサポーター養成研修を受講。地域移行支援への関心と収入を得たいという思いから、ピアサポーターとして働き始め、6年間働いてきました。

当初は1日3時間、週3日で働いていたものの体調を崩して休職へ。その中で一度は退職を考ましたが、周囲の人から引き留められて復職につながりました。復職後は症状の変動に合わせて勤務時間の調節しながら、1日2時間、週2日で勤務しています(ヒアリング調査時点)。

超短時間労働でも職場には大切な存在

週20時間以内の労働時間では職場になかなか貢献できないのでは、と考える方は多いかもしれません。しかし、実際に超短時間で働く方の事例を見ていくと、スキルアップや資格取得によって業務の幅や質を上げたり、ピアサポーターとして他の障害者の支援を担っていたりする方もいます。「○○さんがいるからこそ、職場の業務が円滑に進む」とコメントを寄せた事業所ももありました。

健康管理をしつつ働き続けられる環境は、人によって大きく条件が異なるものです。そして、超短時間であっても職場の一員として貢献できます。

超短時間労働が働き方の1つとして広く受け入れられること、働きたい障害者が働ける場所を得ること、そうした方々がより活躍できる環境を整えていくことが、よりいっそう求められています。

【参考】
調査研究報告書 No.165 障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究|NIVR

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