2020/08/05
障害者雇用の「合理的配慮」提供義務とは?|法律・事例・ガイドライン
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法律で全ての事業主に義務づけられた合理的配慮の提供。厚生労働省が2015に作成した「合理的配慮指針」では、職場における障害者への合理的配慮の提供について、基本的な考え方と提供の手続きを示しています。
今回は、合理的配慮とは何か、なぜ必要なのか、どうやって具体的な措置を決めるのかなどを見ていきましょう。
合理的配慮の提供義務とは?
2013年の障害者雇用促進法改正により、事業者には障害をもつ従業員に対して「合理的配慮」を提供する義務があると規定されました。しかし、何が合理的配慮として適切なのかを判断するには、障害者の就労や障害の特性についての知識や理解が不可欠です。
まずは、障害者の就労で合理的配慮が必要とされる理由と、改正障害者雇用促進法における規定を見てみましょう。
厚生労働省が2015年に「合理的配慮指針」を策定
近年「合理的配慮」という言葉が大きく取り上げられたのは、厚生労働省が2015年に「合理的配慮指針」を発表したことがきっかけです。
合理的配慮指針では、合理的配慮を提供する際のガイドラインとして、基本的な考え方の説明と具体例の提示が行われました。また、合理的配慮の提供に関する手続きについての説明もあります。
手続きや合理的配慮の具体例は後述するとして、ここでは「合理的配慮とはどのような配慮なのか」「誰に義務づけられているのか」を確認しましょう。
合理的配慮とは、障害をもつ従業員と障害をもたない従業員とが、なるべく同じように就職や昇進・昇給、研修やイベントへの参加、異動等の機会をもてるように配慮したり、職場環境を整備したり、サポートする人を配置したりなどすることです。
合理的配慮の提供は、全ての事業主に義務づけられています。
ただし、具体的にどうすればいいのかは、どのような障害特性があって、どのような職場・業務なのか等に大きく左右されるため、注意が必要。身体障害者が事務的業務を行っている場合は特別な補助具が必要かもしれませんし、机やプリンタの高さを調整する必要もあるかもしれません。視覚障害者なら特別なキーボードやソフトウェア、拡大読書器が求められるでしょう。知的障害者の場合は、図を使った分かりやすいマニュアルや一日の作業予定を分かりやすく書いたボードの設置が有効です。精神障害者の場合、1人で静かに休憩できる場所が必要かもしれませんし、耳栓やパーティションがあると作業しやすいかもしれません。
いずれの合理的配慮の提供においても、障害のある従業員本人がどのような措置を望んでいるのかを把握して初めて適切な措置を講じられます。
合理的配慮の一例(厚生労働省「合理的配慮指針」より作成)
※具体的な内容はケースバイケースで決める
障害区分 | 合理的配慮の内容 |
視覚障害 | 点字や音声で情報を提供・職場内の危険箇所を事前に確認する |
聴覚・言語障害 | 連絡や指示に筆談を利用・職場内の危険箇所を視覚的に確認できるようにする |
肢体不自由 | 移動の支障となるものを片付ける・体温調節しやすい服装の着用を認める |
内部障害 | 本人の負担の程度に応じて業務量を調整する |
知的障害 | 図等を活用した業務マニュアルを作成・作業手順を分かりやすく
する |
精神障害 | 静かな場所で休憩できるようにする・優先順位や作業手順を分かりやすくする |
発達障害 | 指示やスケジュールを明確にする・図等を活用した業務マニュアルを作成
感覚過敏緩和のためのサングラスや耳栓の着用を認める |
難病に起因する障害 | 本人の負担の程度に応じて業務量を調整する |
高次脳機能障害 | 仕事内容等をメモする・写真や図を多用して作業手順を示す |
ただ、障害のある従業員に対する措置にかかる負担が事業の存続を困難にしたり、支援してくれる人材の確保に無理があったりするケースもあるかもしれません。大企業なら可能でも中小企業には難しいという場合もあるでしょう。そのようなケースを、合理的配慮指針では「過重な負担」と表現しています。
ある措置が事業主にとって過重な負担になるかどうかは、6つの観点から考える必要があります。
<過重な負担かどうかを考える6つの観点>
- 事業活動にどのくらい影響するか
- 実現できるのかどうか
- 費用・負担がどのくらいになるか
- 企業規模を考えたときに負担が大きすぎるかどうか
- 企業の財政状況によって負担が大きいかどうか
- 公的支援を利用可能かどうか
また、以下の4つが合理的配慮に関する基本的な考え方です。
<合理的配慮に関する基本的な考え方>
- 個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供される措置である
- 合理的配慮の提供は事業主の義務である(ただし、事業主が必要な注意を払っても当該従業員が障害者であることを知り得なかった場合は、違反にならない)
- 合理的配慮の具体的な措置がいくつか考えられる場合は、事業主は当該障害者と話し合い,障害者の意向を十分に尊重した上で、より実施しやすい措置を講じればよい(もしいずれの措置も「過重な負担」である場合は、当該障害者と話し合い、意向を十分に尊重した上で過重な負担にならない範囲の措置を講じる)
- 事業主や同じ職場で働く人々が障害の特性に関する正しい知識を得て理解を深めることが重要である
もし、当該措置が過重な負担であり実施できない場合は、実施できないことを当該障害者に説明し、求めに応じて理由を説明しなければなりません。
なお、「できないから、この話はなしで」という全か無かの判断ではなく、過重な負担にならない範囲でできる何らかの措置を講じるべきとされています。
過重な負担になると思われても、助成金を利用すれば負担を軽減しつつ環境整備が可能になる場合も。合理的配慮に関する助成金は以下の記事で解説していますので、ぜひご検討ください。
『障害者を雇用した場合に受け取れる助成金一覧|受給条件・対象者・支給額など』
【参考】
合理的配慮指針|厚生労働省
障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第二版】|厚生労働省
「改正障害者の雇用の促進等に関する法律」で合理的配慮を義務づけ
合理的配慮の提供義務の根拠となる法律についても触れておきましょう。
合理的配慮指針の発表は、改正障害者雇用促進法(改正障害者の雇用の促進等に関する法律)の施行を受けてのもの。合理的配慮を定めたのは、第36条の2及び第36条の3です。
第36条の2
「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の 支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により 当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない」
第36条の3
「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配慮その他の必要な措置を講じなければならない」
また、合理的配慮の提供は職場における事業主の義務であると同時に、職場以外の場所における障害者差別の解消に向けた取り組みの1つでもあります。そのため、改正障害者雇用促進法とともに、障害者差別解消法との関係で説明されることも多く見られます。
合理的配慮の提供の仕方と事例集
何が合理的配慮として適切かは、ケースバイケースです。有効な措置を講じるには、障害をもつ従業員本人が望む措置と事業主が現実的に提供できる措置とのすりあわせがなければいけません。
そこで、合理的配慮指針では、合理的配慮の提供にかかる手続きを具体的に示しています。
合理的配慮の関わる手続きの流れ
合理的配慮の提供に関わる確認や話し合い等は「合理的配慮の手続」と呼ばれます。合理的配慮の手続きは、採用前と採用後、そしてどのような障害を持つ人に提供するかで具体的な内容が異なります。しかし、提供に際しての大きな流れは同じで、3段階で説明されています。
1段階目は、当該障害者にとって支障となっている事情があることを事業主が認識・確認すること。募集・採用時は障害者側からの申出があることで行われ、採用後は事業主が当該障害者に対して職場で何か支障がないか確認したり、障害者本人からの申出が行われたりすることによって、認識・確認が行われます。障害の状態や職場状況は変化することもあるため、採用後のこうした確認は定期的になされる必要があります。もし支障があると確認された場合は、どのような措置を希望するか当該障害者に確認しましょう。
2段階目は、障害者側と事業主側で実施可能な措置について話し合うこと。障害者が希望する措置は1段階目でも確認できる場合がありますが、話し合いの中であらためて確認し、事業主も実施可能な措置を提示して、一緒に検討しましょう。事業主側が一方的に措置を決めるのは、合理的配慮の手続きとして適切とは見なされません。必ず、障害者本人の意向を尊重して検討する必要があります。
3段階目は、話し合いの内容を踏まえて事業主がどのような措置を講ずるか確定し、障害者に伝えることです。話し合いの結果、お互いが合意できる措置が見いだせれば、その内容で措置を講ずることを確定します。もし障害者本人の意向通りの措置を実施できない場合は、実施できないことを伝え、なぜ実施できないのかを説明しましょう。
合理的配慮の事例集で解決案を探してみよう
合理的配慮の方向性や大まかなイメージは指針で分かりますが、実際に現場でどのような措置が必要なのかを最初から考え出すのは大変かもしれません。理由は、障害をもつ人ぞれぞれの障害特性と状況によって、さまざまな合理的配慮が考えられるからです。
そこで、内閣府は「合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ)」を提供しています。合理的配慮サーチでは、障害の大きなカテゴリーで事例集を検索したり状況から検索したりすることも可能。検索結果で出てくるのは、さまざまな部署がまとめた事例集や支援ボード、ガイドブックなどです。
解決案の参考資料データベースとして利用していきましょう。
【参考】
合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ|内閣府
障害者のプライバシー配慮に関するガイドライン
職場や業務で何らかの支障を感じている障害者に合理的配慮を提供する際、相談窓口の担当者や事業主は当該障害者の障害特性をきちんと知っておかなければなりません。合理的配慮の措置を実施するために、当該障害者の上司や同僚に障害特性の説明をする場面も出てくるでしょう。
そうした時、最も気をつけなければならないのが「障害者のプライバシー」の問題です。
障害特性とプライバシー侵害の問題
合理的配慮の提供にあたって、どのような障害があるかを知ることは必要不可欠です。しかし、合理的配慮のためなら何を聞いてもいいというわけではありませんし、他の従業員に何を共有してもいいというわけでもありません。障害に関する情報は個人情報の1つであり、特に取り扱いに注意が必要だからです。事業主が合理的配慮の提供にあたってヒアリングできるのは、あくまで業務に関する範囲内であることを忘れないようにしましょう。
たとえば、手帳の更新や障害特性について必要以上に何度も確認したり、日常生活に関して業務とは関係の無い情報を求めたりしてはいけません。本人の承諾なしに「○○さんには、こういう障害があるんだよ」と他の従業員に知らせることも避けるべきです。
障害に関する情報を取り扱う時は、障害者本人に対して「何のために障害に関する情報を取得するのか」「どのような情報が必要なのか」「いつまでその情報を使うのか」「誰と共有するのか」などを予めしっかり説明し、同意を得ましょう。
もし本人に説明が伝わりにくかったり同意を得るのが難しかったりする場合は、家族や支援者に説明し、同意を得なければなりません。
厚生労働省「障害者のプライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」
とはいえ、障害に対する知識や理解の不足が原因で、悪意なく障害者のプライバシーを侵害してしまうというケースはあり得ます。
そこで、厚生労働省は「障害者のプライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」を作成しました。
ガイドラインでは、以下の様な状況別に障害者の把握・確認方法を提示しています。
- 採用段階で障害者を把握・確認する場合
- 採用後に障害者を把握・確認する方法
- 把握・確認した情報の更新を行う場合
その中で、障害者の把握・確認で決してやってはいけないことが「把握・確認に当たっての禁忌事項」に書かれています。
<障害者の把握・確認に当たっての禁忌事項>
- 利用目的の達成に必要のない情報を取得してはならない
- 労働者本人の意思に反して、障害者である旨の申告又は手帳の取得を強要してはならない
- 障害者である旨の申告又は手帳の取得を拒んだことにより、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない
- 正当な理由なく、特定の個人を名指しして情報収集の対象としてはならない
- 産業医等医療関係者や企業において健康情報を取り扱う者は、障害者雇用状況の報告、障害者
- 雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請の担当者から、労働者の障害に関する問い合わせを受けた場合、本人の同意を得ずに、情報の提供を行ってはならない
また、把握・確認した情報の処理・保管方法、障害に対する理解や障害者に対する支援策についての理解をどのように広めていくかという点でも、禁忌事項があります。
<把握・確認した情報の処理・保管に当たっての禁忌事項>
- 本人の同意なく、利用目的の範囲を超えて情報を取り扱ってはならない
- 障害者である旨の申告を行ったことや、情報の開示・訂正・利用停止等を求めたことを理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをしないようにしなければならない
障害者の人権侵害を防止・解消するためにも、折に触れてこのガイドラインを見直しましょう。
自分がサポートを受ける立場だったら・・・?
働く障害者に対する合理的配慮の提供やプライバシーへの配慮は、障害のない人にとってはイメージしにくいかもしれません。
しかし、生活に支障をきたすような病気があり、その病気が原因で「仕事が遅い」「怠けてる」「バカだ」などと言われたらどう感じるか、想像してみてください。病気についての正確でない情報や他の人にはあまり知られたくない特性が職場に広まり、「○○っていう病気なんでしょ? じゃあ××はどうやってるの?」と興味本位に聞かれたら、あなたはどう感じるでしょうか。
決して怠けているのではなく病気のせいで体力がなかったり、集中力が続かなかったりするだけなのに、同僚や上司から自分の人格まで否定されてしまうことさえあるかもしれません。
1時間ごとに少し休憩をとる、業務中の移動の負担を軽くするなどの工夫で仕事の能率を上げられるとしましょう。休憩時間や移動に関する配慮があればもっと会社に貢献できるのに、「1人だけ特別扱いできない、自分で努力して」と言われてしまうのは悲しいことです。逆に、「じゃあこまめに休憩をとれるようにしましょう」「移動の少ない業務にしましょう」「通路を整備しましょう」と配慮してくれる職場なら、安心して働き続けられるでしょう。
事業主が合理的配慮の提供やプライバシーへの配慮を行う際、肝心なのは「自分がサポートを受ける立場なら」という視点を持って、障害のある従業員と向き合うこと。そうした姿勢や対応が職場で定着すれば、やがては障害のない従業員に対しても個々の事情に応じた勤務体制や環境整備をしやすくなるでしょう。
障害を持つ従業員への配慮は、多くの従業員にとって働きやすい職場にする基礎を築くことでもあるのです。