【合理的配慮好事例・第7回】障害者雇用における発達障害者のスキルアップ支援


障害者雇用促進法に基づきさまざまな企業で進められている障害者雇用ですが、発達障害者の雇用は他の障害者に比べて決して多くはありません。しかし、障害特性による「苦手」を補い「強み」を活かして業務に取り組めば、単純な業務以外も任せることができ、スキルアップも図れます。

合理的配慮好事例解説シリーズ第7回は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、機構)の「中小企業等における精神障害者や発達障害者の職場改善好事例集(平成28年度)」から、発達障害者のスキルアップ支援を行った好事例を2つ紹介・解説します。

積極的な面談や研修でスキルアップ支援!「強み」を活かして「苦手」を補うチーム編成— グリービジネスオペレーションズ株式会社

グリービジネスオペレーションズ株式会社は、ゲームなどの事業で知られるグリー株式会社の特例子会社です。ICTリテラシーの高い人が多い発達障害者を中心に雇用を進め、従業員42人中31人が発達障害をもつ従業員となっています。

それぞれの「強み」を活かした配置転換やリーダー・サブリーダーへの選出など、従業員の意欲やスキルを高めるさまざまな工夫を行ってきました。

「ワーキングバリアフリー」で社員が成長できる環境・ルールづくり

同社では「ワーキングバリアフリー」を掲げています。ワーキングバリアフリーとは、働く上で「健常者」と「障害者」の間の壁、「親会社社員」と「子会社社員」の間の壁を撤廃し、会社全体として業務パフォーマンスの向上と社員の成長を実現するための取り組みのことです。

たとえば、半期に1回行われる「社長 1 on 1 面談」(全社員が社長と1対1で行う面談)では、面談結果が新制度の導入や本社との交渉による業務創出につながっています。業務創出では、面談で相談した社員を業務チームのリーダーにも抜擢しました。

障害への理解や対応ノウハウの習得については、企業在籍型ジョブコーチの配置、管理者の障害者職業生活相談員資格認定講習受講の必須化だけでなく、本社特例子会社の社員にも同講習を受講してもらっています。

(関連記事)
障害者職業生活相談員とは|資格要件・認定講習・届出

管理スタッフや支援機関による定期面談やカウンセラー面談もありますので、社員が困りごとを抱えていても安心して相談できる環境が整備されました。

スキルアップについては、本社社員に講師になってもらい各種スキル向上研修を実施。Photoshopの活用スキルを向上させる研修などがあります。

同社では障害をもつ社員自身も仕組み作りに参加しており、それによって効果の高い職場改善が行われてきました。社員のモチベーション向上、能力の発揮、スキルアップやキャリアアップが実現できる環境となっています。

「強み」を活かした配置転換と「苦手」を補い合うチーム編成

同社では、発達障害をもつ社員の特性に応じた配置とチーム編成も重視しています。発達障害のある方にはそれぞれ「強み」があり、それを活かすことで非常に高いパフォーマンスができるからです。

障害のある社員からリーダーとサブリーダーを選出する「リーダー&サブリーダー制度」も導入し、社員同士で課題解決を図れるようにしました。

好事例集には、実際にこうした配置転換を行った事例が2つ紹介されています。

1つめは、それまでの業務をうまくこなせず自信喪失していた社員の例。苦手とする業務設計やイレギュラーな対応をチーム内の他のメンバーに任せ、本人は強みを活かしてパンフレットなどの発送を行う業務へ配置転換となりました。

その結果、自分で工夫しながら取り組めるようになり、「自分も成長し、チームの規模も大きくしていきたい」という前向きな気持ちで取り組めるようになったそうです。

2つめは、単純作業の繰り返しが続くことで将来への不安を感じていた社員の例。この事例では、当該社員のために業務の創出と配置転換を行いました。新しい担当業務は、発売前のゲームの動作チェックと品質保証です。この業務を行うチームのリーダーにも抜擢されました。

配置転換後、当該社員は各種研修を通じてスキルアップ。自分の希望に合った業務と成長の実感により、さらにスキルアップへの意欲が高まったとのことでした。

【参考】
中小企業等における精神障害者や発達障害者の職場改善好事例集(平成28年度)|機構
グリービジネスオペレーションズ株式会社 公式サイト

初めての発達障害者雇用で社長自ら研修を実施!特性に配慮した段階的指導と相談体制— 京浜パネル工業株式会社 山形工場

京浜パネル工業株式会社の山形工場は、平成26年に初めて発達障害者を雇用しました。技術が必要とされる塗装部門での採用になるため、支援機関と連携しつつ実習から雇用語のスキルアップまでていねいに支援を行ってきました。

ナビゲーションブックと社長による社員研修で障害特性の理解を促進

発達障害の方の就労で役立つ情報共有ツールの1つに「ナビゲーションブック」があります。ナビゲーションブックとは、発達障害の方が自分の特徴や強み、障害特性、仕事上の課題、事業所に配慮してほしいこと等を取りまとめたものです。

同社では、ナビゲーションブックを活用して、雇用した発達障害をもつ社員の特性や必要な配慮、セールスポイントを把握。同時に、社長自らが発達障害について学習しました。

障害について学んだ後、社長自身で障害の特徴やケース・スタディなどを盛り込んだ研修資料を作成し、社員に直接研修を行っています。

発達障害をもつ社員自身の職場のルールやマナーの習得については、課題が見られた時にその場で従業員から指摘したり、必要に応じて本人・家族・支援機関を交えて話し合ったりすることで対応しています。

【参考】
支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用|機構

特性に応じた段階的な作業指導でスキルアップ

複数の工程や難しい作業のある塗装作業の習得にあたっては、段階的な作業指導を重視しました。

まずは指示命令系統を一本化。指導や面談は塗装課長が行うようにしました。本人のマルチタスクが苦手という特性を考慮し、本人用の作業組立も行います。具体的な作業内容や進め方については、当日の朝礼時にも「作業計画書」を使いながら、視覚的に分かりやすく指示するなどの工夫を行いました。

<京浜パネル工業株式会社 山形工場で実施した業務遂行に関する合理的配慮>

  1. 図面の見方で注意すべきポイントを具体的に伝える
  2. 繰り返し練習してから製品を扱う
  3. 塗料をこぼした際は、こぼしてはいけない理由(有毒性など)と取扱方法を具体的に説明
  4. 製品棚を移動させる際に前方と製品の両方を見ながら移動するよう指導
  5. 判断基準が明確な定型作業から習得し、段階的に作業の難易度を上げる

マニュアルについても、指示内容を統一して図などを使い、分かりやすくしています。

さらに、口頭での質問や相談が苦手という特性に応じて、「業務日誌」も導入。業務日誌には、その日に行った作業内容だけでなく、教えてもらったこと、できなかったことや質問を記入してもらい、塗装課長が毎日確認してアドバイスを記入しています。

こうした工夫・配慮と本人の努力により、発達障害をもつ社員も下塗り工程を習得。本人のスキルアップにつながりました。同時に、他の社員も障害に対する理解が進んで、「失敗しても優しく」という対応だったのが「必要なことは具体的にはっきり」伝えられるようになったそうです。

【参考】
中小企業等における精神障害者や発達障害者の職場改善好事例集(平成28年度)|機構
京浜パネル工業株式会社 公式サイト

発達障害をもつ社員のスキルアップ支援ポイントは8つ

発達障害で見られる障害特性は人によってさまざまですので、できる配慮もさまざま。しかし、多くのケースで共通してできる配慮もあります。今回紹介した2社の好事例には、そうした汎用性の高い工夫や配慮が多く見られました。

<発達障害をもつ社員のスキルアップ支援ポイント>

  1. 「健常者」と「障害者」の間の障壁をなくしていく
  2. 定期的な面談で障害をもつ社員の仕事に対する志向や意欲を把握する
  3. 分かりやすいマニュアルを作成したり、本社の社員などを講師に迎えて各種スキルアップ研修を行ったりする
  4. 「苦手」を補い合って各自の「強み」を生かせるチーム編成にする
  5. 障害のある社員がリーダーやサブリーダーになる制度を導入する
  6. 指示系統を統一し、難易度の低い順に作業を習得する
  7. 口頭での質問・相談が苦手な場合は筆記による相談ができるようにする
  8. 注意する時は「なぜ」「どうするべきか」を具体的に説明する

発達障害者の雇用状況が公表された厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査」によれば、身体障害者が約42万人、知的障害者が約19万人、精神障害者が20万人なのに対して、発達障害者は約4万人にとどまっています。

しかし、実際に発達障害者を雇用する企業からは、「強みを活かせればパフォーマンスがとても高い」という声が多く聞かれ、発達障害をもつ社員が会社にとって大きな戦力になり得ることも分かってきました。

一人ひとりの障害特性に応じた業務を割り当てたり実務的なスキルアップ研修を実施したりすれば、モチベーションアップやスキルアップにもつながります。

本人がどのような仕事をしたいか、どのような強みがあるかを把握するために、まずは定期的な面談や支援機関との連携を積極的に行ってみてください。

(関連記事)
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【参考】
平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

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