2024/07/24
【障害者雇用実態調査】合理的配慮をどうする?令和5年度調査で深掘り【2】
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厚生労働省が公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果では、障害の種類ごとに合理的配慮提供の実態も伝えられました。多くの事業所では障害特性に合う業務の切り出しが課題となっているようです。障害者雇用のイメージやノウハウがないと回答する所も多く見られます。
令和5年度障害者雇用実態調査シリーズの第2回となる今回は、取り組みが続けられてきた雇用の現場の実態を詳しく見ていきましょう。
民間事業所で提供される合理的配慮の内容
厚労省による「令和5年障害者雇用実態調査」の結果から、まずは現在雇用している障害のある従業員への配慮の内容を確認していきましょう。この設問では、20の具体的な施策内容から、回答者である事業所が実施しているものを複数選びます。
まず上位3つを障害種別で比較すると、「短時間勤務等、勤務時間の配慮」がいずれの障害種別でも入っていました。しかし、知的障害者への配慮と他の障害種別への配慮で、やや違いも見られます。
知的障害では「能力が発揮できる仕事への配慮[特性に合った仕事]」「業務実施方法についてのわかりやすい指示」が上位を占めたのに対し、身体障害・精神障害・発達障害では、それよりも「通院・服薬管理等、雇用管理上の配慮」「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等、休養への配慮[休養の取りやすさ]」がランクインしました。
通院・服薬管理等は、障害が生じる原因に疾患やケガがあること、疾患やケガがなくても、社会生活のために服薬で調整を行っていることが関係しています。こうした事情は、身体障害、精神障害、発達障害ではよく見られるものです。
知的障害のある従業員への配慮で第3位に入った「わかりやすい指示」は、業務フローや具体的なタスクの作業手順を写真や平易な言葉で説明することなどです。
【雇用している障害者への配慮事項】上位3つ・下位3つ
身体障害者 | |
上位 |
下位 |
|
|
知的障害者 | |
上位 |
下位 |
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精神障害者 | |
上位 |
下位 |
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|
発達障害者 | |
上位 |
下位 |
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※令和5年障害者雇用実態調査の結果(図5-2から編集部作成)
それぞれの障害の種類で優先度が低い下位3つについては、身体障害以外の障害種別で手話通訳等のコミュニケーション手段や、施設・設備等の改善の取り組みなどが見られました。これは、障害特性に応じた施策として、一般的には必要性があまり高くないと考えられるものです。
しかし、やや気になる結果も見られます。精神障害者に対する施策で「研修・職業訓練等、能力開発機会の提供」、発達障害者に対する施策で「職場での移動や作業を容易にする施設・設備・機器の改善」の優先度が低い点です。
障害の種類に関係なく、研修やトレーニングによってスキルアップを図ることの重要性は変わりません。加えて、労働生産性を上げるには、精神障害者や発達障害者に関しても環境の調整が有効です。特に発達障害者に見られる感覚過敏に対しては、デスクの配置・照明の調整・音響設備の調整・イヤーマフの導入など、施策としてできることが複数あります。それにもかかわらず、こうした施策の実施率が低いことは、大きな課題といえるでしょう。
今後、雇用継続のノウハウがより共有され、実践に結びつけやすくなると、こうした施策の実施状況も変化するかもしれません。
なお、採用後に身体障害または精神障害をもつようになった従業員についても、障害で休業等をしてから職場復帰するまでの施策、および職場復帰後の施策を尋ねています。
身体障害のある場合と精神障害のある場合で共通してTOP3に入ったのは、
- 「職場復帰準備期間中の雇用継続」(身体障害者67.7%、精神障害者81.3%)
- 「休暇を取得しやすくする等、休養への配慮」(身体障害49.8%、精神障害60.0%)
の2つでした。
一方、第2位となった施策は両者で異なり、身体障害者では「短時間勤務等勤務時間の配慮(52.8%)」(精神障害者では5位、48.7%)でした。精神障害者の職場復帰にとっても、心身の負担が過剰にならない短時間勤務は有効な施策です。しかし、現在は配置転換や休養の取りやすさ、通院・服薬への配慮などが優先される傾向が見てとれます。
精神障害者での2位は「配置転換等人事管理面についての配慮(62.8%)」(身体障害者では5位、42.9%)です。精神障害のある従業員の場合、職場のコミュニケーションや人間関係に支障を来しているケースや、割り当てられていた業務内容に障害の状態の変化などで対応できなくなることが珍しくありません。こうした事情から、まずは職場復帰にあたっての配置転換が多くなっていると推察されます。
合理的配慮で課題となっていること
次に、障害者雇用の有無とは別に、現在企業が抱えている課題を見てみましょう。
課題として多く選ばれたものでは、「会社内に適当な仕事があるか」が第1位となり、障害種別を問わず7割超の事業所が選びました。次に目立つのが、事業所の約半数が選択した「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」。いずれの障害の種類でも、2位または3位に入っています。
障害種別での違いを見ると、身体障害者では「職場の安全面の配慮が適切にできるか」が47.1%と多くの事業所に選ばれました。一方で、知的障害・精神障害・発達障害では、40.0〜42.9%の事業所が「採用時に適性、能力を十分に把握できるか」をあげています。
【雇用するにあたっての課題と必要な施策】
身体障害者 |
|
課題 |
必要な施策 |
|
|
知的障害者 |
|
課題 |
必要な施策 |
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精神障害者 |
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課題 |
必要な施策 |
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|
発達障害者 |
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課題 |
必要な施策 |
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※令和5年障害者雇用実態調査の結果(図5-1、6-2から編集部作成)
こうした課題を抱えつつ障害者雇用を促進するには、どのような施策が必要とされているのでしょうか。
事業所の回答における1位と2位は、いずれの障害の種類でも、「雇入れの際の助成制度の充実」および「外部の支援機関の助言・援助などの支援」です。それぞれ約6割の事業所が必要であるとしています。
一方、3番目に多く選ばれた施策は、身体障害とそれ以外とで異なりました。身体障害では「雇用継続のための助成制度の充実」が56.7%だったのに対して、それ以外の障害種別では「雇用事例や障害特性・雇用管理上の留意点に関する情報提供」が52.0%~53.0%となっています。
このように、必要とする施策をあげてはいるものの、実際に障害者雇用の取り組みを今後進めるか否かについては、消極的な姿勢が目立ちます。今後の方針を尋ねたもので、いずれの障害種別でも「わからない」が過半数を占めたからです。
身体障害者の雇用では「積極的に雇用したい」が比較的多く見られましたが、その割合はわずか12.8%。「一定の行政支援があった場合に雇用したい」とする事業所の割合と合わせても、4割ほどでした。
他の障害種別ではこの割合がさらに減少し、身体障害者の次に多く選ばれた発達障害者でも合計24.4%です。逆に、「雇用したくない」とはっきり回答した事業所の割合は、身体障害者で14.2%、知的障害者で22.5%、精神障害者で23.1%、発達障害者で19.3%ありました。
※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果(図6-1)より作成
【障害者を雇用しない理由】
理由TOP3 |
身体 | 知的 | 精神 | 発達 |
当該障害者に適した業務がない | 74.4% | 78.3% | 72.6% | 77.3% |
施設・設備が対応していない | 38.8% | 31.2% | 29.1% | 29.2% |
職場になじむのが難しいと思われる | 18.9% | 25.2% | 26.1% | 27.5% |
※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果(図6-3)より作成
障害者を雇用しない理由のトップは、「当該障害者に適した業務がないから」。7割以上の事業所がこれを選んでいます。障害特性に応じた業務の切り出し・創出に対する課題感は、現在障害者雇用を行っている事業所があげた課題の1位でもありました。
次に挙げられたのは「施設・設備が対応していないから」や「職場になじむのが難しいと思われるから」です。障害特性に応じた職域創出に関するノウハウとともに、施設・設備等での合理的配慮提供や企業風土との相性が課題になっていると考えられます。
障害者雇用支援の関係機関との連携状況
障害者雇用において、外部支援機関との連携は非常に重要です。障害特性の把握や特性に合った職務の切り出しや創出など、企業に対して蓄積されたノウハウが共有され、実際に現場での施策の支援を提供する役割を担うからです。
今回の調査では、そうした外部支援機関との連携状況についても調査しています。全体として目立つのは、公共職業安定所(ハローワーク)や、障害者就業・生活支援センターとの連携が多いことでした。
公共職業安定所については、特に募集・採用時に連携している割合が高く、6割から8割の事業所が選びました。障害者就業・生活支援センターとの連携は、雇用継続や職場定着、職場復帰に際しての連携が多いようです。特に知的障害・精神障害・発達障害では、公共職業安定所を上回り半数前後の事業所が連携していると回答しました。
知的障害については、学校・各種学校の役割も大きいことがわかります。募集・採用では約4割、就職後の定着においてもやはり4割程度の事業所が連携して支援を行っています。
就労定着支援・就労移行支援・就労継続支援を手掛ける事業所との連携に関しては、募集・採用でも2~3割の事業所が連携していると答えました。その中で特に活用されているのが、就職後の定着と精神障害者の職場復帰です。職場定着では3割前後の事業所がこれらのサービスと連携し、精神障害者の職場復帰にあたっては4割の事業所が連携していると回答しています。
※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果(図5-4、5-5、5-6)より作成
では、障害者雇用を行おうとする事業所は、外部の連携機関、関係機関にどのような施策を求めているのでしょうか。それを示したのが、下の表です。
【支援機関・関係機関に求める施策】
身体障害者 |
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知的障害者 |
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精神障害者 |
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発達障害者 |
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※令和5年障害者雇用実態調査の結果(図5-7から編集部作成)
全体として、労働条件や職務内容等の雇用や職場における支援の相談、職場の環境整備にかかるコスト軽減につながる具体的な支援を求めていることがわかります。
同時に、2~3割の事業所が選んだ広報・啓発は、これまで見てきた障害者雇用の課題である「イメージやノウハウがない」「障害特性に適した社内の業務がない」といった現場の困りごとを解決する第一歩となりそうです。
今回浮き彫りになった課題解決に向けた支援機関の役割としては、まずは基本となる障害の種類や障害特性に関する一般的な知識を広く伝え、障害者雇用のイメージを先行事例・支援ノウハウとともに現場に共有していく施策が、今まで以上に必要と考えられます。
【参考】
令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省