2021/03/02
【合理的配慮好事例・第6回】統合失調症などの精神障害者雇用におけるキャリアアップ!相互理解・上司同士の連携・相談のしやすさがポイント
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統合失調症などの精神疾患の治療をしながら働く場合、問題が生じた時に事業所で対応しきれず離職につながる例が多く見られます。しかし、離職と転職を繰り返しているとキャリアアップできず昇給も難しくなってしまうでしょう。
そこで、合理的配慮好事例解説シリーズ第6回では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、機構)による平成27年度の好事例集から、障害者の職場定着やキャリアアップに力を入れた好事例をご紹介しましょう。
もくじ
障害の相互理解とアドバイザー制度で社員同士が協力!「ヒューマンケア集」で支援経験の蓄積も — 株式会社ニッセイ・ニュークリエーション
株式会社ニッセイ・ニュークリエーションは、日本生命保険相互会社の特例子会社。平成5年に保険業界で初めて設立された特例子会社として知られています。
平成27年7月時点での従業員数は213名。そのうち182名が障害者で、全員が正社員です。精神障害者や発達障害者は37名。統合失調症をもつ方も働いています。
同社では、まず職場定着に向けて社員動詞の相互理解や助け合いを支える仕組みづくりを行いました。
役付者を中心に障害者職業生活相談員講習を受講
同社では精神障害や発達障害をもつ従業員が増えたことを受け、まずは役付者を中心に障害者職業生活相談員講習を受講しました。
障害者職業生活相談員講習は、職場で精神障害者や発達障害者の職業生活を支援するため、障害の理解や業務遂行・環境整備・人間関係・休憩の取り方などの支援方法を学ぶための講習で、機構が実施しています。
(関連記事)
障害者職業生活相談員とは|資格要件・認定講習・届出
より多くの社員に受講してもらうことで障害の理解と支援ノウハウを社内に広めることができました。
先輩社員が1年間、新入社員の「アドバイザー」になる
障害者の支援を上長や専門スタッフ任せにしないことも特徴。その具体的な仕組みの1つが「アドバイザー制度」です。
アドバイザー制度は、精神障害者発達障害のある社員を同じ部署の先輩社員が1年間「アドバイザー」として支援する制度。3カ月で自立して働けるようになることが目標ですが、3カ月目以降も1年経つまでは先輩社員のフォローを受けられます。1年経つと、先輩社員から上司に支援内容などが引き継がれる仕組みです。
先輩社員も障害をもちながら実際に業務を行っています。働く障害者として一緒に改善策を講じたり、困ったらすぐに相談できたりするため、支援を受ける社員も安心して働けるようです。同時に、先輩社員にとっても「アドバイザーになりたい」というキャリアアップのモチベーションになっています。
アドバイザーのための研修会・連絡会を実施
ただ、アドバイザー制度を運用する中で、アドバイザー側の社員がストレスをため込んだり、適切ではない対応をとったりするケースも見られるようになりました。
これを解決するため、同社はアドバイザー同士の情報共有や意見交換、障害特性の理解、支援方法の学習機会を設定。それが「アドバイザー連絡会」や「アドバイザー研修会」です。
アドバイザー研修会では、ジョブコーチや障害者職業生活相談員が講師となって新入社員の入社前に1回実施。障害特性や事例、接し方のポイントなどを学べます。
アドバイザー連絡会は、新入社員入社後の3カ月間、毎週1回実施。ジョブコーチや障害者職業生活相談員が同席する中で、アドバイザー同士が事例を共有し、対応に関するアドバイスをもらえます。
他にも、「新入社員と職場の上司との面談」「ジョブコーチ、上司、アドバイザー等との連絡会」など多くの仕組みが導入されました。
「ヒューマンケア週」を作成し社員の経験を蓄積・共有
実際に新入社員をサポートする中で生まれた工夫もあります。その1つが、「ヒューマンケア集」の作成・共有。各社員の障害特性や対応ポイントが記載された冊子です。プライバシーへの配慮から共有範囲は限定されています。
<ヒューマンケア集の種類・内容・共有範囲>
- 個別編
- 記載事項
- 障害のある社員全員についてのつまずきやすい点と対応方法
- 配慮のポイント
- ヒアリングの内容等
- 共有する社員
- 課長代理以上の役職者
- 記載事項
- 統括編
- 記載事項
- 個別編をコンパクトにまとめた対応ポイント集
- 共有する社員
- 主任・技術主任
- 記載事項
ヒューマンケア集の作成により、社内の支援経験を蓄積して有効活用できるようになりました。
【参考】
就職困難性の高い障害者のための職場改善好事例集-精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者-(平成27年度)|機構
株式会社ニッセイ・ニュークリエーション 公式サイト
社内実習を含むジョブマッチングと育成計画による業務習得、新旧部署の上司同士の連携も — 株式会社ベネッセビジネスメイト
株式会社ベネッセビジネスメイトは株式会社ベネッセコーポレーションの特例子会社。平成28年度3月時点で従業員127名のうち81名が障害者です。そのうち、精神障害者は14名在籍しています。
オフィス清掃やメール室の運営など多様な業務を担っていますが、今回は事例集で取り上げられたプラネタリウム運営に異動することになったAさん(統合失調症)の事例を見ていきましょう。
異動の正式決定前に2週間の社内実習で業務を体験
もともとAさんは週5日のフルタイム勤務で働いてきました。体調や勤怠状況が安定し、後輩社員の指導も可能。一方で、統合失調症の症状が強く現れる時期もありました。
あるとき、社内でプラネタリウム運営に関わる障害者雇用で採用ができず、社員からリーダーの補佐役を異動させてはどうかという話が持ち上がり、勤怠状況が安定しているAさんが候補に。Aさん自身にとってもステップアップにつながるという利点があります。
ただ、異動によってAさんの勤務体制が変わり、これまでの業務にない臨機応変な判断が必要になるという大きな環境変化があります。同社ではAさんの異動を正式決定する前に2週間の社内実習期間を設け、実際に業務を体験してもらうことにしました。
異動後の業務を体験する中で、Aさん側ではその仕事をしたいかどうか判断し、会社側ではAさんと当該業務の相性を見極めるという期間です。
実習期間中、クレームが発生した際にAさんは冷静に対応でき、正確で丁寧な仕事が評価されました。実習後の社内面談や支援機関による面談で本人の意思を確認。異動の最終決定となります。
上司が異動後の育成計画を立案、習得すべき業務の優先順位を共有
Aさんの異動時期は、繁忙期の1カ月前。職場と業務に慣れてもらうため、上司はAさんの育成計画も立案・共有しました。どの業務から習得すべきか優先順位がつけてあるものです。
育成計画に基づき、上司とAさんが一緒に段階的な行動目標と習得すべき業務の優先順位を定期的に確認。Aさんのスキルアップをサポートしました。
新旧部署の上司が連携!臨床心理士や支援機関の活用など相談しやすい環境を整備
異動前の課長と異動後の課長の連携も行われています。Aさんが相談しやすい体制を整えつつ相談内容を両課長で共有することで、迅速な対応が可能になりました。
社内の「定着推進課」の支援により、月2回の臨床心理士による面談や支援機関による職場外での相談も可能に。月1回の課内定例会では、実際に発生したお客さまへの対応事例を取り上げ、よりよい対応方法を皆で検討・共有しています。
異動後、Aさんは体調を崩すことなく勤務でき、少しずつ自信もついてきたとのことでした。
【参考】
就職困難性の高い障害者のための職場改善好事例集-精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者-(平成27年度)|機構
株式会社ベネッセビジネスメイト 公式サイト
統合失調症などの精神障害者の職場定着とキャリアアップに向けた配慮ポイント
今回の2社では、統合失調症を含む精神障害者の職場定着やキャリアアップの好事例が見られました。配慮ポイントは主に7つです。
<精神障害者の職場定着・キャリアアップに関する配慮ポイント>
- 障害者職業生活相談員講習などで障害の理解や業務遂行・環境整備・人間関係・休憩の取り方などの支援方法を学ぶ
- 業務習得に向けて改善策を一緒に講じたり、困った時にすぐに相談できたりする仕組みを導入する
- 支援する側の社員のケアや研修を実施する
- プライバシーの問題に配慮しつつ、「ヒューマンケア集」を作成・共有する
- 部署異動の際は、事前に社内研修等で実際に業務を体験してもらい、本人の意思と業務との相性をていねいに確認する
- 異動前の上司と異動後の上司が連携して障害をもつ社員の支援を行う
- ジョブコーチや障害者職業生活相談員、臨床心理士、外部の支援機関などが連携して支援を行う
統合失調症やうつ病といった精神障害の種類、特徴、接し方のポイントについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
(関連記事)
職場での精神障害者との接し方とコミュニケーション上の注意点
精神障害者がコミュニケーションを高めるには|就労移行支援と補助ツール
「障害者はキャリアアップできない」と考えられることが多いものですが、障害をもつ社員のキャリアアップに積極的に取り組む企業も増えてきました。
相談できる環境や迅速なサポート、支援者・上長の連携によるノウハウの蓄積・共有は、障害をもつ社員のスキルアップや安定した勤務につながります。障害をもつ社員の職場定着・キャリアアップに向け、職場でもぜひサポートしていきましょう。