【合理的配慮好事例・第28回】安定した仕事は健康管理から!職場で行う健康保持・体調管理のポイント


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障害者雇用では、従業員の健康管理も合理的配慮のひとつ。本人に体調の記録をとってもらう、面談で体調の変化と仕事内容の関連性を確認するなど、従業員が安心して長く働き続けるための取り組みを進める必要があります。今回は、従業員の健康保持・体調管理の好事例から、知的障害や精神障害のある方の健康管理のポイントを見ていきましょう。

障害者雇用における健康管理の重要性

近年、働き方改革やコロナ禍の影響もあり、事業所における従業員の体調を把握する取り組みが進められてきました。代表的な取り組みは、時間外労働の制限やメンタルヘルス対策、労働によるケガの防止など。経産省による「健康経営優良法人認定制度」もあります。

障害者雇用においては、よりきめ細やかな体調の把握、健康管理施策が求められています。障害のある従業員は、障害のない従業員よりも疲れやすかったり、疲れていることに気づかず働き続け、突然働けなくなってしまったりすることがあるためです。就職しても、本人にとって無理な働き方をした影響で体調が崩れ、休職や離職につながるケースは少なくありません。

長く安定して働けるようにするには、本人が生活や仕事で工夫するだけでなく、職場でも何らかの施策が必要です。日々の体調を把握することで、本人に合った適切な業務の割り振りにもつながるでしょう。

今回ご紹介する好事例は、知的障害のある従業員や精神障害のある従業員のための健康管理施策です。

知的障害のある社員同士で毎日お互いをチェック(株式会社ハチカン)


画像出典:株式会社ハチカン 公式サイト

知的障害のある従業員は、自分の体調が悪くても、それを認識していなかったり、うまく伝えられなかったりする場合があります。また、日常生活の中で毎日の着替えや入浴などの基本的な習慣に課題があり、それが原因で健康を損なうケースも見られます。

株式会社ハチカンでは、そうした従業員の健康管理の取り組みとして、従業員同士がお互いにチェックし合い、報告する体制を構築しました。チェックにあたっては、確認項目をまとめた日報を使用します。

ハチカンが作成したチェックシート付き日報の特徴は、体調を確認する項目で「熱っぽいとか、食欲が無いとか、ありませんか?」など、具体的例を明示したことです。作業服の洗濯や靴下の交換などをチェックする項目も設けました。

チェックは、毎日の朝と夕に従業員同士で行います。日報として報告することを習慣とし、それまで細かく確認していた労務課の担当者は、さりげない目視確認だけを行うようにしました。

同僚とチェックし合うという形がもたらした効果は、本人の健康管理意識の向上だけではありませんでした。本人が気づかない体調の変化に、周囲の仲間が気づきやすくなったのです。日頃の身だしなみなどに関する意識も向上し、同じ服装で出勤する回数や、他の社員から指摘を受ける件数も減少したそうです。

体調変化が分かりにくい精神障害のある社員に面談を実施(株式会社ティエラコム)


画像出典:株式会社ティエラコム 公式サイト

精神障害のある社員の場合、「元気そう」「問題なく働けている」と周囲が感じていても、本人としてはつらかったり、体調を崩していたりすることがあります。株式会社ティエラコムでは、精神障害をもつ社員のサポート方法が蓄積されていなかったことで、外見からは分かりづらい体調変化にどう気づき、どう支援していくかが課題になっていました。

まず実施したのは、障害者雇用におけるサポート事例などの情報収集です。具体的な事例からノウハウを学び、体調チェックシートを作成しました。

さらに、障害のある社員を対象として出勤時に1on1ミーティングも行いました。ミーティングでは体調チェックシートに記入してもらい、健康状態を確認。体調に合わせた仕事の割り振り、振り返りを行い、困りごとや不安に感じていることをヒアリングして迅速に対応していったとのことです。

職場環境でも、気軽に相談できる雰囲気や、休憩をとりやすい雰囲気づくりを進めました。特に、業務に集中しすぎて体調を崩しやすい社員には、周囲からこまめな声かけを実施。1時間に1回程度の休憩を推奨し、本人の希望に応じてパソコンのアラーム機能なども活用しています。アラームで表示されるダイアログには「ボーッとしましょう」など、具体的な行動が表示されます。

こうした取り組みにより、今では精神障害のある社員の8割が2年以上勤務を続けています。出勤率も8割を超えました。日々の面談で、健康状態や本人の希望に応じた勤務時間の設定ができますので、そうしたきめ細かい取り組みが功を奏したと言えるでしょう。

障害をもつ社員からも、
「自分に合った仕事内容となるように調整してもらえるので、今は安心して仕事をすることができています」
「体調チェックシートは自分で書くことで、自分を客観的に見ることができるので、とてもよい」
という声が聞かれています。

「気づいた時には悪化している」を防ぐ体調管理ツールを導入(NTTクラルティ株式会社)


画像出典:NTTクラルティ株式会社 公式サイト

精神障害のある社員のために行った施策例としてもうひとつご紹介するのは、NTTクラルティ株式会社の取り組みです。同社では、精神障害のある社員が突然体調を崩して出社できなくなることが続く時期がありました。本人には不調の自覚がなく、その原因もわかりません。安定して勤務できるよう、何らかの取り組みが必要でした。

NTTクラルティが実施したのは、体調管理ツール「つなぐログ」の導入と活用です。「つなぐログ」は、職場のこととあわせて生活全般の活動を記録できるシステム。自分で項目を設定して記録することで、心身の状況をより深く理解し、自ら対処行動を取れるような仕組みにしました。必要なときは自発的に相談を申し出ることも推奨しています。

「つなぐログ」の記録は、上長や定着支援コーディネーターが定期的に確認します。気になる記録内容があれば対象社員へ声かけを行うとともに、月1回の定期面談でも活用。生活面の状況と体調変化の関連性なども一緒に検討します。

ツール利用の対象社員は、新入社員および上長が必要と判断した社員です。事前にツールの趣旨や活用方法を説明し、勤務時間内に活動記録を取ることについて了承を得た上で、導入しています。

生活・仕事と体調に関する記録と振り返りを仕組み化することで、精神障害のある社員の突発的な欠勤が減少し、平均出社率も85%から89%に上昇しました。体調の変化と他の要因との関連性が分かりやすくなり、休憩の取り方や休日の過ごし方など、自ら対処行動をとりやすくなったとのことです。業務の割り振りについても、業務の変化と体調の変化を分析することで、より本人に合った内容や指導方法に調整しやすくなりました。

健康管理の第一歩は「記録」から

今回ご紹介した3つの事例に共通するポイントは、チェック項目を設定して日々記録することです。チェック項目を障害特性や本人の希望に合わせて設定することで、体調変化との関連性をより分析しやすくなるでしょう。

ただ、仕事や生活面のさまざまな内容を記録することは、やりすぎてしまうとプライバシーの侵害につながりかねません。導入する際は、

  • 何のために記録するのか
  • 誰が記録するのか
  • 誰がその記録を見られるのか
  • いつ、どのように記録するのか
  • その記録をどのように活用するのか

といった点について、障害をもつ社員本人と上長などの関係者に理解してもらい、承諾を得ることが不可欠です。

体調変化等の記録は、ぜひ業務の割り振りや職場環境の整備、休憩の取り方などに役立ててください。チェックした項目がデータとして残ることで、それまでは見えていなかった業務や生活の仕方と体調変化、能率の変化などが見えてくるかもしれません。

【参考】
障害者の労働安全衛生対策ケースブック(令和3年度)|JEED
健康経営優良法人認定制度|経済産業省

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