ADHDの特徴は?大人の当事者が抱える生きづらさと対策


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大人になってからADHDと診断される人がいます。ADHDは先天的な脳の特性による発達障害の1つであり、「大人になってから発症する」ということはありません。しかし、子どもの頃は特性があまり目立たず、大人になってから生きづらさを感じて受診し、「ADHDの特性が関係していた」という例があります。

大人のADHD当事者は、どのような困りごと・生きづらさを感じているのでしょうか。それらの困りごとに対して、どのような対処法があるのでしょうか。

大人のADHD当事者に見られる困りごと・生きづらさの特徴

大人のADHD当事者が抱える困りごとのまとめ図。詳しくは、以下本文。

大人のADHD当事者から聞かれる困りごと・生きづらさには、人によって様々なものがあります。その中で多くの人から聞かれるのが、次の5つです。

  • 忘れっぽい、物をなくす
  • 遅刻癖や先延ばし癖がある
  • 眠気が強い、朝起きられない、夜眠れない
  • 頭の中がうるさい
  • うつ病・双極性障害・適応障害などの併存疾患・二次障害がある

順番にご紹介します。

忘れっぽい、物をなくす

ADHDの特性の1つに「ワーキングメモリが弱い」ことがあります。

ワーキングメモリとは、
「これからあれをやろう」
「これをやるためには、〇〇を取ってこなきゃ」
といった、次の行動に必要な情報を一時的に覚えておくための能力。「頭の中のメモ帳」と呼ばれることもありますが、不要になったら捨てられる情報という点では「頭の中の付箋紙」と言うほうがイメージしやすいかもしれません。

このワーキングメモリが弱いと、同時に複数のことを進める作業がうまくいかなくなります。「Aをやろう」と考えて物を取りにいったところで、別の物を見て「Bもやりたいな」と考えた場合に、「Aをやるための物を取りにきた」という付箋紙が剥がれ落ちてしまうからです。

日常の場面では、

  • 物を置いた場所を忘れる
  • 物を取り出して移動させたこと自体を忘れ、そのまま自分は別の場所へ行ってしまう(物をなくす)
  • 持っていく必要がある物なのに、カバンに入れ忘れる
  • 「雨が降るから傘を持たなければ」と考えて傘を持ち、玄関にカバンを置き忘れる

といったような事態が発生します。

遅刻癖や先延ばし癖がある

ADHDの特性として、遅刻癖や先延ばし癖が困りごとにつながるケースもよくあります。

遅刻癖の原因と考えられているのは、神経伝達物質であるノルアドレナリンです。ADHD当事者の場合、集中力に関係するノルアドレナリンが十分に機能しません。その結果、例えば、家を出る時刻が近づいているのに「家を出るための準備」「家を出ること」に集中できず、遅刻してしまいます。

先延ばし癖の原因にも、神経伝達物質が関わっていると言われます。報酬系の機能として働くドーパミンが十分に機能しないのです。すると、「遠い未来の報酬を求めて行動する」ということに困難さが出てきます。

時間感覚についても、ADHDとそうでない人には差があります。短い時間と長い時間の体感的な長さを捉えにくく、「30分で終わる」と考えているところ、実際は「3時間かかる」ということが出てくるのです。この「30分で終わる」という時間の見積もりの甘さが、先延ばし癖に関係しています。

眠気が強い、朝起きられない、夜眠れない

ADHD当事者には、睡眠に何らかの困りごとを抱えている人も少なくありません。

「なかなか眠れない」
「朝起きられない」
「日中の眠気が強い」

こうした悩みと関係が深いのが、過集中や注意の切り替えの苦手さ、神経伝達物質ドーパミン、そして睡眠に関わるホルモンであるメラトニンです。

過集中とは、文字通り「過剰に集中しすぎる状態」です。通常、大人の集中力は30分から90分程度とされることが多く、「いかに集中力を維持するか」が話題になりやすいでしょう。

しかし、ADHDのような発達障害の当事者に見られる過集中では、「いかに集中を解くか」が問題となります。何時間も1つのことに没頭してしまい、食事や水分補給、トイレも忘れて作業を続け、「気づいたときには疲れ果てて動けない」といった状態になってしまうからです。当然、睡眠時間も犠牲にされています。

他方、注意の切り替えは「ゲームをやめて寝るための準備をする」といった行動の切り替えに必要な脳の働きです。ADHDの特性によりこれがうまくできないと、「ゲームをやめられない」「作業をやめられない」という行動につながります。

こうして入眠時刻が遅くなったり睡眠時間が犠牲にされたりすることで、睡眠不足になる人が多く見られます。

加えて、日中の眠気の強さも特性に由来するケースがあります。単純な寝不足問題だけでなく、そもそも覚醒状態を維持するために“刺激”が必要だったり、夜型になりやすい体質だったりするからです。

覚醒状態の維持には、ドーパミンが関わっています。これが他の人ほどうまく機能しないことで、あまり刺激のない状況(退屈な状況)では、覚醒状態の維持が難しくて眠くなってしまいます。

また、睡眠に関わるメラトニンの分泌リズムが、ADHD当事者では他の人よりも遅いと言われています。生活リズムの維持に努めなければ眠くなるタイミングが後ろにズレやすく、夜型になっていくのです。

頭の中がうるさい

「頭の中がうるさい」という表現で困りごとが伝えられることもあります。「頭の中がごちゃごちゃしていて、考えがまとまらない」状態です。

ADHDの特性には、過集中という過剰な集中状態がある一方で、「1つのことに注意を向け続けることが苦手(不注意)」もあります。同時に、特定の刺激に対して過敏に反応する「感覚過敏」という特性を持つ人も珍しくありません。

これらを併せ持っていると、注意をそらされやすいことに加えて、他の人よりも多くの刺激を受け取り、それを敏感に感じ取ってしまいます。他の人なら自分に必要な特定の刺激(友人の声など)に集中して、周囲の雑音をあまり意識しないようにできるでしょう。しかし、ADHDの人には、友人の声も周囲の雑音も同じ強さで聞こえてしまうのです。

こうしたことが思考の面でも生じているのが、「頭の中がうるさい」状態。何かに集中して考えたい・理解したいと思っても、他の刺激や考えに邪魔され、混乱しやすいのです。

うつ病・双極性障害・適応障害などの併存疾患・二次障害がある

ADHD当事者の中には、その特性が原因となって他の精神疾患などを併発する人がいます。これを「二次障害」と呼びます。二次障害の代表例は、以下のものです。

【ADHD当事者の二次障害の例】

  • うつ病
  • 双極性障害
  • 睡眠障害
  • 社交不安症

ADHD当事者は、その特性からミスや遅刻、落ち着きのない行動、衝動的な行動をすることが少なくありません。これを知らない人は、「またミスを繰り返している」「見ていて疲れる」といった印象を抱くでしょう。ADHD当事者に対する激しい叱責やいじめを伴うケースもあります。

周囲から繰り返し叱られたり、嫌がらせ・いじめを受けたりすれば、ADHD当事者は自己否定感を強めていきます。「どうせ自分はダメな人間なんだ」と考えることが増え、抑うつ状態や睡眠障害、その他の疾患を発症してしまうのです。

ADHDの大人に向いている仕事は?

ADHD当事者は、大人になると職場での困難を抱えやすくなります。度重なるミスや納期破り、上司・取引先に対する失言といった失敗体験、そして疲れやすさから、「仕事が続かない」という悩みを抱える人もいるでしょう。

これらの失敗を回避できる「ADHDに向いている仕事」はあるのでしょうか。結論から言えば、一律に「これが向いている」と言える仕事はありません。

例えば、「マルチタスクも臨機応変な対応が必要な仕事も苦手だから、ルーティン作業をやる」としても、それだけでは “やりがい”を感じられず、落ち込んでしまう可能性があります。

自由に仕事の時間を調整できるようにフリーランスになったとしても、求められる成果物の要件や納期を守れず、トラブルになるかもしれません。

仕事選びで大切なことは、自分の特性を把握し、対策ができる環境で働くことです。例えば、以下のようなチェックポイントを意識してみてください。

【仕事選びのチェックポイント】

  • 自分が疲れやすいのは、どのようなときか
  • 自分が困っていることは何か
  • どうすれば、仕事を進めやすくなるか
  • どうすれば、人間関係を構築・維持しやすくなるか

主治医や周囲の人のサポートも受けながら、こうした点を分析し、同僚・上司の理解と協力を求めていく必要があります。相談できる相手が職場にいない場合は、「発達障害者支援センター」などの公的な窓口に相談してみましょう。

他の発達障害者がどんな仕事をしているのか知りたい場合は、以下の関連コラムもご覧ください。厚生労働省が定期的に発表する調査結果をもとに、精神障害・発達障害がある人の仕事についてまとめています。

(関連コラム)
【合理的配慮好事例・第21回】精神障害者は障害者雇用のどんな職域で働いている?厚労省の調査やJEED好事例集をチェック

ADHDの困りごとへの対処法

大人のADHD当事者が抱える困りごとへの対処法のまとめ図。詳しくは、以下本文。

ADHD当事者が抱えやすい困りごと・生きづらさの問題に対しては、様々な当事者や支援機関によりノウハウが発信されてきました。そうした知恵のうち代表的なものを見ていきましょう。

まずは二次障害の治療を進める

細かな取り組みを行う前に、現在二次障害がある人は、その治療を優先して進めてください。心身がつらいときに新しい行動・考え方を採り入れていくのは大変だからです。

まずはゆっくり休養しながら、医師の指示通りに治療を行います。薬物治療を行う場合も、自己判断で勝手に飲む量を増やしたり減らしたりしてはいけません。薬には作用と同時に副作用があり、「どのくらいの作用を期待しているのか」「どのくらいの副作用なら許容できるのか」を明確にして、治療方針を決めなければならないからです。

勝手に服薬をやめると治療がうまく進んでいるのか判断できず、一度よくなった症状が再発する恐れがあります。勝手に薬を増やすと、副作用が強く出てしまいかねません。

治療・服薬の目的から作用・副作用のバランスを見て安全に進めるためにも、必ず医師と相談しながら進めましょう。

生活リズムを整える・睡眠時間を確保する

二次障害の治療と同様に重要なのが、生活リズムを整えることです。これにより、睡眠時間を確保しやすくなり、周囲の刺激で疲弊した心と体の回復につなげられます。

起床時刻や就寝時刻は、例えば次のような考え方で決めるとよいでしょう。

なお、就寝時刻を決めても、その通りに入眠できるとは限りません。布団の中でSNSを見たりゲームをしたりしていれば、その分、入眠時刻は後ろ倒しになります。頭の中がうるさい状態が続いている場合も、眠りにくくなるでしょう。

まずは「起床時刻を守る」ことを優先して練習することが、生活リズムの安定化のコツです。一定の時刻に起きることで、夜に眠くなりやすい状態をつくれるからです。

また、眠りやすくするための工夫として

  • 枕元にスマートフォンやゲーム機を置かない
  • 入浴は就寝1時間前までに済ませる
  • 定期的に運動する

といったものもあります。

一度に「あれもこれも」と採り入れると大変ですので、
「今週は、枕元にスマートフォンを置かない練習」
「今週は、起床時刻に身体を起こす練習」
といったように段階的に取り組んでいきましょう。

耳栓・カラーグラスなどで受ける刺激を減らす

困りごとの1つである“受ける刺激の多さ”を減らすには、その感覚器官に対応した道具の活用が有効です。

発達障害のある当事者が経営するデンマークのIT企業では、オフィス作りの工夫として、

  • 照明の配置や数
  • 音の伝わり方の調整
  • 防音設備の設置

など、当事者の意見を聞きながら調整していました。以下の関連コラムで詳しく紹介しています。

(関連コラム)
北欧の障害者雇用の「対話」、重要なのは「決めつけないこと」

ルーティンアプリで先延ばしを防ぐ

先延ばしを防ぐ方法では、ルーティンアプリやリマインド機能の活用が代表例です。

ルーティンアプリとは、特定の時間に特定の行動をするようリマインド設定できるアプリです。

  • 7:00 起床・着替え
  • 7:20 朝食開始
  • 7:40 歯磨き開始
  • 7:45 出発準備開始
  • 8:00 出発

といったように、一連の行動をワンセットとして設定できるアプリもあります。目覚まし用のアラームと一緒に使えば、朝の忙しい時間を“流れ”で過ごせるでしょう。

過集中や先延ばしによって食事・入浴をキャンセルしてしまうタイプの人は、「何時に何をするか」を決めてルーティン化しましょう。食事の場合は、
「出勤時、A店でおにぎり2個と野菜ジュースを買う」
「帰宅時、B店のお弁当を買う」
といった内容をルーティンアプリに入れると、習慣化しやすくなります。

仕事の段取りも、同様にルーティン化によって進めやすくなるところがあるでしょう。

ルーティンではない予定を忘れないようにするには、スマートフォンのカレンダーアプリに入力し、リマインドをセットしてください。「これは覚えていられるはず」とは考えず、なるべく全ての予定をカレンダーアプリに入れていく方法がおすすめです。

仕事で必ずメモを取る・優先順位を守る

仕事におけるタスクの抜け漏れや突発的な頼まれ事に対応しやすくするには、メモを取ることが重要です。具体的には、

  • その都度メモを取って見返せるようにする
  • 事前に情報を整理して、やり方を決めておく
  • タスクの優先順位の基準を決めておく

といった取り組みが効果的でしょう。

ADHD当事者の中には、「メモを取るのが苦手」という人もいます。情報の取捨選択がうまくできず、話された内容を全部書こうとするからかもしれません。そうしたケースでは、予めメモ帳などにフォーマットを作っておき、その項目を埋める形でメモを取るやり方が有効です。「何を・どこで・どのように・どうする」と「いつまでに・誰に・どうやって確認してもらう」をメモできるようにしてください。

仕事のやり方を決めておく方法の典型例は、手順書やマニュアルの作成です。視覚的にわかりやすいよう、仕上がりの見本となる図や写真をつけ、作業を進める手順通りの順番で説明文を記載していくと、理解しやすくなります。進め方を簡単に確認できるチェックリストの活用もおすすめです。

優先順位の決め方では、下表のような考え方が便利です。

実際に優先されるタスクは職場によっても異なりますので、ご自身の仕事・職場の状況に応じて調整してください。

忘れ物対策グッズを使う

トイレや電車、バスなどに忘れ物をしやすい人は、次の方法を検討してみましょう。

忘れ物・なくし物対策は、多くのADHD当事者にとって切実な困りごと。そのため、対策用のスマートフォンアプリやツール、他の職業で活用されている便利グッズの流用・応用など、多種多様な対処法が提案されています。

職場でのサポートは合理的配慮事例も参考に

仕事におけるADHDの特性からくる困りごとの軽減・解消を図るには、周囲の協力が欠かせません。

例えば、睡眠時間を確保し、通勤時の過剰な刺激を減らす代表的な施策は、フレックスタイム制や在宅勤務制度です。特性による得意・苦手の凸凹をお互いに補い合う仕組みとして、チーム制での業務遂行を導入した企業もあります。

職場に配慮を求める際に、「具体的にどうしたらいいの?」と疑問が出てきたら、こうした事例をチェックしてみてください。当マガジンでも、以下の関連コラムでご紹介しています。

(関連コラム)
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【合理的配慮好事例・第4回】精神障害者雇用でもキャリアアップ!テレワーク・単純作業から管理職に昇進しモチベーション向上も

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「これから就職・転職したい」と考えているなら、生活リズムの安定化や得意分野の発見、職場に求める合理的配慮事項の整理などをお手伝いできる「就労移行支援事業所」の利用も選択肢の1つです。

当マガジンの編集部がある就労移行支援事業所ルミノーゾでも、見学や利用に向けたご相談を承っています。

【参考】

【画像・イラスト素材提供】
ミルク信玄餅 / photo AC
kabu/ PIXTA(ピクスタ)

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