ASDの大人の困りごと“あるある”、対処法と接し方


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発達障害の1つであるASD(自閉スペクトラム症)。大人のASD当事者には、子ども時代よりも臨機応変で柔軟な対応を求められやすく、仕事や生活で困りごとに直面しやすい傾向があります。そうした困りごとへの対策は、どうすればよいのでしょうか。

今回は、人間関係や日常生活、仕事での“あるある”とともに、ご本人にできる対策と周囲の対応・接し方をご紹介します。

ASDの大人が抱える困りごと・生きづらさの特徴

ASDの大人が抱えやすい困りごとのまとめ図。詳細は、以下本文。

ASD当事者には、社会性やこだわりの面で特性が見られます。ASD以外の発達障害にも見られる感覚過敏または感覚鈍磨が生活の支障となっている人もいるでしょう。

まずは、大人のASD当事者が直面しやすい“あるある”な困りごとを見ていきましょう。

人間関係の“あるある”

ASDの当事者が人間関係において抱えやすい困りごとには、次のものがあります。

【ASD 人間関係のよくある悩み】

  • 他人に興味がない・共感性が低いため、人間関係を構築しにくい
  • 会話や場の空気が読めず、適切でないことを言ってトラブルになる
  • コミュニケーションで相手と目が合わないことに不信感をもたれる

ASDでは社会性に関わる特性が現れやすくなります。これは、特に人間関係の構築やコミュニケーションでの悩みにつながります。そもそも「他人に興味がない」「相手の表情や身振りの意味を理解できない」といった特性が強いと、他の人との関係を始めにくいでしょう。

また、コミュニケーションの際に「目が合わない」という点も、ASD当事者の特性として、よく指摘されるものです。この「目が合わない/合わせられない」という行動は、ASD当事者にとって、相手の視線が強い刺激となることに由来するものです。一方で、一般的に見れば、目を合わせないことは相手への無関心や隠し事などを意味します。このすれ違いから、「なぜ目を合わせないんだ」と相手の不信感を買ってしまいます。

日常生活の“あるある”

コミュニケーション以外の日常生活面では、強いこだわりや興味の極端な偏り、特定の物・行動などを繰り返すことが、困りごとにつながりやすくなります。

【ASD 日常生活のよくある悩み】

  • こだわりや興味の偏りが激しく、それ以外のことは「どうでもいい」と思ってしまう
  • ルーティンの行動が妨げられると、混乱や強い怒りから大きなストレスになる
  • 急な予定変更に弱く、周囲の人と行動を合わせにくい
  • 手先が不器用、運動が苦手といった部分で、他の人との活動を楽しみにくい
  • スマホ依存・ゲーム依存になることがある

強いこだわりや興味の極端な偏りがあると、特定のことには執着する一方で、それ以外のことには対応が難しい・興味をもてないということになりかねません。すると、他の人たちとの行動のズレが生まれます。「頑固だ」「融通が利かない」と非難されたり、「変更になったんだから仕方ないだろう」と対応を強く求められたりもします。

また、ASDに発達性協調運動障害(DCD)が併存していると、手先が不器用だったり、いわゆる運動音痴だったりすることがあります。これは、感覚の処理や運動の制御がうまくいかないために生じるものですが、周囲からは「真面目にやっていない」「ふざけている」と思われたり、できないことをからかわれたりします。その結果、他の人と一緒に行う活動を楽しみにくくなってしまいます。

ASD当事者の中には、スマホ依存やゲーム依存になるケースも見られます。要因には、「特性からくるつらさを和らげるため」「予測しやすい仕組みで安心できるため」といったことがあるようです。スマホやゲームが強い興味の対象となっている場合、「過集中」という長時間の極端な集中状態を招き、集中が解けたときに「何もできない、動けない」という状態に陥ることさえあるでしょう。

仕事での“あるある”

コミュニケーションや日常生活のよくある悩みは、仕事での困りごとにもつながります。

【ASD 仕事でのよくある悩み】

  • 曖昧な指示では、どうすればいいかわからない
  • ワーキングメモリが低く、マルチタスクが苦手
  • 飲み会での感覚刺激や雑談がつらい
  • ASDの特性から生じるミスやトラブルを強く責められ、二次障害を発症する
  • ミスやトラブルにならないよう過剰適応やカモフラージュをすると、周囲から理解されず、負担が大きくなる

社会性に関する特性が強いと、言葉に表れていない意味を理解しにくいことがあります。仕事では「なるべく早く」「手が空いたらやって」という曖昧な指示や暗黙の了解が多いもの。ASDの特性から、「いつまでにやればいいのかわからず、手が止まる」「手が空かないから、ずっと後回しにしている」といったことが発生します。

ASD以外の発達障害でも生じ得る特性に「ワーキングメモリが低い」というものもあります。簡単に言えば、一時的な記憶の苦手さです。タスクAとタスクBを交互に進めようとしても、Aを進めるうちにBを忘れたり、Bに取りかかるとAを忘れたりするのです。これは、マルチタスクの難しさにつながります。「そもそも意識の切り替えが難しい」という特性も加わり、マルチタスク自体が仕事上の混乱を招いてしまうでしょう。

そして深刻な問題となり得るのが、二次障害の発症です。本人にはどうしようもできない特性を一方的に責められてつらい状態が続いたり、周囲に合わせようとしすぎて1人で抱え込んでしまったりして、心身の不調が重なって適応障害や睡眠障害、その他の精神疾患を発症するケースです。

ASDの特性への対処法と周囲の接し方

ASDの特性に由来する困りごとや生きづらさを軽減するには、それぞれの特性に応じた工夫と周囲の理解が必要です。困りごと・生きづらさが原因で二次障害・睡眠障害が出ているのであれば、それらの治療も進めなければなりません。

今回は、7つの対処法・周囲の接し方をご紹介します。

  1. 併存する疾患・二次障害・睡眠障害の治療を進める
  2. 職場環境の調整を行う
  3. 基本のコミュニケーション方法と雑談の作法を練習する
  4. 感覚過敏の対象となる刺激を緩和する(耳栓・ヘッドホン・サングラス・席替え)
  5. 仕事では積極的にメモを取り、シングルタスクで進める
  6. 生活リズムを整え、定期的に休憩し、過集中を防ぐ
  7. 働き方・対応方法に困ったら専門機関に相談する

1つずつ見ていきましょう。

(1)併存する疾患・二次障害・睡眠障害の治療を進める

ASDに併存する疾患・二次障害・睡眠障害の治療の必要性に関するまとめ図。詳細は、以下本文。

日常生活や職場での適応に必要な調整・トレーニングをする前に取り組みたいのは、併存する精神疾患や二次障害、睡眠障害などの症状改善です。症状で苦しんでいるのに放置していたり、医師から指示された治療方法を無視していたりすると、なかなか困りごとは解決できません。

もし薬の変更をしたいのであれば、必ず医師・薬剤師に相談してください。ADHDとASDが併存している人で服薬している人も、しっかりと服薬管理を行いましょう。

なお、発達障害の当事者は、周囲への適応や情報処理に大きなエネルギーを使います。

  • 知らないうちにストレスが溜まっている
  • 「まだ頑張れる」と思っていたのに、動けなくなってしまった

という事態を減らすためにも、日々のストレスチェックがおすすめです。一定の基準で定期的にチェックすることで、ストレス状態や体調の変化を見える化できるでしょう。

不調の予兆を整理してチェックする手法には、例えば「K-STEP」があります。

(関連コラム)
神奈川県川崎市の「K-STEP」とは?セルフケアシートの使い方・ダウンロード先

(2)職場環境の調整を行う、急な予定変更を減らす

ASD特性者への職場環境の調整や急な予定変更を避けるための工夫のまとめ図。詳細は、以下本文。

ASD当事者が安定して働き続けるには、職場環境の調整も欠かせません。多くの職場で意識したいのは、担当する人数の調整と業務内容・指示の調整、そして急な予定変更を減らすことです。

ASDでは、チームで一緒に仕事を進めることが苦手なケースがあります。その場合、1人または少人数で進められるように業務の割り振りを調整すると、負担を軽減しながら効率を上げられるでしょう。

1人で責任を負うと動きにくくなる人の場合も、2〜3人のチーム制は有効です。急な体調不良で早退・欠勤しても、メンバー同士でサポートし合えるからです。業務の大きな遅れを防ぎつつ体調管理もしやすくなり、障害者雇用の現場でも採り入れられています。

業務内容や指示の調整については、例えば仕事における急な予定変更が苦手なら、変更が生じる頻度の少ないルーティン業務の担当を検討しましょう。対人コミュニケーションや電話が苦手なら、社外の人への応対が少ない業務のほうが安定して取り組めます。

記憶力に頼らずに仕事を進めるための「わかりやすい手順書」も便利です。写真や図を使って、作業の順番通りに説明されているスタイルの手順書・マニュアルを作ってみましょう。文字や写真・図でわかりにくい場合、上司・先輩・同僚が「お手本」を示すほうが効果的なケースもあります。

(3)基本のコミュニケーション方法と雑談の作法を練習する

ソーシャルスキルトレーニングのまとめ図。詳細は、以下本文。

ASD当事者が抱えるコミュニケーションの困りごとを和らげるには、やり方をルールとして学び、トレーニングしましょう。いわゆる「ソーシャルスキル」のトレーニングです。

ソーシャルスキルには、次のものが含まれます。

【ソーシャルスキルの例】

  • あいさつの仕方
  • 声のかけ方
  • パーソナルスペースの理解と相手との距離
  • 話の聴き方
  • 会話でのアイコンタクトや相づちのやり方
  • 言葉の選び方
  • 話し方
  • 頼まれたときの断り方
  • 怒りを感じたときの対処法

加えて、目的が明確でない会話である「雑談」も練習すると、人間関係の構築・維持が少しラクになります。

【雑談のポイント】

  • 最初にあいさつをする
  • 相手がよく話す人なら、自分は「聞き手」になる
  • 相手があまり話さない人なら、自分から話し、相手に質問する
  • 軽い話題を選ぶ
  • 相手のことを否定しない
  • 雑談に「結論」はない

雑談に適したテーマはいろいろありますが、天気やグルメ、話題のスポーツやイベントといった、意見の対立が生まれにくい話題が好まれます。

雑談は“キャッチボール”ですので、

  • 自分が聞く側になったら相づちを打つ
  • 自分が話す側になったら、2つ話して1つ聞くというペースで進める

といった点も意識してください。

(4)感覚過敏の対象となる刺激を緩和する(耳栓・ヘッドホン・サングラス・席替え)

感覚過敏がある場合は、ぜひ以下のようなツールや座席調整を試してみてください。

刺激を和らげる道具を使うだけでも、何もないよりはストレスを減らせます。もし、通勤・職場で苦手な刺激への対策が困難なら、在宅勤務も選択肢の1つです。

(5)仕事では積極的にメモを取り、シングルタスクで進める

積極的なメモ取・シングルタスクのまとめ図。詳細は、以下本文。

他の人との約束や仕事の指示を忘れやすい場合は、手帳・カレンダーを積極的に活用しましょう。

特に、絶対に守らなければならない時刻は、時刻・場所・会う人などを必ずメモし、いつでも確認できるようにしてください。小さな手書きのノートでもスマートフォンのアプリでも構いません。文字を書くことが苦手なら、スマートフォンのカメラ機能を使い、覚えておきたいものを撮影するのも良いでしょう。

なお、ASD当事者には、音声・会話でのコミュニケーションが苦手な人もいます。そのような人は、以下の3つの方法を試してみましょう。

【音声・会話が苦手な人のための業務連絡・メモのやり方】

  • テキスト(メモ・メール・チャット)を使って連絡する
  • 口頭で指示を受ける場合は、必ずその場でメモを取り、メモの内容を指示者に確認してもらう
  • 相手からの許可があれば、録音機能を使って音声メモとして残す

以下の関連コラムでも、メモを取るのが苦手な人のために、素早く的確なメモを取る方法をご紹介しています。

(関連コラム)
メモ書きの基本ポイントと速く書くコツ 「メモの取り方が下手」と悩む障害者のために

そして、忘れてはいけないのが「シングルタスク」です。タスクは一度に複数発生することがありますが、一気に進めようとすると混乱します。各タスクの優先順位・締め切りを決めてから、1つずつ進めましょう。優先順位・締め切りがわからない場合は、上司や先輩社員に聞きましょう。

途中で「これもやって」と飛び込みタスクが発生した場合も、「どのくらい優先度が高いのか」「締め切りはいつか」を依頼者に確認してください。

職場でASD当事者と一緒に働く人も、「指示は1つずつ、優先順位と締め切りを決めて」「タスクの遂行も1つずつ」を意識すると、依頼しやすくなります。

(6)生活リズムを整え、定期的に休憩し、過集中を防ぐ

生活のルーティン・こまめな休憩により過集中を防止する例のまとめ図。詳細は、以下本文。

過集中による疲弊を予防するには、安定した生活リズムをつくりましょう。

生活面では、次のような活動の時間帯・手順を決めて繰り返し実践することで、食事・身だしなみ・睡眠の時間を削ってしまう問題を軽減できます。計画的なセルフケアにもつながり、遅刻や体調不良による欠勤の頻度も減らせるでしょう

【過集中の対処法(生活面での予防)】

  • 起きる時間を一定にする
  • 食事の時間を決める
  • 食後に歯磨きをする
  • 仕事の準備をする時間・手順を決める
  • 帰宅後の過ごし方を決める
  • 入浴時間を決める
  • 寝る準備の時間・手順を決める

併せて、デスクワークで働く人の場合は、運動不足を防ぐための定期的な活動も重要です。余裕のある日や休日に、自分に合う運動習慣をつけてみてください。これには、

  • ストレッチやヨガ
  • 散歩またはジョギング
  • スポーツジムでのエクササイズ
  • 好きなスポーツの練習

といった様々な選択肢があります。

仕事では、定期的な休憩を取ることが大切。休憩の頻度はご自身の疲れやすさを考慮して決めます。精神障害者の合理的配慮では、「1時間ごとに5〜10分間休憩する」といったサイクルを採用している企業があります。水分補給をしたり、トイレに行ったりするだけでも構いません。

なお、過集中防止にタイマーをかけても、それを無視して作業を進めてしまうと意味がありません。ストレスなく作業を区切れるサイクルを見つけるか、周囲の人に「タイマーが鳴っても作業を続けていたら、声をかけてください」と協力を仰ぐとよいでしょう。

周囲の人も、「全然休憩を取っていないのでは?」と気づいたら、「もう〇時間も作業を続けているよ。少し休憩しよう」などと具体的に伝えてみましょう。

(7)働き方・対応方法に困ったら専門機関に相談する

ASDで見られる主な特性は、対人関係・コミュニケーション・社会生活における振る舞いといった場面で困り事につながりやすく、感覚過敏なども日常生活に支障をきたす要因となります。

困ったときは、専門家や支援機関などASDの特性に理解がある人に相談し、解決に向けた支援を受けることも検討しましょう。以下のような相談先があります。

【ASDの当事者が相談できる専門家や機関】

  • 精神科や心療内科の医師
  • 職場の産業医やカウンセラー
  • 発達障害者支援センター(公的な相談・支援窓口)
  • 就労移行支援事業所(就職・転職・職場復帰したいとき)

関連コラムでも相談できる機関などをご紹介していますので、併せてご活用ください。

(関連コラム)
発達障害の相談先「発達障害者支援センター」とは?対象者と相談できること

発達障害のある従業員の働き方は、合理的配慮好事例も参考に

大人になってから発達障害であると診断されるケースが注目されるようになり、就労支援や障害者雇用の場でも、多くの当事者・支援者が安定した働き方に向けて、特性を考慮した工夫を重ねてきました。それらの工夫は、例えば、独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構(JEED)の障害者雇用好事例集などに収録されています。

他の人や他社の事例は、対処法の選択肢を検討する際にとても役立つものです。先人達の工夫も活用しながら、ご自身にとって生きやすい・働きやすい環境を整えていきましょう。

当マガジンでも、障害者雇用における様々な好事例をシリーズでお届けしています。

【合理的配慮事例の関連シリーズ】

「ASDとは何か」を改めて確認したい方は、以下の関連コラムもご覧ください。

(関連コラム)
ASDとは?正式名称・意味・ADHDとの違い、大人になってからの診断

【画像・イラスト素材提供】
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