職場での精神障害者との接し方とコミュニケーション上の注意点


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障害者雇用促進法の改正で精神障害者が法定雇用率の対象となり、精神障害者の雇用が伸びています。しかし、精神障害者が働く職場からは「コミュニケーションがうまくいかない」「接し方はどうすればいい?」といった声が聞かれます。

統合失調症・気分障害・てんかん・依存症・高次脳機能障害・不安障害・発達障害など、さまざまな精神疾患が含まれる精神障害。今回は、職場で比較的多く見られる統合失調症・気分障害・不安障害・発達障害に絞って解説します。

障害者雇用促進法改正で精神障害者の雇用が増加

2018年4月、改正障害者雇用促進法が完全施行となり、事業主に対して障害者雇用が義務づけられました。大きく変わったのは、それまで法定雇用率の算定対象外だった精神障害者が算定対象になったこと。企業での精神障害者の雇用が増えています。

厚生労働省による「令和元年障害者雇用状況の集計結果」によれば、障害者雇用数全体が増加している中で、身体障害者の増加率が前年比2.3%増、知的障害者が6.0%増だったのに対し、精神障害者は15.9%増でした。精神障害者の雇用数の伸び率が特に大きいことが分かります。

【参考】令和元年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省

では、職場で働く精神障害者がもつ精神疾患は何が多いのでしょうか。

産業医として20年以上の経験をもつ荒井稔医師によると、トップ3は以下の3つです。

  • 不安障害(33%)
  • 気分障害(31%)
  • 統合失調症など(21%)

次項からは、職場で多く見られる精神疾患による精神障害と近年注目が集まっている発達障害について、特性や接し方・注意点を解説していきます。

精神障害の分類と特性

精神障害にはさまざまな精神疾患が含まれます。代表的なのは、統合失調症、うつ病・双極性障害(躁うつ病)、不安障害、アルコールや薬物の依存症など。法律では発達障害も精神障害に含みます。

これらのうち、職場で比較的多く見られる精神疾患の主な症状や特徴は、以下のようになっています。

<統合失調症>

  • 脳の病気と考えられているが原因はまだよく分かっていない
  • 100人に1人弱がかかると言われる一般的な病気
  • 幻覚・妄想の症状が出る時期と、意欲低下や疲れやすさなどが出る時期がある
  • 考えがまとまりにくかったり、周囲にうまく合わせことが苦手だったりする
  • 治療として薬を飲んでいる人が多い

<気分障害>

  • 気分が強く落ち込むうつ状態や、気分が過剰に高揚するそう状態が見られる
  • うつ状態のみが見られる場合を「うつ病」、うつ状態と躁状態が見られる場合を「双極性障害(躁うつ病)」と呼ぶ
  • うつ状態の主な症状は、強い気分の落ち込み・意欲の減退・疲れやすい・思考力が働かない・無力感・死ぬことばかり考えてしまう、など
  • 躁状態の主な症状は、浪費・不眠不休での活動・過剰反応・怒りっぽさ・万能感から頑固になる、など

<不安障害>

  • 不安障害は、明確な理由もないのに強い不安に襲われ、その不安が続くことで日常生活や仕事に支障が出る精神疾患
  • パニック障害や外傷後ストレス障害(PTSD)などが有名
  • 最も多いのは恐怖症、次に多いのが全般性不安障害と言われている
  • パニック障害の場合、特定の理由がなくても突然パニックになるパニック発作が起こるとともに、「いつ・どこで発作が起きるかわからない」という不安を強く感じるといった症状がある
  • 他の精神疾患と併発する場合も多い
  • 薬物療法や認知行動療法が主な治療法

<発達障害>

  • 多くの種類があり、障害特性が人によって大きく異なる
  • よく知られているのは「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)」「学習障害」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」
  • 広汎性発達障害では、他人の表情や態度を理解することよりも文字や図形、物の方に関心が強い、感覚刺激に敏感、先のことが分からないと強い不安を感じるなどの特性がある

こうした精神障害の原因が分かっているのは、まだ一部だけ。症状も、幻覚・妄想、気分の落ち込み、意欲の低下、不安。注意力散漫、不眠など、人によってさまざまです。

そのため、病名だけで判断せずに、本人の様子や特性をきちんと見ることが何よりも重要です。

仕事における精神障害者への基本の接し方

精神障害者への接し方を考える際、周囲の人が持つべき大前提は、精神障害の原因は「甘え」や「根性不足」などではないということ。精神障害は基本的に病気であるという認識です。

精神障害者に接する際の基本

精神障害者への接し方は、「病気を抱えながら働いている」ことへの理解が土台になります。

精神疾患以外の病気で考えてみましょう。腰痛を抱えて働く人に無理に重い荷物を運んでもらうことは通常ありません。もし運んでもらう必要があるなら、台車を用意します。

そうした感覚と同じように、精神障害をもつ従業員に対しても「病気に配慮しながら普通に」接することが基本です。

まずは他の従業員と同様、挨拶から始めましょう。精神疾患があると緊張が強くて挨拶を返せないこともありますが、職場で受け入れられているという安心感につながりやすくなります。

挨拶以外の「少し休みましょう」「体調はどうですか?」といった小さな声かけも、心の安定や勤務のしやすさにつながります。

「困っていることある?」など相談しやすい雰囲気作りを

挨拶に限らず、精神疾患をもつ人は他人とのコミュニケーションが苦手な場合が多いものです。

「何でも相談して」「いつでも連絡して」と言われても、なかなか自分からは言い出せません。困っていること・悩んでいることを自分で抱え込み、悪循環になってしまうこともあります。

精神障害者の緊張を和らげる1つの方法は、職場で穏やかな相談しやすい雰囲気作りをすること。相談しやすい雰囲気を作るには、精神疾患をもつ従業員の様子に気を配るようにしましょう。たとえば以下のような変化があったら、支援や休養を必要としているサインです。

  • 仕事上のミスや能率の低下がある
  • 欠勤・遅刻・早退が増えている
  • 孤立・口数の減少・いらだち・お酒の飲み過ぎが見られる
  • 原因不明の体調不良(頭痛・倦怠感・肩こり・眼精疲労・不眠)がある

もし困っていそうなら、「困っていることある?」などと声をかけてみてください。困っているように見えても「困っていない」と本人が言う場合は、そっと見守りつつ支援チームや障害者職業生活相談員などの支援担当者に一声かけておきましょう。

(関連記事)
障害者職業生活相談員とは|資格要件・認定講習・届出

仕事の指示は本人のペースに合わせて1つずつ

矢継ぎ早に「あれをして、これもして」と指示を出すと、逆に混乱してしまったり、焦りや不安で動けなくなってしまったりする場合もあります。

障害の特性により疲れやすい人は多いですし、薬の副作用で脳の働きがゆっくりになっている人もいます。

なるべく本人のペースに任せ、1つずつ指示を出してください。

休憩時間は「もしよかったら」を前提に

休憩時間の過ごし方については、なるべく本人の希望を尊重することが大切です。障害のない従業員がどのように休憩時間を過ごすかが人それぞれであるのと同様に、精神障害者もそれぞれで異なるのです。

同じ人でも、他の従業員と話しながら休憩したい日もあれば、1人でゆっくり過ごしたい日もあるなど、日によって変わります。

休憩や食事に誘う場合は、「もしよかったら」などと穏やかに声を掛け、なるべく本人の希望を尊重しましょう。

欠勤と欠勤の理由

もし障害をもつ従業員が仕事を休む必要がある場合は、可能な限り休みをとってもらいましょう。ただし、休む場所がどこで、ケアできる環境があるかどうかの確認は必要です。ひとり暮らしの場合、何か危険なことが生じたときに気づきにくいからです。

休んだ理由については、本人から話し出さない限り、あえて聞くことはしないほうがいいでしょう。もし本人から理由を話し出したら、耳を傾けて「大変だったね」などと受け止めてください。

もし精神疾患をもつ従業員にイライラしてきたら

障害について知識を得て、なるべく配慮しながら一緒に仕事をしていても、時には周囲の人がイライラすることがあるかもしれません。そんな時は、まず自分の気持ちに目を向けてみてください。

荒井医師によれば、障害をもつ従業員に対して「さぼってる」「気合いが足りない」「根性のないやつだ」などの感情が沸き起こってきたときは、そう感じている自分が焦りや無力感を感じている可能性があるとのこと。

「自分が焦っている、自分が思うように支援できていないからイライラしているのかも」と意識することで、そのイライラが和らいでいくかもしれません。

統合失調症をもつ従業員への接し方と注意点

統合失調症の主な症状は、幻覚・被害関係妄想の急性期と意欲低下・自閉傾向などが現れる慢性期があることです。症状が強い時期は無理に仕事をさせず、しっかり休養してもらうのがポイントです。

統合失調症を抱える人は、嘘をつくのが苦手で頑固なところがあります。優先順位をつけるのが苦手な場合もあります。周囲の人から見て突飛な言動が多いので、周りの人はなかなか理解しにくいこともあるでしょう。

統合失調症の突飛な言動には、本人が抱える過敏さや脳の興奮のしやすさ、睡眠障害が関わっていることが多くあります。ただ、実際に何が原因かは人によって異なりますので、職場で理解や支援を進める際は気をつけてください。

統合失調症をもつ人には、強い刺激をなるべく避けるような接し方をします。突然大きな声で呼んだり、後ろからいきなり体に触れたりしてはいけません。まずは穏やかに名前を呼ぶなどして声をかけましょう。

席替えや職場のレイアウト変更、本人や同僚の異動といった環境の変化がある場合は、事前にきちんとした説明があるとストレスを緩和できます。

また、長い療養生活で社会経験等が不足している人の場合、できないことがあったり、やってはいけないことをやっていたりするかもしれません。周囲の人は「他の人はできるのに」と考えずに、どうすればよいのか、なぜそれがダメなのかを穏やかな口調で具体的に説明しましょう。

説明するときは、伝える情報を紙に書きながら整理して話すなど、ゆっくり具体的に話すと伝わりやすくなります。

うつ病・双極性障害(躁うつ病)・不安障害をもつ従業員への接し方と注意点

うつ病では、「自分は苦しいのに他人に分かってもらえない」という悲観的な考え方が出てきます。症状が強くなると、自分を価値のない人間だと感じたり、死ぬことばかり考えたりしてしまうといった症状も現れます。

逆に躁状態では、気持ちが高揚してお金を大量に使ったり、ほとんど眠らずに働き続けたり、怒りっぽくなったりするケースが多く見られます。

不安障害は、うつ病との併発も多い精神疾患です。特段の理由がなくても強い不安に襲われて動けなくなったり、「このまま死ぬのではないか」といった考えに襲われたりします。

そうした人への接し方で最も重要なのは、「気にしすぎ」「性格的なもの」と切り捨ててしまうのではなく、精神疾患の特徴として理解すること。荒井医師によれば、基本的な接し方は以下の3点です。

  • 本人が何を考えているのか、何を苦痛だと感じているのかをじっくり聴く
  • 回復のために医療を受けることをすすめる
  • 半歩遅れたペースで、必要なアドバイス等を行う

うつ状態の時は無理をさせずに、しっかり休めるよう配慮しましょう。躁状態の時は、金銭管理や安全管理などに気をつけながら、必要に応じて専門家に支援をお願いしてください。

不安障害の1つであるパニック障害の場合は、周りの人が一緒になって慌ててしまうと発作がひどくなります。やさしく背中を撫でたり、ゆっくり息を吐くよう促したりしてください。

なお、コーヒーなどのカフェインは過剰摂取すると不安を増強させることがあります。飲み物をすすめる場合は気をつけましょう。

長い目で温かく関わりつつ、一緒に仕事をしていくという姿勢が最も重要です。

発達障害をもつ従業員への接し方と注意点

発達障害をもつ人は、強いこだわりがあったり感覚が過敏だったりする人が多く見られます。周囲が驚くような行動をとることもあります。

実際の特性は人それぞれですが、多く見られる障害特性について知っておくと接しやすくなります。

こだわりが強い・驚きやすい・待つのが苦手

発達障害をもつ人には、強いこだわりをもつ人が多くいます。たとえば、気に入った席や気に入った場所がある場合、気に入った席に座れないとずっと立って待っていたり、座っている人とトラブルになったり。本人の気に入った場所を空けておくか、「空いている場所を使いましょう」などと声かけをしましょう。

感覚刺激に過敏な人の場合、他の人なら気にしない程度の音や接触に、とても驚いてしまいます。突然体に触れられることが苦手な人も多いので、用事があるときは肩や背中を叩くのではなく、名前を呼んだり声をかけたりするようにしてください。この時、大きな声や音を出すとびっくりしてしまいますので、あくまで穏やかな声で呼びかけましょう。

待つのが苦手な場合も多くあります。待つのが苦手だと、列に割り込もうとしたり、待っていてもそわそわしはじめたりします。そのような時は、どこでどうやって待つのか、待ち時間はどのくらいなのかを知らせると、ストレスを緩和できます。

なお、感覚過敏とは反対に、感覚に対して鈍いという特性も発達障害にはあります。感覚鈍麻と呼ばれるこの特性を持っていると、ケガをしても痛みを感じない場合があります。

感覚鈍麻で最も注意すべき点は、本人が気づかないうちに重大なケガをしていたり、熱中症になっていたり、他の人の痛みを想像できず力を入れすぎてしまったりするなどの事態が生じる可能性があること。寒暖に合わせた服装の調節を助けたり、ケガをしやすい場所で声かけをしたりするなど、本人のケガや身体的不調等に気をつけながら接しましょう。

指示は肯定文で、説明は図や絵を使って

発達障害の場合、否定的な言葉に過剰に反応することもあります。指示を出すときは「〜しないで!」ではなく、穏やかな口調で「〜します」「〜しましょう」という形で短く伝えてください。たとえば、「やめて」ではなく「終わりましょう」、「走らないで」ではなく「歩きます」などと言い換えます。

ルールや説明の内容が分からずパニックになる場合は、図や絵・写真などを使ってゆっくり話したり、文字を見せる時は大きくしたり行間を空けたりすると伝わりやすくなります。発達障害をもつ人の中には、読み書きや計算が極端に苦手な場合もあるからです。図や絵などを使って1つずつ説明することで、理解しやすくなります。

また、初めてのタスクを割り振る時は、どうやって作業するのか、どう進めるのかの見本を見せると効果的。実際に他の従業員がやって見せることで、作業や製作物の理解度や完成度が上がります。うまくいかない場合でも、何回も根気よく教えていきましょう。そうすれば、少しずつ身につけていくことができます。もし本人にとって苦手な分野なら、得意な分野を任せるなどの柔軟な対応も必要です。

相談相手・指示する人を決めておく

発達障害も含め、精神疾患をもつ人の場合、報告・連絡・相談がうまくできないことがあります。特に発達障害では、困ったときに誰に話していいのか分からないと、分からないまま進めたり、何もできなくなってしまったりすることがあるかもしれません。あるいは、複数の人から指示をうけて混乱してしまうこともあります。

そのため、困ったときに誰に相談するか、誰から指示をもらうかを予め決めておくことが重要です。「困ったときはAさんに聞く、Aさんがいない時はBさんに聞く」などのルールを決めて、本人と共有しましょう。他の従業員にも、指示を出す際は誰を通して指示を出すのか共有してください。

発達障害をもつ人への接し方「虎の巻」

発達障害を抱える人との接し方については、札幌市が作成した「虎の巻シリーズ」が大変参考になります。特に『職場で使える「虎の巻」発達障がいのある人たちへの八つの支援ポイント』には、働く発達障害者との接し方が具体的に解説されています。札幌市民以外でもPDFで閲覧できますので、ぜひ活用してみてください。

厚生労働省が公開している「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」のe-ラーニング版も、シチュエーションごとの接し方が箇条書きになっているので便利です。

【参考】
精神障害のある方と共に働く上でのポイントと障害特性|厚生労働省
発達障がいのある人たちへの支援ポイント「虎の巻シリーズ」|札幌市
こんなときどうする? 障害のある人を理解し、配慮ある接し方をするためのガイドブック|名古屋市
荒井稔先生に「職場における精神疾患の方への対応」を訊く|日本精神神経学会

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