精神障害者雇用は難しい?求められる「雇用の質」向上


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近年、大きく雇用数を伸ばしている精神障害者雇用。まだノウハウを十分に蓄積しておらず「精神障害者の対応は難しい」と感じる企業は多いようです。精神障害者雇用経験やノウハウの有無は、当事者へのイメージ、雇用管理施策、助成金などの行政支援の活用度にも関係があるようす。パーソル総合研究所の調査結果をもとに、詳しく見ていきましょう。

精神障害者の雇用増でもノウハウ不足

厚生労働省が毎年発表する障害者の雇用状況の調査結果によれば、2022年の民間企業の障害者雇用数は、全体で61万3,958.0人となりました。そのうち、精神障害者の雇用数は10万9,764.5人。前年から1万人以上増加する形で、大きく伸びています。特に、従業員数100人以上300人未満と、1,000人以上の企業で多く雇用されているようです。

民間の調査でも、精神障害者を新たに雇用する企業が多いことがわかりました。

パーソル総合研究所が2023年1月~2月に行った精神障害者雇用に関するアンケート(※1)によれば、回答した企業のうち33.8%が精神障害者の雇用が増えたと回答。身体障害者の28.1%、知的障害者の23.2%と比べると、大きく上回る結果となっています。

一方で、精神障害者について「直近5年間は雇用経験なし」とする企業も37%ありました。身体障害者の8.6%より圧倒的に大きな割合を占めています。精神障害者雇用を進めている企業と、全く進めていない企業が同程度となっており、まだ浸透はしていないことがうかがえます。

障害者の雇用ノウハウに関する設問では、「雇用ノウハウは十分」または「困らない程度にある」と答えた企業の割合が、身体障害者では44.6%、知的障害者では29.9%、精神障害者ではさらに少ない23.1%。反対に、「雇用ノウハウは蓄積途上の段階にある」または「雇用経験に乏しく手探り状態だ」を選んだ企業は、身体障害者で51.4%、知的障害者で46.8%、精神障害者で57.0%となりました。


出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」p.23

全体として、精神障害者の雇用人数は増えているものの、雇用ノウハウに課題を抱える企業が多く、企業における精神障害者の「雇用の質」の向上が求められていると考えられます。

※1 パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」

企業側の精神障害者へのイメージと雇用状況・ノウハウ蓄積度

精神障害者雇用について、雇用を進める企業と雇用を進めていない企業、雇用ノウハウがある企業とない企業とでは、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。パーソル総合研究所による調査結果を、もう少し詳しく見ていきましょう。

当事者へのイメージと雇用の有無の関係

まず、精神障害者雇用において企業が抱いている当事者へのイメージと、実際に精神障害者の雇用の有無について確認しましょう。精神障害者を雇用している385社と、雇用していない306社の比較です。

【企業が抱く精神障害者へのイメージ】

当事者へのイメージ

雇用あり

における割合

雇用なし

における割合

現代社会では、誰もが精神障害者になる可能性がある 80.0% 74.5%
適切な治療を続けていれば、就労できる人は多い 62.6% 53.3%
精神障害者の治療のために、就労機会を与えることは有益だ 57.1% 48.7%
周囲とうまくコミュニケーションがとれない 28.8% 29.4%
周囲が影響を受け疲弊する 28.6% 28.1%
接する場合、相手を傷つけるような気がして不安だ 22.3% 32.0%

上の表から分かるように、「誰もが精神障害者になる可能性がある」という点や周囲とのコミュニケーションや影響については、雇用の有無で大きな違いは見られませんでした。

一方で、精神障害のある従業員の仕事の能力、治療と就労機会の関係、当事者への接し方の面では、実際に雇用している企業のほうが、ポジティブな評価をする割合が大きくなっています。

実際に現場を見て感じているのか、現場を見ていない状態でのイメージで回答しているのかという違いが表れているのかもしれません。

【精神障害者雇用の有無で差が大きな項目】

当事者へのイメージ

雇用あり

における割合

雇用なし

における割合

仕事の潜在能力(ポテンシャル)が高い人が多い 80.0% 74.5% -9.7pt
適切な治療を続けていれば、就労できる人は多い 62.6% 53.3% -9.3pt
精神障害者の治療のために、就労機会を与えることは有益だ 57.1% 48.7% -8.4pt
接する場合、相手を傷つけるような気がして不安だ 22.3% 32.0% +9.7%
どう接したらよいか分からない 18.2% 28.1% +9.9%

当事者へのイメージとノウハウ蓄積度の関係

次に、精神障害者雇用のノウハウ蓄積度と当事者へのイメージの関係です。調査結果では、「手探り状態」80社、「蓄積途上」166社、「困らない+十分」139社の3つに分けて集計しています。

全体として見ると、多く選ばれた上位5つの項目は、多少順位の入れ替わりがあるものの雇用ノウハウの蓄積度によらず同じでした。

【ノウハウ蓄積度別 イメージTOP5】

当事者へのイメージ

手探り状態 蓄積途上 困らない

+十分

現代社会では、誰もが精神障害者になる可能性がある 77.5% 80.7% 80.6%
精神障害者の治療のために、就労機会を与えることは有益だ 46.3% 60.8% 59.0%
適切な治療を続けていれば、就労できる人は多い 40.0% 71.7% 64.7%
周囲が影響を受け疲弊する 38.8% 24.7% 27.3%
周囲とうまくコミュニケーションがとれない 32.5% 28.9% 26.6%

しかし、個別に割合を見ていくと、ノウハウ蓄積度によって10pt以上の差がある項目が多く見られます。

例えば、精神障害のある従業員の仕事能力については、ノウハウの蓄積度が高い企業は、手探り状態の企業よりも肯定的に応える割合が15pt以上多くなっています。反対に、「何をするか分からないので恐ろしい」などのネガティブなイメージは、ノウハウ蓄積度が低い企業により多く選ばれました。

【ノウハウ蓄積度で差の大きい項目】

当事者へのイメージ

手探り状態 困らない

+十分

適切な治療を続けていれば、就労できる人は多い 40.0 64.7 +24.7pt
仕事の潜在能力(ポテンシャル)が高い人が多い 10.0 25.9 +15.9pt
精神障害者の治療のために、就労機会を与えることは有益だ 46.3 59.0 +12.7pt
何をするか分からないので恐ろしい 15.0 5.0 -10.0pt
周囲が影響を受け疲弊する 38.8 27.3 -11.5pt
どう接したらよいか分からない 31.3 12..9 -18.4pt

こうした結果から、精神障害者雇用に必要なノウハウを蓄積していくことで、精神障害のある当事者に対するネガティブなイメージが軽減され、ポジティブなイメージの増加につながっていると推察されます。

ノウハウ蓄積度による取り組みの違い

では、雇用管理の面ではどのような違いがあるのでしょうか。こちらも、パーソル総合研究所の調査結果から、ノウハウ蓄積度別、精神障害者雇用の有無別にご紹介します。

ノウハウ蓄積度と雇用管理施策の関係

ノウハウ蓄積度別に雇用管理施策を見ると、実施している主な施策内容に大きな違いはないようです。

【ノウハウ蓄積度別 雇用管理施策の例】

当事者へのイメージ

手探り状態

+蓄積途上

困らない

+十分

職場見学や実習を受け入れている 52.0% 69.8% +17.8pt
採用時に勤務条件・待遇について丁寧に説明している 50.0% 61.9% +11.9pt
受け入れ先にコミュニケーション上のポイント・注意点について情報提供している 29.3% 43.9% +14.6pt
入社後に研修をしている 19.1% 30.9% +11.8pt
外部の定着支援サービスを利用している 13.0% 23.7% +10.7pt
採用前に採用計画(配属先や業務内容など)を立てている 14.2% 22.3% +8.1pt

 

ただし、各項目の実施率には大きな差が見られます。例えば職場見学や実習については、ノウハウが蓄積されている企業ほど、より積極的に受け入れているようす。採用時の説明や受け入れ先に対しての情報共有についても、ノウハウ蓄積度が高いほど実施率も高い結果となりました。

上の表にはありませんが、もうひとつ大きな違いが見られた項目があります。「障害者にメンターやサポーターを配置している」です。ノウハウ蓄積度が高い企業では18%が選んだのに対して、ノウハウ蓄積度が低い企業が選んだ割合はわずか5.3%でした。

障害者雇用におけるメンター制度の導入・運用については、以下の関連記事でご紹介しています。現場の従業員同士が教え合うという体制づくりで、障害のある従業員もスキルアップやキャリア形成につなげられる点に魅力があります。

(関連記事)
「働きやすい職場」はどうやって実現する?—P&Gによる障害者雇用の取り組み
【障害者の在宅ワーク】東京都における企業のテレワーク好事例

ノウハウ蓄積度と行政支援利用率

障害者雇用において、行政支援をうまく活用できるか否かは定着や雇用の質向上に大きな影響を与えます。そこで、精神障害者雇用のノウハウの蓄積度と行政支援利用率も確認しておきましょう。

活用されている行政支援TOP5をノウハウ蓄積度別にまとめたものが、下表となります。

【ノウハウ蓄積度別 行政支援利用率 TOP5】

手探り状態 蓄積途上 困らない+十分
各種助成金制度 各種助成金制度 各種助成金制度
いずれもない 障害者トライアル雇用事業 障害者トライアル雇用事業
障害者

トライアル雇用事業

障害者職業生活相談員の資格認定講習 障害者適応援助者(ジョブコーチ)の派遣
わからない 障害者適応援助者(ジョブコーチ)の派遣 障害者職業生活相談員の資格認定講習
障害者職業生活相談員の資格認定講習 精神・発達障害者しごとサポーター養成講座 精神・発達障害者しごとサポーター養成講座

全体として活用されているのは、各種助成金です。障害者雇用関連の助成金の代表例といえば、障害者雇用納付金関係助成金でしょう。障害特性に応じた施設や設備の設置、介助者の配置や委嘱、障害者相談窓口担当者に関するもの、ジョブコーチに関するものなど、多様な施策が対象となっています。

(関連記事)
【障害者雇用助成金】障害者介助等助成金の概要と申請方法【2023年度版】
【障害者雇用助成金】障害者福祉施設設置等助成金の概要と申請方法【2023年度版】
【障害者雇用助成金】障害者作業施設設置等助成金の申請方法と受給後の流れ【2023年度版】

雇用ノウハウが蓄積途上にある企業や、ノウハウが蓄積されている企業では、助成金の他に障害者トライアル雇用やジョブコーチなども積極的に活用しています。さらに、自社の従業員に障害理解促進や支援ノウハウの習得を目指す講習・講座も積極的に受講しているようでした。

これに対して、雇用ノウハウが手探り状態の企業では、行政支援を活用していない、どういった行政支援を活用しているか把握していないという回答が上位5項目に入っています。特に2位となった「いずれもない」は22.5%を占め、蓄積途上にある企業の12.0%、ノウハウに困らないまたは十分な企業の13.7%と比較すると、大きな割合となっています。

手探り状態の企業と、ノウハウが蓄積されている企業との差が特に大きい項目は、以下のようになりました。

【ノウハウ蓄積度別 行政支援利用率で差の大きな項目】

項目

手探り状態 困らない+十分
障害者トライアル雇用事業 20.0% 38.1% +18.1pt
障害者適応援助者(ジョブコーチ)の派遣 12.5% 29.5% +17.0pt
各種助成金制度 37.5% 54.0% +16.5pt
障害者職業生活相談員の資格認定講習 16.3% 27.3% +11.0pt
わからない 18.8% 1.4% -17.4pt

どのような行政支援があるのか、それをどこにどう活用していくのかといった情報収集と自社での活用状況の把握が、雇用ノウハウ蓄積の第一歩と言えるのかもしれません。

段階的に障害者法定雇用率引き上げ、雇用率達成と雇用の質の両立へ

2023年10月現在、従業員43.5人以上の企業の事業主は、障害者雇用において法定雇用率2.3%の達成を求められています。この法定雇用率は、2024年4月には2.5%(従業員数40.0人以上の企業)、2026年7月には2.7%(従業員数37.5人以上の企業)へと段階的に引き上げられる予定です。

障害のある方をただ雇用して人数をクリアするだけでなく、ダイバーシティ&インクルージョンの実現には「雇用の質」の向上も欠かせません。それには、障害者雇用に関わる施策立案や実施を全て自社のみで完結させるのではなく、多様な行政支援を使って雇用と職場定着を進めていく視点が一層重要となります。

近年増加している精神障害者雇用も含め、まずは障害者雇用や職場定着に成功している企業の好事例を参考にしてみてください。事例には、業務上の指示の出し方、コミュニケーション方法、通院や服薬への配慮、その他健康管理施策など、多くのヒントが含まれています。

お困りの際は、ハローワーク、都道府県の地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、そして就労意向支援事業所などの支援機関に、ぜひご相談を。現状の課題分析や、課題内容に応じた施策の相談が可能です。

当マガジンの編集部があるルミノーゾでも、事業主の皆様からのご相談を承っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

【参考】
精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査|パーソル総合研究所

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