2020/12/07
簡単に知る知的障害者福祉法、知的障害者更生相談所と療育手帳
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知的障害者福祉法は、知的障害者の支援や自立について定めた法律。障害者総合支援法とともに、知的障害者の就労や生活に関わる重要な法律です。主に知的障害者支援に関わる施設や支援費用、知的障害者更生相談所について規定していますが、「知的障害」の定義は明確ではありません。
今回は、知的障害者福祉法の内容や知的障害とはどのような障害なのか、知的障害者更生相談所とはどのような機関なのかを簡単に見ていきましょう。記事の最後で、障害者手帳のうち知的障害者が申請できる療育手帳(愛の手帳)についても紹介します。
知的障害者福祉法とは|目的と概要
知的障害者福祉法は1960年に制定されました。もともとは「精神薄弱者福祉法」でしたが、1998年に今の名称に変更しています。直近では2018年に改正され、2020年4月1日から新しい知的障害者福祉法が施行されました。
まずは、知的障害者福祉法が何を目的として制定されたのか、どのようなことが規定されているのかについて、大まかに見てみましょう。
知的障害者福祉法の目的と方向性
知的障害者福祉法の第1章(総則)では、同法律の目的を次のように定めています。
第一条
この法律は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつて、知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、知的障害者を援助するとともに必要な保護を行い、もつて知的障害者の福祉を図ることを目的とする。
つまり、知的障害者の自立と社会参加の支援、知的障害者が必要とする保護を行うことを目的に制定されたということです。
総則全体をかいつまんで見てみましょう。
<知的障害者福祉法 第1章(総則)の概要>
- すべての知的障害者は、自分のもつ能力を活用し、進んで社会に参加するよう努力しなければならない
- すべての知的障害者に、あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられなければならない
- 国及び地方公共団体は、知的障害者の福祉について国民の理解を深めなければならない
- 国及び地方公共団体は、知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するための援助と必要な保護(更生援護)を実施するよう努力しなければならない
- 国民は、知的障害者の福祉について理解を深めるとともに、知的障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努力しなければならない
知的障害者福祉法の各規定は、こうした大きな方向性に沿って設けられています。
【参考】
知的障害者福祉法|e-Gov法令検索
知的障害の定義
では、知的障害者福祉法で支援対象となっている知的障害者とは、どのような人のことなのでしょうか。
実は、知的障害者福祉法には「知的障害」がどのような障害かについて、具体的な規定がありません。法律の中では、ただ「知的障害」「知的障害者」とのみ記載があるだけで、用語の定義が見当たらないのです。
そのため、「知的障害者」として障害福祉サービスやその他の支援・サービスを受ける場合に適用される基準が、地方自治体ごとに少しずつ異なってしまっています。
ただ、国がどのような基準で知的障害をとらえているかは、厚生労働省の知的障害に関する記述から考えることはできます。医学的に「精神遅滞」と診断する場合の基準です。したがって、知的障害者福祉法が対象とする「知的障害」は以下の基準で考えられていると思って差し支えありません。
<知的障害者福祉法における「知的障害」と考えられる基準>
- 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥がある
- 適応機能の明らかな欠陥がある
- 発達期(おおむね18歳まで)に生じている
【参考】
知的障害(精神遅滞)|e-ヘルスネット(厚生労働省)
知的障害者支援に関わる機関やサービス
知的障害者の支援に関わる施設や業務に関する規定は、知的障害者福祉法の第2章にあります。第9条から第15条の3までは実施機関等に関する規定、第15条の4から第21条までは障害福祉サービスや支援施設等への入所などに関する規定です。
以下、簡単に見ていきましょう。
まず、知的障害者又はその介護を行う人に対する市町村(特別区を含む)による支援等は、原則として、その知的障害者が住んでいる市町村が行います。
<市町村が行う知的障害者の福祉に関わる業務(第9条・第16条)>
- 知的障害者の福祉に関し、必要な実情の把握に努める
- 知的障害者の福祉に関し、必要な情報の提供を行う
- 知的障害者の福祉に関する相談に応じ、必要な調査及び指導を行う、ならびにこれらに付随する業務を行う
- 18歳以上の知的障害者について、その福祉を図るため、必要に応じて本人または保護者に対し指導を行う
- 18歳以上の知的障害者について、やむを得ない理由で療養介護等の介護給付等の支給を受けられない場合は、障害者支援施設等やのぞみの園に入所させて更生援護を行う、又は委託する
- 18歳以上の知的障害者について、その更生援護を職親(知的障害者を自己の下に預かり、その更生に必要な指導訓練を行うことを希望する者であって、市町村長が適当と認める者)に委託する
一方、都道府県は市町村よりも広い視野で業務を行うとともに、専門知識や専門技術が必要な業務を担当するよう定められています。
<都道府県が行う知的障害者の福祉に関わる業務(第11条・第12条・第30条)>
- 各市町村の区域を超えた広域的な見地から、実情の把握に努める
- 知的障害者に関する相談及び指導のうち、専門的な知識や技術を必要とするものを行う
- 18歳以上の知的障害者の医学的、心理学的、および職能的判定を行う
- 知的障害者更生相談所を設置する
- 指定都市や中核市においては、都道府県が行うとされる業務を指定都市または中核市が行う
また、市町村や各機関、担当者と協力して障害者支援を行う民生委員についての規定も第15条にあります。民生委員は、障害福祉サービス事業や一般相談支援事業と知的障害者の橋渡し役として、市町村長、福祉事務所長、知的障害者福祉司又は社会福祉主事の事務の執行に協力しなければなりません。こうした業務を担当する民生委員を「知的障害者相談員」と呼びます。
民生委員については、以下の記事で詳しく紹介しています。
(関連記事)
民生委員とは何か|民生委員法に基づき給与なしで活動する人々
知的障害者福祉法と障害者総合支援法の関係
障害者支援に関する法律では、知的障害者福祉法よりも「障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)」を知っている人のほうが多いかもしれません。障害者総合支援法は2013年4月1日に施行された法律で、それまでの「障害者自立支援法」を廃止して生まれ変わったものとして知られています。
障害者総合支援法の主な内容は、
- 障害者の定義への難病等の追加
- 重度訪問介護の対象者の拡大
- ケアホームのグループホームへの一元化
- 障害福祉サービスの規定
- 自立支援給付及び地域生活支援事業の規定
- 障害者支援施設等の規定
などです。
知的障害者福祉法は知的障害者の支援に特化した法律で、他に身体障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律といった、それぞれの障害に特化した法律があります。
しかし、障害ごとに規定が異なると、どのような支援を受けられるのかが非常に分かりにくいという問題が生じていました。障害者として受けられるサービスの提供を統一、一元化したり、障害者の定義を拡大したりする必要性も指摘されていました。
そこで、障害者の視点を重視した規定を障害者総合支援法にまとめようということになったのです。
こうした経緯から、現在の知的障害者福祉法と障害者総合支援法を見比べると、具体的な規定は障害者総合支援法にあることが多いのが分かります。
知的障害者更生相談所とは何をするところ?
知的障害者福祉法には「知的障害者更生相談所」という機関の規定が出てきます。これは、知的障害者支援において、中核的な役割を果たす専門機関です。
知的障害をもつ人やその家族、支援者は、知的障害者更生相談所という名称を聞いたことがあったり、実際に支援を受けたりしたことがあるでしょう。しかし、世間からの認知度は決して高くありません。
知的障害者更生相談所とは一体どのような機関で、何を行っているのでしょうか。
知的障害者福祉法における知的障害者更生相談所の規定と業務内容
市町村長や福祉事務所の長などは、知的障害者の支援を行わなければなりません。しかし、全ての相談や指導を担うのは大変です。もし、18歳以上の知的障害者に関する専門的な知識や技術が必要な相談・指導の場合は、専門家がきちんと対応しないと大変な問題になってしまうことだってあります。
そこで、知的障害者福祉法の第9条・第10条では、そのような専門知識・技術が必要な相談・指導(専門的相談指導)を行わなければならない場合は、知的障害者の更生援護に関する相談所すなわち「知的障害者更生相談所」の技術的援助及び助言を求めることと規定されました。
知的障害者更生相談所の設置は都道府県が行うと同時に、知的障害者の福祉に関する事務を担当する職員(知的障害者福祉司)も置かなければなりません(第13条)。知的障害者福祉司は、知的障害者更生相談所の長の命を受けて、次のような業務を行います。
<都道府県の知的障害者福祉司が行う業務>
- 市町村の更生援護の実施について、市町村相互間の連絡・調整、市町村に対する情報提供、その他必要な援助などの業務のうち、専門的な知識及び技術を必要とする業務
- 知的障害者に関する相談及び指導のうち、専門的な知識及び技術を必要とする業務
また、義務ではありませんが市町村にも知的障害者福祉司を置くことができます。都道府県の知的障害者福祉司よりも地元に近い目線で、専門的な相談・調査・指導を行っています。
<市町村の知的障害者福祉司が行う業務>
- 福祉事務所の所員に対する技術的指導
- 知的障害者の福祉に関する相談・調査・指導などの業務のうち、専門的な知識及び技術を必要とする業務
知的障害者更生相談所の具体的な業務(東京都の場合)
知的障害者更生相談所は、単独で設置されることもあれば別の部署と一緒に設置されている場合もあります。
東京都の場合は、「東京都心身障害者福祉センター」として、身体障害者更生相談所に併設される形で知的障害者更生相談所を設置。設置場所は、新宿区の本所、千代田区の別館、国立市の多摩支所の3カ所です。
東京都心身障害者福祉センターが知的障害者更生相談所として行っている業務には、以下のようなものがあります。
<東京都の知的障害者更生相談所の業務内容>
- 18歳以上の人の知的障害の認定および障害程度の判定
- 義肢・装具、電動車イス、弱視眼鏡、補聴器などの補装具の判定
- 自立支援医療費(更生医療)などの要否判定
- 愛の手帳(療育手帳)の交付
- 東京都重度心身症会社手当の判定・認定・支給
- 心身障害者福祉手当の運営指導
- 障害児福祉手当および特別障害者手当の運営指導
- 特別児童扶養手当の認定
- 地域の関係機関からの依頼による職業相談および職能評価
- 知的障害者福祉司による区市町村などを対象とした専門的な相談・情報提供
- 地域の相談・サービス提供機関に対して、障害者支援ノウハウの提供・研修
- 障害福祉サービスの運営に関わる各種研修など
障害者が必要とする補装具を判定したり手帳交付を担当したり、各種手当が支給可能かどうか判断したりするなど、知的障害者が必要とするさまざまなサービスや相談・指導等を知的障害者更生相談所が担っていることが分かります。
知的障害者がもつ障害者手帳「療育手帳」(愛の手帳)とは
知的障害がある場合、障害の程度によっては障害者手帳の1つである療育手帳の交付を受けられます。
知的障害は18歳未満で判定を受けているケースが多いため、多くの知的障害者は児童相談所で申請し交付を受けることになるでしょう。しかし、障害の程度や環境によっては、大人になってから判定を受ける場合もあります。18歳以上の人の場合、知的障害者更生相談所へ申請を行うことになっています。
知的障害を対象とした障害者手帳は、法律では「療育手帳」と呼ばれますが、実際の名称は地方自治体ごとに個別に名称が決められているのも特徴。東京都の場合は「愛の手帳」です。愛の手帳には、手帳所持者の氏名・生年月日・住所・顔写真・判定・合併障害の有無・運賃割引の区分などが記載されています。
先述したように、障害の判定については地方自治体によって基準や区分が異なることに注意してください。東京都の場合は、1度(最重度)から4度(軽度)の4段階です。
障害者手帳全般と受けられるサービスについては、以下の記事でも紹介しています。精神障害者保健福祉手帳について書いている記事でも、利用可能なサービスやメリットは療育手帳のケースと概ね同じと考えて大丈夫。障害者手帳を取得すると、さまざまな障害福祉サービスを受けられたり費用面で優遇を受けられたりするので、ぜひ参考にしてみてください。
(関連記事)
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精神障害者保健福祉手帳を持つメリット・デメリットと障害福祉サービス
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