発達障害者向け情報共有ツール「ナビゲーションブック」は「就労パスポート」とどう違う?


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求職活動で採用面接を受けたり就職後に仕事を安定して続けたりするには、自分の障害特性と職場にしてもらい配慮を伝える必要があります。

しかし、発達障害者や精神障害者はコミュニケーション上の課題を抱えている方が多くいます。うまく自分のことを伝えられずに職場とトラブルになったり、離職につながってしまったりすることもあるでしょう。

自分の特徴や必要な配慮を伝えるには、障害者向けに開発された情報共通ツールが便利です。たとえばナビゲーションブックや就労パスポートなどがあります。今回は、ナビゲーションブックがどのようなものかを中心に見ていきましょう。

「ナビゲーションブック」とは

「ナビゲーションブック」は、発達障害のある方を対象に開発された、就職活動や職場定着で活用できる情報共有ツールです。障害特性、職業上の課題、職場でしてほしい配慮や留意事項などを記載します。

ナビゲーションブックは、知的障害のない発達障害のある方に対して行われる専門的プログラム「ワークシステム・サポートプログラム」の中で作成されてきました。プログラムは障害者職業総合センター職業センターで実施されています。

<ワークシステム・サポートプログラムの概要>

  • プログラムの受講者が抱える課題を整理する
  • 改善の必要性を理解する
  • 改善に向けた目標設定を行う
  • 目標達成に向けた場面や方法を選択する
  • 目標達成に向けて取り組む
  • 取り組みの結果を振り返る
  • 自分自身の特性や必要な工夫等を把握・検討していく

ナビゲーションブックは、プログラムの後半で、支援者と共にプログラム受講の中で分かったこと・体験したことなどをもとに作成されます。

ワークシステム・サポートプログラムを終えた受講者は地域障害者職業センターや就労支援機関などを活用して、実際に求職活動や職場定着を進めていきます。その際に障害特性の説明やどのような配慮が必要かを事業主や支援者に説明しやすくなるのが、ナビゲーションブックを持つメリットです。

ナビゲーションブックは障害特性の自己理解を促す側面もありますので、本人にとって作成しやすい内容や様式で作ることが重要です。記載する具体的内容についても、障害の状態や職場環境、担当業務、経験等で変化していくでしょう。そのため、ナビゲーションブックは適宜更新していくことが大切になります。

ナビゲーションブックの内容と書き方

ナビゲーションブックを作る際、まずは「自分はナビゲーションブックを何に使いたいのか」を考えましょう。目的によって、どのような内容を記載するべきかが変わってくるからです。

<ナビゲーションブック作成の目的(例)>

  • 自分がもつ発達障害の特性を整理したい
  • 自分のことを他の人に説明できるようになりたい
  • 会社に自分の特徴や気持ちを分かってもらいたい
  • 支援者に自分の特徴や気持ちを分かってもらいたい

目的を定めたら、まずは自分の体験や今の取り組みを振り返ってみましょう。ワークシステム・サポートプログラムでは、以下のような手順でナビゲーションブックを作成しています。

<ワークシステム・サポートプログラムにおけるナビゲーションブックの作り方>

  1. 自分の特性について書き出したり、支援者と相談したりして整理する
    得意なこと
    長所
    苦手なこと
    自分で対処していること
    周囲に理解や配慮をしてほしいことなど
  2. 「プレナビゲーションブック」を作成する
    ある程度定められた様式を使って自己紹介書を作成する
  3. 面接や実習でプレナビゲーションブックを使ってみて、振り返りを行う
  4. プレナビゲーションブックをバージョンアップ(更新)し、「ナビゲーションブック」を作成する
  5. ナビゲーションブックを会議などで使って見て、振り返りを行う
  6. ナビゲーションブックをバージョンアップする
  7. もう一度ナビゲーションブックを会議などで使ってみて、振り返りを行う
  8. 必要に応じてナビゲーションブックをバージョンアップする

ナビゲーションブックに記載する具体的な内容は、大まかには「自分の主な特徴の説明」と「会社に協力していただきたいこと」の2つがあります。

相手に分かりやすく自分の特徴や必要な配慮を伝えるには、

  • 作業面の特徴
  • 対人面の特徴
  • 思考や行動の特徴
  • 就職・復職時の希望条件

などに分けて記載するとよいでしょう。

もちろん、自分が伝えたい項目や内容は適宜追加して構いません。まずは下書きのつもりで、どんどん書き出してみてください。

「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」p.43を参考に作成

<ナビゲーションブックの内容(求職活動で使う場合・例)>

  • セールスポイント
    • 【作業面】指示通りに作業を行うことが得意です。
    • 【対人面】あいさつは自分から行うことができます。
    • 【ストレス対処方法】休日は散歩をして気分転換しています。
  • 苦手なこと・自己対処の工夫・配慮をお願いしたいこと
    • 【作業面】話すことは苦手ですが、文書でなから質問や報告ができます。
      • いただきたい配慮:文書で質問や報告ができるようにしていただけると助かります。
    • 【作業面】記憶を保つことが難しく、忘れやすいことがあります。
      • 自己対処方法:指示や面談の際はメモをとるようにしています。
      • いただきたい配慮:メモをとる時間を多めに設けていただけると助かります。
    • 【感覚特性】人の声が多い場所では集中しにくいです。
      • いただきたい配慮:静かな場所での作業か、イヤーマフの使用を許可していただけると助かります。
    • 【健康面(通院・服薬の状況)】月1回、火曜日の午前中に精神科に通院しています。
      • いただきたい配慮:通院の曜日・時間帯の変更が難しいため、この時間帯だけお休みをいただけると助かります。
    • 【健康面】仕事に慣れるまで、短時間勤務(5〜6時間)希望しています。慣れてきたら、徐々に勤務時間を延ばしていくことを目標としています。
    • 【その他(周囲のサポート)】仕事については、○○就労移行支援事業所と相談しています。

一通り書き出した後や、どうやって内容をまとめればよいか分からなくなった時は、会社の視点に立ってみることも重要です。発達障害者を雇用する際に会社が何を知りたいと思っているのかを考えてみるとよいでしょう。

【参考】
支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム  ナビゲーションブックの作成と活用|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

ナビゲーションブックと就労パスポートの違い

ナビゲーションブックと同じように求職活動や職場定着で活用できるツールに「就労パスポート」があります。

ナビゲーションブックと就労パスポートの大きな違いは、ナビゲーションブックがもともと発達障害者向けに開発された様式に縛られない情報共有ツールであるのに対して、就労パスポートは利用者を精神障害者を中心に設定して開発され、さまざまな指標を含む情報共有ツールだという点です。

就労パスポートは、以下のような既存ツールの長所を整理し、作成・活用がしやすいように様式を定めたものとして開発されました。

<就労パスポートの開発で参考にされた情報共有ツール>
※いずれも高齢・障害・求職者雇用支援機構が開発・作成

  • ナビゲーションブック
    • 発達障害者向けに開発・発達障害者以外も利用可能
  • 地域就労支援における情報の取得と活用ガイドブック
    • 様式2で本人・家族・職場・地域の支援機関等がもつ必要のある共通認識を整理できる
  • 就労移行支援のためのチェックリスト
    • 個別支援計画を作成し就労支援サービスを進める中で、就労に移行するための現状を把握できる
  • 幕張ストレス・疲労アセスメントシート(MSFAS)第3版
    • カテゴリー別のシート構成で、各シートを柔軟に組み合わせて職業相談に活用できる
  • 職業相談補助シート
    • 求職者の属性情報や就業条件の希望、自己理解の状況や通院・服薬の安定度、支援体制の状況、生活・労働習慣等の状況を整理できる

<就労パスポートの特徴>

  • 求職活動や職場定着に関する項目に特化した様式になっている
  • 可能な限り各項目に具体的な指標が設定されている
  • 特に「対人対応・コミュニケーション面」と「作業遂行面」はチェックボックスにチェックを入れることで自分の特徴を伝えられる
  • 指標に当てはまるものがない場合は「その他」に記入できる
  • 「労働条件に関する希望」で、勤務時間・日数・作業環境・休憩の取り方・通勤方法などの具体的な項目があらかじめ設定されている

「ナビゲーションブックは自由度が高すぎてイメージがわかない・・・」と感じる方は、就労パスポートのほうが作成しやすいかもしれません。

就労パスポートの様式は、厚生労働省の以下のページからダウンロードできます。
就労パスポート|厚生労働省

【参考】
第1回 精神障害者等の就労パスポート作成に関する検討会 全体版資料|厚生労働省

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