2020/04/06
令和元年の障害者雇用数が過去最多に|障害者雇用状況報告書集計結果
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2019年12月25日、厚生労働省から令和元年の障害者雇用状況集計結果が公表されました。民間企業全体では障害者の雇用数、実雇用率ともに過去最高になりましたが、国や教育委員会は法定雇用率の達成が難しい状況です。令和元年の集計結果を概観し、法定雇用率2.0%時代や国による不正算入が発覚した2018年と比較します。
厚生労働省による障害者雇用状況の集計結果
ダイバーシティの実現や労働人口の確保などを背景に、国は障害者の雇用促進を支援してきました。その結果、2019年の民間企業における障害者雇用状況は、障害者雇用数、実雇用率ともに過去最高を更新。しかし、法定雇用率を達成した企業は全体の半数以下にとどまっています。国、都道府県、教育委員会といった公的機関でも、法定雇用率を達成したのは都道府県のみでした。
民間企業全体では、障害者雇用数、実雇用率ともに過去最高に
まず民間企業における障害者雇用状況を見ていきましょう。
民間企業の法定雇用率は2.2%。これに対し、実雇用率(実際に常用雇用労働者数に占める障害者である常用雇用労働者数の割合)は2.11%でした。全体での法定雇用率達成には至らなかったものの、実雇用率は昨年よりも伸び、過去最高となっています。
障害者雇用数は約56万人で前回より2万6,000人ほど増え、こちらも過去最高を更新しました。
しかし、企業規模別に見ると、中小企業での実雇用率は2.0%未満。特に45.5人〜100人未満の企業が1.71%と低く、依然として大きな課題であることが分かります。
一方、500人以上の企業では実雇用率2.0%を超え、特に1,000人以上の企業全体では法定雇用率を達成しました。
障害別に見ると、2019年に雇用されている身体障害者は約35万人、知的障害者は約13万人、精神障害者は約78万人です。
法定雇用率達成企業は全体の48%
2019年の集計結果で民間企業規模別に実雇用率を見ると、規模が小さくなるほど実雇用率が低くなる傾向が見られます。
これに対して、法定雇用率を達成した企業の割合では、企業規模と達成率に比例関係は認められず、いずれも45%〜55%。達成できた企業は全体の48%にとどまりました。
法定雇用率未達成企業は5万社ほどありますが、実はその5割が常用雇用労働者数45.5人〜100人未満の企業です。しかも、法定雇用率から計算すると0.5人〜2人の障害者を雇用する必要があるにもかかわらず、1人も障害者を雇用していない企業が9割(約2万5,000社)でした。
45.5人〜100人未満の未達成企業が障害者をあと1人雇えば、民間企業全体の約73%が法定雇用率を達成できる計算。中小企業における障害者雇用の促進が、日本全体の障害者雇用数の増大に不可欠であることが痛感されます。
公的機関と独立行政法人などにおける障害者雇用状況
国や都道府県、教育委員会、独立行政法人等の障害者雇用状況については、都道府県の機関と独立行政法人等が法定雇用率2.5%を達成しました。
対して、国の機関(法定雇用率2.5%)と教育委員会(同2.4%)は未達成で、特に教育委員会の実雇用率は1.89%と、4者で最も低い結果でした。
達成機関の割合で見ても、この傾向は変わりません。都道府県では約77%、独立行政法人等では約80%の機関が法定雇用率を達成している一方、国の機関では約61%、教育委員会に至っては38%と低い水準です。
障害種別ごとの障害者雇用数は以下の通り。
- 国:身体障害者約5,000人・知的障害者約200人・精神障害者約2,000人
- 都道府県:身体障害者約8,000人・知的障害者約200人・精神障害者約700人
- 教育委員会:身体障害者約1万2,000人・知的障害者約460人・精神障害者約700人
- 独立行政法人等:身体障害者約8,000人・知的障害者約2,000人・精神障害者約2,000人
国の機関にはあと1,059人、教育委員会にはあと3,401人の障害者を雇用する義務があります。
障害者雇用状況報告書で用いられる主な用語
障害者雇用状況の集計結果には、いくつか重要な用語が登場します。きちんと理解しておかないと集計結果を読み違える恐れがあるため、ここで簡単に解説しておきましょう。
必ず押さえておきたいのは、「障害者雇用状況報告書」と「常用雇用労働者」です。
障害者雇用状況報告書とは|対象企業と提出義務
常用雇用労働者数が45.5人以上の企業には、障害者雇用状況報告書を毎年提出する義務があります。各年で公表される障害者雇用状況の集計結果は、この報告書に基づいて作成されます。
障害者雇用状況報告書とは
障害者雇用促進法は、一定の常用雇用労働者数である企業に対して、毎年6月1日時点での身体障害者・知的障害者・精神障害者の雇用状況を報告する義務を定めています。この報告書の名称が「障害者雇用状況報告書」です。
対象企業はこの報告書をハローワークに提出しなければならず、もし提出しなかったり虚偽の報告をしたりすれば、障害者雇用促進法の罰則規定に基づき罰金が科せられます。
障害者雇用状況報告書の提出義務がある企業とは
障害者雇用状況報告書の提出義務があるのは、常用雇用労働者数が45.5人以上である事業主。納付金申告書と同時期に提出するため混同されやすいのですが、雇用状況報告書は納付金制度の対象ではない、常用雇用労働者数45.5人〜100人以下の企業も提出しなければなりません。
逆に言えば、常用雇用労働者数45.5人未満の企業には、障害者雇用状況報告書提出の義務はなし。そのため、この集計結果から45.5人未満の企業がどのくらい障害者を雇用しているかは分かりません。
常用雇用労働者と短時間労働者とは
さて、ここまでで「常用雇用労働者数」という言葉が何回か登場しました。この言葉も、日常的に使われる「従業員数」や「社員数」とは意味が異なります。
まず、常用雇用労働者と見なされるには、週の所定労働時間が20時間以上の労働者でなければなりません。所定労働時間が定められていない企業の場合は、月あたりの実働時間から週あたりの平均実働時間を求めます。
もし週あたりの労働時間が20時間未満なら、その従業員は常用雇用労働者ではありません。もし週あたり20時間以上働いているなら、パート・アルバイト、派遣社員等でも常用雇用労働者です。
常用雇用労働者のうち、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は「短時間労働者」と呼ばれます。
短時間労働者の場合、たとえ2人雇っていても常用雇用労働者としては1人としてカウントされます。1人が「0.5」でカウントされるからです。週所定労働時間が30時間以上である「短時間労働者でない常用雇用労働者」の場合は、1人をそのまま「1」でカウントします。
よって、常用雇用労働者数が「2人」という場合、
- 週30時間以上の人が2人
- 週30時間以上の人が1人と短時間労働者が2人
- 短時間労働者が4人
というパターンがあり得るので、単純に「2人雇っている」と考えることができません。
障害者に関してはさらに複雑なカウント方法が採用され、1人を「2」でカウントできる場合や、短時間労働者を「1」のままカウントできる場合があります。
よって、法定雇用率から計算して「2人」の障害者を雇用する義務があっても、障害の種別や程度によっては1人だけの雇用で法定雇用率を達成できるケースもあれば、4人雇用することでやっと達成できるケースもあります。
令和元年の障害者雇用状況を過去と比べると・・・
平成30年(2018年)は法定雇用率が引き上げられた年でした。しかし同時に、中央省庁における障害者雇用数の水増し問題も発覚し、国の実雇用率は当初発表された数値の半分以下になった年でもありました。
あれから1年、障害者の雇用状況はどう変化したのでしょうか。国の機関と民間の中小企業について見て行きましょう。
平成30年から国の障害者雇用状況はどう変わった?
今回の集計結果で最も気になるのが、国の機関における障害者雇用状況。2018年の水増し問題の謝罪と追加雇用の結果は、どのような数字になったのでしょうか。
結論から言えば、実雇用率、法定雇用率達成機関の割合は大きく上昇。それでも、全体としては、まだ法定雇用率2.5%を達成できていません。
国の機関で実雇用率が高いのは、厚生労働省(3.12%)、観光庁(3.39%)、海上保安庁(3.98%)、参議院事務局(3.15%)など。対して、実雇用率が低い機関には外務省(1.05%)、家庭裁判所(0.84%)などがあります。
また、達成機関の割合を行政・立法・司法別に見ると、立法機関(衆議院・参議院・国会図書館)では全ての機関が法定雇用率を達成した一方で、行政機関(省庁等)では62%でした。
司法機関(裁判所)では、法定雇用率達成機関は1つもありません。裁判所における障害者雇用数が0というわけではありませんが、家裁・地裁・高裁・最高裁のいずれも実雇用率が1.5%未満と低い水準です。
【参考】
障害者雇用水増し3460人 国の機関8割、雇用率半減|日本経済新聞
平成30年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
法定雇用率2.0%時代(平成25年〜29年)の民間企業における障害者雇用状況
民間企業の場合、常用雇用労働者数が少ない中小企業での障害者雇用が一番の課題です。国としても、中小企業での障害者雇用を促進するため手厚い助成金を用意しています。
では、実際のところ中小企業の障害者雇用状況はどう変化しているのでしょうか。
民間企業における障害者雇用状況を見る場合、法定雇用率2.0%時代(2013年〜2017年)と2.2%時代(2018年〜)を分けて見る方が把握しやすいでしょう。
まず2.0%時代を見ると、民間企業全体でも、45.5人〜100人未満の企業や100人〜300人未満の企業でも、実雇用率は少しずつ伸びていることが分かります。
100人〜300人未満の企業では、2014年〜2015年で0.1ポイント増加し、それ以外では0.06〜0.07ポイントと微増を続けました。
45.5人〜100人未満の企業では、いずれの年も前年と比べて0.03〜0.06ポイントずつ増加しています。
ただ、増えているといっても、この調子だと法定雇用率達成までに最低でも7年ほどかかる計算。中小企業の法定雇用率達成は民間企業全体の法定雇用率達成の鍵でもあるため、決して楽観視できません。
【参考】
平成25年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
平成26年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
平成27年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
平成28年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
平成29年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
法定雇用率2.2%時代(平成30年〜)の民間企業における障害者雇用状況
中小企業での実雇用率は2.0%達成までまだまだ時間がかかる状況でした。しかし、大企業での障害者雇用が進んだおかげで、2017年には民間企業全体の実雇用率は1.97%に。そこで2018年に法定雇用率が2.2%に引き上げられました。
2018年と2019年の中小企業の実雇用率は以下のように変化しています。
単純に数値を見れば、45.5人〜100人未満では0.08ポイント、100人〜300人未満では0.1ポイントの上昇。法定雇用率引き上げ直後は、それまでと比較して大きく伸びたように感じられます。
しかし、2018年に短時間労働者である精神障害者のカウント方法が変わったため、法定雇用率の引き上げで一気に障害者雇用が進んだと安易に考えるわけにはいきません。2017年までのカウント方法で計算し直せば、2018年における民間企業全体の実雇用率は2.03%。これを考慮しながら見て行くと、伸び率は法定雇用率2.0%時代と大差ないと言えるでしょう。
東京2020も手伝って社会のバリアフリー化が進められる昨今。今回の集計結果でいくつかの項目が過去最高になっているとはいえ、障害のある人々が障害のない人々と同様に就労の機会を得られる社会を実現するには、中小企業が主体となった日本全体での継続的な取り組みが必要です。