2026/03/25
合理的配慮の伝え方、「会社に伝わる」6つのポイントと具体例
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厚生労働省の「令和7年障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業で働く障害者は70万4,610.0人で過去最高を更新しました。一方で、障害者の働き方についてノウハウがない企業も多く見られ、障害者側から合理的配慮の提供を求めることを「わがまま」や「甘え」と誤解するケースもあるようです。
合理的配慮の必要性と具体的な内容を伝えるには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。雇用者数が増えている精神障害の例とともに、伝え方のポイントをご紹介します。

「合理的配慮」を伝える前に知っておくべき前提

実際に会社側に合理的配慮の提供に関して相談する前に、いくつかの前提を確認しておきましょう。
(1)「合理的配慮とは何か」を知らない会社は意外と多い
合理的配慮の提供とは、障害のある人たちの困りごとに気づかないまま作られた仕組みを微調整し、社会的バリアを軽減すること。障害のある当事者・支援者・家族には、合理的配慮が生活や仕事においてとても大切なものということが実感をもって理解されています。
ところが、障害者雇用に慣れていない企業や、障害のある人と接する機会が少ない人では、社会的バリアがあること自体を知らないケースが珍しくありません。実際、障害者雇用促進法や障害者差別解消法で提供の義務が定められていても、「合理的配慮という言葉を初めて聞く」という企業担当者は意外と多いようです。
もし、会社の担当者が何も知らないようであれば、以下のような合理的配慮の目的とメリットや根拠法を伝えましょう。
【障害者雇用における合理的配慮の目的・メリット・根拠法】
| 目的 | 会社が従業員に求める役割・業務と、障害者自身の能力・特性のギャップを埋めて、安定して働き続けられるようにする |
| メリット |
|
| 根拠法 |
|
障害者が安定して働き続けるには、本人の努力のほかに周囲のサポートや環境調整も必要です。例えば、発達障害のあるケースで見られる「光の刺激に敏感である」という特性では、本人が努力しても、光の刺激をほかの人と同じような程度で受け取れるようにすることはできません。
- 職場でカラーグラスのメガネの使用を認めてもらう
- 本人の座席付近の照明を少し暗くする
- 照明を明るくする際は、事前に声をかけてもらう
といった、会社側の許可や環境調整、サポートが必要であることを理解してもらわなければなりません。
会社側に法律でのルールや合理的配慮の目的などをどう伝えればよいか困っている場合は、当マガジンにあるコラムをご活用いただくこともできます。以下の関連コラムでは、合理的配慮の提供に関する基本事項をまとめています。
(関連コラム)
- 障害者雇用の「合理的配慮」提供義務とは?|法律・事例・ガイドライン
- なぜ必要? 精神障害者雇用での合理的配慮とは
(2)合理的配慮の具体的な内容は、一人ひとり異なる
合理的配慮とは、障害特性に応じたサポートや調整のこと。「どのような障害特性があるか」によって具体的な内容が変わってきます。効果的なサポート・調整を行うには、時間をかけて対話し、「一人ひとり合った合理的配慮」を探っていかなければなりません。
障害の種類によっては、その種類によって大きな方向性を定めることもできます。例えば、「車いすユーザーへの合理的配慮として、施設の段差をなくし、通路を広くする」といったものです。
他方、発達障害や精神障害のケースでは、不安を感じやすい状況や疲れやすさ、集中力を発揮できる環境などが一人ひとり異なります。「チームで作業するほうがプレッシャーが軽減されていい」と感じる人もいれば、「一人で作業するほうが安定して進められる」という人もいるでしょう。
合理的配慮に向けた対話を続けていると、自身の障害と長く付き合ってきた本人にとっては、「なぜこんなことも理解してくれないんだ」ともどかしく思うことがあるかもしれません。しかし、障害特性は個別性が高いため、「察してもらう」ことは難しいと考えるほうが、対話を進めやすくなります。
(3)会社側と本人、両方の取り組みが必要である
合理的配慮の提供は、働きやすい職場づくりにつながります。ただし、会社からの一方的な「配慮」や障害者からの一方的な要求では、継続的に実施できる取り組みにつながりにくい点には注意が必要です。
会社が一方的に決めてしまうと、困りごとの軽減・解決につながらない施策となる可能性が高まります。障害者から一方的な要求を突きつけるだけでは、会社側に大きな負担をかけるとともに、周囲から「わがまま」と思われる恐れがあります。合理的配慮の提供によって事業活動を継続できなくなれば、そもそも従業員を雇用できません。
大切なのは、「一緒に働きやすい職場をつくりたい」という気持ちを会社と障害者の双方がもつことです。解決したい困りごとに対する具体的な対策について、本人の工夫と会社側のサポート・調整の2つの軸で考えることが、効果的な合理的配慮につながります。
合理的配慮の伝え方のポイント

実際に合理的配慮について相談する際のポイントもいくつかあります。1つは“自分が理解できる言葉”で伝えること、もう1つは「やってほしいこと」を詰め込まないことです。さらに、働くうえで避けて通れない人事異動の前後にも注意点があります。
(1)自分が理解できる言葉で伝える
“自分が理解できる言葉”で伝えるという1つめのポイントは、簡単にいえば「無理に専門用語を使う必要はない」ということです。
合理的配慮について相談する際は、「わがまま」と誤解されないように、法律の条文や診断書の内容も伝えられるとよいでしょう。しかし、それらの表現はあまり耳慣れず、会社側の担当者も理解に困ることがあります。そうしたとき、「つまり、どういうことなのか」を説明しなければなりません。うまく説明するには、自分が理解している必要があります。
また、合理的配慮の内容について話し合う中で、相手から「〇〇はどうですか?」と尋ねられることも多いでしょう。このとき、わからないのであれば素直に「わからない」と答えるほうが得策です。わからないまま「△△です」と言ってしまうと、実施される合理的配慮と本来の困りごとにズレが生じかねないからです。
わからないことの中に“わかる必要があること”が含まれるなら、会社との建設的対話を通じて一緒に確認していきましょう。「試しに、これでやってみよう」とお試し期間を設けるやり方もおすすめです。
(2)「やってほしいこと」を詰め込まず、1つずつ相談する
もう1つの「やってほしいこと」を詰め込まないというポイントも重要です。
複数の困りごとが発生していても、会社は全てを解決できるわけではありません。使える資金やサポートできる人員などとのバランスを見た際に「それは、なかなか実行しにくい」というケースがあるからです。
加えて、「あれに対する合理的配慮がほしい」「これに対しても合理的配慮がほしい」といろいろ詰め込んでしまうと、会社側は優先順位を判断できず混乱してしまいます。1つずつ見ていけば実施できることでも、一度に大量の要求が出されることで「そんなにたくさんのことは無理」という心理的抵抗を引き起こしてしまいかねないのです。上手に建設的対話を進めるには、1つずつ相談するとよいでしょう。
なお、求めた合理的配慮の内容でお互いに合意したとしても、一気に全てを実施することは難しいもの。会社の事業活動と並行して行うため、少しずつ取り組みを進める形が一般的です。継続的な環境調整を実現するためにも、会社側の状況を無視した一方的な要求にならないように気をつけましょう。
(3)人事異動・転職後は改めて建設的対話を行う
働くうえで必ず発生する人事異動では、サポート担当者や直属の上司がかわることが珍しくありません。担当者や上司の変更で起こりやすい問題は、合理的配慮の内容の引き継ぎです。
例えば、それまで「シングルタスクで指示を出し、業務のお手本を見せる」というルールで進めてきたことが、「シングルタスクで指示は出すが、忙しいので業務のお手本は示さない」というやり方に変わってしまうなどの事態です。
人事異動のあとに職場環境や仕事の進め方、指示の出し方が変わってしまった場合は、改めて合理的配慮の提供に向けた対話を行わなければなりません。従来のやり方を継続しにくいと判断される場合は、新しい対策を会社と一緒に考えましょう。
転職して会社が変わった場合も、やはり建設的対話によって取り組みを模索する必要があります。「以前働いていた会社ではやってもらえたのに、この会社では拒否される」ということは珍しくありません。必要な合理的配慮の内容が一人ひとり異なるように、会社が実施できる内容もそれぞれ異なるのです。これには、資金の問題、立地の問題、人員の問題、事業内容とのバランスの問題など、複数の要因が関わっているでしょう。
いずれにしても、困りごとが生じたら丁寧な建設的対話を行うことが大切です。
合理的配慮の伝え方については、障害者向けの保険事業を展開するぜんち共済が開催したセミナー「それぞれの現場から見える合理的配慮」が大変参考になります。以下のセミナーレポートをぜひご確認ください。
- (セミナーレポート)合理的配慮、どう伝える?どうやる?ぜんち共済セミナー「それぞれの現場から見える合理的配慮」から
【具体例】合理的配慮の伝え方

合理的配慮の伝え方として、今回は発達障害の特性で見られる感覚過敏を例に具体的に見ていきましょう。
合理的配慮の伝え方では、会社側が合理的配慮についてあまり知らない場合でもわかりやすいよう、特性や困りごとを具体的に説明し、「何をできるようにするために相談したいのか」という目的を伝えます。
例えば、ほかの人よりも音の刺激に敏感な「聴覚過敏」では、まず以下のように情報を整理してみてください。
【聴覚過敏の特性・困りごと・工夫・希望の整理例】
| 項目 |
内容 |
| 特性 |
|
| 困りごと |
|
| できるようになりたいこと |
|
| 自分がやっている工夫 |
|
| 希望する合理的配慮の内容 |
|
こうした情報を文章の形に整えると、次のようになるでしょう。
【伝え方の例】
障害者雇用促進法に定められている障害特性への合理的配慮について、ご相談させてください。
私には、聴覚過敏という特性があると医師から指摘されています。ほかの人には気にならない程度の音でも、私にはとても大きな刺激になるという特性です。職場では、自分の業務スペースで大きな音が発生しないよう、マットを敷くなどの工夫をしてきました。ただ、設備を使用する際の音が刺激となって落ち着いて仕事を進めることができなくなったり、頻繁に鳴る電話の音で頭痛が生じたりしています。
普段の生活では、静かな環境で過ごしたり、耳栓を使用したりしています。職場でも、こうした工夫を実施できるよう、以下の対策についてご相談したく思います。
- 職場での耳栓使用
- 座席の移動(ドアや印刷機の音、電話の音が気になりにくい場所)
お手数をおかけいたしますが、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
繰り返しになりますが、「こちらの要望を叶えてほしい」という姿勢よりも「会社での仕事を続けるために、一緒に対策を考えたい」という姿勢で伝えるほうが、その後の建設的対話につなげやすくなります。
建設的対話の中で対策案が浮かばない場合は、ぜひ他社の事例を参考にしてみてください。
(関連コラムシリーズ)
合理的配慮を伝える際に便利な「就労パスポート」

就職や職場定着を図る際に便利な情報共有ツールの1つに、「就労パスポート」があります。
就労パスポートは、厚生労働省がExcelなどでテンプレートを公開しているツール。これまでの職務経験や保有スキルに加えて、体調管理や希望する働き方、安定して働くために必要な機器・設備の調整、コミュニケーション面の状況などを整理し、会社側に伝えることができます。
就労パスポートを使う最大の特徴は、障害者が安定して働くために考慮すべき項目が列挙されていることです。自分で「あれは必要?これは必要?」と考える手間が省けるだけでなく、会社側にとって必要な情報も網羅的に伝えられるというメリットがあります。
現在の状況や配慮事項を書き込むにあたって自身の強み・特性を整理しますので、自己理解を深めるきっかけにもなるでしょう。
デメリットは、非常に多くの項目があり、作成には時間がかかることです。一人で作成しようとすると、逆に混乱してしまう可能性もあります。就労移行支援や就労継続支援といった障害福祉サービスや公的支援機関のプログラムの中で作成するほうが、負担を軽減できるでしょう。
就労パスポート作成の際は、全ての項目を一度に埋めようとせず、自身が働き続けるために必要と考えられる項目を優先して記入しましょう。作成後は、採用面接や面談の中でぜひご活用ください。障害特性やスキルの状況が変化したら、内容を随時更新していくことも大切です。
(関連コラム)
- 就労パスポートとは? 使い方とメリット・デメリット
- 発達障害者向け情報共有ツール「ナビゲーションブック」は「就労パスポート」とどう違う?
【参考】
「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省)
「就労パスポート」(厚生労働省)







