精神障害者雇用の特例措置とは?短時間労働者・特定短時間労働者の割合


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精神障害者の雇用には、短時間での労働が職場定着につながるという特徴があります。そのため、身体障害・知的障害では重度の方に限定される“ダブルカウント”および特定短時間労働者の算定について、精神障害者の場合は障害の軽重にかかわらず適用される特例措置があります。

今回は、特例措置の内容や、短時間労働者および特定短時間労働者の割合、実雇用率におけるカウント方法を見ていきましょう。

精神障害者雇用におけるカウントの特例措置とは

はじめに、精神障害者を雇用する際に活用を検討したい2つの特例措置を見ていきましょう。いずれも、実雇用率への算定において、通常とは異なるカウント方法を採るものです。

短時間労働に関する算定特例(20時間以上30時間未満)

1つめは、週20時間以上30時間未満で働く精神障害者について、実雇用率の算定で1人あたり「1」とカウントする特例です。障害者雇用促進法では、週20時間以上30時間未満で働くことを「短時間労働」と呼びます。

通常、短時間労働で働く障害者の場合は、「0.5」でカウントします。しかし、精神障害者については雇用促進の観点から、特定の要件を満たす場合に“ダブルカウント”を採用し、0.5の2倍である「1」でカウントするのです。

この特例措置を適用するには、適用しようとする精神障害のある労働者が、以下の要件を満たさなければなりません。

【短時間労働の特例措置適用の要件】※以下2つの要件を両方満たす

  1. 精神障害者であり、かつ短時間労働者である
  2. 次の a または b のいずれかに当てはまる
    a. 新規雇入れから3年以内の者である
    b. 精神障害者保健福祉手帳(以下、精神障害者手帳)の交付日から3年以内の者である

ただし、上の要件に当てはまっていても、次のいずれかに当てはまる場合は、適用できません。

【ダブルカウントの対象外となるケース】

  1. 精神障害者が退職し、その3年以内に同じ事業主に再雇用された場合
  2. 知的障害があると判定された者が、雇入れ後に発達障害によって精神障害者手帳を取得した場合で、知的障害の判定日から3年を超えている場合
  3. 知的障害があると判定された者が、発達障害以外の理由で精神障害者手帳を取得し、その精神障害者手帳の交付日から3年を超えている場合

この特例措置は障害者雇用促進法によって2018年4月1日に施行されました。その目的は、障害のある方が地域の一員として共に暮らし、共に働くことを前提とする共生社会を築くことです。

特例措置の期間は「当分の間」とされ、その後、2023年に障害者雇用分科会の検討によって2024年4月1日以降も適用されています。見直しに関する検討は2025年度中に再び行われる予定です。

なお、ダブルカウントは精神障害者以外に、重度の身体障害者、重度の知的障害者である労働者にも適用されています。

特定短時間労働に関する算定特例(10時間以上20時間未満)

2つめは、2024年4月1日に施行された特例措置です。2022年改正の障害者雇用促進法により、これまでは実雇用率の算定対象外だった週10時間以上20時間未満で働く精神障害者についても、1人あたり「0.5」でカウントできるようになりました。

週10時間以上20時間未満で働くことを障害者雇用促進法では「特定短時間労働」と呼びます。

この特例措置を適用するには、適用しようとする精神障害のある労働者が、以下の要件を満たす必要があります。

【特定短時間労働の特例措置適用の要件】※以下2つの要件を両方満たす

  1. 精神障害者であり、かつ特定短時間労働者である
  2. 就労継続支援A型の利用者ではない

この特例措置の目的は、障害特性により長時間の勤務が困難な障害者について、雇用機会の拡大を図ることです。そのため、精神障害者以外に、重度の身体障害者、重度の知的障害者も特例適用の対象となっています。

(関連コラム)
改正障害者雇用促進法の施行日と施行内容は?超短時間労働者の算定方法、新設助成金など

精神障害者雇用での労働時間は何時間が多い?

では、実際に短時間労働や特定短時間労働をする精神障害者は、どのくらいいるのでしょうか。また、それぞれの平均労働時間は何時間ほどなのでしょうか。

実態調査による短時間労働者・特定短時間労働者の割合・平均労働時間(2023年度)

まず、厚生労働省が5年に1度実施している「障害者雇用実態調査」の令和5年度版で1週間の労働時間別の労働者の割合を見ると、下表のようになります。

【精神障害者の労働時間別の割合】発達障害のみによる精神障害者手帳取得者を除く※1

週の労働時間 労働者の割合 1日あたりの平均労働時間 ※3
30時間以上 56.2% 6.10時間
20時間以上30時間未満 29.3% 4.59時間
10時間以上20時間未満 8.4% 2.72時間
10時間未満 2.7% 0.95時間

【発達障害者の労働時間別の割合】発達障害のみによる精神障害者手帳取得者※2

週の労働時間 労働者の割合 1日あたりの平均労働時間 3
30時間以上 60.7% 6.28時間
20時間以上30時間未満 30.0% 4.66時間
10時間以上20時間未満 4.8% 2.88時間
10時間未満 3.9% 1.19時間

※1 「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」(厚生労働省)のpp.14-18より編集部作成
※2 同上、pp.21-25より編集部作成
※3 総実労働時間の月間平均を22日で割った時間。実際は「週3日勤務」など勤務日数を減らすことで対応するケースもあるため、注意が必要。

上の表によれば、雇用された働く精神障害者の中で短時間労働者は約3人に1人、特定短時間労働者は10人に1人未満ということになります。

そして、特定短時間労働については、発達障害のみによって精神障害者手帳を取得した労働者よりも、精神疾患のある労働者のほうが活用する割合が高い状況のようです。発達障害のみの労働者では約21人に1人、精神疾患のある労働者の場合は約12人に1人という割合でした。

同調査では週の労働時間別平均賃金なども公表されています。以下の関連コラムでご紹介していますので、関心のある方はご確認ください。

(関連コラム)
【障害者雇用実態調査】働く精神障害者の手帳は2級・3級が8割、給料は平均15万円【3】

【障害者雇用実態調査】発達障害者の雇用拡大するも現場の支援に課題【4】

雇用状況報告による短時間労働者・特定短時間労働者の実数と割合

厚生労働省によるもう1つの調査結果を見てみましょう。

企業などが毎年6月1日時点での障害者雇用状況を報告する「障害者雇用状況報告書」をまとめた結果のうち、2024年の結果です(発達障害のみによって精神障害者手帳を取得した労働者も「精神障害者」に含まれる)。

まず、民間企業に雇用されて働く精神障害者の人数は、障害のある労働者全体の15.6%である15万717.0人でした。このうち、週30時間以上で働く人は72.9%、短時間労働者は24.5%、特定短時間労働者は5.3%となっています。

【精神障害者の労働時間別の割合】

週の労働時間 労働者の人数 労働者の割合
30時間以上 10万9,827人 72.9%
20時間以上30時間未満 3万6,902人 24.5%
10時間以上20時間未満 7,976人 5.3%

「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省)のp.11より編集部作成
これによれば、民間企業で働く精神障害者のうち約4人に1人が短時間労働者、約19人に1人が特定短時間労働者となります。

実態調査と割合が大きく異なる主な理由は、

  • 従業員40.0人未満の企業には、数障害者雇用状況報告書を提出する義務がないこと
  • 週10時間未満で働く精神障害者の場合、実雇用率にはカウントされないこと

などです。

調査規模としては、障害者雇用実態調査の回答企業数(6,406事業所)よりも障害者雇用状況報告書の提出企業数(11万7,239事業所)のほうが大きくなります。ただ、雇用状況の結果では平均労働時間はわからないため、両者を見比べつつ参考にするとよいでしょう。

公的機関における精神障害者の雇用状況については、以下の関連コラムでご紹介しています。

(関連コラム)
【障害者雇用状況】民間企業は過去最高を更新、短時間・特定短時間の状況は?【2024年】

精神障害者雇用での労働時間別カウント一覧

ここまで見てきたように、民間企業で働く精神障害者のうち、短時間労働者と特定短時間労働者の割合は、意外と大きいことがわかります。「障害者雇用でカウントできない」という理由で企業を悩ませてきた週20時間未満での働き方も、精神障害者雇用における有効性から今後ますます見直されていくでしょう。

以下に、短時間労働と特定短時間労働のカウント方法も含む一覧表をまとめました。

【障害者雇用率制度におけるカウント方法(1人あたり)

週の所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満 10時間以上20時間未満
身体障害者 1 0.5 (対象外)
重度の身体障害者 2 1 0.5
知的障害者 1 0.5 (対象外)
重度の知的障害者 2 1 0.5
精神障害者 1 0.5 0.5
特例適用の精神障害者 1

求人への応募者や今働いている従業員の状況と比較しながら、必要に応じて特例措置を活用していきましょう。

【参考】
「精神障害者の算定特例の延長について」(厚生労働省)
「平成30年4月1日から障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました」(JEED)
令和4年障害者雇用促進法の改正等について|厚生労働省
令和6年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

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