2021/04/22
【合理的配慮好事例・第10回】精神障害者のキャリアアップには人事制度の見直しと本人の意欲向上がポイント【障害者雇用】
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精神障害者は、その障害特性から短時間勤務で働く方が多く見られます。従来の「フルタイムで働かないとキャリアアップできない」という制度では、障害者のキャリアアップが難しく、それが仕事への意欲低下につながって昇格から遠のくという悪循環になる場合があります。
精神障害者のキャリアアップを実現するには、会社の人事制度と本人の意欲という両面で合理的配慮が必要です。
合理的配慮好事例解説シリーズ第10回では、制度と意欲向上という2つの観点から、キャリアアップの支援に関する好事例を紹介します。
もくじ
短時間契約社員制度とコース選択制度で達成感や責任感を—トッパン・フォームズ株式会社 日野センター
トッパン・フォームズ株式会社の生産拠点の1つ、日野センター。従業員数292名のうち13名が障害者で、その約半数が勤続3年以上となっています。同社は障害者雇用においてさまざまな取り組みを行い、平成28年に「精神障害者等雇用優良企業」に認定された他、平成30年度には好事例として最優秀賞を受賞しました。
フルタイム未満でも契約社員になれる「短時間契約社員制度」
日野センターでの好事例は、
- 支援機関と要関係を築いてそれを継続する
- 職場内でそれぞれの障害やパーソナリティーについて受容できるようにする
- 障害があってもなくても「社員にどのように働いてもらうのか」を体系的にとらえ直す
などが、雇用とキャリアアップ支援のポイントになっています。
人事制度における同社の特徴は、1日8時間未未満で働く従業員を対象に「単位関係約社員制度」を導入し、さらに「コース選択制度」を設けたことです。
もともとは1日8時間未満の従業員は時給制のパートタイマーとして雇用される制度でした。しかし、時給制だと営業日数によって毎月の収入にバラつきが出てしまいます。障害をもつ従業員の生活を安定させるため、短時間労働でも固定月給制にできる仕組みが必要でした。
そこで導入されたのが、「短時間契約社員制度」です。
<短時間契約社員制度の概要>
- 対象者:障害をもつ従業員
- パートタイマーからの転換を本人が希望している
- 1年以上安定して勤務している
- 人事部長の承認を受ける
「契約社員」という名称を使うことで、パトタイマーから契約社員へのキャリアアップを実感できるというメリットもあります。
短時間契約社員の収入をアップさせる「コース選択制度」
さらに、短時間契約社員は「コース選択制度」も利用できます。
<コース選択制度の概要>
- 対象者:短時間契約社員
- コース1:グループリーダーコース
- リーダーとして進捗管理や品質管理を行う
- 基本給の他に手当が支払われる
- コース2:専門職コース
- 人事部にあらかじめ自分の専門知識やスキルを申し出ると、その専門性が必要な場合に専門職として従事できる
- 基本給の他に手当が支払われる
もともと、基本の業務の他に追加的な業務を行っていた従業員は、基本の業務のみを行う従業員と同じ時給で働いていました。しかし、一部の従業員に不公平感や将来への不安が生まれてしまったのです。
基本の業務より多くの業務を担当する従業員に手当が支払われることで、従業員のモチベーションがアップし、それぞれの能力を引き出すことに成功。リーダーや専門職としての自覚や責任感が、従業員のキャリアアップへつながっています。
【参考】
精神障害・発達障害のある方の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例集(平成30年度)|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
トッパン・フォームズ株式会社 公式サイト
目標管理制度と面談で職域拡大からキャリアアップへ—第一生命チャレンジド株式会社
第一生命チャレンジド株式会社は、第一生命保険相互会社(現在の第一生命保険株式会社)の特例子会社です。知的障害者や精神障害者を中心として平成27年1月時点で132名の障害者を雇用。そのうち23名が精神障害者で、19人が正社員として働いています。
障害者雇用における多様な取り組みが評価され、平成26年度の障害者雇用職場改善好事例で最優秀賞を受賞しました。
同社で行ったキャリアアップに関する配慮は、目標管理制度と上司との面談を活用して段階的なキャリアアップを支援すること。好事例の中で紹介されたのは、精神障害をもつ従業員AさんとBさんの事例です。
目標設定と面談でステップアップ、社長賞受賞からトレーナーへ
Aさんの場合、上司の指示はよく聞くものの仕事への積極性がないことがキャリアアップの支障となっていました。そこで「目標管理制度」という年2回の目標設定と振り返りを行う制度を活用。その中で上司と面談し、「同僚とのコミュニケーションが必要な業務へチャレンジし、ステップアップする」という目標を定めたのです。
Aさんは目標を軸に仕事をするようになり、積極性も見られるように。周囲への気配りや他の社員に自分の考えを伝えることなどもできるようになっていきました。
その結果、その月に1番頑張った人として社長賞を受賞し、一般社員からトレーナーにキャリアアップできました。
モチベーションが低下している社員にプラスのフィードバックと段階的な職域拡大
Bさんの事例は、仕事へのモチベーション低下から出勤状況が不安定になっていた社員の意欲向上とキャリアアップの例。ここでも目標管理制度と上司の面談が大いに活用されました。
面談で、上司はBさんの仕事ぶりについてきちんと評価し、今後Bさんに期待していることもしっかりと説明。その上で、新しい業務や役割に挑戦するという目標を設定しています。
新しい業務では、“マニュアルを渡して終わり”というのではなく
- はじめは上司と一緒に作業を行う
- 上司が近くにいない中で、1人で作業してみる
という段階的な習得を図っています。
こうした取り組みによってBさんの職域が広がり、他の従業員への指導、見学者への対応、チーム全体のマネジメントが可能に。その後Bさんはトレーナーに昇格し、グループ全体の運営を担うようになりました。
【参考】
支援機関の活用や企業内における専門人材の育成等による精神障害者の職場改善好事例集(平成26年度)|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
第一生命チャレンジド株式会社
精神障害者のキャリアアップを可能にするための配慮ポイント
「フルタイム勤務でないとキャリアアップできない」という前提を一度外し、短時間勤務でもキャリアアップできるようにしたのがトッパン・フォームズの取り組み。一方、第一生命チャレンジドでは、本人へのフィードバックや目標管理などを通してキャリアアップへの意識付けを行い、意欲向上や職域拡大につなげました。
2つの事例から見えるポイントは、キャリアアップには人事制度と本人の意欲向上という両方向からの支援が必要だということです。
<精神障害者のキャリアアップを可能にする配慮ポイント>
- 段階的な業務の習得・職域拡大を図る
- 短時間勤務でも収入が安定しする制度(固定月給制など)を導入する
- 本人の意欲・専門性が業務や収入につながる制度を導入する
- 定期的な面談と目標設定でスキルアップやキャリアアップを支援する
障害をもつ従業員の中には、仕事への意欲や積極性が感じられないという方もいるでしょう。もしかしたらそれは「目標を見つけられない」「別の業務をやりたい」「頑張っているのに収入につながらず意欲がわかない」といったことが原因かもしれません。
そのような場合は、一度面談の機会を設定し、社内の支援者や外部支援機関などと連携して本人の意見を聞いてみてください。
もし人事制度が原因で意欲が低下しているなら、制度の見直しもしてみましょう。
本人の意欲・専門性を業務や収入につなげられれば、「もっとできるようになりたい」という積極性が見られ、キャリアアップにつながっていくかもしれません。