2026/04/09
合理的配慮の「聞き方」 企業が建設的対話でおさえたい5つのポイント
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民間企業における障害者雇用の法定雇用率が2.5%となり、さらに2026年7月には2.7%へと引き上げられます。雇用義務のある企業でこれを達成できなければ、不足人数に応じた調整金を納付しなければなりません。雇用状況によっては、ハローワークからの指導や厚生労働大臣による企業名公表もあり得ます。
障害のある従業員に安定して働き続けてもらうには、職場における合理的配慮の提供が欠かせません。今回は、採用面接における合理的配慮のヒアリングのポイントを解説します。

合理的配慮とは?法律、バリアフリーとの違い
はじめに、「合理的配慮とは何か」を根拠となる法律やバリアフリーとの違いをもとに確認しておきましょう。
合理的配慮とは?根拠となる法律
雇用分野における「合理的配慮」とは、障害のある人とない人について就労における均等な機会および待遇を確保し、障害のある人の能力発揮の支障となっている事情を改善することです。簡単にいえば、障害のある人の特性によって理解したり作業したりすることが難しい点を把握し、安定して働き続けられるように様々な調整を行うことをいいます。
雇用における合理的配慮の根拠となる法律は、障害者雇用促進法です。2016年の改正により、全ての事業主に対して
- 雇用における障害者差別の禁止
- 合理的配慮提供の義務づけ
- 相談体制の整備の義務づけ、および苦情処理の努力義務化
が行われました(障害者雇用促進法第36条の2および第36条の3)。
「合理的配慮の提供は、特別扱いではないか?」という疑念を抱く企業もあるかもしれません。しかし、障害のない人を対象に整えられてきた職場では、障害のある人がうまく能力を発揮できないケースは多く見られます。誰もが働き続けられる職場を実現するために制度・環境・遂行方法などの調整を行うことは、「特別扱い」の一言で片付けられるものではないのです。
近年増加している精神障害者の雇用では、身体障害者に比べて“見えにくい”という事情もあり、「合理的配慮を求めるのはわがままだ」と誤解されやすい状況にあります。これについては、パーソル総合研究所の調査結果とともに精神障害者雇用における合理的配慮の必要性を扱った以下の関連コラムで解説しています。
(関連コラム)
- なぜ必要? 精神障害者雇用での合理的配慮とは
合理的配慮とバリアフリーの違い

障害者の社会参加という点では、「バリアフリー」を思い浮かべる人も多いでしょう。バリアフリーと合理的配慮の提供は、重なる部分も大きいものですが、厳密にはやや異なります。
バリアフリーとは、様々な人が社会参加を果たすうえで支障となっている社会的障壁(バリア)をなくすこと。想定される対象者には、高齢者や妊娠している人、乳児を連れた人など、障害のある人以外も含まれます。近年では、設備面でのバリアフリーだけでなく、困っている人を排除しない「心のバリアフリー」もあり、とても広い概念です。
他方、合理的配慮の提供で想定される対象者は、第一には障害のある人となっています。しかも、一人ひとりの具体的な困りごとに対して、それを軽減・解決するための施策を進める個別性の高さも特徴です。
なお、合理的配慮の中でも「バリアフリー化している」という表現を使うことがあります。多くのケースで、これは「身体に障害のある人が利用しやすい施設・設備の整備を行う」という意味合いになります。
合理的配慮の提供までの流れ

合理的配慮の提供は、会社側から一方的に「こうすることにしたから、よろしく」で済むものではない点に注意しなければなりません。障害者本人の希望と会社側が実施できる範囲のすり合わせを行うことが前提となっているからです。
この“すり合わせ”は「建設的対話」と呼ばれます。建設的対話を含む合理的配慮の提供までの流れ(合理的配慮の手続)を3ステップで見ていきましょう。
(1)障害者本人の困りごとを知る・確認する
第1のステップは、障害のある従業員本人が抱えている困りごとを知ることです。本人から申し出るケースと、会社側や支援者が気づくケースがあります。
本人から申し出るケースでは、
- 上司やサポートメンバーに本人が伝える
- 社内の相談窓口に困りごとを相談する
- 定期面談で「困りごとはありますか?」といった質問に本人が答える
- 本人の家族や連携している支援機関から相談がある
といったパターンがあります。
会社側や支援者が気づくケースでは、
- 日々の業務やコミュニケーションの中で「やりにくそう」「ミスが多い」などの課題に気づく
- 定期面談において本人の話を聴く中で「ここに困っているのでは」と気づく
といったものが考えられるでしょう。
そうした申し出や気づきがあった際は、「まあ、何とかなるだろう」と放置せず、本人・上司・支援者などによる話し合いの場を設定します。
(2)建設的対話を実施する
話し合いの場では、障害のある従業員本人の希望を確認し、それに応じて会社側が実施できる調整内容を提案していくことになります。これが、建設的対話です。
困りごと・課題とそれに対応した調整内容には、次のようなものがあるでしょう。
【困りごとと調整内容の例】
| 困りごと | 調整内容 |
| 車いすユーザーが使いにくい |
|
| 音声での情報把握が難しい |
|
| 文字での情報把握が難しい |
|
| 病気や特性で疲れやすい |
|
ただ、施設・設備の整備には資金が必要だったり、業務の開始・終了時間の調整が難しかったりすることもあるかもしれません。本人の希望と会社側の提案にギャップがある場合は、何をどの範囲で実施するかを話し合う、新たな代替案について話し合うなどの対応が必要です。
重要なのは、どちらかが自身の要求を一方的に通そうとするのではなく、「一緒に話し合いながら解決策を探す」という姿勢です。
建設的対話の具体例については、ぜんち共済で開催されたセミナー内容がとても参考になります。合理的配慮の提供に関する企業事例も紹介されていますので、ぜひご確認ください。
(関連レポート)
- 合理的配慮、どう伝える?どうやる?ぜんち共済セミナー「それぞれの現場から見える合理的配慮」から
(3)合理的配慮の内容を確定・共有する
合理的配慮の内容についての検討は、合意形成を目指して進めていきます。合意を形成できたら、その内容を改めて本人に説明し、「いつから・誰が・何を実施するのか」を確認しましょう。
障害のある従業員本人の希望に沿った内容を実施できない場合は、その理由を説明する必要もあります。「うちには余裕がないから、そんな対応はできない」とするのではなく、「希望のような設備改修は資金の問題で難しいけれど、代わりに〇〇によって負担を軽減できるようにしたい」といったように、理由と代替策をセットにした説明をするとよいでしょう。
合理的配慮の内容として決定した事項は、必要に応じて職場のメンバーにも共有してください。
なお、合理的配慮の提供に向けた話し合いと合意形成後の情報共有では、障害のある従業員のプライバシーにも配慮しなければなりません。詳しくは、以下の関連コラムをご覧ください。
(関連コラム)
- 障害者雇用の「合理的配慮」提供義務とは?|法律・事例・ガイドライン
採用面接で合理的配慮の希望を聞く5つのポイント

建設的対話の準備や対話中に障害のある従業員本人の希望を聞く際は、ぜひ5つのポイントを意識してみてください。「要求が多い」「わがまま」という印象が和らぐとともに、本人や支援者と一緒に解決策を探る姿勢を維持しやすくなります。
本人にとっても、適切な質問が行われることで「自分は本当のところ、何を求めているのか」を再確認できるでしょう。
対象者の障害種別・特性・現状を把握する
1つ目のポイントは、本人の障害種別・特性・現状を把握することです。
合理的配慮の具体的な内容は、本人の特性と知識・スキルの状況、業務遂行に必要な施設・設備の状況、人間関係の状況などによって異なります。これらは、合理的配慮の検討にあたって、前提としておさえておかなければならない情報です。
【障害種別・特性・現状の確認(例)】
| 項目 | 観点 |
| 障害種別 |
|
| 障害特性 |
|
| 現状 |
|
対話の際にどのような前提情報があると進めやすいかは、対話の経験によってわかってくる部分もあります。話し合う中で「それが原因で困っていたのか」という気づきがあったら、ぜひそれをチェックリストに加え、次回以降の対話に活かしましょう。
「どのようなことに困りやすいか」を聴く
2つ目のポイントは、具体的な困りごとをヒアリングすることです。
例えば、「作業がやりにくい」という場合でも、
- 何をやろうとして、何ができないのか
- どのようなときに、やりにくいと感じるのか
- やりにくさには、どのようなことが関わっているのか(障害特性、知識・スキル、設備、指導方法、人間関係など)
といったように、複数の観点から見ることができます。
「やりにくい」という抽象的な表現だけで対策を講じると、「合理的配慮はしたはずなのに、問題が解決されない」という事態に陥りかねません。よりピンポイントな取り組みにつなげられるよう、困りごとの内容を可能な限り具体的に聴き取ることを意識しましょう。
「どのように働きたいか」「なぜ、そのように働きたいのか」を聴く
3つ目のポイントは、本人が「どのように働きたいか」や「なぜ、そのように働きたいのか」をヒアリングすることです。
仕事では、組織側の期待と業務を進める本人の希望が一致しない場合があります。これは、障害の有無にかかわらず起こることです。障害のない従業員に対しては、組織側が期待する各々の役割をしっかり伝え、その役割を果たせるよう教育を進めるという取り組みが一般的です。
障害のある従業員に対しても、組織側が期待する役割をわかりやすく伝えなければなりません。しかし、障害特性などの事情もあり、従業員側は期待される役割を全うできるとは限らない点に注意が必要です。無理をすれば症状が悪化し、働き続けられなくなる恐れもあります。だからこそ、本人がどのように働きたいかをきちんと聴く必要があるのです。
本人が望む働き方を知ることは、合理的配慮を求める理由の理解にも役立ちます。
「Aさんがうるさいから、席替えをしてほしい」
とだけ聞いていると、「Aさんの周辺の座席の人たちは何も言っていないし、我慢するべきだ」という考えが出てくるかもしれません。一方で、
「Aさんが大きな音を立てることで集中力が切れてしまう。もっと仕事に集中したいので、席替えをしてほしい」
ということまで把握できれば、業務を進めたいという主体性を活かすための環境調整を求めていることがわかるでしょう。
「あれをしてほしい、これもしてほしい」という要求が多数出てくる場合は、「そもそも、どのように働きたいのか」という視点で質問をしてみてください。
会社側のリソースやノウハウと照らし合わせる
合理的配慮の提供には、ある程度の資金や人員が必要となるケースが多く見られます。障害のある従業員本人と「これでいこう」と合意しても、それを実現するリソースやノウハウがなければ実施できません。無理に実施すれば、「1か月だけやる」「ずっとやるつもりだったけれど3か月で実現できなくなった」といった事態になってしまうでしょう。
ここで、「要望を会社側のリソースやノウハウと照らし合わせる」という4つ目のポイントが出てきます。こうすることで、持続可能性のある効果的な施策につなげることができます。
「本人が望むこと・できること」と「会社ができること」のすり合わせこそ、建設的対話の要なのです。
「どこまでやるか」が難しい/過重な負担になる場合の対応
合理的配慮の提供がリソースを大きく圧迫したり、「選択肢は複数考えられるけれど、どこまでやればいいのかわからない」と悩んだりする場合は、「過重な負担」の観点が参考になります。
【過重な負担かどうかを考える6つの観点】
- 事業活動にどのくらい影響するか
- 実現できるのかどうか
- 費用・負担がどのくらいになるか
- 企業規模を考えたときに負担が大きすぎるかどうか
- 企業の財政状況によって負担が大きいかどうか
- 公的支援を利用可能かどうか
求める施策が過重な負担にあたる場合、会社側は代替案の提示をしたり、合理的配慮の提供が難しいことを伝えたりします。
逆にいえば、これらの観点で考えて
「事業活動への影響が少なく金銭的にも対応可能である」
「公的支援を利用することで実施可能である」
と判断されれば、合理的配慮の提供を行う必要があるということです。
公的支援の利用では、障害者雇用に関する各種助成金やジョブコーチの利用、自治体の担当窓口・支援機関との相談などが選択肢に入ります。障害者雇用に関する助成金の例は、以下の関連コラムで紹介しています。
(関連コラム)
- 【障害者雇用助成金】障害者介助等助成金の概要と申請方法【2023年度版】
- 【障害者雇用助成金】障害者福祉施設設置等助成金の概要と申請方法【2023年度版】
- 【障害者雇用助成金】障害者作業施設設置等助成金の申請方法と受給後の流れ【2023年度版】
最新情報はハローワークへお尋ねください。
他企業の職場における合理的配慮事例もチェック
合理的配慮の希望をどのような観点から聞けばよいか迷ったら、ぜひ他社の取り組みも参考にしてみてください。
合理的配慮の事例集は、厚生労働省や厚生労働省所管の機関である独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構(JEED)、内閣府、各自治体などが公表しています。
【国が公表する合理的配慮事例集】
当マガジンでも、合理的配慮好事例シリーズやThe Valuable 500シリーズなどで、障害者雇用や障害者の社会参加に向けた様々な取り組みをご紹介しています。
【合理的配慮に関するコラムシリーズ】
合理的配慮の希望を適切に聞き、効果的な施策へつなげるには、「自社だけで解決しようとしない」という考え方が大切です。障害者の雇用と職場定着に成功している多くの企業が、外部支援機関と連携しながら合理的配慮の提供を進めています。自治体の相談窓口やハローワーク、地域の支援機関への相談も積極的に検討しましょう。
当マガジンを運営する「ルミノーゾ」でも、障害者雇用における合理的配慮の提供や職場定着に関するご相談に応じています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
【参考】
「雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務」(厚生労働省)





