【障害者雇用】一般就労の早期離職は障害者に原因?企業側担当者と当事者の認識差


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精神障害者が働く企業では、障害者の早期離職や適切な業務の割り当て、現場支援の難しさなどの課題が見られ、当事者には給与・教育面での不満が見られます。精神障害者の雇用の質を高めるには、どうすればよいのでしょうか。
今回は、精神障害者雇用における雇用の質向上の第一歩として、パーソル総合研究所の調査結果をもとに、企業側と当事者がすれ違いやすいポイントを見ていきます。

パーソルによる調査で見えた企業側担当者と当事者の認識差

精神障害者の雇用数が、近年大きく伸びています。それまで身体障害者や知的障害者を中心に雇用してきた企業でも、精神障害者の雇用数が増える例が見られるようになりました。一方で、精神障害者の雇用を進める企業には、ノウハウ不足や課題の蓄積に頭を抱えているところもあるようです。

一般に、精神障害者は早期離職率が高いと言われます。早期離職の原因として多くの企業側担当者が感じているのが、「障害者の職業準備性の不足・障害特性」。しかし、精神障害をもつ当事者の離職意向としては、決して高いものではありません。

こうした企業側担当者と当事者の間の違いを見ると、「本人は仕事を続けたいけれど、続けられない事情がある」ことがうかがえます。

パーソル総合研究所は、精神障害者の雇用数の確保から「雇用の質」へ移行している現在、「精神障害者の雇用ノウハウの蓄積と共有に資するべく」、2023年1月〜2月に定量調査・分析を行いました(*1)。この調査結果をもとに、企業側の担当者が感じている課題感と当事者の困りごと・不安を比較していきましょう。

*1 パーソル研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」

企業側の施策と課題感

今回の調査で明らかになったことの一つは、障害者雇用を進める企業における課題感は、精神障害者と精神障害者以外の場合で差が見られることです。その主な項目が、入社後1年以内の離職や職場定着に関する認識です。

精神障害者の早期離職とその原因

パーソル総合研究所の調査結果によれば、精神障害者の雇用では、それ以外の障害者雇用よりも1年以内の離職率が高く、職場の人間関係に何らかの課題があり、企業側が期待するパフォーマンスを発揮しておらず、勤怠も安定してないと評価される割合が大きいようです。

【精神障害者の定着・活躍度】(精神障害者以外との比較)

項目 精神(%) 精神以外

(%)

(pt)

入社後1年以内に離職することは、ほとんどない 48.0 67.7 -19.7
職場の仲間とうまくやれている 44.7 72.4 -27.7
期待以上のパフォーマンスを発揮している 29.9 51.2 -21.3
勤怠やパフォーマンスが安定している 32.4 69.5 -37.1

1年以内の早期離職の原因については、障害者本人の職業準備性や障害特性に帰属させる企業が多く見られました。他に、配属先の人間関係、業務内容とのマッチングなどをあげる企業もあります。

【企業側が考える精神障害者の早期離職の主な原因】

項目 割合(%)
障害者の職業準備性の不足・障害特性 50.0
配属先現場の人間関係 44.9
業務内容が合わない 39.7

早期離職の原因について精神障害者と精神障害者以外とを比較すると、「障害者の職業準備性の不足・障害特性」で特に大きな差が見られます。精神障害者で50%だったのに対し、精神障害者以外では18.9pt低い31.1%でした。他の障害種別より精神障害者の方のほうが、離職理由を本人の問題とされる割合が高くなっています。

他方、「業務内容が合わない」「採用時の見極めがうまくいっていない」「採用・配属時のコミュニケーション不足」といった企業側の課題をあげる選択肢が、約4割の企業に選ばれている点も重要です。「採用・配属時のコミュニケーション不足」を主な原因とした企業は、精神障害者雇用の場合で35.9%、精神障害者以外の障害者雇用の場合で22.2%。精神障害者の職場定着を図るには、最初のコミュニケーションの重要性を今一度認識する必要があるようです。

精神障害者雇用における課題

実際、p.72-73 精神障害者雇用の課題では、精神障害者雇用において

  • 採用時の見極めが困難
  • 勤怠・パフォーマンスが不安定、配属先の理解を得られない
  • 業務をうまく教えられない
  • 人材要件が曖昧

といった課題を企業側の担当者も強く感じていました。同時に、「現場社員が疲弊している」ことを課題としてあげた企業も3割ほどあり、精神障害者以外の場合と比較して大きな割合を占めています。

精神障害者雇用において、障害特性と業務の相性、健康管理で必要な施策、現場での障害理解など、多様な課題が発生した結果、障害者本人だけでなく、現場の上司や同僚にもトラブルが生じているようです。

具体的に精神障害者雇用におけるトラブルの発生状況を尋ねた設問では、障害のある当事者に関わるものの他に、その上司や同僚の体調悪化も約26%の企業に選ばれました。

【精神障害者雇用でのトラブル】

項目 割合(%)
障害者の症状・体調悪化 56.6
社内の人間関係のトラブル 39.2
無断遅刻・無断欠勤 31.4
障害者の勤務怠慢 28.6
障害者の上司・同僚の疲弊・体調悪化 26.2

企業側の取り組み姿勢

こうした課題感の中で、障害特性に合う業務の割り振りや現場における障害理解などについて、企業はどのような姿勢で取り組んでいるのでしょうか。

一般企業と特例子会社で比較すると、一般企業の全体的な傾向は、「育成・戦力化より安定就労」をより重視していることが分かります。

【障害者雇用への態度(一般企業)】

項目 割合(%)
障害者には成果発揮は求めず、安定的に働いてもらうことを重視している 55.3
障害者には無理に成長を求めない 42.4
障害者に手厚い配慮をしている 27.1
障害者の業務能力の育成を重視している 34.4
障害者の生産性を高めることを目指している 31.0

なお、特例子会社では、業務能力向上については81.1%が、生産性向上については73.0%が肯定的に答えました。障害者の戦力化が一般企業ではあまり重視されていないことが特に大きく表れた部分と言えるでしょう。

一般企業では、障害理解や業務の割り当て、勤怠やパフォーマンスの安定に関わる課題を、まずは勤怠の安定から解決しようとしているのかもしれません。

当事者の認識と困りごと・不満

企業側が多くの課題を感じる一方で、当事者側では主に給与やスキルアップの点で困っているようです。ただし、障害者枠と一般枠で大きな違いが見られる部分もありました。

障害者枠で働く精神障害者の困りごと・不満

実際のところ、精神障害のある方の早期離職率は、一般的に高い傾向にあります。しかし、調査によって明らかとなったのは、当事者の離職傾向が他の障害種別に比べて特に高いわけではないということでした。精神障害者と精神障害者以外で、「現在の勤務先で継続して働きたい」などの定着度、「任された役割を果たしている」などの活躍度に、ほぼ差は見られなかったのです。

とはいえ、障害者枠で働く精神障害者の困りごと・不満を見ると、現在の職場や働き方に満足しているわけではないこともうかがえます。特に給与やスキルアップにおける困りごと・不満が多く選ばれました。

【障害者枠での困りごと・悩みの割合】

困りごと・悩み 障害者枠

(%)

給料が安い 50.0
給料が上がらない 41.8
評価の基準が明確でない 37.7
教育・研修機会が少ない 32.8
知識・スキルが身につかない 29.9

一般企業では障害者雇用における姿勢で「育成・戦力化より安定就労」が強く表れましたが、その弊害がこうした困りごと・不満となっている可能性があります。

一般枠では障害をうち明けられないことで孤立

給料や評価、研修の機会といった障害者枠の困りごとを回避する方法の一つに、一般枠での就労があるかもしれません。ただ、一般枠では障害枠とはまた異なる困りごと・不満が生じます。
障害者枠と比較して特に大きな差が見られた項目が、以下の3つです。障害を周囲にうち明けられず、障害理解が不十分な環境で孤立してしまう方が障害者枠よりも多いようです。

【障害者枠と一般枠で差が大きい困りごと・悩み】

困りごと・悩み 障害者枠

(%)

一般枠

(%)

障害をうち明けられない 4.5 31.7
職場で孤立している 13.4 27.0
雇用契約や労働条件が守られない 0.7 12.7

一般枠単独で見た場合の当事者の困りごと・不満は、次のようになっています。やはり、全体として、職場に馴染めず、障害への配慮も受けにくい状況にあると推察される結果になりました。

【一般枠での困りごと・悩みの割合】

困りごと・悩み 一般枠

(%)

給料が安い 52.4
給料が上がらない 42.9
人間関係に馴染めない 33.3
障害をうち明けられない 31.7
相談相手がいない・相談機会が少ない 31.7

精神障害者の場合、一般枠での障害開示率は55.6%。開示している場合でも、人事・総務などの管理部門や上司への会議が中心で、職場の同僚への開示は3割未満にとどまっています。障害をうち明けられないことが、職場環境や業務内容とのマッチングなど、業務上重要な部分に大きな影響を与えていることがうかがえます。

精神障害者が職場で受けている配慮

では、障害を開示して働く精神障害者は、実際に職場でどのような配慮を受けているのでしょうか。

障害者枠か一般枠か、一般枠でも開示か非開示かで異なるものの、全体的な傾向としては、健康管理や障害理解に関する配慮を受けるケースが多く、障害特性に合った訓練・研修の機会は少なめという結果になりました。

【障害者全体での配慮TOP5】(身体+精神+発達)

1位 上司との定期的な面談がある 41.0%
2位 通院、服薬への配慮がある 39.9%
3位 休みをとりやすくする配慮がある 30.1%
4位 相談窓口がある 28.9%
5位 上司や同僚に対して、障害者の雇用について説明がなされている 21.4%

 

【精神障害者での配慮TOP5】

1位 通院、服薬への配慮がある 48.3%
2位 上司との定期的な面談がある 39.5%
3位 休みをとりやすくする配慮がある 37.1%
4位 相談窓口がある 31.2%
5位 短時間勤務など労働時間を調整する配慮がある 23.4%

精神障害者への配慮として特徴的な項目は、「短時間勤務など労働時間を調整する配慮がある」でしょう。障害者全体では19.0%(第7位)だった一方で、精神障害者の場合は4.4pt高い23.4%でした。
精神障害者の短時間勤務については、かねてより話題となっています。近年の障害者雇用促進法の改正でも、実雇用率算定にかかる特例措置の適用が引き続き認められた他、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者(および重度身体障害者、重度知的障害者)を新たに算定対象とするようになりました。

ちなみに、「障害に応じた教育訓練・研修がある」は、障害者全体で1.2%、精神障害者で1.5%の回答者にしか選ばれず、障害者雇用全体が抱える大きな課題となっています。

精神障害者雇用における認識差を解消するには

こうした一般企業側の担当者と当事者の間の認識差は、障害者の評価・処遇においても見られます。特に大きな差が見られたのが、下図の5項目でした。

当事者側では、パフォーマンスに応じた昇給・昇格がある、適性に合った仕事を割り振られていると感じる人の割合が、企業側の担当者よりも約30pt下がる結果となっています。

企業側と当事者の認識差を埋め、障害者雇用をより成功させるには、ノウハウを多く蓄積している特例子会社などの取り組みを参照するとよいでしょう。ノウハウを多く蓄積している特例子会社では、障害特性に関してしっかり配慮しつつも、障害者の育成・戦力化を進めています。有効な施策を進めるために外部の支援機関と密に連携したり、助成金を活用していたりするケースも、一般企業より圧倒的に多く見られる点も特徴的です。

精神障害者の雇用に行き詰まりを感じているなら、まずは自社における障害者雇用担当者と障害のある従業員との認識のズレがないかを確認してみてください。認識に差が見られる場合、そこが課題感の原因となっている可能性があります。精神障害者の雇用に実績のある企業の事例や支援方法を参照しつつ、雇用管理施策を見直してみましょう。

当マガジンでも、合理的配慮の提供や障害者のスキルアップ・キャリアアップ等に関する好事例を多くご紹介しています。ぜひ障害者雇用の成功にお役立てください。

(関連記事)
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障害者の在宅ワークシリーズ

【参考】
精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査|パーソル総合研究所

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