【障害者編】一般企業の職場定着に重要なナチュラルサポートとは? メリットとNS形成のプロセス


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一般企業や特例子会社の障害者雇用枠で就職する場合、職場定着でとても大切なのがナチュラルサポート(NS)の形成です。障害者にとってどのようなメリットがあるのか、どのように体制づくりが進められるのか、障害者職業総合センターの研究報告書をもとに見ていきましょう。

NS(ナチュラルサポート)とは? 障害者にとってのNSのメリット

「ナチュラルサポート」(以下、NS)とは、障害者の職場定着の支援として、職場で上司や同僚などが障害のある従業員をサポートすることです。日本の障害者雇用では、特にジョブコーチなどの支援者が中心となって体制づくりが進められるのが特徴です。NSが安定的に行われるようにすることは「NS形成」と呼ばれます。

NS形成が行われることで、障害をもつ方にも事業所にも大きなメリットが生まれます。まず障害者自身のメリットとしては、作業能力の向上、賞与・昇進への良い影響などが代表的で、最終的にはQOL(生活の質)の向上につながります。

一方で、事業所にとってのメリットは、サポートの安定化と負担感の軽減です。障害を持つ方へのサポートが良い意味で「ルーティン化」するため、大きなコストをかけずに自然なサポートができるようになります。

職場でのNS形成の3つのプロセス

NS形成を達成するには、障害者本人の能力や努力だけでなく、支援者の関わり方、職場環境の整備、適した職域の創出・選択なども重要です。

どのようなプロセスでNS形成を行っていくのか、その中でどういった変化が生まれるのかを知っておくと、障害を持つ方自身の課題だけでなく、職場環境や上司・同僚の方が解決すべき課題も見えてくるでしょう。

NS形成の初期:試行錯誤が続く苦しい時期

NS形成の初期では、試行錯誤が続く苦しい時期を過ごすかもしれません。職場でやってほしいと言われた業務が自分に合わなかったり、指示されたやり方ではうまく進められなかったりする可能性があります。

しかし、いろいろ試すうちに「これならうまくいく」という業務や方法を見つけられるようになります。障害をもつご本人、職場の従業員、支援者の三者が、辛抱強く模索を続けることが大切です。同僚の中には、障害を持つ方の支援に積極的に関わってくれる人も出てくるでしょう。

NS形成の中期:支援の方向性が決まる

試行錯誤の中で改善すべき課題が見えてくると、「どのような方向性で支援すべきか」も見えやすくなってきます。

こうした方向性はジョブコーチなどの支援者と事業所側で主に検討されますが、その方向性や支援内容については障害を持つ方ご本人の納得や理解も必要です。そのため、面談などを通して話し合う機会があるでしょう。

「どのような方向性で支援すべきか」で決めることは、具体的な目標と、その目標を達成するために必要なサポート方法などです。障害をもつ方自身の特性を考慮しながら、どういったレベルや内容の業務に取り組むのかなども決められます。

方向性が決まったら、実際にその方法で業務に取り組んでみましょう。その中で「うまくいく」「うまくいかない」といった部分が出てきます。うまくいかない部分については、さらに支援方法や業務内容の調整が必要です。ジョブコーチなどの支援者は、職場の同僚や上司にも、どのようにサポートすればよいのかを共有していきます。

もしNS形成がうまく進まない場合は、支援者から事業所に質問や提案が行われたり、別の作業内容・勤務時間・関わる同僚の方・役割分担といった点で大きな変更があったりするかもしれません。

NS形成の後期:サポートが安定化する・業務で成果が出てくる

やがて、障害をもつ方と事業所のよりよい関わり方や業務内容・レベルが分かってくると、障害を持つ方が業務で成果を出せるようになってきます。

職場でのサポートも安定的に行われるようになるでしょう。同僚や上司からの指示を聞いて繰り返し取り組むうちに、基本的には単独で作業を行えるようにもなってきます。

こうしたサポートの安定化と障害を持つ方自身の業務習得・スキル向上が「良い循環」をつくり、NS形成が完成していきます。

NS形成における「良い循環」「悪い循環」

ここで登場した「良い循環」は、NS形成を達成するために必要不可欠なものです。具体的には、職場での適切なサポートによって業務が進められるようになり、その頑張りが職場で評価されて再び適切なサポートにつながる、という循環を意味します。

NS形成で「成果が出始めた」「うまくサポートできるようになった」と感じられる状況には、こうした「良い循環」が存在しています。「良い循環」の維持には職場の従業員や会社の取り組みがとても大切。「良い循環」が安定して続くようになれば、ジョブコーチ等の支援者が関わる割合も小さくなっていくでしょう。

一方で、なかなかNS形成がうまくいかない場合には、職場に「悪循環」が発生している可能性があります。NS形成の初期や、さまざまな支援方法を試して成果が出ても事業所が認めてくれない場合などは、特に気をつけなければなりません。

この「悪循環」は、「良い循環」の内容をひっくり返したものとしてイメージすると分かりやすくなります。職場で十分なサポートが行われないことで障害を持つ方がうまく能力を発揮できず、仕事ができないと評価されて職場内で良くない感情が発生してしまう、それがまたサポート不足につながってしまうという状況です。

「悪循環」の存在は、事業所や障害をもつ方自身では気づけないこともあります。そのため、ジョブコーチ等の支援者が職場での支援を始める際にまず行うのが、業務や職場、従業員に関する情報収集と「悪循環」のチェックです。

NS形成で職場の人たちはどう感じるのか?

障害をもつ方には「職場の人たちは、どう思っているんだろう」と不安になる方もいるかもしれません。そこで、障害者職業総合センターの研究報告書をもとに、障害者雇用を進める現場の従業員がどのような感覚を抱くのか、それがどう変化していくのかをご紹介しましょう。

NS形成を始める前は「不安」

NS形成を始める前は、「まだ知らない方が新しく職場にやってくる」ということで、不安を抱く方が多く見られます。

障害全般についてのこと、障害特性、関わり方などをある程度事前に教えてもらっていても、やはり人と人の関係ですので、大なり小なり不安はあるものです。障害をもつ方自身も、新しい職場の環境や新しい上司・同僚がどのような人なのかについて、大きな不安を抱くでしょう。

こうした不安は「自然なこと」として受け止め、今後のNS形成に目を向けることが大切です。

NS形成初期は「関わらざるを得ない」

障害者雇用は、会社の経営層や人事部の主導で行われることが多くあります。そのため、実際に働く現場の従業員は経営層や人事部とは異なる感覚で障害者雇用を受け止めていることもあります。特に現場では「NS形成の初期でも業務は進めければならない」という事情があるため、障害をもつ方に適切な業務を割り当てたりやり方を教えたりする際は「関わらざるを得ない」という感覚をもつようです。

同じ職場で働く者同士、「どんな仕事なら担当できるかな」「どういったやり方なら、進められるかな」など、多くの試行錯誤を繰り返すことになるでしょう。「関わらざるを得ない」とは、仕事を覚えたり自分で進められるようになったりするために一緒に取り組んでいく必要があるという感覚です。

NS形成中期は「よくがんばっている」

担当できる仕事や効果的なやり方が分かってくると、少しずつ業務で成果を出せるようになります。そうした姿を見て、他の従業員も「よくがんばっている」という感覚を抱くようになります。

障害をもつ方自身の努力が認められて評価されるという「良い循環」が回り始め、少しずつサポートの安定化に向かっていくでしょう。

NS形成後期は「いてくれないと困る存在」

必要なサポートが安定的に行われるようになれば、障害を持つ従業員自身も、自分で仕事を進められる部分が多くなります。職場の大きな戦力となっていますので、他の従業員にとっても「いてくれないと困る存在」となるようです。

また、障害特性に合わせたサポートを行う中で、「ここは、こういうふうにやってね」という方法が他の従業員にとっても役立つ方法として定着することがあります。

「いてくれないと困る存在」とは、業務をほぼ自分で進められる戦力となるだけでなく職場改善にも貢献してくれる、大切な仲間という感覚です。

困ったら誰に相談する?

NS形成を達成できると、従業員にも事業所にも、とても良い影響があります。ただ、最初の苦しい時期をなかなか抜け出せないという事例も見られます。

もし適切なサポートをしてもらえない、他の従業員と良い関係を築けないなどの困りごとがある場合は、ジョブコーチ等の支援者や職場の上司に相談してみましょう。

職場の人に話しにくい場合は、会社が設置している障害者雇用向けの相談窓口に相談しても構いません。他にも、さまざまな外部機関の窓口があります。

なお、障害を理由とした虐待などの深刻な事態については、区市町村や都道府県の相談窓口があります。以下の関連記事で詳しく紹介していますのでご確認ください。

(関連記事)
雇用された職場で障害者いじめが発生したら?|障害者虐待の対応と相談先

【参考】
調査研究報告書 No.85『障害者に対する職場におけるサポート体制の構築過程-ナチュラルサポート形成の過程と手法に関する研究-』

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