【障害者雇用実態調査】発達障害者の雇用拡大するも現場の支援に課題【4】


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2024年3月に厚生労働省が公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」では、調査対象となった事業所で雇用される発達障害者の人数が約2倍となり、働く業界や職種の多様性が拡大しました。他方、外部機関と連携した支援を行う事業所の少なさが大きな課題となっています。
調査結果の内容をお伝えするシリーズ第4回は、雇用されて働く発達障害者の給与、労働時間、事業所が提供している合理的配慮や関係機関との連携状況などをご紹介します。

発達障害者の労働時間と平均賃金

2024年3月に厚生労働省が公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」では、5人以上の常用労働者を雇用する6,406事業所が回答した内容をまとめています。

同調査によれば、雇用されて働く障害者は全体で推計110万7,000人。その中で、発達障害者は推計9万1,000人となり、2018年の前回調査よりも3万9,000人増加しました(実際の人数は、今回1,583人、前回616人)。この調査で「発達障害者」に分類されているのは、精神科医により発達障害の診断を受けた人です。

まずは、雇用されて働く発達障害者の雇用形態、労働時間および平均賃金を見ていきましょう。

雇用形態と労働時間

発達障害者が働く際の雇用形態では、最も多いものが「有期契約・非正規」で37.2%、次が「無期契約・正社員」で35.3%でした。「無期契約・非正規」も23.8%で少なくない割合を占めています。

【発達障害者の雇用形態の割合】

有期契約・非正規 37.2%
無期契約・正社員 35.3%
無期契約・非正規 23.8%
有期契約・正社員 1.3%
無回答 2.4%

労働時間については、1週間あたりの所定労働時間が調査されています。最も多かったのは「30時間以上」の60.7%。次に大きな割合を占めたのは「20時間以上30時間未満」で30.0%でした。発達障害のある労働者の9割は、週20時間以上の所定労働時間で働いている計算です。

実際に働いた労働時間については、平均労働時間とあわせると、下の表のようになっています。

【発達障害者の週所定労働時間・1カ月の実働時間(平均)】

1週間あたりの
所定労働時間
労働者
の割合
総実労働時間
(月間平均)
週 30時間以上 60.7 138.2時間/月
週 20時間以上

  30時間未満

30.0 102.5時間/月
週 10時間以上

20時間未満

4.8% 63.3時間/月
週 10時間未満 3.9% 26.1時間/月
無回答 0.7%

労働日数を月あたり20日として単純計算すれば、

  • 週30時間以上の場合 …… 1日あたり実働約7時間
  • 週20時間以上30時間未満の場合 …… 1日あたり実働約5時間

という労働時間で働いていることになります。

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」における発達障害者の「雇用形態・週所定労働時間別」より作成

平均賃金と支払形態

発達障害者全体の月額平均賃金は、13万円です。これには超過勤務手当が含まれており、超過勤務手当を除くと、12万8,000円になります。

ただし、週所定労働時間によって、その平均額は大きく変わります。最も高いのは、週30時間以上働く層で、月額の平均給与は15万5,000円でした。次点は、週20時間以上30時間未満で働く層の10万7,000円です。

他の分類とあわせて下表にまとめました。

【発達障害者の労働時間別の平均給与】

1週間あたりの
所定労働時間
労働者
の割合
給与の金額
(月額平均)
週 30時間以上 60.7 15万5,000円
週 20時間以上

  30時間未満

30.0 10万7,000円
週 10時間以上

20時間未満

4.8% 6万6,000円
週 10時間未満 3.9% 2万1,000円
全体 13万0,000円

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」(図4−6、4−8)より作成

総務省が公表した2023年の「家計調査報告(家計収支編)」によれば、単身世帯の消費支出は、1世帯当たり月額平均16万7,620円とのこと。働いている人の単身世帯に限定して見れば、1世帯当たりの月額平均実収入は35万7,913円となっています。これらの金額と比較すると、発達障害のある労働者の収入向上につながる施策が必要であるといえるでしょう。

なお、賃金の支払形態では、「月給制」が過半数を占め、52.3%でした。次に多いのが、時給制の44.2%です。この2つの支払形態で9割以上を占めており、「日給制」「その他」は合計で3.4%のみでした。

手帳の等級と発達障害の種類

では、雇用されて働く発達障害者には、どのような人が多いのでしょうか。同調査では、精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)の等級や障害の種類の内訳もまとめています。

まず、手帳の等級では、「3級(41.1%)」が最も多く、次が「2級(23.6%)」でした。手帳を所持しておらず「医師の診断書等により承知している」と回答した事業所はわずか1.0%、「等級不明」としているのが16.3%ありました。一方で、等級について「無回答」だった事業所も、17.3%と多く見られます。

障害の種類では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」や「注意欠陥多動性障害」などの割合が示されました。割合の大きい順に並べると、下の表のようになります。

【雇用される発達障害者の障害の種類】

割合の

順位

障害の種類 割合
1 自閉症、アスペルガー症候群その他広汎性発達障害 69.1
2 注意欠陥多動性障害 15.2
3位 不明 9.2%
4位 その他 2.8%
5 学習障害 2.4
6 言語の障害、協調運動の障害 1.2

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図4−5より作成

「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」が全体の約7割を占めていますが、「注意欠陥多動性障害」や「学習障害」、「言語の障害、協調運動の障害」の方も雇用されて働いていることが分かります。

発達障害者が働く業界・職種ランキング

発達障害のある方が働く業界・職種では、それぞれ「卸売業、小売業(40.5%)」「サービスの職業(27.1%)」が1位となりました。

2位以下を見ると、業界別では「サービス業(14.6%)」「製造業(10.2%)」と続きます。職種別では、2位の「事務的職業(22.7%)」が約2割を占め、3位の「運搬・清掃・包装等の職業」はそこから10ptほど低い12.5%でした。

【発達障害者が働いている業種・職種 (2023年度)】

業界(産業)別 TOP5 職種(職業)別 TOP5
1位 卸売業、小売業 サービス職
2位 サービス業 事務職
3位 製造業 運搬・清掃・包装等
4位 運輸業、郵便業 販売職
5位 医療、福祉 生産工程

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図4−1、図4−7より作成

2018年に実施された前回の障害者雇用実態調査と比較すると、業界別では「卸売業、小売業」が半数近くを占める点や、「サービス業」「製造業」が上位に入っている点は変わりありません。一方で、「医療、福祉」は前回の11.6%から5.2pt下がり、反対に「運輸業、郵便業」が前回の2.2%から7.3pt上がりました。

職業別でも、いくつかの大きな変化が見られます。まず、今回調査で4位となった「販売の職業(9.5%)」は、前回調査では39.1%で第1位でしたが、そこから29.6pt減少しました。「事務的職業」も前回29.2%だったところから6.5pt減、「専門的、技術的職業」も前回の12.0%から6.2pt下がっています。

これに対して、「サービスの職業」で働く発達障害者の割合は、前回の10.5%から16.6pt上がり、大幅な増加を見せました。「運搬・清掃・包装等の職業」も、前回の5.5%から7pt増えています。

今回の調査と2018年調査では、精神障害のない発達障害者の数自体が2倍以上異なっているため、単純比較はできません。それでも、現在は多様な産業・職業で発達障害者が活躍していることがデータに表れたということはできるでしょう。

なお、精神障害者の場合と同様、発達障害者も約4割が従業員数1,000人以上の大企業に雇用されながら、それ以上の人が100人未満の事業所で働いています。特に多いのは「5〜29人」の事業所で働く方で、全体の61.3%を占めました。

これは、大企業の支店などに配属されて働いている方が多いことを意味します。中小企業の本社で働く場合も含めると、雇用されて働く発達障害者の5人中4人が従業員数100人未満の事業所で働いていることが分かりました。

発達障害者が働く職場の合理的配慮

障害者が安心して安定的に働き続けるには、職場における合理的配慮が欠かせません。そこで、合理的配慮の提供の有無や、配慮の内容などを尋ねた設問の結果も見ていきましょう。

まず、合理的配慮提供の有無では、「配慮している」と答えた事業所は全体の38.0%にとどまりました。「配慮している」と回答した事業所が実際に行っている施策で過半数を占めたのは、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮(61.2%)」および「短時間勤務等勤務時間の配慮(50.9%)」でした。

同時に、調査では発達障害者の雇用に関する課題についても尋ねています。「(課題が)ある」とした事業所は、合理的配慮を提供する事業所の約2.5倍となる65.3%。その中で、「会社内に適当な仕事があるか」という業務の切り出しや割り振りを課題とする企業が76.9%で圧倒的に多く、次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない(49.7%)」「採用時に適性、能力を十分に把握できるか(42.9%)」となりました。

 

【発達障害者雇用における課題と配慮事項】

課題 配慮事項
1位 社内での適切な業務の有無

(76.9%)

休暇・休憩の取りやすさ

(61.2%)

2位 障害者雇用のイメージ・ノウハウ不足

(49.7%)

短時間勤務等の勤務時間調整

(50.9%)

3位 採用時の適性・能力の把握

(42.9%)

通院・服薬管理などの雇用管理

(47.9%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図5−1、図5-2より作成

発達障害者雇用における課題の特徴は、第4位に現れる「従業員が障害特性について理解することができるか」が41.2%を占めた一方で、「設備・施設・機器の改善をどうしたらよいか」を選んだ事業所の割合がわずか9.9%だったことでしょう。「通勤上の配慮が必要か(9.3%)」についても、発達障害者では精神障害者と並んであまり重視されていないようです。

設備・施設・機器の改善、通勤上の配慮は「身体障害者のため」という前提が事業所側に存在するのかもしれません。

しかし、海外における発達障害者の雇用事例では、障害特性に配慮した音響設備や照明の改善、デスクの配置などに気を配っています。朝型の生活に支障のある従業員に対しては、午後からの出勤も認めていました。

感覚過敏のある発達障害者の場合、人混みを避けた通勤(あるいはテレワーク)ができるシステム、他の従業員の声や音、視覚的情報をある程度遮断できる設備・機器などが必要です。事業所側が具体的なノウハウを蓄積していくことで、施策の検討・実施がより容易になっていくでしょう。

発達障害における障害特性の把握には、定型的な分類の1つにだけ当てはめるのではなく、複数の障害の種類が重複している可能性、その程度などに加えて、具体的にどのような特性があるかを、一人ひとりについて上司や担当者が把握しなければなりません。

就労パスポートやナビゲーションブック等を本人と支援者が一緒に作成したり、自身の特性・困りごと・対処方法などを何らかの方法で伝えるなどして、実態に合う環境調整へつなげたいところです。

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関係機関との連携状況と求められる取り組み

事業所に具体的なノウハウがない場合、発達障害者の就労を支援する外部機関との連携が非常に重要です。ところが、発達障害者の雇用に関して「関係機関と連携した」と回答した事業所は、全体の約1割以下でした。

募集・採用段階で関係機関と連携した事業所の割合は、10.8%。連携先は「公共職業安定所」が70.9%で最も多く、次が「障害者就業・生活支援センター」の36.2%です。「学校・各種学校」「就労定着支援、就労移行支援、就労継続支援A型、同B型を行う事業所、作業所」「地域障害者職業センター」も2〜3割の事業所が連携していました。

発達障害のある従業員の職場定着において関係機関と連携した事業所は6.4%で、「障害者就業・生活支援センター(46.2%)」が最も多い連携先です。第2位は「公共職業安定所(36.3%)」、第3位は「就労定着支援、就労移行支援、就労継続支援A型、同B型を行う事業所、作業所(35.5%)」となっています。発達障害者に関わる専門支援機関である「発達障害者支援センター」との連携は、2.5%のみでした。

全体として見ると、まずは採用や助成金、障害者雇用にかかる報告書提出等で関係が深い公共職業安定所(ハローワーク)との連携が多く、具体的な雇用ノウハウや定着支援の相談・提供の中継地となる機能をもつ「障害者就業・生活支援センター」が次に多く活用されている印象です。

具体的なノウハウや発達障害のある本人への支援について現場レベルで連携する先として、就労移行支援や就労定着支援なども比較的よく使われています。

ただ残念なことに、こうした関係機関との連携による支援を行った事業所が1割程度しかありません。

発達障害者の雇用について、56.3%の事業所は今後の方針が「わからない」としており、過半数を占めました。「積極的に雇用したい」「一定の行政支援があった場合に雇用したい」と答えた事業所は、あわせて24.4%である一方、「雇用したくない」とした事業所は19.3%となっています。

以下にまとめた発達障害者雇用の促進に必要な施策、発達障害者を雇用しない理由とあわせて考えると、課題や外部からの支援の必要性を感じていても、ノウハウがない状態で足踏みしており、そこから先の相談窓口にたどり着けていない可能性が考えられます。

【発達障害者雇用促進に必要な施策・雇用しない理由(2023年度)】

必要な施策 雇用しない理由
1位 外部支援機関の助言・援助などの支援(62.5%) 適した業務がないから(77.3%)
2位 雇入れの際の助成制度の充実(58.0%) 施設・設備が対応していないから(29.2%)
3位 雇用継続のための助成制度の充実(53.0%) 職場になじむのが難しいから(27.5%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図6−2、図6-3より作成

また、企業が外部の支援機関に求める施策として、発達障害者雇用の現場で使える実践的ノウハウと助成、そして障害者雇用促進の基本施策となる広報・啓発が比較的多く選ばれていました。

【企業が支援関係機関に求める取り組み(2023年度)】

配慮事項

1位 具体的な労働条件、職務内容、環境整備などが相談できる窓口の設置(30.6%)
2位 障害者雇用に関する広報・啓発(25.5%)
3位 障害者雇用支援設備・施設・機器の

設置のための助成・援助(23.4%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図5-7より作成

今後の発達障害者雇用推進にあたっては、

  • 発達障害者の雇用・職場定着に関して相談できる窓口があること
  • 雇用に関する助成金があること
  • 施設・設備・危機等を整備する際に助成金を活用できる可能性があること

などを事業所と共有しながら、ジョブコーチや他企業の好事例集を活用しつつ、ノウハウをの蓄積へつなげていく必要があります。

他企業の好事例集として代表的なものは、JEEDが公開する好事例集やマニュアル等です。自治体レベルでも、積極的に障害者雇用を進めている企業を表彰し、各企業の取り組みを紹介しています。

全国の事例から探したい場合は、次のようなデータベースも便利でしょう。

 

【合理的配慮の公的なデータベース例】

名称 特徴 URL
合理的配慮サーチ 具体的な事例を検索できる
障害の種類・場面を指定した検索が可能国による総合的なデータベース
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/
障害者差別解消に関する事例データベース 差別事例、合理的配慮事例等を検索できる

障害の種類・場面・性別・年代での検索が可能

様式が統一された国のデータベース

https://jireidb.shougaisha-sabetukaishou.go.jp/

当マガジンでも、発達障害のある人の働き方、実践的ノウハウなどをご紹介しています。

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これらの情報を、ぜひ職場の方との情報共有や施策検討にお役立てください。

【参考】
令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省
平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省
家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要|総務省統計局

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