視覚障害者に気楽な町歩きを!IBMなどが「AIスーツケース」開発中


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視覚障害がある方は白杖や盲導犬などを頼りに、頭の中の地図と経路を確かめながら移動しています。わずかな感触や音の変化で人の往来、障害物の有無などを認識しているものの、時には「ないはず」だった物にぶつかってしまうことも。「AIスーツケース」はそうした移動の困難をAIで解決しようとしています。

「AIスーツケース」とは? 機能・特徴・開発のきっかけ

「AIスーツケース」は、スーツケースのような外観の移動・行動・コミュニケーション支援機器です。カメラなどのさまざまなセンサーによって周囲の状況を認識しながらユーザーを目的地まで誘導するもので、普通のスーツケースのように持ち手を掴んで歩けます。

AIスーツケースの機能・特徴


出典:「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」共生社会の実現に向け、AIスーツケースの実証実験を開始|PR TIMES

AIスーツケースには、移動を支援する基本機能と行動・コミュニケーションを支援する独自機能が搭載されています。コロナ禍を受けて追加機能も開発され、ニューノーマル社会に対応できるよう利便性を高めてきました。

AIスーツケースで活用されているのは、以下のような技術です。

  • 触覚インターフェース
  • 画像認識
  • 対話AI
  • 行動/環境認識
  • クラウド技術
  • ロボット技術
  • 測位/ナビゲーション技術
  • モビリティサービス
  • 視覚障害者支援技術

こうした技術により、AIのスーツケースには次の機能が搭載されました(2021年6月現在)。

<AIスーツケースの機能>

  • 基本性能:移動支援
    • 位置情報と地図情報から目的地までの最適ルート探索
    • 音声・触覚などによる情報提示と誘導
    • 映像・センサーの情報をもとにした障害物の認識と回避
  • 独自機能:行動・コミュニケーション支援
    • 位置情報とクラウド上の情報を元にした周囲のお店の案内、買い物支援
    • 映像情報から知人の認識
    • 周囲の人の表情・行動から相手の状況を判断し、円滑なコミュニケーションを支援
    • 映像・センサーの情報をもとにした、状況に応じた社会的行動の支援(「行列に並ぶ」など)
  • 追加機能
    • 映像・センサーの情報をもとにしたソーシャル・ディスタンスを確保しながらの誘導
    • 周囲の人のマスク着用有無を判定し、音声と触覚(振動)で知らせることによる、状況に応じた行動支援
    • マスク着用時でも映像から知人を認識し、円滑なコミュニケーションを支援
    • 商品タグのRFIDをスマートフォンで読み取らせることによる、商品情報の音声伝達と買い物支援(RFID導入店舗限定)


出典:「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」設立のお知らせ|アルプスアルパイン

AIスーツケース開発のきっかけはIBMフェロー浅川智恵子さん

AIスーツケース開発のきっかけは、IBMフェローでカーネギー・メロン大学客員教授、日本科学未来館の第2代館長を務める浅川智恵子さん。浅川さん自身も視覚障害者です。

浅川さんは小学5年生の事故がきっかけで徐々に視力が弱まり、中学生の頃には両目の視力を失いました。その後、1985年に日本IBMに入社し、視覚障害者としての課題解決に取り組んでいます。

浅川さんが視力を失って困ったことの1つに「移動」の問題がありました。

視覚障害をもつ方が街の中を歩くには、自分の歩数、曲がった方向と回数、障害物の有無など、さまざまなことを意識し続けなければなりません。一方で、障害のない方は「ちょっと外に出てみようかな」「ちょっと買い物に行ってくる」といった気軽な外出が可能です。

この解決策として浅川さんが提唱したのが、AIスーツケースだったのです。

「視力のある人が楽しんでいる町歩きやショッピングをいつかできるようになりたい」

AIスーツケースには、浅川さんのそうした夢が詰まっています。

AIスーツケース実証実験のポイント

AIスーツケースの開発は実証実験の段階まで進んでいます。もともと実証実験は2020年夏に実施予定でしたが、コロナ禍の影響で同年秋に延期されました。しかし、延期された期間の中でソーシャル・ディスタンス確保やマスク着用有無の判別ができる機能が追加されています。

実証実験の場所は、開発に関わる三井不動産株式会社が管理運営する商業施設コレド室町3。今後も商業施設、公共交通機関、大学構内などを検討しているようです。

AIスーツケースの社会実装に向けた実証実験におけるポイントは、きちんとユーザーを安全に誘導できるか、社会がAIスーツケースを受け入れて対応できるかなどです。

<AIスーツケース社会実装のためのポイント>

  • 人が多い所で、ぶつからずに移動できるか?
  • 急な角を曲がれるか?
  • 安全に階段、エスカレーター、エレベーターを利用できるか?
  • 施設の店員がAIスーツケースを受け入れて接客できるか?
  • 施設管理側の理解・協力を得られるか?

コレド室町3で先駆けて行われたデモンストレーションの動画は、AIスーツケースを開発する一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム(以下、AIスーツケース・コンソーシアム)の公式サイトで公開中です。

次世代移動支援技術開発コンソーシアム(AIスーツケース・コンソーシアム)とは


出典:about|次世代移動支援技術開発コンソーシアム

AIスーツケースを共同で開発するAIスーツケース・コンソーシアムは、AIスーツケース開発にあたって設立された組織。参加するのは、AIスーツケースの開発に参加・賛同している企業と浅川さんです。

正会員には日本IBM、清水建設、オムロン、アルプスアルパイン、準会員には三菱自動車工業が名を連ねています。AIスーツケース開発に賛同する賛助会員は、慶應義塾大学、早稲田大学先進理工学研究科の森島繁生研究室、日本盲導犬協会、エース株式会社、日本科学未来館です(2021年6月現在)。

正会員と準会員には開発における担当分野が割り振られており、浅川さんが客員教授を務めるカーネギー・メロン大学も参加。AIスーツケース・コンソーシアムは各企業の得意分野を生かした共創の場となっています。

<AIスーツケース・コンソーシアムにおける役割分担>

  • アルプスアルパイン:触覚インターフェース
  • オムロン:画像認識
  • 日本IBM:対話AI、行動/環境認識、クラウド技術
  • 清水建設:ロボット技術、測位/ナビゲーション
  • 三菱自動車工業:モビリティサービス
  • カーネギー・メロン大学:視覚障害者支援技術

まずは商業施設・空港・美術館での活用へ

浅川さんによれば、AIスーツケースが社会の中で活用されるには、ユーザーや社会の理解を得ていく必要があるとのこと。現段階では個人が所有して使うというより、公共施設等で貸し出して使ってもらうという形を考えています。今後、美術館、空港、ショッピングモールなどで、私たちもAIスーツケースを目にする機会があるかもしれません。

AI技術やロボット技術の発展は社会のさまざまな分野に影響を及ぼしていますが、障害をもつ方の社会参加や障害者雇用も例外ではありません。AIスーツケーツ開発でもOriHimeの開発・実験でも、多様な人々が活躍できる包括的な社会へ向けて日本の企業が協力して歩みを進めています。

現在、障害者の社会参加を支援する新技術に出会いやすいのは東京・日本橋。AIスーツケースの実証実験やOriHimeの常設実験店舗オープンなど、日本橋での成功が日本全体の障害者雇用や障害をもつ方の社会参加に大きな影響を与えていくことが期待されています。

(関連記事)
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なお、AIスーツケース・コンソーシアムでは、実験に参加したいユーザーや活用可能なデータを提供できる企業からの連絡を待っています。AIスーツケース・コンソーシアムの公式サイトから問い合わせ可能です。

【参考】
「誰一人取り残さない」社会の実現へ――2021年4月、日本科学未来館の館長に就任する浅川智恵子IBMフェローに聞く|THINK Blog Japan
「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」共生社会の実現に向け、AIスーツケースの実証実験を開始|PR TIMES
一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム 公式サイト

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