神奈川県川崎市の「K-STEP」とは?セルフケアシートの使い方・ダウンロード先


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神奈川県川崎市が専門機関と共同開発した「K-STEP」をご存じでしょうか。K-STEPは、精神障害のある方を対象とした、セルフケアを実践しながら就労定着を図るためのコミュニケーションツール。就労移行支援事業所や就職後の職場などで活用されています。今回は、K-STEPの使い方とダウンロード先をご紹介します。

川崎市の「K-STEP」とは


画像出典:K-STEP「04.セルフケアシート(タイプ1記載例)(PDF形式, 33.57KB)」|川崎市

神奈川県川崎市は、「セルフケアを実践しながら就労定着を図るためのプログラム」として、専門機関とともに「K-STEP」というコミュニケーションツールを開発しました。K-STEPは「Kawasaki Syurou TEityaku Program」の略。精神障害のある方を対象としており、就労移行支援事業所や企業の職場で活用されています。

K-STEPで使われる「セルフケアシート」では、さまざまな「サイン」や対処法を確認しながら、自分の今の状態を毎日記録していきます。状態の変化だけでなく、ストレス緩和やリカバリーに必要なセルフケアの記入欄もあります。毎日のセルフケアを意識的に実践していくことが可能です。

セルフケアシートの内容を支援担当者や上司と共有すれば、今の自分の状態を伝えて作業内容の調整をしたり、状態の変化の特徴を分析したりすることにも役立ちます。K-STEPは、健康管理や合理的配慮の要求・提供につながる、重要なコミュニケーションツールのひとつです。

K-STEPが開発された背景

K-STEPが開発された背景には、精神障害のある方が職場で抱えやすい課題や、そうした課題への適切な対処方法が活用されていないのではという問題意識がありました。

精神障害のある方の場合、職場などでは次のような課題が見られます。

  • 他の方々よりも疲労しやすい
  • 心身の状態や体調の変化を伝える際に、具体的にどのような点で良い・悪いのか、自分でも把握していないことがある
  • 自分の状態をうまく伝えられず、必要な配慮を受けられないまま、状態が悪化してしまう
  • 必要な配慮を受けられないまま、状態の回復が遅れたり再発しやすくなったりする

こうした課題に対しては、どのような対処をすれば状態の回復や課題の解決につながるかを検討する必要があります。それには、検討材料となる「状態の変化」を記録しておかなければなりません。

K-STEPのセルフケアシートでは、毎日の自分の状態の変化を一定の基準で評価し、記録することができます。そうした記録を分析することで、職場での課題を軽減・解消しつつ、長く働くための仕組みづくりにつなげていこうというものです。

K-STEPの5つの特徴

川崎市は、K-STEPの特徴として以下の5つをあげています。

  1. 障害理解が促進される
  2. 状態の共有が促進される
  3. 合理的配慮の提供とセルフケアが促進される
  4. 職場等での相互の信頼関係が強まる
  5. 導入時に特別な設備を用意する必要がなく、費用もかからない

障害理解の促進では、今の状態を自分で評価して記録することで、状態の変化や、とるべき対処法を確認できます。状態が変化したきっかけを一言で書く欄もあり、「何が原因で変化したか」の記録が可能です。状態の変化のサイクルや悪化する・回復するきっかけを長期的な視点で理解できるでしょう。

セルフケアシートは1日1行の記録で済みます。各項目のどこにチェックがついているか、状態の変化があった場合のきっかけや気づきが一目で分かるため、より短時間で、的確に状態を共有しやすいのです。

合理的配慮の提供と信頼関係の強化は、報告を受けた支援者や職場の担当者が、報告を聞いたあとに「1つだけ簡潔な質問をする」というK-STEPの手順にあります。質問を「簡潔に」「数分で」行うことによって、毎日の記録と報告を続けやすくなります。さらに、「1つだけ」とすることで、最も重要なポイントに目を向けやすくなるでしょう。

質問への回答は、職場における合理的配慮の提供につながります。こうした報告と質問を通じてコミュニケーションをとる習慣が生まれ、お互いの信頼関係も構築・強化されるでしょう。

5つめの特徴は、コストに関する点です。使用するツールは、川崎市の公式ページからダウンロードできるエクセルシートやPDFのみ。あらたに教材や設備を購入する必要はありません。初期費用がかからず、K-STEP利用者の同意があれば、明日からでも導入できます。

K-STEPツールのダウンロードと使い方

川崎市の公式ページには、支援事業者や企業向けのマニュアルとともに、セルフケアシート等のツールが掲載されています。今回は、セルフケアシートの「タイプⅠ」をもとに、精神障害のある方が実践できる使い方を6つのステップに分けて見ていきましょう。

(1)K-STEPの作成ツールとセルフケアシートをダウンロードする

K-STEPで主に使用するのは、「作成ツール」と「セルフケアシート」です。下の公式ページにある「関連資料」の欄からダウンロードできます。

K-STEPの主な実践マニュアルとして、PDF形式の「03.セルフケアシート作成ツール」をダウンロード。セルフケアシートは、エクセル形式の「06.セルフケアシート(原本)」をダウンロードしましょう。

2023年5月現在、「03.セルフケアシート作成ツール」はver. 6.0、「06.セルフケアシート(原本)」は令和2年2月更新が最新版となっています。

(2)「良好サイン」「注意サイン」「悪化サイン」を選ぶ

作成ツールには、セルフケアシートの作り方と使い方が記載されています。その中に、次の3つのサインリストがあります。

  • 良好サイン・リスト
  • 注意サイン・リスト
  • 悪化サイン・リスト

ファイルをダウンロードしたら、この3つのサインリストを見ながら、自分に当てはまりやすい項目を選んでいきましょう。


画像出典:K-STEP「03.セルフケアシート作成ツールver.6.0(PDF形式, 598.63KB)」|川崎市

なお、3つのサインリストにある項目は、さらに以下の3つに分類されています。

  • 五感や身体やリズムに関するもの
  • 思考特性やモチベーションなどに関するもの
  • 行動特性に関するもの

各分類から2つ選ぶと、1つのサインリストで6つ、3つのサインリストで合計18個選べます。これが多すぎるようなら、より自分に合った項目に絞り込んでいくとよいでしょう。「元気がある」「元気がなくなる」など、表裏の関係にある項目は、どちらかひとつだけにすると、より使いやすいシートになります。

サインリストから項目を選んだあとは、そのサインを並べ替えてください。左にいくほど「良好」、右にいくほど「悪化」のサインになるようにすると、自分の状態の変化をより把握しやすくなります。

ここまでできたら、セルフケアシートの「良好サイン」「注意サイン」「悪化サイン」に書き写します。各項目の表現は、自分に分かりやすい範囲で省略してもOKです。もしリストにある項目よりも自分に合う言葉があるなら、それを書き込んでも構いません。

(3)「予防・回復対処(リカバリー)」を選ぶ

次に、セルフケアシートの「リカバリー」に記載する項目を選びましょう。最初は5つの欄が設けられていますが、自分に合った数に増やしたり減らしたりしても構いません。

リカバリーは、2つのタイプに分けて考えると選びやすくなります。1つは、10分程度で実践できる「ちょっと予防・回復対処(リカバリー)プラン」。もう1つは、1時間や半日、1週間など、長めの時間をとって実践する「しっかり回復プラン」です。


画像出典::K-STEP「03.セルフケアシート作成ツールver.6.0(PDF形式, 598.63KB)」|川崎市

この2タイプのプランにおける具体例も、作成ツールの中に記載されています。
「身体の疲れを回復するには?」
「心の疲れを回復するには?」
「医療的な方法は?」
などを考えながら、自分に合った方法を書き出していきましょう。

プランを書き出したら、左にいくほど時間が短いもの、右にいくほど時間が長いものになるよう並べ替えてシートに記入すると、運用しやすくなります。

(4)毎日記録する

ここまでで、セルフケアシート作りが終わりました。あとは、毎日記録する習慣をつくりながら、運用していきましょう。記録は、特定の時間に行うことが大切です。

記入欄のうち「オフタイムC」は、前日からその日の朝までの、仕事以外の時間について振り返る欄です。「服薬管理」は、しっかり薬を飲んでいるかを記録。「備考」には、状態が変化したきっかけや気づき、服薬の情報などを記入しましょう。

オフタイムCと各サイン、リカバリーには、○や△、×を記入していきます。それぞれの記号の基準は、以下のとおりです。

  • オフタイムC
    • ○:問題なし
    • ×:問題あり
    • △:どちらでもない
  • 良好・注意・悪化サイン
    • ○:該当する
    • △:少し該当する
  • リカバリー
    • ○:実施した

(5)(事業所で使う場合)報告して質問に答える

セルフケアシートは、基本的に、就労移行支援事業所などの支援事業所や就職後の職場で活用します。そのため、運用手順には、シートに記入した内容を支援者や職場の担当者・上司に毎日報告することも含まれています。

報告の際は、長くなりすぎないよう、1~2分を意識して簡潔に伝えましょう。すると、報告を受けた支援者・担当者・上司の方から短い質問をされますので、それに答えてください。質問への回答やその後の相談では、今の状態にあった業務内容やリカバリーなど、その日の過ごし方について話すとよいでしょう。

朝に報告を実施するなら、その日の状態に合った業務内容や進め方の相談が可能です。他方、他の時間帯に報告する場合は、その後の業務内容や進め方、夜の過ごし方などを相談できます。

(6)定期的にシートを見直す

セルフケアシートは、「一度作ったら終わり」ではなく、定期的に見直していきましょう。必要に応じてシートを調整していくほうが、より自分に合ったシートになるからです。

シートの見直しを行う際は、作成時点または前回の見直しから、どのように状態が変化しているのかを1カ月単位などで分析してみてください。状態が悪化しやすいタイミングやきっかけ、回復につながるきっかけなど、きっと新しいきづきがあるでしょう。

その上で、
「今回は、こういうサインがあった」
「こういう対処をしたら、回復が早くなった」
など、項目に書かれていないポイントがあったかどうかをチェック。必要に応じて、項目を追加したり修正したりしてください。

K-STEPを毎日書くための工夫

セルフケアシートは、エクセル形式か、印刷した紙の形で使われるケースが多く見られます。ただ、この方法は、毎日の記録が重要であるにもかかわらず、「エクセルファイルを開く」「ペンと紙のシートを取り出して記入する」という手間がかかります。エクセルファイルを開けるパソコン、または紙とペンを持ち歩かなければ、定期的に記入し続ける際のハードルになってしまうでしょう。

そこで、ある利用者はセリフシートを改良して運用しました。その事例をご紹介します。

その方は、紙とペンで記入する方法をもともと実施していたものの、持ち歩くことを忘れることがあったそうです。そこで、セルフケアシートをGoogleスプレッドシートに作り変え、スマートフォンでも持ち歩き・記入できるようにしました。記入内容をグラフで表しやすいよう、項目例や記入方法も工夫しています。

ご本人にとっての記入のハードルを下げたことで、その方は3カ月継続するという目標を達成することができたそうです。

セルフケアシートの運用では、まずは1カ月、そして3カ月続けることを目標にしてみましょう。そこで「継続しにくい」と感じたら、「記入しやすさ」「使いやすさ」を改善してみてください。ご紹介した事例のようにスマートフォンで使える形式に変更したり、サインやリカバリーの項目数を減らしてチェックする労力を軽減したりなど、さまざまな工夫が考えられます。

また、セルフケアシートには、「タイプⅡ」というイラスト付きのものもあります。タイプⅡの特徴は、少ない項目を絵やグラフでチェックできること。「タイプⅠを使うのは大変」という場合は、タイプⅡを使ってみてください。

記録が1カ月続くだけでも、「こんな変化があったのか」という発見があるはず。目標となる継続期間の達成に向けて、手軽に運用できるよう工夫しながら記録していきましょう。

【参考】
K-STEP|川崎市
K-STEPを使った精神障害者のセルフケア|NIVR

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