2024年の障害福祉サービス等報酬改定に向けた論点


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現在、2024年4月から適用される障害福祉サービス等の報酬について、検討チームによる議論が進められています。8月31日には、関係団体へのヒアリングで出た意見をとりまとめた資料と、今後の論点が公開されました。

今回は、障害福祉サービス等の報酬改定に向け、どのような点が注目されているかお伝えします。あわせて、関係団体から出された障害者就労支援に関する意見も見ていきましょう。

障害福祉サービス等の報酬改定の方向性

現在、障害福祉サービス等の利用者は約150万人、国の予算額は約2兆円となっています。障害者総合支援法の前身である障害者自立支援法が施行された時期と比較すれば、それぞれ約3倍以上に増加しました。

今回、障害福祉サービス等報酬改定は、診療報酬や介護報酬の改定とともに行われます。これは、三者を連携させ、障害福祉サービス等の多様なニーズに対応させるチャンスです。障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(以下、検討チーム)は、現在のニーズに応じた施策強化を行いたいとしています。

検討チームは、各関係団体からのヒアリングをもとに論点を整理。その資料が、2023年8月31日に公開されました。この論点や検討事項をもとに、今後具体的な議論が進められていく予定です。実際、9月19日には、訪問系サービスの報酬・基準の検討が行われています。

検討チームは、どのような観点で議論を進めていくのでしょうか。本記事では8月31日公表資料にある論点を確認していきます。

※8月31日の資料にある論点は、今後の議論に応じて変更されることがあります。

障害者の地域生活への移行

資料「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」では、「障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり」として、3つの論点をあげています。

(1)支援の充実

1つめの論点は、障害のある方の入所施設や病院から地域生活への移行を促進するとともに、移行に伴う支援を充実させていくことです。障害のある方が、どの地域でも安心して生活できるよう、ご本人が希望する地域生活の実現を重視します。

これには、障害者支援施設がもつノウハウを地域事業者へ還元していくこと、ご本人による選択の機会確保と意思の尊重を行うこと、ピアサポートの取り組みを促進することなどが含まれます。

さらに、地域生活支援拠点等の整備、相談支援などの各サービスの質の向上や提供体制の整備なども行っていきたい考えです。

具体的に検討する方策
障害の重度化、障害者の高齢化などによるニーズの多様化への対応
強度行動障害のある障害者等への支援体制の充実
地域生活支援拠点等の整備推進、施設から地域生活への移行促進
グループホームにおける一人暮らし等の希望の実現、支援実態に応じた適切な評価
地域生活の実現に必要な機能訓練・生活訓練の充実
相談支援の質の向上、提供体制の整備
障害者の意思決定支援推進と、障害者ピアサポートの取り組み推進

(2)医療と福祉の連携推進

前述のとおり、今回の障害福祉サービス等報酬改定は診療報酬や介護報酬との同時改定となります。そこで、2つめの論点として、多様な障害特性に応じた、保健・医療、福祉、その他の施策の連携を推進していくことがあげられました。

特に、障害の重度化や障害者の高齢化、医療的ケア児や医療的ケアが必要な障害者、精神障害者、難病患者などへの支援を重視しています。

具体的に検討する方策
相談支援と医療との連携強化
医療的ケア児の成人期への移行にも対応した医療的ケア体制の充実
重度障害者の入院時におけるコミュニケーション支援の充実
障害者支援施設等における医療機関との連携強化、感染症対応力の向上

(3)精神障害者の地域生活に対する包括的な支援

3つめの論点は、精神障害者の地域生活に対する包括的な支援を行うことです。

2022年12月16日に交付された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号)」が、現在順次施行されています。その中に、精神障害者の福祉に関して定めた「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」も含まれており、

  • 障害者等の地域生活の支援体制の充実
  • 精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備

を求めています。

こうした施策を推進するにあたり、医療、障害福祉・介護、住まい、就労等の社会参加という直接ご本人に関わる施策だけでなく、地域の助け合い、障害理解や障害者支援に関する教育・普及啓発も必要だとしました。

これらの取り組みを包括的に行う「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を推進したい考えです。

具体的に検討する方策
精神障害者の医療と相談支援との連携強化
精神障害者の退院支援に資する地域生活支援拠点等の整備推進
精神障害者の虐待防止

社会の変化に応じたニーズへの対応

続く「社会の変化等に伴う障害児・障害者のニーズへのきめ細かな対応」の項目にあるのは、2つの論点です。

(1)障害児への専門的で高品質な支援体制構築

資料では、発達障害がより広く知られるようになったこと、女性の就業率向上によって「預かりニーズ」が高まっていると指摘。こうした背景から、児童発達支援や放課後等デイサービスも拡大されてきました。

しかし一方で、依然課題となっているのが、支援の質とインクルージョンの推進です。

課題解決には、児童発達支援センターがよりその役割を発揮すること、地域の支援体制を強化することなどがあげられています。障害のあるお子さんそれぞれの特性に応じた支援とともに、ご家族への支援、関係機関同士の連携強化なども重要としています。

具体的に検討する方策
児童発達支援センターにおける障害児支援の中核的役割の発揮、類型の一元化といった整備・強化
障害児通所支援の実態に応じた適切な評価
総合的支援の提供とインクルージョン推進
障害児入所施設から成人としての生活への円滑な移行支援
医療的ケア児、重症心身障害児、強度行動障害のある児童への支援の充実
家族支援や関係機関同士の連携強化
障害児相談支援の適切な実施と質の向上、提供体制の整備

(2)障害者の多様なニーズに応じた就労促進

障害のある方の就労に関しては、就労支援などの利用者の多様化、働き方の多様化など、就労を取り巻く環境自体が大きく変化しています。変化に対応した支援を行うには、それぞれのニーズに応じた就労施策と福祉施策の一層の連携が必要です。

ご本人の就労ニーズや能力・適性を把握し、必要な支援や配慮を整理して適切な就労を実現するため、先ごろの法改正によって「就労選択支援」という新しい障害福祉サービスの創設が定められました。

定着支援や就労継続支援とともに、より充実した効果的な施策を検討しなければなりません。

具体的に検討する方策
企業等で働く障害者の定着支援の充実
就労移行支援A型の生産活動収支の改善、効果的な取り組みの評価
就労継続支援B型の工賃向上、効果的な取り組みの評価
就労選択支援の創設

障害福祉サービス等の報酬の見直し

論点案において3番目にあげられた項目が、今回の報酬改定に直接関わる「持続可能で質の高い障害福祉サービス等の実現のための報酬等の見直し」です。

現在は、物価高騰や支え手の減少、さらには賃金上昇により、人材確保が難しい状況。それでも、質の高い障害福祉サービス等を提供するには、人材を確保し、経営状況等を踏まえた対応が不可欠です。

同時に、障害福祉サービス等の予算額が、社会保障費全体の伸び率を上回る形で、年々増加している点も見逃せません。

検討チームは、持続可能な制度とするには、サービス間・制度間の公平性、透明性を高め、長期化している経過措置への対応も視野に入れ、メリハリのきいた報酬体系にするとしました。

人員不足の中で効率的な制度運用や効果的なサービス提供を行うには、事務や手続き等の負担感を減らして分かりやすい制度を整備するとともに、支援現場におけるICT活用等を含む業務の効率化に注目しています。

具体的に検討する方策
物価高騰・賃金情報等を踏まえた、サービスの安定的提供に必要な人材確保
食事提供体制加算等の経過措置への対応
障害者虐待防止
情報公開制度の在り方を含むサービスの質の確保・透明性向上
サービス提供事業者や自治体の事務・手続き等の標準化、簡素化、ICT活用による効率化等

障害者の就労支援に関する関係団体からの意見

以上のような論点は、検討チームが関係団体に行ったヒアリング結果を踏まえて提案されたものです。実際に出された意見をまとめた資料「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に関する主な意見」は約70ページにおよび、各サービスの課題や改善提案、報酬体系への要望などが見られました。

こうしたさまざまな意見から、障害者の就労支援に関わるものを一部ご紹介しましょう。

※分量の都合上、各意見の表現を一部編集しています。詳しくは厚生労働省による資料をご覧ください。

就労移行支援に関する意見

就労移行支援に関する意見では、就労移行のタイミングでの定着支援や、昨今話題になっている一部の障害者雇用代行ビジネスの報酬、就労移行支援サービス提供の地域差などについての要望が見られました。

日本精神神経科診療所協会
受け入れ企業担当者等のフォローが必要なため、就職直後の定着支援も評価されるべき
一部の障害者雇用代行ビジネスによる本来的な就職とは質的に異なる就職について、定着支援等の報酬を明確に分けて対応すべき

 

全国社会就労センター協議会
就職実績が高くなった結果として定員充足が困難になっている事業所について、就職後の一定期間の給付が必要
就労移行支援事業所等から一般就労した時点で就労定着支援事業に引き継ぐ仕組みが必要

 

全国就労移行支援事業所連絡協議会
地方では就労移行支援サービスの提供が困難な状況。就労継続支援からの一般就労促進、常勤の職員配置基準の緩和、定員10名を認めるなどの措置が必要
就業・生活支援センターでのアセスメント実施とスムーズな支給決定が必要

就労継続支援A型に関する意見

就労継続支援A型に関する意見では、支援力向上に向けた提案や、実際に実績を上げている事業所を評価する仕組み、長期入院者の退院後の利用を可能とする年齢制限の撤廃などの意見が見られます。

全国社会就労センター協議会
「支援力向上のための取組」に「就労支援の質を向上するため、“ジョブコーチの配置”や“就労する上で課題となるコミュニケーションを支援する専門人材の配置”」を追加すべき
高賃金を達成している事業所や、最低賃金の減額割合が低い事業所を評価する項目が必要

 

全国地域で暮らそうネットワーク
長期入院者が退院後に年齢制限で就労継続支援A型を利用できないことがある。年齢制限を撤廃すべき

 

日本知的障害者福祉協会
就労継続支援A型の基本報酬の評価項目は、知的障害者の特性を反映しにくい項目がある。項目の再設定が必要

 

就労継続支援A型事業所全国協議会
A型からB型に安易に転向されないような報酬体系が必要
就労に関する計画やアセスメント、モニタリングの様式をリンクさせ、就労アセスメントに利用できるものにすべき
生産活動に関する点数は、赤字/黒字だけでなく、達成度も考慮すべき
多様な働き方について、虐待防止と満足度調査、内部でのキャリアアップ制度の視点も必要

就労継続支援B型に関する意見

就労継続支援B型については、多数の意見が寄せられました。その多くは、利用者の能力向上、より手厚い支援や障害特性に応じた利用を可能とする仕組みに言及しています。

日本精神神経科診療所協会
自立を促進する事業所が居場所化し、利用者のステップアップを阻害する実態がある。成果主義の要素を強め、ケアを必要とする当事者が適切な医療サービスにつながるよう支援すべき

 

全国社会就労センター協議会
B型では手厚い人員体制が必要。現行の配置基準に加えて、「6:1」(目標工賃達成指導員を1人配置で最大「5:1」の配置)を新設すべき
障害特性により利用日数や作業時間が少なくなる方を受け入れている事業所がある。そうした事業所について、報酬算定上の不利が生じないよう、平均工賃月額の算定式を見直すべき

 

全国盲ろう者協会
盲ろう者が利用する就労継続支援B型などについては、1対1の支援を可能とする特別加算が必要

 

日本身体障害者団体連合会
家族等の送迎を利用する方について、家族の高齢化により通所困難になる方が増えている。送迎が困難な方の利用継続のため、移動サービス等を利用できるようにすべき

 

日本高次脳機能障害者友の会
障害特性により、高い生産性を望めない場合がある。そのような方が多く利用している事業所は運営が逼迫している。報酬単価の見直しが必要
ピアサポーターに関わる現行の報酬体系では、ピアサポーターの雇用が困難。ピアサポーターとして働く意志のある当事者が就職できないこともある。現行の報酬体系や雇用条件の見直しが必要

 

日本精神保健福祉会連合会
現行の月額工賃に依拠した報酬体系では、障害格差が生じる。通所日数が少ない利用者への支援について、柔軟な算定基準が必要
訪問や面談、電話での支援において、利用者の病状や生活状況、ニーズや目標などを明確に把握し、記録するシステムを整備すべき
職員の負担軽減やワークライフバランスの確保を図るため、業務の分担や効率化、福利厚生などの改善が必要

 

就労定着支援に関する意見

就労定着支援については、就労移行支援でも出た就職直後の定着支援を求める声とともに、特別支援学校を卒業してすぐに就職した方が利用できるような対象拡大、他の就労支援機関との連携強化などを求める声がありました。

日本精神神経科診療所協会
現在は3年間の定着を評価する形だが、これでは本人の職業選択の自由を侵害するケースも発生しうる。評価期間を2年とするか、転職回数を増やすべき。転職に要する期間を1カ月から2カ月に延ばすべき

 

日本知的障害者福祉協会
特別支援学校卒業と同時に企業に就職した方は、就労定着支援を利用できない。対象を拡大すべき

 

全国就業支援ネットワーク
就労移行支援事業、ジョブコーチ、就労定着支援事業、障害者就業・生活支援センターによる支援の整理を行い、単に期間だけで区切らず、相互に連携できる環境整備が必要

 

全国就労移行支援事業所連絡協議会
就労後6カ月を経てからのサービス開始では、就労系サービスとの接続に課題がある。就労移行の見守り義務は残しつつ、就労実現後間もなく使えるサービスとすべき
定年、事業主都合の離職など、本人の責に帰さない離職は、就労定着率の算定から除外すべき
スケールメリットがない事業なので、人数増加と報酬単位増が比例する設計とすべき

 

就労選択支援(新設)に関する意見

新設される「就労選択支援」に関しては、期待する声とともに、今後の制度設計にあたって障害のある方自身の意思決定を支援する仕組みや、医療面との連携が求められています。

全国社会就労センター協議会
制度設計にあたっては、一般就労を前提とするのではなく、障害者自身が就労アセスメントの結果を活用し、障害者自身で最適な選択ができる仕組みにすべき

 

日本医師会
障害者本人が就労先・働き方について、本人の希望・就労能力・適性等に合ったよりよい選択ができるよう支援する就労アセスメントを行うべき
かかりつけ医との連携による医療面のアセスメント、事業者等と産業医の連携が重要。これらを評価対象とすべき

 

日本発達障害ネットワーク
就労アセスメントを行う職種の一つとして、作業療法士の配置を要望

今後の議論は公式ページでも確認を

障害福祉サービス等報酬改定に関する議論は、厚生労働省の公式ページで資料や議事録が順次公開されています。検討チームの開催の様子はYouTubeでライブ配信されますので、気になる方は、以下のページでご確認ください。

【参考】
第35回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料|厚生労働省
令和4年精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正について|厚生労働省

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