【合理的配慮好事例・第23回】知的障害者が働いている職域は「製造業」 指示の分かりやすさが合理的配慮のポイント


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民間企業で働く知的障害者は約13万4,000人。身体障害者(約35万6,000人)に次いで2番目に多い雇用数です(令和2年)。知的障害者は障害者雇用推進の取り組みが始まってから長らく算定対象となってきたこともあり、合理的配慮に関するハウツーなども蓄積されています。

今回は、知的障害者が働いている職域や働き方について見ていきましょう。

知的障害者が働く産業TOP5(令和2年 障害者雇用状況報告集計結果)

厚生労働省では毎年「障害者雇用状況報告の集計結果」を公表しています。これは障害者雇用状況報告書を提出する義務がある企業(常用雇用労働者数45.5人以上)に限定したものではあるものの、約10万の企業が対象。日本における障害者雇用の全体的な傾向を知るには、重要なデータとなっています。

「令和2年 障害者雇用状況報告の集計結果」で産業別の雇用障害者数では、知的障害者は主に次の5つの産業で多く働いていることが報告されました。

<知的障害者の雇用数が多い産業 TOP5(2020年)>

  • 製造業(約3万7,000人)
  • 卸売業、小売業(約2万6,000人)
  • 医療、福祉(約2万3,000人)
  • サービス業(約1万5,000人)
  • 宿泊業、飲食サービス業(約7,000人)

TOP4の顔ぶれは身体障害者や精神障害者と同じ(精神障害者では順位が多少異なる)ですが、第5位の宿泊業、飲食サービス業は身体・知的・精神障害者の中で知的障害者の雇用数が最も多くなっています。

また、産業別で第1位となった製造業では、以下の区分で働く知的障害の方が多いと報告されました。

<知的障害者の雇用数が多い製造業の区分 TOP5(2020年)>※「その他」を除く

  • 食料品・たばこ(約9,700人)
  • その他機械(約8,300人)
  • 電気機械(約4,600人)
  • 化学工業(約4,300人)
  • 金属製品(約2,000人)

身体障害者や精神障害者では第1位と第2位を「その他機械」「電気機械」が占めています。「食料品・たばこ」における雇用数は身体障害者より500人ほど少ないものの、知的障害者の中では1位。活躍しやすい分野と言えるかもしれません。

【参考】
障害者雇用状況報告の集計結果について|厚生労働省

知的障害者に多い職業(平成30年度 障害者雇用実態調査)

知的障害が働く現場の状況をより細かく調査したものに「障害者雇用実態調査」があります。5年に1度実施される調査で、直近では平成30年度に実施されました。

この調査は従業員数45.5人未満の企業も対象。調査対象数が障害者雇用状況報告書よりもかなり少ない約6,000社ではありますが、見逃されやすい傾向をとらえるのに必要なデータを提供しています。

同調査によれば、知的障害者が従事している職業のTOP3は次の職業でした。

  1. 生産工程の職業(37.8%)
  2. サービスの職業(22.4%)
  3. 運搬・清掃・包装等の職業(16.3%)

雇用形態としては「無期契約の正社員以外」が 40.9%、「有期契約の正社員以外」が 39.1%となっており、8割の知的障害者が非正規で働いています。
また、給与面では身体・知的・精神障害者の中で最も低く(平均月額約11万7,000円)、減額特例が適用されやすいという課題も抱えています。

(関連記事)
障害者雇用の賃金はなぜ安い? 最低賃金制度と減額特例

【参考】
平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

知的障害者の実際の職域や職場での業務例(JEED障害者雇用職場改善好事例から)

知的障害をもつ方が実際にどのような業務を担当しているかは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が毎年発表する職場改善好事例集で見ることができるでしょう。

たとえば以下のような業務を見つけることができます。

知的障害をもつ方の中には、バランス能力や体力が他の方々より低かったり漢字を読むことが苦手だったりする方もいます。まずは軽作業の中から本人が習得しやすい業務を任せ、自信をもって行える作業を中心に取り組むのがポイントです。

【参考】
障害者の健康に配慮し、安心・安全に働けるように取り組んだ職場改善好事例|JEED
中高年齢層の障害のある方の雇用継続に取り組んだ職場改善好事例集(令和元年度)|JEED
知的障害者のための職場改善好事例集(平成19年度)|JEED

知的障害者のためにできる職場改善のポイント

知的障害をもつ方が働く職場では、指示者や上司が「言わなくても分かるだろう」と決めつけずに、具体的に指示をしましょう。実際にやって見せたり、写真や絵などを使って説明したりすると効率的です。

作業手順の指示だけでなく、安全確認や服装、水分摂取などでもシンプルかつ具体的に示せば伝わりやすく、ミスも減らしやすいでしょう。

実際に知的障害をもつ方々が働く職場では、以下のような配慮・支援を行っています。

<施設・設備等に関する配慮・支援>

  • 具体的にどこで何をするかを指示する
  • 段差や柱などケガをしやすい場所に転倒予防策を講じる(段差をなくす、滑り止めのマットを敷く、滑り止め塗料を塗布する等)
  • 危険な通路を避けて移動できるよう専用通路を確保する
  • 作業手順書に写真と留意事項を載せ、要所に掲示する
  • 必要に応じて手順書や掲示物にルビを振る
  • 仕分けのために箱や棚に分かりやすいラベルを貼る
  • 個数等を数える際にマグネットをホワイトボードに貼って分かりやすくする
  • ヒヤリハット事例を社員全体で共有・検討する

<健康面に関する配慮・支援>

  • 日々の体調を記録する(疲労・ストレス・睡眠・服薬など)
  • 夏場の熱中症を防ぐため、トイレ回数や水分摂取量を記録する
  • 夏場の水分摂取やこまめな休憩を勤務スケジュールに組み込む
  • 体調の変化(頭痛など)があった場合に誰に相談するかを指示しておく
  • 気温に応じた服装を指示する
  • 休みが多い場合は生活リズムや体調を確認し、原因と対策を検討する

<スキルアップに関する配慮・支援>

  • 目標を決め、定期的に振り返りと評価を実施し、昇給等に反映する
  • 知的障害者にとっての仕事の難易度を把握する
  • 物の置き方や位置などを絵や目印で表示する
  • 新しい業務は手本を見ながら一緒にやってみる等の工夫を行う
  • 覚える必要がある固有名詞をカルタなどのゲーム形式で覚えていく
  • 漢字を覚えたり基本的な計算をしたりするゲームを導入し、休憩時間に自由に遊べるようにする
  • 身体障害者と知的障害者で共同作業することで苦手を補い合う
  • 部署間の事務連絡で電話対応・連絡の研修を実施する(練習カードを活用)
  • 職場のルールとマナーについて参加型の社内研修を行う
  • チームで業務を担当する
  • 一定のキャリアをもつ社員からリーダーを選任し、責任感と管理能力、自主性・自立心の向上につなげる

業務になれてくれば、自分自身で「今日はこれをやる」など決めることも可能です。チームリーダーとして業務を管理する役割を担うといったキャリアアップを実現する方々の姿もあります。

できるところから始めて目標を定め、少しずつステップアップ。昇給等への反映も含めてきちんと職場で評価されることで、自立心や責任感の向上にもつなげられるでしょう。

知的障害については、以下の関連記事でも解説しています。

(関連記事)
分かりやすい大人の発達障害と知的障害の違い
簡単に知る知的障害者福祉法、知的障害者更生相談所と療育手帳

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