障害者雇用の賃金はなぜ安い? 最低賃金制度と減額特例


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障害者枠で働く場合、月給が一般枠の労働者よりも低くなる傾向があります。

厚生労働省が発表した「障害者雇用実態調査」の結果でも、週所定労働時間30時間以上で働く障害者の1か月あたりの賃金は平均20万円以下。時間額にすると最低賃金以下で雇用されている場合も見られます。

なぜ障害者の賃金は安くなってしまうかーーその理由の1つが、最低賃金の減額特例です。

障害者雇用における雇用形態、労働時間、平均賃金

障害者枠で雇用された場合、賃金はどのくらいになるのでしょうか。

厚生労働省が5年ごとに実施する「障害者雇用実態調査」から、障害者の雇用形態や労働時間とともに、どのくらいの月収があるのかを見ていきましょう。

厚生労働省の「障害者雇用実態調査」とは

厚生労働省の「障害者雇用実態調査」とは、常用労働者5人以上の民間企業を対象に5年に1度行われる障害者雇用について調査です。

2019年12月現在で最新の調査結果である2018年度版では、約9,200事業所を対象とし、6,181事業所から回答を得ました。

障害者雇用実態調査の主な調査内容は、次の4つ。

  • 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者の雇用状況
  • 障害者雇用に当たっての課題・配慮事項
  • 関係機関に期待する取り組み
  • 障害者雇用を促進するために必要な施策

この調査によって、

  • 障害者がどのような雇用形態で働いているのか
  • 月に何時間くらい働いているのか
  • 月収はどのくらいなのか

を概観できます。

【参考】厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」

障害者の雇用形態と労働時間

まずは雇用形態について見てみましょう。

雇用形態は、無期契約か有期契約か、正社員かそうでないかで、合計4通りに分けて集計されています。

障害の種類ごとで見た雇用形態の割合は下のグラフの通り。複数の障害を持つ人は重複して計上されています。

グラフを見ると、身体障害者の約5割が無期契約の正社員であるのに対し、それ以外の障害者の多くは無期または有期の正社員以外であることが分かります。

次に、1か月の労働時間(所定労働時間+残業時間)についても見てみましょう。

労働時間は、週所定労働時間が30時間以上か、20時間以上30時間未満か、20時間未満かの3つに分けて集計されています。

週所定労働時間30時間以上の障害者に限定して1か月あたりの平均労働時間を見ると、下のグラフのようになります。

一般的なフルタイム勤務で残業がない場合の1か月の労働時間は160時間程度。障害者の場合、週所定労働時間30時間以上の人で見ても1日平均8時間未満で働いている計算になります。

障害者の1か月の平均賃金

では、障害者雇用における1か月の平均賃金を見ていきましょう。

全体を障害の種類別に見ると、

  • 身体障害者:平均21万5,000円
  • 知的障害者:平均11万7,000円
  • 精神障害者:平均12万5,000円
  • 発達障害者:平均12万7,000円

となっています。

これを週所定労働時間別に見ていくと、下のグラフのようになります。

知的障害者、精神障害者、発達障害者の場合、週所定労働時間30時間以上でも、平均20万円以下の月収になっています。特に知的障害者の平均賃金は、13万7,000円と最も低い状況です。

最低賃金制度とは|なぜ最低賃金未満でもいいの?

日本には最低賃金を定める法律(最低賃金法)があります。

この最低賃金法に基づき、最低賃金制度では2種類の最低賃金を規定。どのような種類があり、実際いくらに設定されているのでしょうか。また、最低賃金未満で雇用される人がいるのはなぜでしょうか。

最低賃金法と最低賃金制度

最低賃金は、最低賃金制度によって定められている1時間あたりの賃金で、国が賃金の最低限度を決めるものとされています。

これには、割増賃金や精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは含まれません。

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金があります。

もし両方の最低賃金を適用できる場合、事業主は高い方の最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。

時給制で賃金が支払われている場合は比較しやすいのですが、月給や日給、出来高払い制などでは、時間額に直して比較する必要があります。

  • 月給や日給の場合:基本給を所定労働時間や平均労働時間で割り算して求める
  • 出来高払い制やその他の請負制の場合:当該賃金計算期間に労働した総労働時間数で賃金を割り算して求める

【参考】厚生労働省「最低賃金制度の概要」

地域別最低賃金とは|東京都と神奈川県はいくら?

地域別最低賃金は、都道府県別に定められた最低賃金です。産業や職種にかかわらず、当該都道府県の事業所で働くすべての労働者と使用者に適用されます。

具体的にいくらになるかは、労働者の生活費や賃金、通常の事業でどのくらい給料を出せるのかなどの要素から、総合的に判断され、決定されます。

地域別最低賃金は2019年10月1日から新しくなり、東京都は1,013円、神奈川県は1,011円になりました。

特定最低賃金

特定最低賃金は、特定の産業について設定される最低賃金です。

最低賃金審議会が調査審議を行った上で、地域別最低賃金より高い額が設定されます。

多くは都道府県別に定められますが、全国単位で定められているものもあります。

特定最低賃金の見直しは地域別最低賃金とは必ずしも一緒ではないため、特定最低賃金が地域別最低賃金を下回っている場合もあります。

2019年12月現在の東京都や神奈川県も例外ではありません。

最低賃金の見直しにより、地域別最低賃金が特定最低賃金より高い場合、いずれの産業においても地域別最低賃金が適用されます。

【参考】厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」

減額の特例許可制度

最低賃金制度には、減額の特例許可制度があります。

最低賃金を一律で決めてしまうと、労働能力が著しく低い労働者の雇用機会が減ってしまう恐れがあるからです。

減額特例が認められるのは、以下の労働者です。

  1. 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
  2. 試の使用期間中の者
  3. 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者
  4. 軽易な業務に従事する者
  5. 断続的労働に従事する者

障害者が適用されやすいのは主に(1)です。

ただし、減額特例の許可を受けるには、事業所がある管轄の労働基準監督署に許可申請書を提出しなければなりません。許可された場合でも、許可された業務以外の業務を行う場合は、一般の労働者と同じ最低賃金額が適用されます。

減額特例許可申請の注意点

減額特例許可は申請すれば許可されるというものではありません。減額すべき理由を明確にし、どのくらい減額するのかもしっかり説明できなければなりません。

客観的な資料が必要

事業主が「この労働者は労働能力が低い」と感じるだけでは減額は許可されません。障害者が手帳を持っている場合は、本人や家族の承諾を得た上で、その手帳の写しを提出する必要があります。

さらに、業務遂行に対する「支障の程度が著しい」ことも示されなければなりません。具体的には、同じ職場で同じような業務を行い、最低賃金額以上の賃金が支払われている労働者の中で最も労働能力の低い人(比較対象労働者)と比べて、その人よりも労働能力が低いことを示す必要があります。

給与額設定の仕方

賃金の減額を行う場合、「何となく」で低く設定することも認められません。

具体的な給与額(基本給)の設定は、以下のようにして行います。

  1. 比較対象労働者を決める
  2. 減額の対象となる労働者と比較対象労働者の労働能率を数量的に比較する
  3. 減額できる率の上限値を算出する
  4. 減額対象労働者の職務内容、成果、労働能力、経験などを勘案し、減額率を設定する
  5. 減額率に対応した「支払おうとする賃金の額」を設定する

【参考】
厚生労働省「最低賃金の減額の特例許可申請書の記入要領」

障害者雇用と経済的虐待|給料の不当な減額は差別・虐待になる

障害特性と労働能率の関係で減額特例は許可されます。ところが、これを単に「障害があるから減額してよい」と誤解する事業主もいます。

障害があることだけを理由に賃金を最低賃金未満にすることは「経済的虐待」です。

実際、2014年以降で障害者に対する虐待種別を見ると、経済的虐待の割合がもっとも高くなっています。2018年では517件(虐待件数全体の56.2%)が最低賃金法関係で指導を受けています。

特に常用労働者が30人未満の事業所で多く見られるため、事業主もそこで働く障害者も注意が必要です。

もし不当に最低賃金未満で労働させれば、事業主は最低賃金法第4条違反で是正勧告を受け、最低賃金額との差額を支払うよう指導されます。

【参考】厚生労働省「平成30年度使用者による障害者虐待の状況等」

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