発達障害者と仕事をするポイントは指示の出し方


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発達障害のある方の場合、仕事の中でさまざまな困難を抱えることが多くなります。新しい業務を覚えるのに時間がかかったり、タスクの優先順位を間違えたり、報連相ができなかったり・・・。こうしたトラブルは、職場での指示の出し方を工夫すると解決しやすくなります。

そこで今回は、発達障害者への業務指示を具体的にどのように出せばよいのか、なぜそのような指示の仕方が必要なのかを解説していきます。

発達障害があると「仕事ができない」原因は?

発達障害がある方と仕事をする際、思いもよらないミスやトラブルに遭遇することがあるかもしれません。

「こちらの言っていることが伝わらない」
「マニュアルがあるのに仕事のやり方が分かっていない」
「タスクの優先順位を間違えている」

これらは、いずれも発達障害の方がもつ障害の特性が主な原因と考えられます。

発達障害の障害特性は人それぞれですので、どのような特徴があるかを一言で表現するのは簡単ではありません。ただ、比較的多く見られる特徴によっていくつかの分類はあります。

たとえば、昔から知られている自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群。これらは略称で「ASD」と呼ばれています。

<ASDの特徴>

  • いわゆる「空気を読む」ことが苦手で、コミュニケーション上の問題を抱えやすい
  • 言われたことをそのまま受け取るためお世辞や皮肉、冗談も通じにくく、話し手と理解が食い違ってしまうことがある
  • 計画を立てることやマルチタスクも苦手
  • 感覚過敏という障害特性をもつ方も多く、障害のない人が気にならない程度の光や音でも苦痛に感じやすい

最近頻繁に聞くようになった「ADHD」(注意欠如・多動性障害)も発達障害の分類の1つ。「落ち着きがない」という印象を与えやすい障害です。

<ADHDの特徴>

  • 常に動き回ったり思考があちらこちらに向かってしまったりして、落ち着きがない
  • 一方的に喋り続けたり、重要なタスクを放置して思い立ったことをやり始めたりすることがある
  • 注意力があちらこちらに向かってしまうため、忘れ物やミスが多い
  • 机周りをうまく片付けられない

また、「LD」(学習障害)という発達障害もあります。子ども時代に学習の遅れとして気づかれる場合が多い発達障害です。

<LDの特徴>

  • 文字を読んだり書いたりすることができない
  • 計算や推論ができない
  • 図形が描けない、地図が読めない
  • ASDやADHDと合併している例が多く見られる

発達障害者の中には、これらを複数合併している方もいれば、そうでない方もいます。また、たとえば同じADHDであっても、各症状の重さは人によって異なります。

「ASDだから」「ADHDだから」「LDだから」とひとくくりに決めつけるのではなく、障害をもつ方それぞれの特性を理解して対応することが、解決への早道です。

(関連記事)
大人の発達障害 ~特徴を知る~

発達障害がある従業員への教え方の基本

発達障害をもつ方に仕事を教える際の基本的なポイントは、「穏やかな口調で」「肯定文で」「分かりやすく具体的な説明」をすることです。

「穏やかな口調で」を忘れずに

まず「穏やかな口調で」は、感覚過敏があったり精神障害を併発していたりする発達障害者にとって、とても重要なポイントになります。大きな声にひどく恐怖を感じる人がいるためです。

感覚過敏や精神障害のない場合でも、発達障害をもつ方の中には、これまでさまざまな場面で叱られてきた経験をもっていることが多いもの。強い口調や厳しい口調で怖くなり、指示内容が頭に入りにくくなってしまう恐れがあります。特にASDがある場合、過去の嫌なことを思いだして動けなくなってしまうこともあるでしょう。

仕事を教えたり指示を出したりするときは、「穏やかな口調」でゆっくり話すように意識してください。

「肯定文で」指示すると理解しやすい

発達障害のある方は、話し手の意図や言われたこと以上の意味を推測するのが苦手だという例が多く見られます。

たとえば「走らないで」と注意されると、走ってはいけないことは分かるものの、それからどうしたらよいのかが分かりません。否定文で指示するかわりに、「歩きます」「止まります」など、具体的な行動が分かるように肯定文で指示すると内容が明確になります。

また、「○○しないで」という否定文に敏感な方もいます。障害特性が原因で、叱られたり否定されたりする経験が多いからです。嫌な経験を思いだすと、うまく考えたり行動したりすることが難しくなってしまうかもしれません。

内容を明確に伝え、嫌な感情を引き起こさないためにも、否定文ではなく肯定文で指示を出しましょう。

「分かりやすく具体的な説明」で指示を出そう

発達障害があると、障害のない方のような柔軟な対応や推測ができないことがあります。

たとえば、発達障害のある方に「なるべく早くやっておいて」という指示で新しいタスクを割り振ると、今やっているタスクを終了させたあとで「なるべく早く」新しいタスクを終わらせようとするかもしれません。あるいは、「なるべく早く」の具体的な期限が分からずに困り果ててしまうこともあるでしょう。

期限がある指示を出す時は「○時までに」と具体的に指示すると、障害のある方にも分かりやすくなります。

文書で業務指示を出す場合にも注意が必要です。小さな文字や行間の狭い文章だと、同じ行の文章を何度も読んでしまうため、なかなか理解できないことがあるからです。文字だけだと具体的にイメージできず、仕事のやり方に困ってしまうケースもあります。

文書で業務指示を出す場合は、図や絵を使って説明したり、文字を大きめにして行間を空けたりするなどの工夫をしてみてください。

なお、実際に目の前でやってみせると理解しやすいという方もいます。

それぞれの特性に合わせて、障害をもつ方が理解しやすいやり方で指示を出していきましょう。


発達障害をもつ方の中には、気分障害(うつ病・双極性障害)など他の症状も併発している方がいます。精神障害者への接し方やコミュニケーション上の注意点については、以下の関連記事もご覧ください。

(関連記事)
職場での精神障害者との接し方とコミュニケーション上の注意点

業務が変わったときの指示の出し方

発達障害がある場合、業務の変更に対する柔軟な対応も難しいことが多くあります。そのため、どのような変更があるのか、どのように・いつまでに行えばよいのかを具体的に指示する必要があります。

では、シチュエーション別に具体的な指示の仕方を見ていきましょう。

割り込みでタスクを任せるとき

「これもやっておいて」は職場でよく聞かれる言葉。しかし、発達障害のある方にとって、具体的な期限や目標のない指示はとても曖昧で、タスクの優先順位が分からなくなってしまうことも多いものです。

割り込みでタスクを任せる時は、必ず「○○を△時までに」「○○を今すぐ、先に」など具体的に指示を出してください。

また、マルチタスクも苦手です。今取り組んでいるタスクは割り込みタスクが完了してから続きをやればよいことも伝えましょう。

新しい業務を任せるとき

新しい業務を任せるとき、「それまでの業務はどうするのか」を必ず指示してください。

今までの業務に追加して新しい業務を行う必要がある場合は、「Aの業務の他に、今日はBの業務もお願いします」などと伝えます。どのような順番で業務を進めればよいのか、いつまでにやればよいのかも具体的に指示しましょう。

今までの業務をやらずに新しい業務だけを行えばよい場合は、まず「○○さんは、今日は(今日から)別の業務をお願いします」などと伝えましょう。

新しい業務の内容や目的を分かりやすく説明することも大切です。実際にやって見せたり、写真・図・絵をつかったマニュアルを用意したりしてください。

はじめのうちは、2〜3工程ごとにチェックする体制をとるとミスも減ります。「○○までできたら、Aさんに△△を見せてチェックしてもらいましょう」などと伝えるとよいでしょう。

業務の進め方が変わったとき

業務の進め方が変わったときは、なぜ業務の進め方を変えるのかを分かりやすく説明することが先決。新しい業務の進め方を実演したり、分かりやすいマニュアルも準備したりしましょう。実演してみせたあとで、本人に一度やってみてもらうのもよいでしょう。

説明する際は、相手の表情を見ながら穏やかな口調でゆっくり、はっきりと話すと伝わりやすくなります。人によっては、メモを書きながら説明すると分かりやすいかもしれません。

障害のある方自身にメモをとってもらう場合、説明の合間にメモを書く時間を設ける必要があります。聞きながらメモをとることが苦手な方もいるためです。

また、業務の新しい進め方に初めは戸惑うことも多いでしょう。そこで、困ったときは誰に相談するのか、誰から指示をもらうのかも決めておきます。自分から相談するのが苦手な方の場合は、1日の中で質問・相談できる時間を設定しておくのも効果的です。

間違った業務の進め方を注意するとき

もし仕事の進め方を間違えた時は、「どうすればよかったのか」を具体的に伝えましょう。大きな声を出したり叱責したりするのはNGです。必ず、穏やかな口調で肯定文を使って、あらかじめ決めた指示者から伝えてください。

また、他の従業員が大勢いるところで注意すると、本人に大きなストレスを与えてしまうかもしれません。できる限り、別室などの静かな場所で穏やかに伝えるようにしましょう。

コツは根気よく何度も具体的に教えること

発達障害のある方の中には、なかなか新しいことを覚えにくい方もいます。新しい業務を担当してもらう場合は、本人のペースで習得できるように配慮しましょう。

一度や二度で習得できないことでも、何度も経験することで少しずつできるようになっていく方は多くいます。本人が業務の進め方に困っているときは、何に困っているのかをヒアリングし、どうすればよいのかを繰り返し指示してください。


発達障害のある方への指示について、マニュアルやガイドブックを作成している自治体もあります。分かりやすいものでは、札幌市「虎の巻シリーズ」が有名。他に、京都府「発達障害者と共に働く なるほどガイドブック」もあります。

自治体のマニュアルやガイドブックは絵や図が豊富ですので、一通り目を通しておくとイメージがわきやすいかもしれません。

【参考】
発達障がいのある人たちへの支援ポイント「虎の巻シリーズ」|札幌市
発達障害者と共に働く なるほどガイドブック|京都府

発達障害と就労に関する相談先

発達障害のある従業員への配慮や対応について、ノウハウを知りたい場合や具体的な相談をしたい場合は、各地域に設置されている「発達障害者支援センター」に問い合わせてみてください。

東京都では「TOSCA」、神奈川県では「かながわA(エース)」と呼ばれています。検索エンジンで「東京都 発達障害者支援センター」のように検索すると公式サイトが見つかるでしょう。

発達障害者支援センターでは、発達障害をもつご本人だけでなく、その家族や職場の方からの相談も可能です。各関係機関への橋渡しや、発達障害のある従業員を雇用する企業への研修なども行っています。

もし発達障害をもつ方が就労移行支援や就労定着支援を利用しているなら、ぜひ支援員にもご相談ください。

【参考】
東京都発達障害者支援センター(TOSCA)公式サイト
神奈川県発達障害支援センター かながわA(エース) 公式サイト

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