2020/12/17
就労パスポートとは? 使い方とメリット・デメリット
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2019年に厚生労働省から公表された「就労パスポート」は、外から見えない障害をもつ人が就職活動や就労中に使うための情報共有ツール。どのような障害があり、どのような配慮が必要なのか、それまでの仕事や就職準備でどのようなことをしてきたのかなどを整理し、必要な相手に提示することができます。
今回は、就職活動や就労中に便利な就労パスポートの使い方、メリット・デメリットなどをお伝えします。
就労パスポートとは
「就労パスポート」とは、障害のある方が自分の障害特性や配慮してもらいことなどをまとめた情報共有ツールのこと。2019年11月に厚生労働省によって様式が作成され、公表されました。就職活動の中では、採用面接時に履歴書や職務経歴書とあわせて提示するなどの使い方ができます。
もともとは「精神障害者等の就労パスポート作成に関する検討会」で検討されてきたものです。そのため、精神障害、発達障害、高次脳機能障害がある方向けの様式になっています。もちろん、これらの障害以外でも、本人が希望すれば就労パスポートを作成・活用して構いません。
これまで、障害のある方が就労支援を受けたり職場で配慮を求めたりするには、面談のたびに最初から説明する必要がありました。しかし、障害をもつ方の中には、自分の障害特性を分かりやすく説明すること自体が難しい方もいます。
「人とうまく話せない」
「話がうまくまとまらない」
「何を言っていいのか、途中で分からなくなる」
こうしたコミュニケーションや思考・表現の点で障害があると、自分の障害特性を理解してもらったり、配慮してもらったりすること自体が難しくなってしまうのです。障害の内容や配慮だけに注目され、本人ができることがあるという点を見てもらいにくくなる可能性もあります。
そこで、自分の障害特性について予めまとめておき、必要な時に簡単に提示できるものが必要だということになりました。そうしてできあがったのが、就労パスポートです。
就労パスポートのダウンロードは厚労省の公式ページから
就労パスポートは、厚生労働省の公式ページからExcelファイルとしてダウンロードできます。表紙・裏表紙を含めて全部で6ページ。構成は、以下のようになっています。
<就労パスポートの構成>
- 表紙
- 1ページ目:職務経験・アピールポイント・体調管理
- 2ページ目:希望する働き方・コミュニケーション面
- 3ページ目:作業遂行面(1)
- 4ページ目:作業遂行面(2)・就職後の自己チェック・支援機関
- 裏表紙
記入する項目はたくさんありますが、無理に全ての項目を書く必要はありません。自分が書けそうな部分から記入していけばOKです。
基本的には、就労支援機関の支援員と一緒に就労パスポートを作成することが多いでしょう。支援者と一緒に作成することで、自分では表現できなかった部分を表現したり、他の人に伝わりやすい内容で作成できたりします。
【参考】
就労パスポート|厚生労働省
就労パスポートのメリットとデメリット
就労パスポートの作成・活用には、さまざまなメリットがあります。一方で、使い方を間違えると個人情報が守られなくなる恐れもあります。就労パスポートのメリット・デメリットを知り、自分に合った使い方をしていきましょう。
障害者にとってのメリット・デメリットと注意点
障害者にとってのメリットは、支援者と一緒に就労パスポートを作成することで、自分だけでは気づけなかった障害特性に気づけるという点です。あらためて自分の特徴を整理することにもなるので、自分の障害や特徴をより理解できるでしょう。
また、新しい支援者や職場の人たちに自分の障害や特徴を伝えやすくなるというメリットもあります。きちんと伝えれば周囲の人からの理解も得られやすくなりますので、自分に合った支援も受けやすくなるでしょう。
一方、就労パスポートのデメリットは、自分の障害特性に向き合わなければならないことです。人によっては苦しく感じることもあるでしょう。就労パスポートは「作って終わり」ではなく、随時更新が必要。パスポートの内容を更新しないと、そのときの障害の状態に合った適切な配慮を受けられないためです。無理のない範囲で、書けるところから書いていってください。
もう1つのデメリットは、就労パスポートを適切に管理しないと、思わぬ人に障害特性などの情報を共有されてしまう恐れがあることです。
就労パスポートは、提示を求められたとしても、提示したくなければ断って構いません。障害に関する情報は個人情報ですので、どの情報をどれだけ提示するかは、障害者本人の意思で決められます。障害者本人の知らないところで就労パスポートの内容を勝手に共有することは個人情報保護法違反です。こうした認識を事業主と障害のある方同士で共有しておく必要があります。
事業主にとってのメリットと注意点
事業主にとっての就労パスポートのメリットは、障害のある従業員の障害特性がまとまっているので、どのような配慮が必要か分かりやすいということ。一人ひとりに合った合理的配慮の提供をしやすくなるでしょう。
また就労パスポートには、できないことだけでなく、得意なことやできることも書いてあります。障害特性に応じて本人がどのような努力をしてきたのかも分かります。
そうした理解と配慮は障害のある従業員の働きやすさにつながり、職場定着率もアップするでしょう。
就労パスポート活用上の注意点は、就労パスポートに記載されている内容は個人情報であるということ。共有には本人に分かるよう説明した上で、共有してよいという同意が必要になります。就労パスポートの写しは個人情報保護法に基づいて管理すること、提示や作成、更新を強制してはならないことなどにも気をつけてください。
<事業主にとっての就労パスポートの注意点>
- 就労パスポートの内容を共有する場合は、障害者本人に分かるように説明した上で、共有してよいという同意を得る
- 就労パスポートの写しを取得する場合は、個人情報保護法に基づいて管理する
- 就労パスポートは適宜更新する(本人の状況の変化、職場環境の変化などがあったとき)
- 就労パスポートの提示・作成・更新を強制してはならない
- 就労パスポートを所持していないことを理由に、採用その他の場面で不利な取り扱いをしてはならない
- 就労パスポートに記載されている情報量の多さ・少なさを理由に、不利な取り扱いをしてはならない
- 就労パスポートだけで採用の可否を判断せず、他の面接や検査の結果などと合わせて判断する
就労パスポートの記入例や情報取得、共有に関する同意書の参考様式は、以下の参考ページから見ることができます。
【参考】
就労パスポート 事業主向け活用ガイドライン|厚生労働省
障害者にとっての就労パスポートの使い方は? 厚労省「活用の手引き」と記入例
就労パスポートは、障害者向けの履歴書のようなものです。そのため、どういった場面で使いたいのかをイメージすると、作成しやすくなるでしょう。
就職活動で使いたい場合は、主に以下のような活用方法があります。
<就職活動で就労パスポートを使う場合の活用例>
- 支援機関利用登録の際に、支援者に見せて、必要な支援の内容を一緒に検討する
- 採用面接の際に、面接者に見せて、職務の設定などの参考にしてもらう
- 就職した時に、担当者や上司、同僚に見せて、指示の出し方やコミュニケーションの取り方などの参考にしてもらう
- 就職してしばらくした時に、担当者や上司、同僚、支援者に見せて、必要な配慮がどのくらい実施されているかを確認したり、配慮してほしい内容を見直したりする
就労パスポートを活用する際、必ずしも全てのページを見せる必要はありません。たとえ就労パスポートの全てのページに記入していたとしても、「見せなくても構わない」「見せたくない」と思った項目は、見せなくてよいのです。
就労パスポートの原本となるExcelファイルは自分で保管し、見せたい部分だけを印刷して活用しましょう。
具体的な活用方法や記入例などは、厚労省による「就労パスポート 活用の手引き」に記載されています。
<就労パスポートの記入例>
出典:就労パスポート 活用の手引き|厚生労働省