ソーシャルファームとは? 東京都の条例と支援の概要


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2021年3月5日、東京都による認証ソーシャルファームが決定し、リストが公開されました。この認証は、2019年12月に東京都で成立したソーシャルファーム条例に基づいたものです。

ソーシャルファームとは、障害も含め、さまざまな理由で就労が困難な人々が働ける場所。ソーシャルファームの基本と東京都の制度、具体的な事例などを見ていきましょう。

ソーシャルファームとは

ソーシャルファームは、日本語では「社会的企業」と訳されます。もともとイタリアで始まり、ヨーロッパを中心に広がってきました。

ソーシャルファームの第1の特徴は、障害者・高齢者・難病患者・若年性認知症の方・貧困母子世帯・引きこもり生活を続けていた方・刑務所を出た方など、就職するのが難しい方々が働きやすい場所ということ。

第2の特徴は、事業からの収入を主な財源として運営されているということです。

障害者に限らず「就職するのが難しい人たち」を多く雇用し、他の従業員と一緒に働きながら「事業からの収入を主な財源として」、つまり通常のビジネスとして利益を上げながら運営するという点が、これまで日本で行われてきた福祉的就労とは異なります。

日本財団の調べによれば、何らかの理由で働きづらさを抱えていると言われている人は全国で1500万人、およそ8人に1人いるとのこと。そうした人たちが働ける場所の選択肢として、ソーシャルファームはとても重要な役割を担うことになります。


ソーシャルファームについては、以下の関連記事でも紹介しています。

(関連記事)
東京都が障がい者などを雇用する社会的企業=ソーシャルファームを支援!今後の動きに注目です

【参考】
WORK! DIVERSITY|日本財団

2019年12月にソーシャルファーム条例が東京都で成立

日本でも実質的にソーシャルファームのような性格をもった事業所は存在してきました。しかし、制度として成立したのは東京都のソーシャルファーム条例(都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例)が全国初となります。

ソーシャルファームの考え方は、日本の法律のように「障害者」「高齢者」「母子家庭」と枠を区切ってそれぞれに支援を行うものではありません。適切な配慮があることを前提にしつつ、そうした枠組みを超え、さまざまな就労困難な方々の自立を包括的に支援することを目指しているのです。

一般就労の「標準」に当てはまらなくても、働いて賃金を得て、生きがいをもったり社会貢献をしたり、健康的に生活したり、人とつながったりする権利があります。それらを支援する企業がソーシャルファームです。福祉的な側面はありますが、高品質な商品やサービスを提供できますし、「ブランド」として定着した事例もあります。

一般就労が難しくない方とそうでない方が共に働ける職場環境と事業の継続。どちらも犠牲にしないソーシャルファームは、ダイバーシティ&インクルージョンが求められる現代の日本において大きな挑戦であり、未来への希望となるでしょう。

【参考】
「知っていますか?『ソーシャルファーム』」(くらし☆解説)|NHK

東京都の指針と支援、2021年3月に認証ソーシャルファームが誕生

ソーシャルファーム条例成立後、東京都は2020年6月に「東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針」を発表しました。この指針を中心に、認証のスケジュールや指針の概要、具体的な支援内容を見ていきましょう。

東京都 認証ソーシャルファームの募集スケジュール

2020年から2021年の認証ソーシャルファームの募集は、2020年10月から始まりました。申込締切りは同年11月です。

2021年3月には認証が行われ、認証ソーシャルファームと予備認証ソーシャルファームのリストが公開されています。予備認証ソーシャルファームとは、「今後、半年以内に認証基準を満たす事業計画を認証するもの」です。

認証の申請を行うには、原則として説明会に出席しなければなりません。開催場所は、第1回説明会は千代田区のベルサール神保町、第2回説明会は立川商工会議所でした。説明会参加には事前予約が必要(先着順)。予約や募集要項・申請様式のダウンロードは、東京しごと財団の公式サイトから可能です。

説明会の日程等、最新情報は東京都および公益財団法人東京しごと財団公式ページをご覧ください。

【参考】
東京都認証ソーシャルファーム 事業者募集開始のお知らせ|東京都
ソーシャルファームへの支援|東京しごと財団

「東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針」の概要

東京都では、ソーシャルファームの創設や活動を支援するために、ソーシャルファームの認証を行っています。そうした認証と支援の意義や認証基準の概要は、以下のようになっています。

<ソーシャルファームの意義>

  1. 事業からの収入を主たる財源として運営
  2. 就労困難者と認められる者を相当数雇用
  3. 就労困難者と認められる者が、他の従業員とともに働いている社会的企業

<ソーシャルファームの役割>

  1. 自律的な経済活動のもと、社会的企業として就労困難者と認められる者の雇用の場を拡大し自立を進める
  2. 地域の産業及び雇用に貢献することを通じて、ダイバーシティの実現を図る

<ソーシャルファーム認証の単位と基準>

  1. 事業所ごとに認証を行う
  2. 経営主体は法人格を有する
  3. ソーシャルファームとしての事業を行うために必要な財務基盤・実施体制・実現可能性の高いソーシャルファームの事業計画がある
  4. 他の事業所と経理が区分され、当該ソーシャルファーム単位で収支の状況等を把握できる
  5. 就労困難者と認められる者の配慮すべき実状等に応じた雇用管理や支援を適切に行える施設・設備・人材等を有している
  6. 従業員の総数の20%以上が就労困難者と認められる者であり、かつ就労困難者と認められる者の雇用者数が3人以上である

<就労困難者と認められる者とは>※以下をすべて満たす

  1. 就労を希望している者
  2. 心身の障害をはじめ、社会的、経済的、その他の不自由により就労することが難しい者
  3. 認証審査会において配慮すべき実情等に応じた支援が必要であると認められた者

<障害福祉サービス事業所を運営する法人および特例子会社等について>

  1. 障害福祉サービス事業所の運営法人の場合、障害福祉サービス事業所とは別にソーシャルファームを設立する場合は認証対象とすることができる
  2. 特例子会社等の場合、その事業所において障害者以外の就労困難者と認められる者を雇用する場合には、認証対象とすることができる(審査基準となる就労困難者と認められる者の雇用者数は、障害者を除いた就労困難者と認められる者の人数で算出する)

<認証の審査方法と認証期間等>

  1. 「東京都ソーシャルファーム認証審査会」で認証基準に適合していることを確認した上で総合的に審査する
  2. 認証審査会は、企業経営や就労支援の専門家等で組織する
  3. 認証期間は5年間(再審査の上、更新可)
  4. 都は、認証基準に適合しなくなった認証ソーシャルファームの認証を取り消すことができる

<予備認証>

  1. 予備認証とは、今後半年以内に認証基準を満たす事業計画を認証するもの
  2. 新たにソーシャルファーム創設等を行う場合、東京都は認証審査会で事業計画等が認証基準に適合していることを確認した上で総合的に審査し、予備認証を行うことができる

【参考】
「東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針」(案)への意見公募の結果及び「東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針」の策定について|東京都
東京都認証ソーシャルファーム事業所が誕生しました!|東京都

東京都における支援内容

ソーシャルファームに関心のある人や創設を検討している経営主体および創設から5年以内の認証ソーシャルファームに対して、東京都は以下のような支援を行うとしています。ソーシャルファーム創設を検討している時期、創設した時期、運営を続けている時期ごとに見ていきましょう。

<検討期の支援>

  1. 広報、認証基準、支援策等に関する情報提供
  2. 雇用ノウハウの提供に関する相談等
  3. 大学や民間団体等と連携し、ソーシャルファームを担う社会起業家等を育成

<創設期の支援>※予備認証を受けたソーシャルファーム等が対象

  1. 事業所の改築・改修・備品購入・設備導入等に対する経費の助成
  2. 創設に必要な運転資金・設備資金の調達支援
  3. 就労困難者と認められる者のマッチング等の支援(ハローワーク等の就労支援機関等と連携)

<運営期の支援>

  1. 人件費、就労支援(定着、就労訓練等)にかかる経費等の助成
  2. 広告費、販路開拓費、事業所の賃借料等に対する助成
  3. 経営や就労困難者と認められる者の雇用に関する相談・助言(経営の専門家等によるコンサルティングや雇用・定着等にかかる民間団体等を活用)
  4. 公共発注における認証ソーシャルファームの積極的な活用と、総合評価方式で落札者を決定する場合の加点措置
  5. 運転資金・設備資金の調達支援

<支援期間>

  1. 原則として5年間
  2. ただし、ソーシャルファームとしての役割(就労困難者と認められる者の雇用拡大と自立の推進、ダイバーシティの実現)を担っていることを踏まえて、一部の支援を継続できる場合がある

以上の支援の中で、整備・改修費等(初年度のみ)と運営費(5年目まで)は具体的な金額が公表されています。就労困難者と認められる者の雇用者数が認証基準を超える場合は、補助限度額に加算もあります。

助成対象 補助限度額 加算後 補助率
整備・改修費等

(初年度のみ)

2,000万円 3分の2
運営費 1〜2年目 1,150万円 1,400万円 5分の4
3〜4年目 900万円 1,150万円 3分の2
5年目 650万円 900万円 2分の1

【参考】
東京都認証ソーシャルファーム 事業者募集開始のお知らせ 事業者向け説明会開催|東京都

2021年3月、認証ソーシャルファームが誕生

東京都では2021年3月5日に認定ソーシャルファームのリストを公表しました(認証事業所 3事業所、予備認証事業所 25事業所)。

今回、認証事業所となったのは、以下の3事業所です。

  • 企業組合あうん(荒川区)
  • 有限会社まるみ(桜上水事業所)(杉並区)
  • 美紘建興株式会社(町田市)

企業組合あうんは、元野宿者や失業者が始めた取り組み。便利屋・リサイクルショップ、食堂運営などを手掛けています。

有限会社まるみは印刷業などを手掛ける会社です。障害のある方とない方が一緒に働き、障害者の就労体験実習も行っています。

美紘建興株式会社は、東京都と神奈川県を中心に建設現場で、コンクリートを流し込む型枠を作ったり、足場や型枠支保工の組立、溶接等を行ったりしています。刑務所出所者等の就労を支援する協力雇用主です。

【参考】
企業組合あうん
有限会社まるみ
美紘建興株式会社

ソーシャルファームの事例(東京都・神奈川県)

東京都の認証・支援制度が始まる前から、日本各地にはソーシャルファームといえるような事業所がいくつか見られます。東京都や神奈川県で代表的なソーシャルファームとしてたびたび言及されるのが、「スワンベーカリー湘南店」と「多摩草むらの会」です。

スワンベーカリー湘南店(神奈川県)

スワンベーカリーは、ヤマト運輸株式会社の生みの親、故小倉昌男氏が中心となって設立されたベーカリーチェーン。「障がいのある人もない人も、共に働きともに生きていく社会の実現」を理念として、障害者の自立就労支援のために全国に約30店舗を展開しています。

神奈川県にある「スワンベーカリー湘南店」は2006年にオープン。食事パン・惣菜パン・菓子パンなど80ほどのラインナップがあり、「高級ブランドのパン屋さん」として認識している方もいます。

湘南店では、店舗販売だけでなく外販を強化することで年商4000万円を達成しました。スワンベーカリー湘南店を運営する株式会社とも湘南の比企野雄二社長は、「とかく“障害者が製造販売したパン”と言うと同情からの購入を期待する傾向がありますが、そうではなく求められるパンを提供し消費者の皆さんと長くお付き合いのできるパン屋を目指したい」としています。

湘南店で実施してきた方策には、

  • 販売実績の分析と地域に合った商品を選択
  • 「すわん通信」というオリジナル情報誌を発行して新商品やイベントの情報を発信
  • 病院・看護学校・福祉施設での外販
  • 工場・企業・スーパーなどの民間企業などでの外販
  • オークション会場や中古車販売店のイベントへの納品
  • お中元やお歳暮への対応(贈答品の取り扱い)

などがあるとのことです。

また、もともとは「全員が同じ作業をできるように」という方針でパン作りを行っていましたが、比企野社長になってからは個々の能力に応じて勤務シフトや担当部門を適材適所で配置し、業務効率を高めてきました。

多摩草むらの会(東京都)

多摩草むらの会は、東京都の八王子を中心に活動しています。精神障害者の自立を組織的に支援するために1997年に任意団体「草むらの会」発足し、2004年にNPO法人として認可されて「多摩草むらの会」となりました。

まんじゅう・お弁当・お惣菜の製造販売、レストラン運営、公園清掃・ハウスクリーニング、農産物の生産・販売、布小物のデザイン・製造・販売、印刷物製作、アート作品製作など、さまざまな事業を展開。2012年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で審査委員会特別賞を受賞。2013年には、風間美代子代表理事がヤマト福祉財団の「小倉昌男賞」を受賞しています。

多摩草むらの会が運営している飲食店の例としては、たとえば「畑deきっちん」という採れたて野菜を使った本格的な創作料理店があります。多摩センター駅から徒歩5分の「ココリア多摩センター」6階にあり、就労継続支援A型として運営中です。

レストランでは、同会が手掛ける「夢畑」で採れた野菜や提携農園の無農薬・減農薬野菜、おいしい魚介や肉を使って丁寧に調理し、お客さまに提供。店内にはアート作品や花が飾られ、明るい雰囲気の中で食事を楽しめます。

税込900円の日替わりランチも用意されており、豪華なお膳、アラカルト、甘味なども。きちんと食事をしたいときにも少し休憩したいときにも嬉しいメニューがそろっています(2021年3月現在)。

利用者からは「小鉢も含めて、とにかくおいしい」「ていねいに接客してくれる」と好評です。

【参考】
スワンベーカリー湘南店
新しい障害者の就業のあり方としてのソーシャルファームについての研究調査|厚生労働省
NPO法人 多摩草むらの会

身近なソーシャルファームの見つけ方


日本で少しずつ広がってきたソーシャルファーム。東京都で制度化されたことで注目され、今後の取り組みの拡大も期待されます。

東京都の認証ソーシャルファームと予備認証ソーシャルファームのリストは、東京都公式ページで見られます。事業者名のみの公表なので、詳しい事業内容を知りたい場合は、その事業所名をインターネットで検索してみるとよいでしょう。

神奈川県でも、県の公式ホームページでソーシャルファームとなっている事業所を紹介しています。スワンベーカリー湘南店以外に、株式会社アイエスエフネットケア川崎やNPO法人ソーシャルファーム大磯が掲載されていました(2021年3月現在)。

もちろん、これらのリストに載っていない事業所で、実質的にソーシャルファームの役割を果たしている事業所もあります。

ソーシャルファームによる販売店やレストランなどを見つけたら、近くまで行った際にぜひ立ち寄ってみてください。ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む職場がどのような職場になっているのか、より身近に感じることができるでしょう。

【参考】
東京都認証ソーシャルファーム事業所が誕生しました!|東京都
ソーシャルファームについて|神奈川県

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