精神障害者にとっての短時間労働のメリット・デメリットは? 2023年に特例措置終了の可能性


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精神障害者の雇用を促進するため、雇用率の計算において、精神障害をもつ短時間労働者を通常「0.5人」であるところを「1人」としてカウントできる特例措置があります。この特例措置が2023年に終了するかもしれません。精神障害者にとって短時間労働にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。特例措置終了前にNIVRの調査研究報告書No.161をもとに振り返っていきましょう。

フルタイム勤務が難しい精神障害者は多い

多くの場合、正社員として働くには週40時間という長い労働時間を求められます。これは一般雇用でも障害者雇用でも同様で、1日平均で考えれば8時間の労働時間です。

1日8時間という労働時間は、多くの障害者にとって容易に達成できるものではありません。特に精神障害を持つ方の場合、「やりたいけれどできない」「自分の体調や精神的安定を考えると難しい」と考える方は少なくないでしょう。

2018年度版の障害者雇用実態調査によれば、週所定労働時間が30時間以上の精神障害者は就労する精神障害者全体の5割弱。フルタイム勤務よりも少ない1日平均6時間以上という条件で見ても、就労する精神障害者の半分未満でした。

こうした精神障害を持つ方の働き方の実態に合わせて、2018年から5年と言う期限付きで導入されたのが、障害者雇用の実雇用率算定において「精神障害者である短時間労働者」に適用される特例措置です。

精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置

「精神障害者である短時間労働者の算定方法に係る特例措置」(以下、「特例措置」)は、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、一定の条件のもとで障害者雇用率算定において、本来「0.5人」であるところを「1人」としてカウントすることを認めるものです。2023年3月までの暫定措置となっています。

特例措置の適用対象者は、精神障害者保健福祉手帳の所有者であり、かつ

  • 雇い入れから3年以内の者
  • 精神障害者保健福祉手帳の取得から3年以内の者

という2つの要件のいずれかを満たす必要があります。

障害者を雇用する企業において、精神障害者の雇用は年々増加してきました。近年では、精神障害者を雇用する企業は、障害者を雇用する企業全体の3割から4割を占めています。特例措置を適用する企業も2割ほどあり、特例措置を適用される精神障害者の数自体も右肩上がりを続けています。

NIVRの調査研究報告書No.161によれば、特例措置を適用する企業では障害者雇用率を達成する傾向が強いとのこと。企業については「特例措置の適用が雇用率達成につながることを考えて、短時間労働の精神障害者を雇用しやすくなっている」という事情がうかがえます。

精神障害者にとっての短時間労働のメリット・デメリット

では、精神障害をもって働く当事者にとって、特例措置が適用されることにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

2021年度のNIVRによる調査研究No.161から自身が特例措置を適用されているかどうかきちんと把握しているわけではないということが分かっていますので、今回は短時間労働ができることのメリット・デメリットに読み替えて見ていきましょう。

短時間労働のメリットは体調管理のしやすさ

大前提として、特例措置には、

  • 短時間労働でも「1人」としてカウントできるため、フルタイム勤務が困難でも雇用率の維持・達成を目指す企業が雇用しやすくなること
  • 週所定労働時間30時間以上という枠にとらわれず、少しずつ職場定着を進めながら労働時間を増やしていけること

という目的があります。

これらは実際、現場で働く精神障害者にとって

  • フルタイム勤務ができなくても雇用される
  • 体調に合わない長時間労働を避けられる

という大きなメリットになっているようです。

この2点に加えて、当事者インタビューからは、短時間労働であることによって身体的・精神的に余裕がもてるという声がありました。労働時間の満足度でも、労働時間が「20時間以上30時間未満」であることに「とても満足」あるいは「やや満足」と答えた方が8割弱見られます。

ただ、短時間労働であることに不満を感じる方も2割ほどいました。フルタイム勤務への移行を望む方の割合も2割ほどあり、NIVRが行ったクロス集計で労働時間に不満を感じている方にフルタイム勤務への移行を望む方が多いということが分かりました。

フルタイム勤務への移行意志についてもう少し細かく見ると、回答はばらける結果となりました。

最も多かったのは、フルタイムへの移行は困難という方。短時間労働を続けたいと答えた方と合わせると全体の半数を超えています。実のところ企業側の担当者からも「フルタイム勤務に移行するのが困難な従業員がいる」という認識が一定見られるのですが、当事者側の立場から見ても「フルタイム勤務は困難」「短時間を希望する」という方が多いようです。

なお、フルタイムへの移行が困難、短時間労働を希望する理由を自由記述から見ると、

  • 「お金より体が大切」
  • 「現在の体調を維持したい」
  • 「自信がない」

などが見られました。

短時間労働のデメリットは収入面や自立した生活の難しさ

短時間勤務のデメリットを比較的強く意識しているのは、フルタイム勤務を希望する方が中心のようです。そのデメリットとは、

  • 収入が少ない
  • 仕事のやりがいをあまり感じられない
  • 他の収入源がないと自立した生活を送れない

など。特に収入増加を理由にフルタイムを希望する方が多く見られました。

短時間労働で収入が少なくなる一番の要因は、労働時間が短いことで正社員になりにくく、パートやアルバイトでの雇用が圧倒的に多く見られることです。また、パートやアルバイトという雇用形態のため、給与も時給制となり、月給制のような安定した収入とは言いがたい状況です。

特に短時間労働の精神障害者として特例措置を受けている場合、特例措置を受けていない方よりもパート社員である割合と時給制である割合が高くなっていました。

仕事のやりがいについては、短時間労働であるためにあまり難しい業務やステップアップにつながる業務が任されにくい、パートやアルバイトなのでキャリアアップにつながりにくいといった事情もありそうです。

フルタイムへの移行を希望する年代を見ると、比較的若い年代ほど多く見られ、年代が上がるほど短時間労働を希望する傾向がありました。

なお、収入についての満足度について尋ねた設問では、「とても満足」と「やや満足」を合わせて7割弱、「やや不満足」と「全く不満足」を合わせて4割強。満足していないと答える方の割合が労働時間の場合よりも大きくなっていますので、短時間労働を続けたい方の中にも収入面をデメリットとして捉えている方がいるようです。

精神障害者の短時間労働とキャリアアップの必要性

精神障害者にとって、短時間で働ける環境には健康管理のしやすさ、働きやすさといった点で大きなメリットがあります。一方で、パートでの雇用が多く時給制での労働となることで収入面の不安や、やりがい・キャリアアップでの課題がデメリットとして見られました。

短時間労働の精神障害者を対象とする特例措置は、精神障害をもって働く方が週20時間以上の労働を続けられることを求めており、かつ、3年以内に週30時間以上働けるよう徐々に労働時間を増やしていくという道筋がイメージされています。

しかし、精神障害を持ちながら働く当事者の考え方を見ると、

  • 短時間労働に満足している
  • 賃金に多少不満はあっても健康管理を重視している

などが多く見られました。

企業側からも、

  • 週30時間以上の労働をさせれば本人に無理な働き方となりかねない
  • 週20時間未満なら働けるのに雇用率ではカウントされない(無視されてしまう)

といった懸念があがっています。

今回の調査研究では、特例措置の有無にかかわらず、障害をもつ本人の状況に合った働き方ができることを重視する企業が全体として多く見られました。特例措置適用の可否や雇用率算定方法の点から「週20時間以上でないと困る」「週30時間以上働ける障害者でないと困る」といった考え方をする企業がないわけではありませんが、それでも、より現場の働き方に合ったものにすべきだという意見が企業側から出ています。

特例措置の終了が考えられる2023年、短時間で働きながらどのようにして収入面やキャリア形成などの課題を解消していくかがポイントになりそうです。

(関連記事)
2019年障害者雇用率について|カウント方法と納付金制度

【参考】
調査研究報告書 No.161精神障害者である短時間労働者の雇用に関する実態調査~雇用率算定方法の特例が適用される労働者を中心として~|NIVR

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