全国初の聴覚障害者シェアハウスとは—積水ハウスの障害者住宅研究と障害者雇用


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大手住宅メーカーのひとつである積水ハウスでは、1970年代から障害者住宅の研究に取り組んできました。2022年には全国初となる聴覚障害者向けシェアハウス「手話ハウス結(ゆい)」を建設。障害者雇用においても2017年以降、実雇用率2.3%以上を維持しています。今回は、積水ハウスの障害者住宅研究に基づく住まいづくりの特徴、および障害者雇用での取り組みを紹介します。

高齢聴覚障害者のための手話ハウス「結」が2022年3月に完成

積水ハウスでは、長年にわたって障害に配慮した住宅の研究を続け、多くの障害者住宅を手がけてきました。その中で2022年3月に長崎で完成したのが、全国初となる聴覚障害者のためのシェアハウス「手話ハウス 結(ゆい)」です。建築面積は約380平方メートルで個室が8部屋、共用のお風呂と台所を備えています。

「手話ハウス 結」には聴覚障害をもつ方のための設備が多数あるのが特徴です。たとえばランプの点滅で来客を知らせる「フラッシュベル」、ボタンを押すと119番通報して自動で施設名や住所、火災の発生を告げるシステム、一部が透明になっていて出会い頭の衝突を防ぐ壁などがあります。

建設のきっかけは、長崎県ろうあ協会で発足した研究会による取り組みでした。もともと高齢の聴覚障害者は、多くの困難を抱えてきました。手話と日本語が大きく異なることで、手話を使う高齢者の中には、文字によるコミュニケーションを苦手とする方もいます。手話に対応していない老人ホームに入居するとコミュニケーションがとりにくく、孤独になってしまう例が課題となっていました。そこで、研究会と積水ハウスが連携して手話で会話しながら共同生活できる場づくりを進めていたのです。

V500へは2020年10月に参加

障害者住宅研究に大きな実績をもつ積水ハウスは、2020年10月に障害者の活躍推進に取り組む国際イニシアチブ「The Valuable 500」に加盟しました。V500では、加盟にあたって企業・グループ自身が達成する目標や方向性を「コミットメント」として公表するルールとなっています。積水ハウスによるコミットメントは、「お客様の幸せ」「従業員の幸せ」「社会の幸せ」の3つで構成された、以下のようなものです。

<積水ハウスのコミットメント>

  • お客様の幸せ ~「生涯住宅思想」に基づく住まいづくり、街づくりの推進
    1. スマート ユニバーサルデザインに基づく住まいづくり、街づくりを推進
    2. 「人生100年時代」の新しい価値として「健康」「つながり」「学び」などの無形資産の幸せを提案
  • 従業員の幸せ ~多様な従業員が最大限の力を発揮できる機会の提供と環境の整備
    1. 「人材サステナビリティ」に基づき、従業員と会社が共に持続可能な成長を実践できる環境や仕組みづくりへの取り組み
  • 社会の幸せ ~障害者の社会参加支援、ノーマライゼーション推進
    1. 社外の企業等と協働・共創しながら、障害者の自立と社会参加支援、社会の多様性の理解を促進する活動を実施

 

次項からは、積水ハウスがこうしたコミットメントのために具体的にどのような取り組みを行ってきたかを見ていきましょう。

積水ハウスの障害者住宅研究と独自基準「スマートUD」

V500のコミットメントの1つめに関連する取り組みには、スマートUDの住まいづくりがあります。

積水ハウスでは全ての戸建住宅に「スマートユニバーサルデザイン(スマートUD)」という独自の基準を採用してきました。これは、従来のユニバーサルデザインに求められる「安心・安全」「使いやすさ」に、積水ハウス独自の3つの基準「触れ心地がよい」「操作感がよい」「見た目が美しい」を加えたもの。これにより、全ての建物を「生涯住宅思想」に基づく「誰にでも使いやすい住まいづくり」を実践し、“五感に響く「心地よさ」”を追求した住空間デザインを行っています。具体的には、床の段差解消、安心・安全な手すりの形状・位置、障害のある方や高齢者でも使いやすいユニットバス、指をはさみにくい引込み戸などの取り組みがあります。

スマートUDの取り組みには、1970年代から続く障害者住宅研究の成果が大いに活かされてきました。たとえば、ユニバーサルデザインと同じ考え方での住宅づくりは1980年代から行われ、1981年には日本初となる「障がい者配慮モデルハウス」を建設。2002年には「SH-UD(積水ハウスユニバーサルデザイン)」という独自基準を確立して、暮らしやすさを実感できる住宅を追求するとともに、UD設計の知見を現場に活かす人材育成制度として、社内認定制度「SH-UDマスタープランナー制度」を設けました。

スマートUDの推進は2010年から行っており、グッドデザイン賞(生活領域/住宅設備部門)の受賞など、高い社会的評価も得ています。

積水ハウスの障害者雇用とキャリアアップ・チャレンジ制度

2つめのコミットメントは、積水ハウスでの障害者雇用です。同社では2017年以降、障害者雇用率2.3%以上を維持しており、2022年1月末時点で2.9%となっています。障害をもつ従業員のキャリアアップ制度も2006年に導入しました。

積水ハウスの障害者雇用における多様な取り組み

積水ハウスの障害者雇用の目標は、「各部署1~2人以上の障がい者雇用と定着」。D&I施策として、年齢・性別・国籍・価値観・性的指向・障害の有無などの違いを互いに尊重し、認め合うとともに、心理的安全性のある職場づくりを進めてきました。

心理的安全性を確保するためのポイントとして、

  • 目標や役割が明確で情報が共有されている
  • 互いを尊重し信頼し合えている
  • 主体的に参加し貢献している
  • 組織の一員として活かされている

という4つをあげています。

具体的な障害者雇用の取り組みは、

  • 障害のある従業員を対象とするキャリアアップ制度の導入
  • 一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)への参画
  • 全国のエリアごとに実施される「ダイバーシティ交流会」
  • 障害のある従業員を対象とする社内サイトの設置
  • 専門組織である「人事部障がい者雇用推進室」の設置

など多岐にわたります。

特に「ダイバーシティ交流会」は、運営組織に障害をもつ従業員が参加し、交流会をとおして各地の障害をもつ従業員同士が相談し合える関係づくりを進められる重要な場です。最近では上司や同僚も参加し、業務上の工夫の共有や課題抽出、職場環境整備などに取り組んできました。

近年のコロナ禍でマスク着用やWeb会議拡大したことで聴覚障害のある従業員が情報を得にくくなったという課題に対しては、ZoomとUDトークを活用した情報の取得・発信マニュアルを複数の現場レベルで整備して一本化し、社内に展開しています。

社内公募制度「キャリアアップ・チャレンジ制度」とは

「ダイバーシティ交流会」と並んで重要な施策が、障害のある従業員を対象とする「キャリアアップ・チャレンジ制度」の導入です。2006年に導入された本制度は、地域勤務の社員や生産技術職、一般事務職の従業員が、総合職へ転換できるもので、1泊2日で行う研修への参加と一定の資格取得が応募条件となっています。選考は面談をとおして行われ、2019年度は43人の応募者から35人がキャリアアップしました。

積水ハウスの企業理念と主な事業

障害者住宅の研究や誰にでも暮らしやすい住まいづくりの土台には、積水ハウスの根本哲学「人間愛」があります。「人間愛」に基づく住まいづくりは日本だけでなく海外でも実践され、2050年に向けた中長期計画「サステナビリティビジョン2050」のもと、さらなる価値創造に取り組んできました。

企業理念とグローバルビジョン


出典:Value Report 2022|積水ハウス

積水ハウスの企業理念は、根本哲学に「人間愛」を置き、それに基づいて基本姿勢の「真実・信頼」、目標である「最高の品質と技術」、事業の意義である「人間性豊かな住まいと環境の創造」という3つを定めています。

この企業理念に基づきグローバルビジョンとして掲げているのが、2020年に発表された“『我が家』を世界一幸せな場所にする”というもの。グローバルビジョンには以下の3項目が含まれています。

  • ハード・ソフト・サービスを融合し幸せを提案
  • ESG経営のリーディングカンパニーに
  • 積水ハウステクノロジーを世界のデファクトスタンダードに

人生100年時代となった今、積水ハウスは「住」を基軸として融合したハード・ソフト・サービスを提供するグローバル企業となることを目指しています。

主な事業

積水ハウスは住まいづくりを中心に多様な事業を展開。2021年度売上高の中で最も大きな割合を占めるのは「不動産フィー事業」で、不動産の転貸借・管理・運営・仲介等を行う事業です。

次に大きな割合となっているのが「国際事業」で、海外における戸建て住宅の販売、宅地の造成開発・販売、分譲マンションや賃貸マンション等の開発を手がけています。対象エリアはアメリカ、オーストラリア、イギリス、中国、シンガポールです。

他に売上が大きい事業としては、「賃貸住宅事業」と「戸建て住宅事業」があります。住宅や事業用建物等の設計・施工の請負がメインで、RC造による建築工事や土木工事の設計・施工の請負と合わせれば売上全体の約4割にのぼります。

積水ハウスの累積建築戸数は2022年1月末時点で254万戸、海外でも戸建て住宅を1万戸供給しており、世界でトップクラスの実績。障害者住宅の研究の成果やスマートUDの実践など、年齢や障害の有無を問わず暮らしやすい住まいづくりの技術は福祉事業所からの高く評価されてきました。

現在、積水ハウスは持続的な価値創造のために以下のような中長期計画「サステナビリティビジョン2050」のもとで、さらなる企業価値と社会価値の向上を目指しています。

<サステナビリティビジョン2050の概要>

  • 脱炭素社会へ先導
  • 人と自然の共生社会へ先導
  • 資源循環型社会へ先導
  • 健康・長寿先進社会へ先導
  • ダイバーシティ社会へ先導

年齢や障害の有無を問わず暮らしやすく人々の幸せにつながる住まいづくりが、積水ハウスによって国内・国外で進められています。

【参考】
Value Report 2022|積水ハウス
全国初「聴覚障害者のためのシェアハウス」が誕生 音が聞こえなくても安心な工夫 ”交流と生きがい”を【長崎発】|FNNプライムオンライン
ダイバーシティの推進 障がい者・高齢者雇用の促進|積水ハウス
障がい福祉建築 建築実例|積水ハウス
ユニバーサルデザイン(スマートUD)|積水ハウス
「就職はゴールではなくスタート ~多様な人材が活躍し続けられる職場~ 積水ハウス株式会社(大阪府・東京都)」(働く広場2017年8月号)|JEED
一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ「ダイアログ・イン・ザ・ダーク、積水ハウスとの共創プログラム「対話のある家」閉館のお知らせ」|PR TIMES

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