2020/06/01
精神障害者保健福祉手帳と障害年金の等級判定基準
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精神疾患のために日常生活や仕事で困難を抱える人にとって、精神障害者保健福祉手帳や障害年金は生活の支えになります。しかし、精神障害者手帳で3級を取得した方であっても障害年金で3級を取得できるとは限りません。精神障害者手帳と障害年金は、もともと別の制度だからです。両者の各等級の判定基準には、どのような違いがあるのでしょうか。
精神障害者保健福祉手帳とは
精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)は、精神疾患のある方が6か月以上にわたって日常生活や社会生活に支障を来している場合に交付される障害者手帳の一種。精神障害者の自立と社会参加を支援するさまざまなサービスが受けられるようになるため、安定した生活と就労の支えになります。
精神障害者手帳には1級・2級・3級の3つの等級があり、1級が最も障害の大きい等級です。
対象となる主な精神疾患は、
- 統合失調症
- うつ病、躁うつ病(双極性障害)などの気分障害
- てんかん
- 薬物やアルコールによる急性中毒や、その依存症
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害)
など。
他にも、パニック障害や摂食障害等、さまざまな精神疾患が対象になっています。
精神障害者保健福祉手帳の等級判定基準
精神障害者保健福祉手帳の交付の等級判定は、主に2つの観点から行われます。1つは「精神疾患の状態」、もう1つは「能力障害(活動制限)の状態」です。
精神障害者手帳3級の判定基準
精神障害者手帳3級の全体的な判定基準は、日常生活や社会生活で必要なことをおおむね自分で行えるものの、時々他の人の助けや助言が必要であるような状態です。
精神疾患の状態は、ひどくはないが比較的軽度の症状はあるという程度が目安。能力障害の状態は、適切な食事、清潔保持、計画的な買い物や金銭管理、規則的な通院・服薬、公的手続き等も自分でおおむね行えるものの、時々他の人の助けが必要となる状態です。
各精神疾患に関する判定基準の概要は、以下の図のようになります。
精神障害者手帳2級の判定基準
精神障害者手帳2級の全体の判定基準は、日常生活や社会生活で必要なことが、他の人の助けや助言がないとできない状態。
精神疾患の状態では比較的重い症状が見られるような状態で、能力障害の状態は、適切な食事、清潔保持、計画的な買い物や金銭管理、規則的な通院・服薬、公的手続き等を援助なしには行えないという状態です。
精神障害者手帳1級の判定基準
精神障害者手帳1級の判定基準は、さらに症状が重く、能力障害が大きな状態。日常生活や社会生活でおおむね必要なことが、援助があっても自分では行えないというイメージです。
障害年金とは
障害年金とは、病気やケガが原因で生活や仕事に支障が出るようになった場合に、現役世代も含めて受給できる年金のことです。1級〜3級があります。
精神障害者の場合、その精神疾患の初診日の時点で国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」を受給できます。
また、初診日が20歳以後の場合、保険料の納付について次のいずれかの要件を満たさなければなりません。
- 初診日のある月の2か月前までの公的年金の加入期間の3分2以上の期間で、保険料が納付または免除されている
- 初診日において20歳以上65歳未満の場合、初診日のある月の2か月前までの1年間の保険料に未納がない
障害基礎年金で受け取れる金額は、2級なら最低780,100円、1級なら最低975,125円となっています。(2020年3月現在)
障害厚生年金の場合は平均標準報酬月額を基に計算され、最低でも585,100円が支給されます。
注意が必要なのは、精神障害者手帳と同様に1級〜3級が設定されていても、精神障害者手帳とは異なる制度のため、基準も別だということ。大きな違いは、対象となる精神疾患の範囲と3級の判定基準です。
障害年金の認定対象となる精神疾患
障害年金の場合は認定対象疾患が精神障害者手帳よりも狭くなり、次の6つの分類に含まれる疾患が対象となります。
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)
- 症状性を含む器質性精神障害(認知症、高次脳機能障害、アルコールや薬物による精神障害など)
- てんかん
- 知的障害
- 発達障害
精神障害者手帳では対象疾患となっていても、障害年金では原則として認定の対象としないと述べられている精神疾患は以下の通りです。
- いわゆる神経症(適応障害、社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、身体表現性障害など)
- 人格障害
- てんかんであっても、抗てんかん薬の服用や外科的治療によって抑制される場合
ただし、原則として対象とならない精神疾患であっても、精神科受診などで対象疾患が認められれば障害年金を受給できるケースもあります。
障害年金の等級判定基準
障害年金にも精神障害者手帳と同様に1級〜3級があり、1級と2級についてはおおむね判定基準も同じです。しかし、3級については事情が大きく異なります。
第1に、障害基礎年金3級というのは存在せず、障害厚生年金にしか3級はありません。
第2に、3級の基準は労働に関する基準になっていることです。障害年金の判定基準を大まかにまとめると、以下のようになります。
- 3級は、日常生活はできるが労働が著しく制限される状態
- 2級は、日常生活も著しく制限される状態
- 1級は、自分で日常生活のことをできず、常に誰かの援助が必要な状態
障害年金3級の判定基準(障害厚生年金)
障害年金の3級は、障害基礎年金にはなく、障害厚生年金にのみ設定されています。
3級の判定基準となっている障害の状態は次の2つ。
- 精神に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
- 精神に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの
「著しい」制限かどうかは、どの精神疾患が原因になっているかで異なります。対象疾患の各分類における判定基準の概要は下図を参考にしてください。
障害年金2級の判定基準(障害基礎年金・障害厚生年金)
障害年金の2級は、障害基礎年金・障害厚生年金ともに設定されています。2級の判定基準となっている障害の状態は、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです。
知的障害と発達障害の場合は「著しい制限」ではなく、「援助が必要」という基準になっています。
障害年金1級の判定基準(障害基礎年金・障害厚生年金)
障害年金の1級も、障害基礎年金・障害厚生年金ともに設定されています。1級の判定基準は、「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」。つまり、自分では日常生活に必要なことができず、常に他の人の援助が必要な状態です。
【参考】
『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』等|日本年金機構
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第8節 精神の障害|日本年金機構
障害年金の審査は精神障害者手帳の審査より厳しい
精神障害者手帳と障害年金の判定基準を比較してみると、障害年金のほうが認定対象となる精神疾患の範囲が狭くなっています。たとえば、パニック障害は精神障害者手帳の交付対象になりますが、障害年金では対象外です。
また、等級の基準を見ても3級の基準が大きく異なり、障害年金では労働の制限が基準であることが分かります。成人後に初診日がある場合は、そのとき厚生年金に入っていなければ、そもそも3級には認定されません。
厚生年金に加入している間に精神疾患の初診日があるなら、障害厚生年金の対象になり得るため障害年金でも3級に認定される可能性はあります。しかし、障害年金では労働に制限がかかることが基準になっているため、手帳の3級を所持していても、労働の状況によっては障害年金の3級に認定されない場合があるでしょう。
もし精神障害者手帳と障害年金の両方の申請を考えているのであれば、まずは障害年金の審査を受けることをおすすめします。手帳と障害年金の申請は別々に行う必要はあるものの、障害年金の受給が決まれば手帳の取得も確実ですし、障害年金の等級がそのまま手帳の等級になるからです。
逆に、障害年金の審査がたとえ通らなくても、精神障害者手帳の審査は通る可能性があることも考慮しておきましょう。
障害年金の相談は障害年金に詳しい社会保険労務士に、精神障害者手帳の相談は精神科医に相談してみましょう。もしパニック障害などをもっている方が認定を目指すなら、まずは精神科医に相談するのがおすすめです。
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