【合理的配慮好事例・第24回】製造業ではどうする? 精神障害者のキャリアアップと制度の導入・活用方法


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障害をもつ方が多く従事している製造業。製造業で精神障害者がキャリアアップするには、どのような制度が必要なのでしょうか?

合理的配慮好事例解説シリーズ第24回は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の好事例集から、特に製造業で働く精神障害者がキャリアアップを実現した制度とその活用方法を紹介・解説します。

目標管理と昇給を結びつけ管理職登用へ—株式会社ダイキンサンライズ摂津

株式会社ダイキンサンライズ摂津は、ダイキングループの第三セクター方式の特例子会社。大阪府・摂津市・ダイキン工業・ダイキン関連会社が出資しています。部品の加工・組み立て、フッ素化学製品の製造の他、CAD図面作成や書類のデータ化、各種名刺作成などを手掛ける会社です。
同社は「これからの時代には、高齢者、障がい者、男女を問わずあらゆる人が自分の責任を担って、閉塞感に満ちるのではなく、公道を堂々と歩いて、皆で明るい人生を送る時代が来るであろう。そのような社会に会社として参画したい。」という思いから設立されました。

2020年6月1日時点では、従業員196名のうち175名が障害をもつ方々。身体障害者72名、知的障害者36名、精神障害者67名を雇用し、企業在籍型ジョブコーチ15名、職業生活相談員30名が配置されています。

同社の特徴の1つは、障害のある社員のキャリアアップを積極的に実施していること。部長・課長・職場長・係長・リーダー・サブリーダーといった役職への登用があります。

JEEDの平成24年度職場改善好事例によれば、障害者のキャリアアップ推進として、同社では4つの取り組みを行いました。

目標管理制度と昇給制度

障害のある社員の意欲向上と労働の質を高める仕組み作りとして導入したのが、目標管理制度と昇給制度です。

もともとは障害のない社員が全ての管理監督業務を行い、障害のある社員は勤続年数を基準に一律の給与・賞与でした。しかし、それでは意欲や自発性が向上しにくく職場の雰囲気もあまり活気がないという課題に直面しました。

そこで、障害のある社員それぞれの能力や実績をきちんと評価して昇給・賞与へ反映させる、業務に精通した障害のある社員に業務管理を任せる、実績やキャリアに応じて管理的ポストに登用するなどの制度を設けたのです。

目標設定では、まず事業所が年度ごとに基本方針を策定。その基本方針に従い、業務グループごとの年間目標が設定されます。この年間目標を達成すべく社員それぞれが業務に取り組むというシステムです。

取り組みの評価は期末に行われ、次年度の昇給に反映されます。

障害のある社員の管理職への登用

障害のある社員が生産管理を担う体制の導入では、障害のある社員と障害のない社員の間に信頼感が生まれ、全社員の一体感や事業所全体の活性化につなげることができました。

現場でキャリアを積んだ障害のある社員をリーダーに登用する制度もあり、リーダーになった社員は、職場長、課長へとキャリアップしていくことも可能です。

管理職やリーダーに任命された社員は、日々の業務管理を担うとともに、月1回の職場定着推進会議にも出席。各現場の状況や課題を共有し、対策を協議します。

また、事業所の方針として課長・部長は全員が第2号ジョブコーチ研修を受講。研修で学んだ知識を活かして部下の雇用管理を行ってきました。

令和3年2月時点では、

  • 取締役部長 1名(下肢障害)
  • 部長 1名(下肢障害)
  • 課長 3名(下肢障害)
  • 職場長・係長 4名(下肢障害3名、上肢障害1名)
  • リーダー 9名(下肢障害3名、聴覚障害5名、精神障害1名)
  • サブリーダー 10名(下肢障害1名、聴覚障害1名、精神障害7名、知的障害1名)

の方々が、管理職・監督職に登用されています。

資格取得を支援

同社での資格取得の支援は、業務の効率化を目的に開始されました。これは、ただ教材費や研修費を支給するというものではなく、既に資格を持っているリーダーが講師となって仕事の合間や休憩時間などに学科試験の勉強会を自主的に実施するなどの具体的な対策を行うものです。

きっかけは、空調機の冷媒ガス回収作業に必要な冷媒回収技術者には民間資格取得が必要だったことです。実際にグループ全員が資格を取得できた後は、業務効率が2倍に上昇しました。

その後は、業務上必要な資格をはじめ、仕事の幅が広がる資格についても取得を推奨。資格取得後は、昇給などにも反映されます。

【参考】
障害者のキャリアアップや加齢に伴う問題への対応に関する職場改善好事例集(平成24年度)|JEED
株式会社ダイキンサンライズ摂津

定期的な賞揚とマイスター制度 スキル向上を積極的に評価しキャリアアップへ—日総ぴゅあ株式会社

日総ぴゅあ株式会社は、日総工産株式会社の特例子会社です。障害のある社員をCS(チャレンジドスタッフ)、指導・支援社員をSS(サーバントスタッフ)と呼んでおり、製造請負軽作業、事務代行、清掃、食品・飲料の販売、マッサージなど多岐にわたる事業を展開。2020年4月時点では社員数182名のうち158名が障害をもつ方々です。

同社では「人財育成」に注力。その「ぴゅあ人財育成の3本柱」が、賞揚制度・マイスター認定制度・各種リーダー制度です。

賞揚制度

賞揚制度は、障害のある社員の多様な能力をきちんと評価するための制度です。

もともとは、入社間もない社員が在職期間の長い社員よりも多くの作業を担えることで業務の交代があった時に、先輩社員が自信を失ってしまうという課題がきっかけで始まりました。

同社の賞揚制度では、

  • 自分自身が立てた目標を達成した
  • 達成までいかなくても成果があった
  • 担当している業務で何らかの功績があった
  • 新規業務ができるようになった
  • お客さまに褒められた

など、身近な成果があった際に評価されます。

毎月1名以上の表彰者を決定し、月末に全社員の前で社長が直接賞揚。賞状・賞金を受け取ることができます。月次賞揚の他に、半年に1度の期間単位での表彰を行う場合もある。

2019年時点で月次ではのべ270名、半期ではのべ9名を賞揚してきました。障害のある社員全員に公平にチャンスがあるため、それぞれの自信につながっています。

マイスター認定制度

マイスター制度では、障害のある社員それぞれの得意分野を活かして特定のスキルを高めることで自信や誇りにつなげます。優れた技術をもつ社員に対して、より高いレベルの業務の訓練を実施して社内審査を行い、マイスター認定する制度です。

同社のマイスター制度の特徴は、1年の有効期限があること。年に1度の社内審査では、業務の基本となる小項目全ての課題をクリアしているかどうかが評価されます。

そのため、継続して認定されるには新年度に改めて審査を受けなければなりません。認定されれば認定証が発行されるとともに、報奨金も支給されます。

マイスター制度の導入・活用は、次のような大きなメリットをもたらしました。

<マイスター制度導入のメリット>

  • 障害のある社員のそれぞれの得意分野のスキルが向上した
  • 社員が自信を持ち、仕事に対する意欲も高まった
  • 集中力や精度が求められる他の業務についても、質の高い作業ができるようになった
  • 社員のスキルアップにより、依頼企業からの信用・評価が高まった
  • 社員のスキルアップにより、より高単価・高難易度の発注にも対応できるようになった
  • 新規取引先の拡充と事業所の利益の貢献にむすびついた

2019年時点では、

  • 縫製 1名
  • ハーブ&ティ 1名
  • 箱折り・ラッピング 1名
  • お菓子販売 1名
  • 老人ホーム 1名

がマイスター認定されています。

各種リーダー制度

リーダー制度は、特定業務のスキルを継続的に向上させることに適性がある社員が挑戦できるキャリアアップ制度です。

役職は「チーフリーダー」「リーダー」「サブリーダー」の3つ。任命されると、作業進捗等の管理や後輩社員への実地指導などを担う立場となり、チーフリーダーやリーダーの場合は毎月の給料に手当が付きます。

リーダー制度の導入は、仕事に対する責任感の自覚やマネジメントスキルの習得にもつながるのが大きなメリット。他の社員に対する思いやりの意識を持つこともできるため、職場内の雰囲気も大きく向上しました。

2019年時点では、チーフリーダー4名、リーダー6名、サブリーダー6名が任命されています。

【参考】
障害者のキャリアアップや加齢に伴う問題への対応に関する職場改善好事例集(平成24年度)|JEED
日総ぴゅあ株式会社

製造業での精神障害者のキャリアアップ実現に向けた制度の導入と活用

精神障害者のキャリアアップに関する全体的な配慮としては、成功体験の積み重ねや健康管理、管理職への登用がポイントです。特に管理職への登用については、製造業では以下のような制度が運用され、精神障害者の管理職への登用が行われてきました。

<製造業における精神障害者のキャリアアップに制度の導入・活用>

  • 目標管理制度と昇給制度を導入し、評価を昇給に結びつける
  • 管理職への登用制度を導入し、実際に登用する
  • 賞揚制度を導入し、定期的に賞揚して自信と意欲向上につなげる
  • 職域を広げるための資格取得を積極的に支援する
  • 社内のマイスター制度を導入しスキルの向上・維持のモチベーションとする


重要なのは、ただ管理職に登用するのではなく、きちんと評価した上で登用することです。

一律の昇給自体は決して悪くありません。しかし株式会社ダイキンサンライズ摂津の好事例を見ると、「何をしても一律に同じ給料」という制度よりも、本人の努力や成果が給与・役職に反映される制度のほうが、意欲・責任感・業務の質の向上につながることが分かります。

また、本人の努力や成果につなげるには何らかの目標があると効果的。日総ぴゅあ株式会社の賞揚制度のように、その努力や成果は日常のとても小さなことでも構いません。

障害をもつ社員の能力や頑張りを認め、給与・賞与や昇進に結びつけることを意識して制度の導入・運用を進めていきましょう。

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