障害者雇用における「雇用の質の向上」とは?企業がやるべきことと障害者雇用ビジネスの注意点


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2022年12月に可決成立した「障害者雇用促進法などの一部改正を含む改正法」には、障害者雇用における「雇用の質」向上を図るため、事業主の責務の明確化などが含まれています。「雇用の質」とは何か、具体的な取り組みや近年疑問視されている「障害者雇用ビジネス」との関わりなどを解説します。

障害者雇用における「雇用の質」の向上とは

2022年12月に交付され、2023年4月1日から順次施行されている「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」。これには、障害者雇用促進法の一部改正も含まれています。

改正障害者雇用促進法では、「事業主の責務に、適当な雇用の場の提供、適正な雇用管理等に加え、職業能力の開発及び向上に関する措置が含まれる」とされ、「雇用の質の向上に向けた事業主の責務の明確化」が行われました。

障害者雇用における法定雇用率は、2024年度から2.5%、2026年度からは2.7%に引き上げられます。これにともない、障害者雇用を進める企業はますます増えるでしょう。

しかし、雇用される障害者の人数が増えるだけでは、障害者の社会参加や自立といった障害者雇用促進法などの本来の目的を達成できません。より多くの方が、その特性や能力を活かして社会の中で働き、活躍できるようにする必要があります。

こうした背景から、今、あらためて「雇用の質」の向上が求められているのです。

「雇用の質」と「障害者雇用ビジネス」の実態

厚生労働省の公式ページには、雇用の質の向上に関連し、いわゆる「障害者雇用ビジネス」に関わる実態把握調査結果へのリンクも掲載されています。

障害者雇用ビジネスとは、障害者雇用を進めたい企業(以下、「利用企業」)と企業で働きたい障害者をマッチングするとともに、場合によってはその障害者が働く場所や担当業務も提供するビジネスです。

障害者雇用ビジネスの典型例は、障害者を雇用した企業の事業内容にかかわらず、雇用された障害者が社外で農作業(野菜やハーブなどの栽培)とその加工作業などを行うものです。利用企業による障害者の雇用管理は必須ではなく、収穫された農産物は販売されないことも多いといいます。利用企業は2023年3月時点で1,000社以上、就業障害者数は650名を超えました。

一見すると、障害者雇用率を上げたい企業と働きたい障害者の双方にとってWin-Winなサービスに見える障害者雇用ビジネス。しかし、このビジネスモデルには、下表にあるような多くの問題点が指摘されています。

<障害者雇用ビジネスにおける問題点>※1

懸念点
成果物の活用方針を定めず、成果物による収益もほとんど見込まれない 「経済社会を構成する労働者の一員として能力を発揮する」機会になっていない?
利用企業が業務の切り出しや創出に関与する必要がない 障害者が能力を発揮してやりがいをもって働ける業務となっていない、利用企業内部の職域拡大等の機会が少ない?
障害者の担当業務量が能力に合っていない(少なすぎる) 能力を踏まえた配置転換等の機会が少ない?
障害者雇用ビジネス実施事業者が、1年ごとに同一就業場所の他の利用企業の障害者と入れ替えることで、無期雇用転換ルールの適用を回避できるという説明資料を配付している 障害者雇用における無期雇用転換ルールの回避策として活用されている?
利用企業が雇用する管理者が就業場所に配置されていない。障害者雇用ビジネス実施事業者が、自ら業務指示を行っている 雇用主が自らの雇用管理について十分な責任を持っていない。必要な配慮事項について、雇用主が把握していない、対応が行われていない?

※1第128回 労働政策審議会障害者雇用分科会 参考資料3「いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について」より作成

障害者が働けるサテライトオフィスなどを提供する事業者の中には、就業場所での合理的配慮の提供について利用企業と連携し、利用企業の管理者による定期的な訪問を求めているケースもあります。そのため、全ての障害者雇用ビジネスが「悪い」というものではありません。

重要なのは、利用企業自身が、こうした事業者を利用する場合に

  • 障害者雇用ビジネス実施事業者のサービス内容
  • 適正に実施されているかどうか
  • 社内の障害理解促進や障害者と共に働く環境づくりにつながっているか

などを定期的にチェックしていく体制を持つことです。

雇用の質向上のために具体的に何をすればいいのか?

では、障害者雇用の質を向上させるには、具体的に何をすればよいのでしょうか。障害者職業総合センター(以下、「NIVR」)の研究によれば、大きく分けて6つの項目があります。

NIVRの基礎的研究による6つの項目

雇用の質に関するNIVRの主な研究に「障害者雇用の質的改善に向けた基礎的研究」があります。これは、どの障害種別かを問わず、障害者雇用の質の向上のための施策として、どのような観点があるかを専門家や企業にヒアリングし、かつ先行文献や障害のある当事者の手記から情報を収集してまとめたものです。研究により導かれたものが、次の6項目となっています。

  1. 社会からの期待への対応
  2. 障害者雇用の位置づけと全社的取り組み
  3. 障害者のキャリア形成と能力の発揮(戦力化)
  4. 障害理解に基づくきめ細やかな対応
  5. 働く価値や意味(賃金、自己実現等)
  6. 障害者雇用の波及効果(障害者雇用と企業経営・共に働く労働者の雇用との相互作用)

それぞれについて報告されている具体的な事例には、たとえば以下のようなものがあります。

<障害者雇用の質の向上に関する6項目の具体例>※2

(1)社会からの期待への対応
·         会社として障害者雇用を通じた社会貢献を掲げている

·         経営的視点と社会的責任の両方を考えている

·         障害者雇用を人々の多様性の一つとして捉えている

·         支援機関等の見学・実習を受け入れている

·         障害者雇用の取り組み・ノウハウを発信している

(2)障害者雇用の位置づけと全社的取り組み
·         経営トップが障害者雇用の取り組みを明確に打ち出している

·         応募・採用・研修・昇進・相談など、雇用に関する全プロセスで差別がない

·         労働条件・人事評価制度・賃金制度・人事異動など各種制度を確立している

·         障害者の戦力化に向けて多様な取り組みを実施している

(3)障害者のキャリア形成と能力の発揮(戦力化)
·         キャリアプランをもって障害のある従業員を育成している

·         キャリアアップへの道筋がある

·         職場実習の中で適性を見極めている

·         障害者が能力を発揮できる仕事に配置し、目標設定をして健常者と同様の評価基準で処遇している

·         管理職への登用や適正な賃金の支給を行っている

(4)障害理解に基づくきめ細やかな対応
·         関係機関の支援者とうまく連携している

·         障害特性に合わせた指示や配慮を行っている

·         体調に波がある社員がいる場合、グループ単位でのノルマ設定を行っている

·         管理者の業務を任せることでモチベーションアップと職場定着につなげている

·         障害特性に理解がある社員がサポートを行っている

(5)働く価値や意味(賃金、自己実現等)
·         従業員満足度を把握している

·         障害者が自分なりに成長を実感できている

·         社会の一員であるという実感を持てる

·         仕事を通じた社会参加、自己実現ができている

·         安定した賃金を得ている

(6)障害者雇用の波及効果(障害者雇用と企業経営・共に働く労働者の雇用との相互作用
·         障害者雇用による作業手順を見直すことで、健常者にとっても仕事がしやすくなる

·         障害のある従業員がいることで、気遣う文化が生まれる

·         障害者雇用の促進で企業イメージアップにつながる

·         障害のある社員とない社員で、ほぼ同じ業務ができる仕事があることに気づく

ただの数あわせで終わらせない障害者雇用の促進に向け、このような取り組みの中から始められそうなものを少しずつ実践していくとよいでしょう。

障害者雇用ビジネスを利用する際の注意点

障害者雇用ビジネスを利用する企業の場合は、そのサービスが先述の懸念点を含んでいないか、障害のある従業員の雇用の質を確保しているかどうかを今一度チェックしてください。

簡易的ではありますが、以下がそのチェックリストです。

<障害者雇用ビジネス利用企業のための「雇用の質」チェックリスト>

  1. 障害のある従業員の業務内容・業務量・作業環境整備などの検討と対応について、障害者雇用ビジネス実施事業者に丸投げしていないか?
  2. 障害特性や得意な作業に応じた業務の切り出し・創出を自社で雇用する管理者や支援者も関与して実施しているか?
  3. 障害のある従業員のキャリアプランを把握し、その実現を支援するためのスキル習得・スキルアップ支援を自社の管理者や支援者が責任をもって実施しているか?
  4. 障害のある従業員の適性と現在の業務が合わない場合、より適性に合った配置転換を検討しているか?
  5. 障害のある従業員の一人ひとりについて、やりがいや意欲をもって働き続けることができているかを把握しているか?
  6. 障害のある従業員の一人ひとりについて、体調にどのような変化があるか、必要な合理的配慮はあるかなどを、自社の管理者や支援者との定期的な面談等で確認しているか?
  7. 自社の人事評価制度や処遇制度を構築し、それに基づいて、障害をもつ従業員一人ひとりが自らの能力や適性を活かして働ける体制を整えているか?

それぞれの項目は、障害のある従業員が会社の一員として、そして社会の一員としてやりがいをもって働き続けるために必要なことです。YESいう答えにならない項目は、障害者雇用における今後の課題として積極的に取り組みましょう。

会社の大切な一員として育成、戦力化を

障害者雇用では、身体障害者、知的障害者、精神障害者と大きく3つの障害種別に分けて考えられることが多いものです。しかし、どのような障害特性があり、どのような配慮があれば本来の能力を発揮できるかは、一人ひとり異なります。それは、障害のない方々にもさまざまな得意・不得意があることと変わりません。

障害のある従業員の能力や個性を見つけ、その適性に合ったスキル習得やスキルアップを支援することが何より大切です。具体的な配慮事例は公的データベースでも公開されています。そうした事例やNIVRの研究報告、自治体などによる障害者雇用促進のためのセミナーやイベント等を活用しながら、誰にとっても働きやすい職場づくりへつなげていきましょう。

(関連記事)
合理的配慮好事例シリーズ
採用者向けコラム

【参考】
令和4年障害者雇用促進法の改正等について|厚生労働省
資料シリーズ No.101「障害者雇用の質的改善に向けた基礎的研究」|NIVR
第128回 労働政策審議会障害者雇用分科会 参考資料3「いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について」|厚生労働省

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