2025/06/10
パニック障害とは?主な症状と対処法・接し方・向いている仕事環境
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パニック障害とは、身体の病気がないのに突然「死ぬような苦しさ」を感じる発作が繰り返される精神疾患です。「また発作が起きるのではないか」という予期不安から、生活の質や働き方が大きく変化します。対処法を知らない友達・同僚から、心ない言葉を投げられることもあるでしょう。
パニック障害をもちながら仕事を続けるには、パニック障害とは何か、どのような対処法があるのかといった理解が欠かせません。
Image by Brendy Pradana from Pixabay
もくじ
パニック障害の主な症状とパニック発作
パニック障害は、100人に1〜2人が発症すると言われる精神疾患です。身体の病気がないのに、突然「死ぬような苦しさ」を感じる発作が繰り返し起こります。この発作が「パニック発作」です。
パニック障害では、パニック発作の影響から「予期不安」や「広場恐怖」が症状として現れる場合が多く見られます。
【パニック障害の症状】
予期不安 |
|
広場恐怖 |
|
パニック発作自体は約10人に1人は経験し、大抵は特別な治療をしなくても回復します。ただ、回復できずに繰り返しパニック発作を起こすと、生活や仕事に支障をきたし、「パニック障害」と診断されます。
パニック発作時の具体的な身体的・精神的症状の例は、以下のようなものです。人によって現れ方は異なりますが、「このままでは死ぬのではないか」という強い恐怖や苦しさを感る点が特徴です。
【パニック発作の症状・特徴】
主な症状 |
|
身体的症状 | 胸の痛み・不快感・息切れ・窒息感・呼吸困難・めまい・ふらつき・吐き気・腹痛・下痢・しびれ・ふるえ・動悸・頻脈・発汗など |
精神的症状 | 死への恐怖・コントロールできないことへの恐怖・非現実感・「逃げられない」という強い不安など |
発作の持続時間 | 数分〜1時間
始まってから10分以内に最もつらい“ピーク”が訪れる |
発作後の様子 | 何もなかったかのように“ケロッとしている” |
発作時は、身体的症状から「重い病気にかかっているかもしれない」と感じられ、救急車で病院に搬送されるケースもあります。しかし、発作がおさまれば苦痛や恐怖が噓のように消え、“ケロッとしている”状態に。そのため、いざ医師の診察が始まっても「特に異常はない」と判断されることが珍しくありません。
実際、パニック発作で感じる胸の痛みや呼吸のつらさは、死を招くような危険なものではありません。
この点をよく理解することが、パニック障害への対処の第一歩です。
パニック障害の原因と治療法
パニック障害の原因は、まだ明確にはわかっていません。治療法は、精神療法(心理療法)と薬物療法が行われます。
パニック障害の原因と性格的な特徴
パニック障害の原因としては、身体的要因・心理的要因・社会的要因が絡み合っていると考えられています。
【パニック障害の原因と考えられること】
身体的要因 | 脳の何らかの異常が関係している |
心理的要因 | 予期不安、死への恐怖、自己表現が苦手など |
社会的要因 | 業務や労働時間の増加、人間関係の悪化、過去のつらい体験など |
また、パニック障害になった人の性格的特徴では、
- 周囲の期待やプレッシャーから大きなストレスを受けやすい
- 非常に真面目な性格である
- 完璧主義である
- 恐怖心が強い
といった点もあるようです。
治療法は精神療法・薬物療法
パニック障害の治療法では、精神療法と薬物療法がとられています。
薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬などが用いられます。これには依存性のある薬が使われる場合もあり、副作用に悩むこともあるでしょう。ほかの精神疾患の治療と同様に、自分に合う薬を適切に服用することが大切です。勝手に薬を増やしたりやめたりせず、必ず医師の指示に従って服薬を行わなければなりません。
精神療法では、認知行動療法などが活用されています。自分の思考のクセを見つけ、その考え方を変えていくことが、苦しさの軽減につながるからです。電車や美容室など、苦手な状況に少しずつ慣れる練習も行います。
パニック発作が起きた場合の対処法
パニック発作が起こると、本人も周囲の人も突然のことに動転してしまうでしょう。だからこそ、事前に「どのように対処するか」を知っておくことが重要です。
本人ができる対処法と、家族・友達・上司といった周囲の人ができる対処法に分けて見ていきましょう。
本人ができる対処法
パニック発作で多くの当事者が感じるのが、息苦しさや動悸です。こうした症状を和らげるには、まず自分にとって楽な姿勢を取ることが大切です。ほかに、呼吸をしやすいようにベルトや襟元を緩めることも、対処法としてよく言われています。
【パニック発作時の基本の対処法】
- 自分にとって楽な姿勢をとる
- ベルトや襟元など、きつく感じる部分を緩める
- ゆっくりと数を数えながら深呼吸を続ける
- 「パニック発作自体で死ぬことはない」ことを思い出す
楽な姿勢は、人によって異なります。自分にとって楽な姿勢がわからない場合は、
- 腹ばいになる
- 前屈みの姿勢で座る
といった姿勢がおすすめです。
また、状況に応じて下表のような対処法も追加するとよいでしょう。
【状況別の対処法】
状況 | 対処法の例 |
車内・室内にいる | 窓を開けて外の空気を入れる
電車などでは、一度ホームに降りてベンチに座る |
日の当たる場所にいる | 日陰に移動する |
近くに事情を知る知人がいない | 事情を知る親しい人に電話をかけ、声をかけてもらう |
なお、飛行機に乗っているときにパニック発作を起こす恐れがある場合は、事前に航空会社からの案内を確認し、対策しましょう。ANAやJALでは、以下のページから案内を確認できます。
こうしたページでは、
- 飛行機の利用が可能な状態か、事前に主治医と相談する
- 発作が起こった場合の対処方法を事前に主治医と相談する
- 搭乗時には、発作の際に服用する薬を持参する
- 必要であれば、付き添いの人に一緒に搭乗してもらう
といった点が紹介されています。
飛行機の離着陸では、身体に負担がかかりやすいものです。そうした負担や機体の揺れがあったら、ゆっくりと深呼吸をしましょう。「飛行機に乗ったらすぐに寝てしまう」という方法をとる人もいます。
家族・友達・上司など周囲の人ができる対処法・やってはいけないこと
家族や友達、上司といった周囲の人が、パニック発作時にとれる対応は、落ち着いて寄り添うことです。繰り返しになりますが、パニック発作自体で死ぬことはありません。本人が楽な姿勢で休めるよう、誘導したり場所を整えたりするなどの対応をしましょう。
【パニック発作時に周囲の人ができること】
- 本人が楽な姿勢をとれる場所を確保する(座れる場所、腹ばいになれる場所など)
- 本人が休める場所に誘導する
- 車内・室内にいるときは、換気をする
- 「大丈夫だよ」など、安心できる言葉をかける
- 屋外など人目につくところで発作が起きた場合は、周囲の目を遮れる位置に立つ
- 薬を飲む必要がある場合は、水を持ってくる
- 本人の許可があれば、落ち着くまで本人の身体をさする(事前に確認しておく)
パニック発作の際に本人がかけられて安心した言葉には、
「大丈夫だよ、少ししたらおさまるよ」
など、不安や恐怖を和らげるものがあります。
ただ、何を言うべきかわからない場合は、無理に何かを言う必要はありません。人によっては、「声をかけてくれているのだから、何か答えなければ」とプレッシャーを感じ、余計に苦しくなってしまいます。そうした場合は、ただ黙ってそばに寄り添うだけでも十分です。
また、「発作が起きた!」と周囲が騒いだり、大勢で対処したりしようとすることも、本人にプレッシャーをかけてしまいます。対処する人を1〜2人に限定し、静かに過ごせるようにしてください。
決して「大げさだ」「また起きたの?」といった言葉や、ハラスメントにあたる言葉を言ってはいけません。本人の許可がない状態で、合理的な理由もなく勝手に身体に触れることも避けましょう。
パニック障害で本人が気をつける生活上の注意点
こうした困り事を軽減するには、日々の生活でいくつかの点に気をつけるとよいでしょう。特に注意したいのは、飲酒やカフェイン摂取の習慣と生活リズムです。
飲酒やカフェインの摂取を控える
飲酒やカフェインの摂取は、パニック発作を起こしやすくなると言われています。
お酒を飲んだり、多くのカフェインを摂取したりすれば、一時的に不安や恐怖が和らぐかもしれません。しかし、その効果が切れると再び不安が生じます。不安を抑えるために、またアルコールやカフェインを摂取することになるでしょう。
こうした行動を繰り返せば、依存症になりかねません。
さらに、夕方以降にカフェインを摂取すると眠りにくくなります。「寝酒」も、飲んだ直後に眠くなっても、睡眠の質が下がったり夜中にトイレに行きたくなったりして、結局睡眠不足を招く恐れがあります。
依存症や睡眠不足を避けるためにも、アルコールやカフェインの摂取は控えましょう。
休養できる日を確保する
また、ストレスや疲労の蓄積も不安や恐怖を高めてしまいます。そのため、意識的に睡眠時間や休養日を確保することが重要です。
例えば、残業で疲労が蓄積しているなら、休暇を取得したり、残業時間を減らせるよう上司やメンタルヘルス相談の担当者に話したりしてみましょう。
自分に合ったストレス発散方法を見つけると、より回復しやすくなります。
- 自宅で静かに休む
- 公園を散歩する
- 好きなカフェに行く
- スポーツをする
など、複数の方法が考えられます。
日々の生活でも、
- 起床時間を一定にする
- なるべく規則正しく食事をとる(1日3食、「○時に食べる」など)
- 就寝時間の目安を決める
という3点を意識すると、生活リズムを維持し、疲労・ストレスからの回復しやすくなるでしょう。
それでもパニック障害の症状が強い場合は、休職するのも1つの手です。
(関連コラム)
- 適応障害で休職したい場合どうする?基本の流れと休職期間、お金の問題
座席を出入口の近くに確保する
パニック発作への恐れが強まる電車などの乗り物では、「逃げ場がない」という恐怖を和らげる必要があります。それには、出入口近くの座席やスペースをとるのがおすすめです。
満員電車が怖い場合は、通勤時間をずらし、早めの各駅停車を利用する方法もあります。各駅停車や快速は頻繁に駅に停車するため、もし発作が起きても、すぐに電車の外へ出て休むことができます。
1人で乗車するのが怖い場合は、家族や友達、同僚などに付き添ってもらいましょう。
落ち着ける呼吸法を見つけて、実践する
「発作が起きるかも」と感じ、呼吸が浅くなっている場合は、ゆっくり深呼吸をしてください。発作時の対処法でも述べたとおり、数を数えながら大きく息を吸って、静かに吐きましょう。ゆっくりとした呼吸は、過呼吸の軽減にもつながります。
具体的な呼吸法の例は、
- 3秒かけて息を吸い、3秒かけて息を吐く
- 4秒かけて息を吸い、4秒息を止めて、8秒かけてゆっくりと息を吐く
- 4秒かけて鼻から息を吸い、一度止め、6秒かけて口からゆっくりと息を吐く
などがあります。
自分にとってやりやすい呼吸法を習慣化することで、苦しさにつながる「浅く速い呼吸」を減らしましょう。
パニック障害のある人に向いている仕事環境
パニック障害で仕事に支障をきたしていると、特定の業種や職種について「向いている仕事はあるのだろうか」と考えるかもしれません。しかし、パニック発作の原因は仕事に関するものもれば、そうでないものもあります。そのため、業種や職種を限定して「向いている/向いていない」と言うことは困難です。
1つ言えるのは、パニック障害のきっかけとなった状況を強く思い出させるような職場で働くことは、避けるほうがよいということです。治療を進める中で、苦手な場所・状況の克服を目指すことはあります。しかし、それを自己判断で急速に進めれば、症状が悪化しかねません。
大切なことは、次の3つを把握しておくことです。
- どのような状況でパニック発作が起きやすいか
- パニック発作が起きたとき、落ち着ける場所を確保できそうか
- 過度な疲労やストレスにつながらない業務は何か
これらの条件を踏まえて、自分に合った仕事や職場を探しましょう。
今の仕事を続ける場合は、出社の頻度を下げたり、満員電車を避けられる通勤時間に調整したりすることで、パニック発作が出やすい状況を避けられます。具体的には、リモートワークやハイブリッド勤務制度、フレックスタイム制度の利用。シフト制も、満員電車を避けやすい働き方の1つです。
パニック障害の人が利用できる支援機関・支援制度
最後に、パニック障害のある人が社会生活を続けていくうえで大切な支援機関や支援制度をご紹介します。いずれの利用も必須ではありません。ただ、相談できる窓口や生活の助けになる制度を知っておけば、治療を進めやすくなるでしょう。
【主な支援機関】
- 障害者就業・生活支援センター
- 障害者の仕事や生活の困り事を相談できる総合窓口
- 精神保健福祉センター
- 精神疾患やメンタルヘルスの相談窓口
- 地域障害者職業センター
- ハローワークや障害者就業・生活支援センターと連携し、障害者を対象とする職業に関する相談・職業訓練や企業などへの支援を実施
- 就労移行支援事業所
- 障害者の就職や休職からの復職、職場定着の支援を実施
- ハローワーク
- 求職者への仕事の紹介、職業訓練などを実施(障害者を対象とする相談窓口あり)
就労移行支援事業所とハローワークについては、以下の関連コラムで詳しく解説しています。
(関連コラム)
- 就労移行支援事業所とは?利用対象や手続きの流れ。自分にあった事業所を選ぶポイント4つ。
- ハローワークには障害者相談窓口あり!使い方と求人票の見方
【主な支援制度】
- 障害者手帳
- 障害の状況に応じて、障害福祉サービスを受けられる手帳
- 自立支援医療制度
- 精神疾患の通院費用の負担を軽減する制度
- 障害者雇用枠での就労
- 障害の状況に応じて調整された環境で働ける雇用制度
- 障害年金
- 障害の状況に応じて、定められた金額の年金が支給される制度
これらの支援制度についても、以下の関連コラムで詳しくご紹介しています。
(関連コラム)
- 精神障害者保健福祉手帳を持つメリット・デメリットと障害福祉サービス
- 自立支援医療制度とは?法律とメリット、対象疾患・新規申請・更新方法
- 障害者雇用とは?障害者雇用で働くメリットや求人の探し方を紹介
- 障害年金とは? 受給資格や申請方法の流れ
社会的な仕組みを活用しながら、まずは症状の軽減、回復に努めましょう。
【参考】
