2025/01/28
【障害福祉サービス改革】グループホームで懸念される障害者虐待、制度改革の方向性は?【4】
本ページはプロモーションが含まれています
2024年に初の連座制適用による指定取消が発生したグループホーム。財務省は11月13日に社会保障における改革案の資料を公開し、障害福祉サービス等の改革としてグループホームの課題と改革案を示しました。国による障害福祉サービス等の改革の方向性について4回に分けてお届けするシリーズの第4回は、グループホームの現状の課題と制度改革の方向性をお伝えします。
もくじ
グループホーム(共同生活援助)とは?
グループホームとは、障害福祉サービス等の制度における名称では「共同生活援助」のことです。障害のある方々が地域で共同生活を行いながら暮らすための仕組みとなっており、サービス管理責任者だけでなく生活の支援を行う「世話人」や「生活支援員」が配置されます。
グループホームの利用対象者に、障害支援区分の制限はありません。基本的には、以下の3つのいずれかに該当する方が利用するイメージです。
【グループホーム利用者の主な例】
- 一人暮らしには不安があるので、支援を受けながら地域の中で暮らしたい
- 一定の介護が必要だが、施設入所ではなく地域の中で暮らしたい
- 施設を退所して地域生活へ移行するステップとして、まずはグループホームで暮らしたい
グループホームで提供されるサービスは、日常生活上の援助、利用者の就労先や日中活動サービス等との連絡調整、余暇活動の援助などです。日常生活上の援助とは、主に夜間における食事・入浴・排泄等の介護や相談など。余暇活動などの援助とは、例えば利用者の外食や絵画・映画等の鑑賞の援助、年中行事の準備・実施・片付けなどの援助などです。
グループホームには、「誰が利用者の介護を行うか」という点で3つのタイプがあります。
【グループホームの種類】※1
種類 | 外部サービス利用型 | 介護サービス包括型 | 日中サービス支援型 |
介護の担当者 | 外部の居宅介護事業所に委託 | 事業所の職員が担当 | 事業所の職員が担当 (昼夜を通じて配置) |
主な人員配置 | 世話人 6:1以上 | 世話人 6:1以上 生活支援員(※2) |
世話人 5:1以上 生活支援員(※2) |
利用者数 | 約1.5万人 | 約14.6万人 | 約1.2万人 |
事業所数の増減 | 年々減少 | 年々増加 | 年々増加 |
※1 厚生労働省「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(2023年10月23日)」より作成
※2 生活支援員は、グループホームの種類にかかわらず利用者の障害支援区分に応じて2.5:1〜9:1以上
世話人は日常生活上の援助やグループホーム内での人間関係の調整を担い、生活支援員は入浴・排泄・食事の介護を担います。小規模のグループホームや介護サービス包括型グループホームでは、世話人が生活支援員を兼務する場合も珍しくありません。
障害者の地域移行におけるグループホームの役割
グループホームの在り方については、2022年9月に日本政府に向けて出された国連の障害者権利委員会からの総括所見(勧告)が大きな影響を与えています。学校における特別支援学級の現状、精神科病棟への強制入院、施設入所などの地域社会から障害者を隔離している状況について是正するよう求められているからです。
グループホームは、特に病院や入所施設での生活から地域生活へ移行する際に重要な役割を負います。加えて、グループホーム利用者で「一人暮らしをしたい」と希望する方がいる場合は、その意思を尊重して自立支援や地域移行支援を進めています。
障害のある方が適切な支援を受けながら地域で暮らすには、サービスの質を確保しなければなりません。ところが、今回財務省が公表した資料では、そこに大きな問題が指摘されています。
(課題1)営利法人によるグループホーム参入急増と虐待件数の増加
※財務省「(資料)社会保障(2024年11月13日)」および
厚生労働省「障害者虐待対応状況調査<障害者福祉施設従事者等による障害者虐待>」
より作成
財務省の資料によれば、グループホームの事業所数がこの10年で2倍に急増し、その運営主体における営利法人の割合も大きく増加しています。
【グループホームの事業所数と営利法人の割合】※
事業所数(全体) | 事業所数(営利法人) | 営利法人の割合 | |
2015年3月 | 6,637 | 398 | 6.0% |
2019年3月 | 8,343 | 1,149 | 13.8% |
2024年3月 | 1万3,577 | 5,148 | 37.9% |
※財務省「(資料)社会保障(2024年11月13日)」より作成
営利法人が運営する事業所が増えても、そのサービスの質に問題がなければ障害者の地域移行推進において好ましいことです。ところが、厚労省が発表している「障害者虐待対応状況の調査」で近年の調査結果を見ると、無視できない現状が浮かび上がりました。グループホームでの虐待件数が増えていたのです。
【グループホームにおける虐待判断件数】※
障害者福祉施設全体での件数 | グループホームでの件数 | グループホームの割合 | |
2015年度 | 339 | 63 | 18.6% |
2019年度 | 547 | 90 | 16.5% |
2022年度 | 956 | 252 | 26.4% |
※厚生労働省「障害者虐待対応状況調査<障害者福祉施設従事者等による障害者虐待>」の平成27年度、令和元年度、令和4年度の結果から作成
2024年には、グループホームでの虐待がニュースでも大きく取り上げられています。
(課題2)グループホームでの虐待に対する連座制適用を受ける事案が発生
連座制適用によるグループホームの指定取消処分は、2024年に衆目を集めたグループホーム関連のニュースとしてご存じの方も多いでしょう。
当該事案の具体的な内容は、以下のようなものです。
【初の連座制適用となったグループホーム取消処分の概要】※1
対象企業 | 株式会社恵(東京都港区) |
処分内容 | 同社の運営するグループホーム事業所(5事業所)の指定取消処分(初の連座制適用) |
理由 |
|
処分の影響 | 指定取消処分の発効日から5年間、同社及び同社の役員等は、同一サービス等類型内の他の障害福祉サービス事業所の指定更新及び新規の指定は受けられない |
厚生労働省は2023年6月以降、業務管理体制に関する検査を実施したうえで、自治体と連携しつつ業務管理体制の整備に関する改善勧告を行ってきました。しかし、その後も「正当な理由なく同勧告に係る措置がとられていない」と判断され、今回の取消処分に至りました。
なお、全国で多数のグループホームを運営してきた同社は、自治体へ請求する給付費でも不正請求があったとのことです(※2)。
今回の連座制は障害者総合支援法に規定されたもの。事業所等の指定取消の理由となった事実について「組織的な関与が認められた場合」は、その障害福祉サービス事業者の「同一サービス等類型内の他事業所等の指定又は更新の拒否」につながる仕組みです。
連座制適用によりグループホームの運営ができなくなるため、同社には指定更新日までの期間における障害福祉サービスの確実な提供、および利用者に対する継続的なサービスの確保等について、行政指導が行われました。
現在、グループホームやその他の障害福祉サービス、介護保険サービスを株式会社ビオネスト(兵庫県神戸市)に一括譲渡することが決まっています。
※1 厚生労働省「株式会社 恵の不正行為等への対応について」pp.1-2
※2 川崎市「障害福祉サービス事業所の指定の効力停止処分について」
(課題3)自治体からもサービスの質に関する懸念の声
財務省の今回の資料では、グループホームに関する自治体職員の懸念の声も2つ紹介されています。いずれも提供するサービスの質に関する課題を指摘するものです。
【自治体から指摘されたポイント】
- 障害福祉に関する知識がない他分野の企業が参入・業務拡大している
- 障害特性に合わない支援が行われている
- 現場の職員が短期間で入れ替わる
- 総量規制ができず指定基準を満たせば指定せざるを得ないため、支援スキルが低いグループホームが増加する恐れがある
グループホームの総量規制については、これまでも検討されてきました。ただ、2024年度の報酬改定では導入が見送られています。
しかし、グループホームにおける障害者虐待や知識・スキル不足なままでの参入・拡大といった現実的な問題が生まれていることから、財務省は総量規制の検討を進める方針を示しました。
グループホームに対する総量規制、いよいよ現実となるか
国のグループホームの現状に対する評価は、決して楽観視するものではありません。虐待件数の増加、組織的な不正、支援に不可欠な知識・スキルが不足した状態での参入は、利用者に対する適切な支援を妨げ、不足する障害福祉サービス等の予算の浪費にもなるからです。
利用者に対するサービスの維持・向上を図るためとして、財務省は主に2つの改革案を提示しました。1つは支援に関するガイドライン策定などの取り組みの着実な推進、もう1つはグループホームの総量規制です。
具体的な検討はこれからとなりますが、どのようなルール・運用になるのか、グループホーム関係者や利用者にとって重要な議論が進む見込みです。
【参考】
(資料)社会保障(2024年11月13日)|財務省
国連・障害者権利委が日本に初の勧告 脱施設へ予算配分を(2022年09月20日)|福祉新聞
(資料)共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫|厚生労働省
令和4年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)について公表します|厚生労働省
令和元年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)について公表します|厚生労働省
平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)|厚生労働省
