大人のひきこもり原因・生きづらさの理由は複数の理由、イメージと異なる実態も


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「ひきこもり」は「ずっと家にいてラクをしている」「怠けている」といったイメージで捉えられることが多くありました。しかし、近年の調査でそうしたイメージとは異なるひきこもりの実態が見えてきています。ひきこもりUX会議による当事者対象の大規模な実態調査の結果をもとに、大人のひきこもりについて見ていきましょう。

ひきこもりUX会議による実態調査

2019年、ひきこもり当事者・経験者などで構成される一般社団法人ひきこもりUX会議(以下、UX会議)は、「ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019」(以下、UX会議調査)を実施しました。

同調査は日本で初めてとなる当事者を対象とした大規模な実態調査。「ひきこもり」の定義を当事者による自認としたのが大きな特徴です。

それまでの内閣府調査では、ひきこもりの定義によって専業主婦/主夫、育児中の方、家事手伝いなどの方でひきこもり状態にある方が対象外となっていました。UX会議調査は、こうした人々で「自分はひきこもり状態にある」と感じている人を調査対象に含めることが、ひきこもりの実態を知る上で重要なポイントのひとつと考えています。

調査方法は、イベントや協力団体、メールなどでの調査票配布・回収と、オンラインでフォームへ入力してもらうオンライン調査によります。有効回答数は1,686件。回答における自由記述は合計46万字にものぼりました。

調査後、UX会議は調査結果をもとにさまざまな分析と考察を加えた『ひきこもり白書2021』を発行。回答者から寄せられた多くの自由記述も引用されています。

今回は、その『ひきこもり白書2021』の冊子版から、大人のひきこもりの原因についてご紹介します。

大人のひきこもりの性別・年齢層・就労経験

大人のひきこもり状態にある方には、どのような方が多いのでしょうか。まずは、UX会議調査および2015年・2018年の内閣府調査から、性別・年齢層・就労経験の割合を見ていきましょう。

性別は内閣府調査では男性、UX会議調査では女性が多い

内閣府では、2015年と2018年にひきこもりに関する調査を行いました。そのうちUX会議調査に比較的近い時期となる内閣府の2018年調査の結果では、ひきこもり状態にある方の性別で男性が76.6%、女性が23.4%を占めました。

一方、UX会議調査では、ひきこもり当事者の過半数が女性でした。調査時点でひきこもり状態にあった方のうち、男性は32.7%、女性は61.4%、性別に「その他」を選択した方が5.9%という構成です。

両調査でこのような大きな差が見られたのは、第一に有効回答数がUX会議調査で文字通り桁違いに多かったことがあります。内閣府調査での当事者の有効回答数が50件以下であったのに対し、UX会議調査では900件以上でした。

第二に、ひきこもりの定義の違いがあります。下の図のように、内閣府によるひきこもりの定義では、専業主婦/主夫や育児、在宅勤務などで自宅にいる人をひきこもりに含まないとされました。これに対し、UX会議調査では先述のとおり、本人が自分をひきこもり当事者であると自認することのみを定義に採用しています。ちなみに、UX会議調査の回答者で専業主婦/主夫・家事手伝いと回答した人は、女性で30.7%、男性で6.3%でした。

そして第三に、UX会議が全国で女性対象のひきこもり当事者会を開催しているという事情があります。これによりUX会議調査の実施について女性への認知度が相対的に高くなったことが、回答者に女性の割合が大きいことの一つの要因と考えられています。

両調査の単純比較はできないものの、大人の女性のひきこもりが可視化された意義はとても大きいでしょう。さらに、性別で「その他」を選んだひきこもり状態の方がいることも、UX会議調査結果における重要なポイントです。

大人のひきこもりの年齢層と就労経験

大人のひきこもりの年齢層を見ると、内閣府調査(2015年および2018年の合計)では20代、30代、40代、50代がそれぞれ約2割ずつ、60代以上が約1割という構成でした。

一方、UX会議調査では、調査時点でひきこもり状態にあった方のうち、20代が2割強、30代が4割弱、40代が約3割、50代が約1割、60代以上は0.1割程度となっています。

UX会議調査の6割強が30代または40代という結果になったのは、UX会議が主催するイベントの参加者や、オンライン調査に対応可能な年齢層が多く回答していることに関係していると見られます。

就労経験については、内閣府調査(2018年)では調査時点で正規または非正規で雇用されている回答者はいませんでした。一方、それまでに正社員で雇用されたことがある方は73.9%、就職を希望していると回答した方は34.8%いました。

UX会議調査では、回答者の中で正規で雇用されている方は1.1%、非正規で雇用されている方は4.9%となっています。それまでに正社員で雇用されたことがある方の割合は33.7%で、就労していないものの就職を希望している方は59.0%です。

「ひきこもりは働きたくなくてサボっている」といった従来のイメージが、あまり実態に当てはまらないことが分かります。

内閣府調査とUX会議調査の結果から推察されること

以上の結果から推察されることは、大きく3つあります。

1つめは、性別・性自認を問わず大人のひきこもりになる可能性があるということ。これは、専業主婦/主夫や家事手伝いの方にもひきこもりを自認する人がいる、ひきこもり当事者には性的マイノリティの方も一定数いるといったことによります。

2つめは、30代以上のひきこもり当事者が約7割を占めていることです。内閣府調査でも指摘されてきたことですが、現在の日本ではひきこもりの高年齢化が進んでおり、「ひきこもりは若い人が多い」というイメージはもはや通用しなくなりました。

そして3つめは、ひきこもり状態にある方で就労経験がある方は少なくないこと、就職を希望している人が比較的多いことです。ひきこもりの原因・きっかけに職場での人間関係や退職を選ぶ当事者もいます。「働きたくないからひきこもっている」というより、「働きたくても働けない」という状態がひきこもり状態につながっていると考えるべきでしょう。

大人のひきこもり、生きづらさの原因・きっかけTOP3

では、何が原因やきっかけとなって大人のひきこもり状態になるのでしょうか。UX会議調査における「ひきこもりの原因・きっかけ」で選ばれたTOP3を性別ごとに見ていきましょう。

まず、男性のひきこもりの原因・きっかけとして3番目に多く選ばれたのは、「家族との関係(36.5%)」でした。2番目に多いのは「不登校(37.1%)」で、3位と同程度の割合で選ばれています。第1位は「こころの不調・病気・障害(63.3%)」で、過半数のひきこもり状態にある男性が選びました。

一方、女性のひきこもり原因・きっかけについて見ていくと、第3位は「からだの不調・病気・障害(39.7%)」です。女性特有のからだの悩みも関係していると見られます。第2位は「家族との関係(45.0%)」で、男性よりも8.5pt多い結果でした。第1位は男性と同様「こころの不調・病気・障害」で、77.5%の方が選んでいます。

最後に、性別で「その他」を選んだ方のひきこもり原因・きっかけを見ていきましょう。第3位は「家族との関係」で、50.8%の方に選ばれました。第2位は「からだの不調・病気・障害(53.7%)」。第3位よりやや多いものの、ひきこもり状態にある性的マイノリティの約5割が選んでいるという点で「家族との関係」と同じくらい多い原因・きっかけとなっています。そして第1位は、男性や女性と同様に「こころの不調・病気・障害」で、85.1%の方に選ばれました。

いずれの性別でも「こころの不調・病気・障害」が最も多く、「家族との関係」もひきこもりの原因・きっかけとなっているケースが比較的多いことが分かります。

なお、UX会議ではひきこもり状態にある方は何らかの「生きづらさ」を抱えているという見解を示しています。そうした生きづらさがなぜ生じているのかについても、UX会議調査では尋ねていました。

生きづらさの理由は、性別を問わず「経済的不安」「自己否定感」「こころの不調・病気・障害」の3つがTOP3です。それぞれの性別で最多となったのは、男性では「経済的不安(70.4%)」、女性では「自己否定感(79.3%)」、性別に「その他」を選んだ方では「こころの不調・病気・障害(85.9%)」でした。

性別が「その他」の方については、他にも特徴的な生きづらさの理由が見られます。それが、「性自認や性的指向」です。69.2%の方がこれを生きづらさの理由に挙げており、男性や女性のひきこもり当事者が選ぶ割合よりも圧倒的に多い結果となりました。

焦らず本人のペースで生きづらさの解消へ

ひきこもり当事者の方には、これまでにひきこもり支援・サービスを利用したことがある方も少なくありません。しかし、なかなか支援窓口につながれない、負担が大きい、理解されにくいといった課題に直面し、頼る先を失ってしまうケースがあります。

ひきこもり支援の課題としてよく指摘されるのが、「ひきこもり状態から脱するほうが先なのに、いきなり就労支援が始まってしまう」というものです。ひきこもりのさまざまな要因や生きづらさを抱える当事者にとって、とてもハードルが高いものとなっています。

就職への具体的な活動をする段階にないと感じる場合は、そうした就労支援を受けるよりも、ひきこもりの「当事者会」などに参加するほうが生きづらさの軽減につなげられるかもしれません。ひきこもり状態のご家族がいる方には「家族会」があります。

当事者会や家族会は、「今、自分たちがどのような状態なのか」を他の人の経験をとおして捉え直すきっかけになるものです。「自分だけだ」と思っていたことが他の人にもあったり、今の苦しみを共有できる相手が見つかったりすることもあります。

当事者会や家族会の会場へ実際に足を運ぶことが困難でも、「調べてみよう」「行ってみよう」と思い始めること自体が大きな一歩。部屋から少し出てみる、家から少しだけ出てみる、駅まで行ってみる、といったように、自分のペースで少しずつ進めていくとよいでしょう。

外出ができるようになり、就職を目指して行動していきたいと感じるようになったら、公的な支援窓口である「地域若者サポートステーション」(通称、サポステ)などにも相談してみてください。障害者手帳や就職に困難があると認められる方の場合は、2年という期限つきではあるものの、民間の就労移行支援事業所の利用も選択肢のひとつです。

サポステも就労移行支援事業所も、生活リズムの獲得・維持やビジネススキル習得をサポートしており、就職活動をしたい方にとって便利な支援体制となっています。

就労移行支援事業所については、以下の関連記事で詳しくご紹介しています。

(関連記事)
就労移行支援を使い倒す ~選び方から利用方法まで~
就労移行支援と就労継続支援の違いは?

なお、今回ご紹介したUX会議調査を実施した「ひきこもりUX会議」では、当事者対象のイベントを開催する他、イベント情報や活動報告、相談への回答などを含むメールマガジンを発行しています。外出が困難な方は、メールマガジンを購読するだけでも他の人とのつながりを得るきっかけになるかもしれません。

一進一退を繰り返しながら、ひきこもり状態につながっている生きづらさを少しずつ和らげていきましょう。

【参考】
若者の生活に関する調査報告書 (PDF版)|内閣府
生活状況に関する調査 (平成30年度)|内閣府
ひきこもりUX会議『ひきこもり白書2021』

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