【障害者雇用実態調査】雇用される身体障害者の平均賃金は月額23万円、6割が正社員【5】


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厚労省が公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」において、身体障害者では、雇用人数が推計52万6,000人となり、2018年の前回調査と比較して10万3,000人増加しました。精神障害や発達障害と比較して身体障害者雇用の傾向に極端な変化は見られませんが、無期契約の正社員の割合が増加し、平均賃金も増えています。ただ、雇用現場には依然として施設・設備や雇用ノウハウの面で課題があるようです。
調査結果の内容をお伝えするシリーズ第5回では、雇用されて働く身体障害者の平均月額賃金、労働時間、職場で提供されている合理的配慮や雇用上の課題などをご紹介します。

身体障害者の月額平均賃金・労働時間

令和5年度の障害者雇用実態調査には、5人以上の常用労働者を雇用する6,406事業所が回答しました。厚労省が公表した調査結果によれば、雇用契約を結んで働く障害者は全体で推計110万7,000人で、平成30年の前回調査から25 万 6,000 人増えています。

この中で、身体障害者の雇用人数は推計52万6,000人。前回調査の推計42万3,000人から、約10万人の増加です。平均賃金と労働時間の変化も前回調査から伸びています。

雇用形態と1週間の労働時間

はじめに、身体障害者の雇用形態と1週間あたりの所定労働時間、1カ月あたりの総実労働時間を見ていきましょう。

身体障害者の雇用形態の特徴は、下表に示すように無期契約の正社員が半数を占めることです。知的障害、精神障害、発達障害では有期契約の非正規社員の割合が高く、正規・非正規で見れば非正規が過半数。しかし、身体障害者の雇用ではそれが逆転しており、さらに前回調査からも正社員の割合が増えて、5人中3人が正社員であるという結果になりました。

【身体障害者の雇用形態の割合】*1

雇用形態

割合

(2023年)

割合

(2018年)

無期契約・正社員 53.2 49.3%
有期契約・正社員 6.1% 3.2%
無期契約・非正規 15.6% 19.9%
有期契約・非正規 24.6 27.2%
無回答 0.5% 0.4%

 

身体障害者の労働時間についても、1週間あたりの所定労働時間が30時間以上である労働者の割合が7割超で、安定して働けている方が多いことがうかがえます。前回調査より1カ月あたりの総実労働時間も増えていました。

【身体障害者の週所定労働時間・1カ月の実働時間(平均)】*1

1週間あたりの
所定労働時間

労働者
の割合
総実労働時間
(2023年)
総実労働時間
(2018年)
週 30時間以上 75.1 150.6時間/月 149.7時間/月
週 20時間以上

  30時間未満

15.6% 99.1時間/月 92.0時間/月
週 10時間以上

  20時間未満

7.2% 61.0時間/月 57.0時間/月
週 10時間未満 1.2% 27.8時間/月
無回答 0.8%

1カ月の労働日数を20日として計算すると、

  • 週30時間以上の場合 …… 1日あたり実働約7.5時間
  • 週20時間以上30時間未満の場合 …… 1日あたり実働約5時間

となっています。

なお、今回の調査では、前回調査にはなかった「週10時間以上20時間未満」が追加されました。これは、障害者の雇用率算定に用いるカウント方法において「特定短時間労働者」に対するカウントが新たに設けられたためです。

詳しいカウント方法は、以下の関連記事でご紹介しています。

(関連記事)

*1 厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」における身体障害者の「雇用形態・週所定労働時間別」
および「平成30年度障害者雇用実態調査」における身体障害者の「雇用形態・労働時間別」より作成

労働時間ごとの月額平均賃金と支払形態

身体障害者の月額の平均賃金は、23万5,000円でした。これには超過勤務手当が含まれており、それを除くと平均22万3,000円となります。

ただし、週の所定労働時間によって月額の平均賃金は大きく変わる点に注意が必要です。例えば、週30時間以上働く身体障害者の月額賃金が平均26万8,000円である一方、週20時間以上30時間未満となると平均16万2,000円になり、約10万円の差が見られました。

平均賃金を労働時間ごとにまとめると、下表のようになります。

 

【身体障害者の労働時間別の平均給与】

1週間あたりの
所定労働時間
労働者
の割合
月額平均賃金
(2023年)
月額平均賃金
(2018年)
週 30時間以上 75.1 26万8,000円 24万8,000円
週 20時間以上

  30時間未満

15.6% 16万2,000円 8万6,000円
週 10時間以上

  20時間未満

7.2% 10万7,000円 6万7,000円
週 10時間未満 1.2% 6万7,000円
全体 23万5,000円 21万5,000円

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図1-7、図1-9
および「平成30年度障害者雇用実態調査」図1-8より作成

前回調査結果と比較すると、全体として賃金額が向上していることが分かります。週20時間以上働く身体障害者については、月あたり2万円ほど賃金がアップしているようです。

賃金の支払形態については、正社員の割合が高いことに関係して、月給制が65.7%で過半数でした。知的障害者や精神障害者で多く見られる時給制は、身体障害者では27.3%で3割以下となっています。

身体障害者手帳の等級・障害の種類

雇用されて働く身体障害者の身体障害者手帳(以下、手帳)の等級は、重度(1・2級)と中度(3・4級)がそれぞれ44.4%、32.6%を占め、全体の7割以上となりました。他の障害種別では「重度」や「1級」である障害者の割合は少ない傾向にありますが、身体障害者では重度が最も大きな割合となっています。

さらに身体障害の種類別に見ていきましょう。

全体的な傾向は前回調査とあまり変わらないものの、肢体不自由の方の割合が前回から6.6pt減少して35.4%となった一方で、内部障害の方の割合が2.5pt増えて30.6%となりました。視覚障害も、3.0ptと比較的大きく割合を伸ばしています。

【身体障害のある労働者 障害の種類】

割合の

順位

障害の種類 割合
(2023年)
割合
(2018年)
1位 肢体不自由 35.4 42.0%
2位 内部障害 30.6 28.1%
3位 聴覚言語障害 12.2% 11.5%
4位 不明・無回答 8.9% 7.9%
5位 視覚障害 7.5% 4.5%
6位 重複障害 5.4% 6.0%

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図1-5
および「平成30年度障害者雇用実態調査」図1-4より作成

障害の程度や種類について全体を見ると、身体障害者の就労において重度の方も大きな割合となっていること、前回調査よりも身体障害のそれぞれの種類における割合の差が縮小していることが分かります。

これには、身体障害者の業務をサポートするツールの開発・普及、現場におけるノウハウの蓄積など、さまざまな要因が考えられるでしょう。こうした取り組みの共有を多様な現場で促進することにより、さらなるバリア軽減につなげられそうです。

雇用される身体障害者の業界・職種ランキング

身体障害者にとって働きやすい職場環境の調整につなげるには、すでに身体障害者雇用で成果を上げている他企業の事例が参考になります。その際、身体障害者を比較的多く雇用している業界・職種に目を向けると、事例を見つけやすいでしょう。

例えば、身体障害者が多く働く業界は、「製造業」「卸売業、小売業」です。この2つの業界は、今回の調査に回答した事業所のそれぞれ2割ほどで身体障害者雇用を行っています。ほかに、「サービス業(14.9%)」「医療、福祉(11.0%)」も身体障害者の雇用が比較的多い業界です。

職種では、「事務的職業」が最も多く、26.3%でした。2位以下で全体の1割以上となったものでは、「生産工程の職業(15.0%)」「サービスの職業(13.5%)」「専門的、技術的職業(11.7%)」となっています。これらの職種では、業務の切り出しや遂行方法などで参考になる事例を見つけやすいでしょう。

以上を含む業界・職種のTOP5を下表にまとめました。

【身体障害者が働いている業界・職種 (2023年度)】※無回答を除く

業界産業 TOP5 職種職業 TOP5
1 製造業(21.3%) 事務職(26.3%)
2位 卸売業、小売業(21.2%) 生産工程(15.0%)
3位 サービス業(14.9%) サービス職(13.5%)
4位 医療、福祉(11.0%) 専門職・技術職(11.7%)
5位 運輸業、郵便業(8.4%) 販売職(7.2%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図1-1、図1-8より作成

前回調査と比較すると、業界別では「建設業(6.5%)」が3.3pt増で最も大きく割合を伸ばしました。反対に、「医療、福祉」は前回調査から5.3pt減となり、全業界の中で最も大きく割合を減らしています。

職種別では、今回1位と2位だった「事務的職業」「生産工程の職業」の割合が、それぞれ6.4pt減、5.4pt減。一方で、「サービスの職業」は3.2pt、「管理的職業(5.7%)」が2.8pt増加しました。

こうして見ると、これまで身体障害者雇用の割合が低かった業界で増加が見られたこと、職種の割合が前回よりも分散されていることが、今回の調査結果の特徴といえます。今後、身体障害者の就労において参照できる事例がより幅広くなっていくことが期待されます。

身体障害者が働く職場での合理的配慮

では、身体障害者が働く職場では、具体的にどのような合理的配慮が行われているのでしょうか。

まず、雇用する身体障害者に対して合理的配慮を行っているかどうかを尋ねたところ、58.7%の事業所がYESと答えました。

その具体的内容では、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等、休養への配慮」が最も多く、次が「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮」で、それぞれ40.2%、38.3%となっています。3位の「短時間勤務等、勤務時間の配慮」も37.9%で比較的大きな割合を占めました。

ただし、身体障害者雇用における課題が「ある」と答えた企業も多く見られます。合理的配慮を行っていると回答した事業所の割合よりも大きな割合となりました。

具体的な課題を挙げてもらうと、「会社内に適当な仕事があるか」が7割以上を占めており、職域創出や業務の割り振りに困っている様子がうかがえます。また、身体障害者が安心して働ける職場環境づくりのひとつである「職場の安全面の配慮」についても、「適切にできるか」どうか分からないという選択肢を47.4%の事業所が選びました。

下表のように併せて見てみると、時間の調整においては措置を講じているものの、業務内容や設備等の整備・改善に困っている事業所が多いといえそうです。

【身体障害者雇用の課題と提供している配慮】

課題 提供している配慮
1 適した仕事の有無(77.2%) 休養のとりやすさ(40.2%)
2位 職場の安全面の配慮(47.4%) 通院・服薬管理等(38.3%)
3位 障害者雇用のイメージ・ノウハウがない(47.1%) 勤務時間の調整(37.9%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図5−1、図5-2より作成

なお、採用時は身体障害がなかったものの、その後身体障害者となった従業員への配慮事項についても調査されました。

それによれば

  • 「職場復帰準備期間中の雇用継続」……67.7%
  • 「短時間勤務等勤務時間の配慮」……52.8%
  • 「休暇を取得しやすくする等休養への配慮」……49.8%

が上位3つを占めています。

ほかに、「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮(45.8%)」「配置転換等人事管理面についての配慮(42.9%)」「職場復帰に向けた社内の検討(職域、機器整備等)(41.6%)」なども比較的多く選ばれました。

身体障害者の場合、車いす利用者、肢体不自由や視覚・聴覚の障害などで、一般的な設備では事故が発生する可能性があります。そのため、身体障害者を雇用する現場では、床や壁の境目が分かりやすいように色を変えたり、視覚障害者には音で、聴覚障害者には視覚で情報の取得ができるよう、アラームやランプを設置したりしている事業所もあるでしょう。車いすで安全に通行できる廊下の幅、トイレの種類の確保も重要です。

ただ、こうした具体的な取り組みは、「知らなければ分からない」という部分が多いものです。課題について質問した項目で「障害者雇用のイメージ・ノウハウがない」と回答した事業所が半数近い47.1%を占めたことは、今後の情報共有がいっそう重要であることを、あらためて示唆しています。

関係機関との連携状況・事業所が求めている施策

最後に、身体障害者を雇用する事業所と外部支援機関との連携状況を見ていきましょう。

身体障害者の募集・採用時に連携している機関として多かったのは、「公共職業安定所」で79.2%でした。2位の「障害者就業・生活支援センター(28.0%)」と大差をつけており、他の障害種別と比較しても、身体障害者雇用における公共職業安定所の活用率は高いといえます。

雇用後の職場定着の段階になると、依然として「公共職業安定所(55.0%)」が1位にあるものの、他の関係機関の割合が増えました。

例えば、

  • 障害者就業・生活支援センター……34.3%
  • 地域障害者職業センター……23.5%
  • 就労定着支援・就労移行支援・就労継続支援……16.8%

などです。「学校・各種学校」については、採用においても定着段階においても、20%台であり、一定の重要な役割を果たしていることが推察されます。

職場復帰においては、

  • 公共職業安定所……40.8%
  • 障害者就業・生活支援センター……35.5%
  • 地域障害者職業センター……25.5%

などが主に活用されているようです。

ただし、身体障害者雇用で関係機関と連携した事業所の割合は、募集・採用段階で16.0%、職場定着段階で9.2%にとどまっていました。

そうした中で、身体障害者の雇用に関する今後の方針について「雇用したくない」と答えた事業所は14.2%、「わからない」と答えた事業所が50.7%あります。他の障害種別と比較すれば低い割合であり、「積極的に雇用したい(12.8%)」「一定の行政支援があった場合に雇用したい(22.3%)」も、他の障害種別より6pt程度高くなっていました。それでも、身体障害者の雇用に前向きになりにくい事業所が6割以上あることは、無視できません。

なぜ身体障害者を雇用しないのか、雇用推進にはどのような施策が必要なのかに関する設問では、下の表のような回答が多くを占めました。

【身体障害者の雇用促進に必要な施策・雇用しない理由(2023年度)】

必要な施策 雇用しない理由
1 雇用時の助成制度(63.0%) 適した業務がない(74.4%)
2位 外部支援機関の助言・援助など(58.3%) 施設・設備の未対応(38.8%)
3位 雇用継続のための助成制度(56.7%) 職場になじめない可能性(18.9%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図6−2、図6-3より作成

これによると、雇用しない理由として「適した業務」「施設設備」がないことを上げる事業所が多いようです。身体障害者雇用における課題としてあげられた内容と同様の傾向が見られました。他方、必要な施策では「雇用時の助成制度」「雇用継続のための助成制度」があり、資金面でも課題を感じていることがうかがえます。

「必要な施策」や「雇用しない理由」の解決には、すでに身体障害者雇用の経験・ノウハウがある企業事例の参照、その支援機関との連携が不可欠です。特に、公共職業安定所などは障害者雇用に関する助成金の情報提供、他の専門的な関係機関の紹介なども行っており、「障害者雇用のイメージやノウハウがない」と頭を抱えている事業所ほど活用したい機関といえるでしょう。

「支援関係機関に具体的にどのような取り組みを行ってもらいたいか」という設問では、
障害者雇用の広報・啓発から、雇用管理のノウハウ、職場と家庭の連絡調整など多岐にわたる選択肢の中で、最も多く選ばれたのは「具体的な労働条件、職務内容、環境調整などが相談できる窓口の設置(35.0%)」でした。

言い換えれば、既存の窓口について現場担当者に知ってもらうこと、窓口の担当者が適切な支援機関や専門家への橋渡しを行うことを、これまで以上に強化する必要がありそうです。

支援機関に求める取り組みの2位・3位は、下表のようになりました。

【企業が支援関係機関に求める取り組み(2023年度)】

配慮事項

1位 労働条件、職務内容などの相談窓口設置(35.0%)
2位 設備・施設・機器の設置のための助成・援助(34.5%)
3位 障害者雇用に関する広報・啓発(28.3%)

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」図5-7より作成

なお、各選択肢の割合について、身体障害者雇用ではあまり大きな差は見られません。これは、さまざまな施策に関する支援への期待の表れともいえます。

身体障害のある本人、そして支援者の方々からも、身体障害に関する特性、業務内容の具体的な調整方針、遂行方法のアイデア、他社の取り組み事例などを積極的に共有することで、現場で生じる課題や不安に対する、より効果的な対応ができるでしょう。

当マガジンでも、助成金や具体的な合理的配慮事例などをご紹介していますので、ぜひご活用ください。

(関連記事)

事業所の担当者、現場の支援者、関係機関の支援者、そしてご本人が、それぞれに情報共有や話し合いなどを行い、より安心して働き続けられる職場づくりにつなげていきましょう。

【参考】
令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省
平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

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