【障害者雇用実態調査】働く精神障害者の手帳は2級・3級が8割、給料は平均15万円【3】


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厚生労働省が2024年3月に公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」によれば、雇用されて働く精神障害者は推計21万5,000人。その中で、精神障害者保健福祉手帳の2級または3級である人が約8割を占めました。週30時間以上で働く人の割合が56.2%であると同時に、週20時間未満で働く人も11.1%います。
調査結果の内容をお伝えするシリーズ第3回では、精神障害者の雇用者数、労働時間と平均賃金、合理的配慮に関するデータを見ていきます。

精神障害者の平均賃金と労働時間

2024年3月、厚労省は「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果を公表しました。同調査に回答した6,406社で雇用されている精神障害者は、6,387人。復元した推計雇用者数は、21万5,000人となっています。前回調査から1万5,000人増加しました。

近年、精神障害者の雇用者数は増加傾向にあり、現場の雇用ノウハウも蓄積されつつあります。2024年度からは、週10時間以上20時間未満(特定短時間労働)での就労も障害者雇用率算定対象に。障害の状態に応じた労働時間をより実現しやすくなりました。

こうした中で、精神障害者の平均賃金や労働時間は、どのように変化しているのでしょうか。

まず、雇用されて働く精神障害者全体の平均賃金(手当を除く)は、月額14万9,000円でした。1週間あたりの労働時間別に見ると、週30時間以上で働いている人は平均19万3,000円で最も高く、次が20時間以上30時間未満で働く人の12万1,000円でした。

前回調査では、週30時間の場合の給与は18万9,000円、週20時間以上30時間の場合は7万4,000円だったため、いずれも平均賃金が増加したことになります。

月給制・日給制・時給制などの支払形態では、最も多いのが時給制(53.6%)、次が月給制(43.4%)でした。


※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」(図3−6、3−8)より作成

1週間あたりの労働時間では、「30時間以上」で働いている人が56.2%おり、過半数を占めました。前回調査では47.2%だったため、9pt増加しています。これに対して「20時間以上30時間未満」で働く人は29.3%となっており、前回から10.4pt減少しました。

精神障害者手帳の等級は2級・3級が約8割、疾病はさまざま

雇用されて働く精神障害者が所持する精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)の等級についても、集計されています。

手帳1級である人は3.7%のみ。大部分を2級(35.5%)、3級(43.0%)の方が占めました。
これは前回調査からあまり変わらない傾向ですが、前回は2級のほうが大きな割合を占めていました(前回:2級46.9%、3級36.3%)。

等級不明の人は10.5%です。そのほか、手帳は所持しておらず「医師の診断書等により」障害があることを承知しているとする人も6.9%いました。

【雇用される精神障害者の手帳の等級(2023年度)】

手帳の等級 割合
1級 3.7%
2級 35.5%
3級 43.0%
等級不明 10.5%
医師の診断書等により承知している 6.9%
無回答 0.4%

疾病別で見ると、手帳所持者のうち「不明」となっている人が46.3%で、最も大きな割合を占めました。疾病がわかっている場合では、「統合失調症」が12.2%、「そううつ病(気分障害)」が17.0%などとなっています。

【雇用される精神障害者の疾病別の割合(2023年度)】

分類

割合
統合失調症 12.2%
そううつ病(気分障害) 17.0%
てんかん 6.3%
その他 16.6%
不明(手帳所持者に限る) 46.3%
無回答 1.6%

なお、今回の調査で「精神障害者」とされるのは、発達障害以外の精神障害が認められる人のみである点に注意が必要です。発達障害のみを理由とする人については、精神障害者とは別に「発達障害者」の分類で集計が行われています。

精神障害者が働く業界・職種ランキング

精神障害のある方々は、どのような業界・職種で働いているのでしょうか。障害者雇用実態調査では、産業別・職業別でも雇用数を調査しています。その主な結果が、下の図です。

【精神障害者が働いている業種・職(2023年度)】

 

【精神障害者が働く業界・職種 TOP5】

業界(産業)別 TOP5 職種(職業)別 TOP5
1位 卸売業、小売業 事務職
2位 製造業 専門職、技術職
3位 サービス業 サービス職
4位 医療、福祉 運搬・清掃・包装等
5位 運輸業、郵便業 生産工程

※厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」(図3−1、3−7)より作成

 

精神障害者が特に多く働いている業種は、「卸売業、小売業(25.8%)」です。約4人に1人がこの業界で働いている計算です。

次に多いのが「製造業(15.4%)」「サービス業(14.2%)」となっており、「医療、福祉(13.8%)」で働く人も約7人に1人いました。

一方、職種で見ると、「事務的職業(29.2%)」と「専門的、技術的職業(15.6%)」が全体の約45%を占めています。次いで多いのは、「サービスの職業(14.2%)」です。

他に、「運搬・清掃・包装等の職業(11.1%)」「生産工程の職業(10.0%)」もTOP5に入りました。

ちなみに、雇用されている企業の大きさでは、従業員数が1,000人以上の大企業が37.7%で最大です。しかし、実際に働いている事業所の人数が少なく、「5〜29人」という小規模の職場で働く人が53.6%でした。「33〜99人(20.6%)」と合わせると、4人中3人が従業員数100人未満の事業所で働いているという結果です。

精神障害者雇用における合理的配慮

こうした精神障害者雇用について、多くの企業は何らかの課題が「ある」と回答しています(66.2%)。同時に、自社が雇用する精神障害者に対して、労働条件等で「配慮している(63.3%)」とも回答しました。

特に多く選ばれた課題と配慮事項は、下表の通りです。

【精神障害者雇用における課題と配慮事項】

課題 配慮事項
1位 社内での適切な業務の有無

(74.2%)

短時間勤務等の勤務時間調整

(54.3%)

2位 障害者雇用のイメージ・ノウハウ不足

(49.6%)

休暇・休憩の取りやすさ

(50.9%)

3位 採用時の適性・能力の把握

(42.2%)

通院・服薬管理などの雇用管理

(49.2%)

課題における第1位は、「会社内に適当な仕事があるか(74.2%)」でした。精神障害の個々の特性に応じた業務の切り出しや職域の創出が、企業にとっての大きな課題ということです。

実際、法定雇用率未達成企業のうち、障害者雇用が進まず企業名公表にまでいたった企業が悩んでいたのも、業務や職域の創出でした。この解決には、障害のある本人・支援者から「どのような作業・業務ができるのか」を積極的に伝える必要がありそうです。

また、「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」も49.6%で、半数近い企業が選んでいます。

JEEDや自治体が障害者雇用好事例のとりまとめなどを続けていますが、そうした情報があること自体を知らない可能性があります。情報収集や共有には、事業所内の障害者雇用担当者が常にアンテナを張るほか、これまで以上に、支援機関などの関係機関から積極的に情報を共有することが求められるでしょう。

第3位の「採用時に適性、能力を十分把握できるか(42.2%)」も無視できない割合です。採用面接の時点では「働いてもらえそう」と担当者が感じたものの、実際に職場で働き始めたら「うまく業務を進められなかった」という経験があるのかもしれません。

これには、「特性に応じた業務の割り当て、業務遂行時の指示の出し方について、どのくらいのノウハウがあるか」といった事業所側の事情も大きく関わってくるでしょう。
「どのような仕事を任せたいか/できるか」
「どのように働いてもらいたいか/働けるか」
という、本人と企業側のすり合わせが非常に重要です。

一方、配慮事項では、主に時間調整に関わる項目が多く選ばれました。具体的には、

  • 「短時間勤務等勤務時間の配慮」54.3%
  • 「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮」50.9%
  • 「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮」49.2%

となっており、それぞれ過半数またはそれに近い割合の企業に選ばれています。逆に考えれば、精神障害者から合理的配慮を求める際に希望として通りやすい内容が、こうした時間調整に関わる項目といえます。

「短時間勤務」で労働時間をどのくらい調整できるかは、事業所によって大きく異なるかもしれません。それでも、
「疲れやすいので、昼休憩以外にも定期的にこまめな休憩をとることを認めてほしい」
「通院・服薬のための休暇・休憩を認めてほしい」
などの選択肢をあわせて伝えることで、体調管理に使える時間を増やすせるでしょう。

採用後に精神障害となった従業員に関する配慮事項では、職場復帰について62.4%の企業が「配慮を行っている」と回答。その具体的内容でも、休養への配慮がTOP3に入っています。

【採用後に精神障害となった従業員の職場復帰の配慮 TOP3(2023年度)】

配慮事項
1位 職場復帰準備期間中の雇用継続

(81.3%)

2位 配置転換等、人事管理面についての配慮

(62.8%)

3位 休暇を取得しやすくする等、休養への配慮

(60.0%)

第2位の人事管理面の配慮については、精神障害者が職場で直面しやすい困難が理由になっていると考えられます。つまり、「休職前の職場で人間関係が悪化した」「業務内容や遂行方法が特性に合っていなかった」などです。

これらの事情があると、症状が安定・回復しても、元の仕事に戻れるとは限りません。職場復帰後に安心して働けるよう、配置転換等の措置が取られているということです。

精神障害者雇用と関係機関との連携・期待

精神障害者の雇用におけるイメージ・ノウハウが少ない企業の場合、障害者の就労に関する外部支援機関との連携が非常に重要です。しかし、今回の調査で、関係機関と連携する企業が非常に少ないことが分かりました。

精神障害者の募集・採用において「関係機関と連携した」と回答した企業は、全体の13.9%
7社中1社。ほとんどの企業が支援機関との連携なしに募集・採用を行っていました。関係機関と連携した企業では、公共職業安定所(75.8%)、障害者就業・生活支援センター(36.6%)が2大トップです。

採用後の雇用継続・職場定着においては、さらに連携の割合が減り、9.4%となっています。関係機関と連携した企業のうち、50.2%の企業が障害者就業・生活支援センターと、42.1%が公共職業安定所と答えました。精神障害者の採用から職場定着までは、この2つの機関が重要な役割を果たしていると考えられます。

採用後に精神障害となった従業員の職場復帰にあたっては、関係機関と連携した企業は全体の5.8%。連携先は、51.6%が障害者就業・生活支援センター、40.2%が就労系の障害福祉サービス事業者(就労定着支援、就労移行支援、就労継続支援を行う事業所・作業所)でした。

全体を通して見られる課題は、まず「外部の支援機関と連携する」ことが障害者雇用におけるポイントであることを、より多くの企業に知ってもらうことかもしれません。障害のある本人から職場に伝えるとともに、支援機関側も機会を見つけて積極的に発信していく必要がありそうです。

企業がどのような取り組みを関係機関に求めているかも、今回の調査で見ることができます。ややばらつきが見られますが、上位に絞ると特に次の3つが求められていました。

【企業が支援関係機関に求める取り組み(2023年度)】

配慮事項

1位 具体的な労働条件、職務内容、環境整備などが相談できる窓口の設置(29.8%)
2位 障害者雇用に関する広報・啓発(24.9%)
3位 関係機関の職員等による定期的な職場訪問など職場適応・職場定着指導(23.3%)

先に紹介した企業が感じている課題の内容とあわせて考えると、精神障害者雇用のイメージや現場でのノウハウについて相談できることを重視しているようです。

現場での支援にはジョブコーチによる支援や就労定着支援などがあること、これらの支援期間や利用できる対象者の違い、利用できる助成金などについて、より分かりやすい形で共有していかなければならないでしょう。

興味深いのは、今後の精神障害者雇用の方針です。半数を超える企業が「(雇用するか)わからない(53.6%)」と回答する一方で、「積極的に雇用したい(6.5%)」「一定の行政支援があった場合、雇用したい(16.7%)」という雇用に前向きな企業と、「雇用したくない(23.1%)」が、それぞれ2割程度でせめぎ合っていました。

障害者雇用の促進に必要な施策、雇用しない理由をそれぞれ見ても、やはりノウハウの共有と現場での支援による雇用イメージの形成が大きな鍵となりそうです。

【精神障害者雇用促進に必要な施策・雇用しない理由(2023年度)】

必要な施策 雇用しない理由
1位 外部支援機関の助言・援助などの支援(62.5%) 適した業務がないから(72.6%)
2位 雇入れの際の助成制度の充実(58.1%) 職場になじむのが難しいと思われるから(29.1%)
3位 雇用事例や障害特性・雇用管理上の留意点に関する情報提供(52.0%) 施設・設備が対応していないから(26.1%)

合理的配慮の具体事例については、JEEDや各自治体から定期的に発信されており、国などが提供しているオンラインのデータベースも利用可能です。

【合理的配慮の公的なデータベース例】

名称 特徴 URL
合理的配慮サーチ 国のデータベースで、合理的配慮等の具体的な事例を検索できる。
障害の種類・場面を指定した検索が可能。外部サイトに掲載されている事例へのリンクが多く、総合的なデータベース。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/
障害者差別解消に関する事例データベース 国のデータベースで、差別事例、合理的配慮の事例等を検索できる。

障害の種類・場面の他、性別や年代を指定した検索が可能。

収録されている事例は200件未満と考えられるが、様式が整っており見やすい。

https://jireidb.shougaisha-sabetukaishou.go.jp/
インクルDB 国のデータベースで、インクルーシブ教育における合理的配慮事例500件以上を収録。

高校生以下の事例なので就労の現場に直接関係するわけではないが、人間関係の構築、学び方などのヒントを得られることがある。

https://inclusive.nise.go.jp/

精神障害者雇用の促進、安心・安定して働ける環境づくりのため、企業・本人(+家族)・支援者が連携しながら、ノウハウの共有・拡大を進めていかなければならないでしょう。

当マガジンでも、さまざまな合理的配慮事例や配慮提供のポイントを解説・紹介しています。精神障害のある方の働き方の工夫に、ぜひお役立てください。

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【参考】
令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

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