2025/05/20
障害のある学生向け対話型トレーニングプログラム「ableto(エブルト)」、NPO法人ディーセントワーク・ラボが展開
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障害者雇用率引き上げに伴う障害者の雇用拡大により、企業で働く当事者を支援するノウハウや制度の利用が進んできました。一方で、就職活動では依然として障害のある学生にとっての社会的障壁が大きく、企業側の採用活動や入社後でも適切な合理的配慮の提供に苦慮している様子。これを解決しようと立ち上げられたのが、NPO法人ディーセントワーク・ラボ(以下、DWL)による“対話型サロン+アルバイト型インターンシップ”プログラム「ableto(エブルト)」です。
「ableto」の概要とDWLの活動をご紹介します。
画像提供:ディーセントワーク・ラボ
もくじ
DWL、障害者向け“対話サロン+アルバイト型インターンシップ”プログラムを展開
画像提供:ディーセントワーク・ラボ
障害者雇用促進法における障害者雇用率制度において、民間企業の法定雇用率は現在2.5%。2026年7月からはさらに0.2%引き上げられ、2.7%となる予定です。
一方で、法定雇用率達成企業の割合は5割未満。各企業にはより一層の取り組みが求められています。特に中小企業では、まだ1人も障害者を雇用していない企業が多いのが実状です。
こうした状況の打開策として提案されたのが、DWLが開始する障害のある学生向けの“対話型サロン+アルバイト型インターンシップ”で構成される対話型トレーニングプログラム「ableto」です。
「ableto」の対象者は、企業などへの就職を希望する大学・大学院・高等専門学校等に在籍する障害のある学生、及び社会生活の中で何らかの困難を感じている学生。対話型サロンへ参加して情報収集を行いつつ、インターンシップへの参加につなげるプログラムです。インターンシップを希望する場合は、選考を経てアルバイト型インターンとして雇用契約を結び、賃金の支払いを受けながら一定期間働きます。
雇用契約期間は企業によって異なりますが、半年から1年ほどが見込まれています。
名称の由来は、英語の「〜できる」という意味をもつ「be able to」。これまでアクセンチュア株式会社およびアッシュコンセプトと共に展開してきた雑貨ブランド「equalto(イクォルト)」と親和性を持たせました。障害のある学生と企業が、共に「できる」をつくっていくというのが、本事業のコンセプトです。
「abelto」の入口として「対話型サロン」を設置
DWLによる「abelto」は、障害のある学生が実際に企業で働いてみるという体験を得られる機会であると同時に、企業にとっては障害者雇用の経験を蓄積できる機会になります。
ただ、学年が低いうちは一般教養科目や必修科目の履修で忙しく、学校の授業とインターンを両立させる工夫が必要。そこで、DWLでは就活が本格化する前から授業と両立しつつ情報収集や相談ができるよう、「ableto」の入口にあたる「対話型サロン」を設置します。
「対話型サロン」は登録型のコミュニティであり、手帳の有無にかかわらず、学生生活で困難を感じている人が自由に参加できるシステムです。日々の困り事・不安・悩みの解消につながるコンテンツも発信されます。
DWLによれば、
- 1〜2年次は対話型サロンで学生生活を安定させながら、アルバイト型インターンシップに向けて準備する
- 就活が本格化する3年次以降は、実際にアルバイト型インターンシップにチャレンジする
といった使い方ができるとのことでした。
DWLとは?B型工賃問題から始まった障害者の社会参加の取り組み
DWLは、2013年6月に設立されたNPO法人です。就労継続支援B型事業所の工賃の低さに対する問題意識から、現在も代表を務める中尾文香氏によって設立されました。
DWLがまず着手したのは、B型事業所の工賃引き上げに向けた商品開発。B型事業所で製作される商品は質が高いものの、一般受けしにくいデザインが多く見られます。そのため、2014年に「デザインの力で障がいのある方のものづくりを応援したい」として、プロジェクト「equalto」を展開してきました。
2019年には、「おきなわバニラプロジェクト」として、北中城村、株式会社クラブハリエ、ソルファコミュニティとの農福連携事業を開始。障害者などの雇用創出と耕作放棄地の解消を目指しています。
DWLのこうした取り組みや支援により「付加価値の高い商品ができることで単価が向上、売り上げが上がり、結果として工賃向上を遂げてきた事業所は多い」(DWL)とのことです。
現在、B型の平均月額工賃は、2021年度で1万7,507円、2022年度で1万7,031円、2023年度で2万3,053円となっています。2023年度の平均月額工賃については、2024年度報酬改定で計算方法が変更されたことから大幅に増加したという事情があり単純比較はできませんが、それでも全体として増加傾向にあります。
「私たちが活動を始めた当初と比べると現在はSDGsの意識の高まりもあり、社会の中でB型事業所が作る商品に注目が集まっているように感じます。徐々に工賃は上がってきていますが、事業所で働く障がいのある方が、働くことの喜びや達成感を得て、地域でグループホームなどを利用しながら自立した生活を送れるようになるためには、依然として工賃向上は重要な課題と捉えています」(DWL)
B型事業所での難しさは、何より「福祉と経済活動の両立を求められること」だといいます。工賃アップには「組織マネジメント」「職員(支援者)のモチベーション」「技術・知識」という3要素を踏まえながら事業所の潜在的なニーズを整理し、「本当の課題」を見つけることが欠かせません。※
この「本当の課題」を見いだしていくプロセスが特に重要で、「良いものを作るだけでなく、経済活動に取り組む意欲や、そこに向かうための事業所の意思決定など、組織マネジメントが大切」とDWLは語りました。
※参考:就労継続支援B型事業所 賃金向上への取り組み好事例集(東京都福祉局 2025)
DWLが目指すディーセント・ワークを実現する社会
画像提供:ディーセントワーク・ラボ
B型事業所支援と並行して、DWLは企業における障害者雇用のコンサルティングも実施しています。一般企業では主に精神障害・発達障害者、特例子会社では主に知的障害者の支援を行ってきました。
DWLによる障害者雇用コンサルティングの特徴は、中長期的な伴走支援です。障害者の採用前には、企業側が障害者雇用についてポジティブなイメージができるよう、先進事例やノウハウを共有しています。
採用から職場定着に向けては、障害特性の理解と本人の強みを活かせる業務の切り出し・創出を行い、研修・ツールなども提供。個別課題に応じたオーダーメイド研修なども行い、「対話」と「信頼」を大切にした職場づくりを支援してきました。
DWLのこれらの取り組みでは、代表・中尾氏を中心とする障害者福祉の調査研究による知見も大いに活用されています。
「私たちは、課題解決を提案するコンサルタントという『顔』だけでなく、福祉の現場に立って一人ひとりの強みと環境に向き合うソーシャルワーカーとしての顔や、実践を知見としてまとめ、社会に発信する研究者としての顔も合わせ持っています。海外視察や学会発表も、代表の中尾を中心に意欲的に取り組んでいます。これらを組み合わせることで、より本質的な課題解決を目指せるのが私たちの強みです」(DWL)
福祉事業所・企業・行政にまたがる形で活動を展開することで「社会全体を巻き込みながらディーセント・ワークの実現に近づける」ともしています。
この「ディーセント・ワーク」とは、一言でいえば「働きがいのある適正な仕事」を意味する言葉です。DWLの名称の由来となっており、SDGsの目標8にも登場します。※
DWLでは、ただ働くだけでなく、障害の有無にかかわらず生活の充実や豊かさも含めた「こんなふうに働きたい」という願いを実現した仕事をディーセント・ワークと呼びます。目指すのは、一人ひとりがどこかのコミュニティやグループの中で役割をもち、本人も周囲の人も、その役割を認識しているような社会です。
これまで支援してきた現場を見ると、業務の切り出し、職場環境の整備に負担を感じていたり、精神障害のある当事者自身に「体調を崩さずに職場で安心して働けるか」といった不安があったりするとのことでした。
会社側と当事者の間のコミュニケーションがうまく取れていないケースでは、相互理解の不足から障害による課題や苦手な部分に焦点が当てられ、本人が本来持つ強みを発揮できないこともあります。
だからこそ、DWLは「対話」を重視します。一人ひとりに合った働く環境をつくるために、本人・会社側・支援者が「対話」を行い、組織全体での試行錯誤によって、そのときどきの最適解を見つけていくのです。これこそが、当事者と会社側に相互信頼が生まれ、ひいては本人の変化・成長にもつながっていく欠かせないポイントです。
※出典:『持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取り組み』(外務省)
【取材協力】
NPO法人ディーセントワーク・ラボ
