障害者雇用がうまくいかない原因は“障害理解に基づく配慮”の不足かも


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2024年4月から、障害者の法定雇用率が2.5%に引き上げられると同時に、対象企業も従業員数43.5人以上から40.0人以上へと拡大されました。より積極的な障害者雇用の推進が求められる中、「そうは言っても、うまくいかない」と悩む企業担当者も多いのではないでしょうか。

なぜ障害者雇用で行き詰まりを感じてしまうのか。この課題を探るため、リクルートマネジメントソリューションズが発表した「障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査」の結果を、2回に分けて見ていきます。1回目となる今回は、障害のある従業員に対して行われている配慮や同僚からの働きかけ等をご紹介します。

職場で一緒に働く「障害のある人」はどんな人?

はじめに、職場でどのような障害のある人と一緒に働いているかを調べた結果を見ていきましょう。

今回ご紹介するリクルートマネジメントソリューションズによる調査の対象は、障害者と一緒に3カ月以上働いている上司・同僚・部下の方です。

一方、調査で言及される「障害のある人」は、「仕事をする上で身体的・知的・精神的な特性に起因する困難があり、周囲の配慮(支援・サポート)を必要とする人のこと」を指し、手帳や診断の有無は問われません。

回答者の所属企業は、障害のある人の雇用を目的として設けられた特例子会社や組織(以下、特例子会社等)と、その他の一般組織です。回答者の割合は、特例子会社等が約2割、一般組織が約8割となっています。

同調査結果でまず報告されたのは、「どのような困難を抱えている人と一緒に働いているか」(複数回答)です。

特例子会社等の場合と一般組織の場合で、TOP3は次のようになりました。

特例子会社等でのTOP3
1位 対人関係や対人コミュニケーションに関する困難 61.5%
2位 体力的、気力的な困難 50.0%
3位 行動や感情をコントロールする困難 44.7%

 

一般組織でのTOP3
1位 対人関係や対人コミュニケーションに関する困難 44.7%
2位 移動や視聴覚に関する困難 39.7%
3位 体力的、気力的な困難 27.5%

調査結果から、リクルートマネジメントソリューションズは、「一緒に働く立場から見て取ったり感じ取ったりできる困難の状況」が周囲により認識されやすいとしています。特に対人関係やコミュニケーションに課題のあるケースが認識されやすいようです。

ただ、結果全体を見ると、一般組織においても「情報処理や学習に関する困難」など“ぱっと見では分からない”困難も選ばれている点も重要です。いずれの職場においても、多様な特性を持つ人と働いていることを示唆する結果となりました。

障害のある人への配慮内容に見られる課題

次に、職場で障害のある人に対して行われる配慮についての設問です。結果は、特例子会社等と一般組織であまり差がない項目もあれば、大きな差を見せた項目もありました。

両者で差が大きかった項目は、支援スタッフ配置の有無、コミュニケーション手段の確保、休みのとりやすさなどです。

差が大きかった項目 TOP3 特例子会社等 一般組織
支援スタッフを配置している 38.5% 13.6%
職場でのコミュニケーションを容易にする手段を用意している 53.8% 33.5%
調子の悪いときに休みをとりやすくしている 69.2% 52.6%

では、あらためて全体を見ていきましょう。

まず、特例子会社等と一般組織それぞれのTOP3を抽出すると、下表のようになりました。

特例子会社等でのTOP3
1位 調子の悪いときに休みをとりやすくしている(働き方の自由度) 69.2%
2位 能力が発揮できる仕事に配慮している(業務アサイン) 66.7%
3位 働く場所に関する自由度を高くしている(働き方の自由度) 56.4%

 

一般組織でのTOP3
1位 能力が発揮できる仕事に配慮している(業務アサイン) 59.6%
2位 苦手なタスクを避けて得意なタスクを任せるようにしている(業務アサイン) 59.6%
3位 調子の悪い時に休みをとりやすくしている(働き方の自由度) 52.6%

 

次に、それぞれの選択肢が振り分けられている3つの分類(業務アサイン、プロセス支援、働き方の自由度)ごとに割合を比較すると、「プロセス支援」と「働き方の自由度」において、特例子会社等と一般組織の間に大きな差がありました。

「プロセス支援」の項目で差が目立つのは、「職場でのコミュニケーションを容易にする手段を用意している」「支援スタッフを配置している」の2つ。いずれも、一般組織では特例子会社等より20pt以上低い結果となりました。

他方、「働き方の自由度」で特に差が見られた項目は、「調子の悪いときに休みをとりやすくしている」「働く場所に関する自由度を高くしている」の2項目です。こちらは、16pt以上の差で一般組織が低い割合となっています。

他の調査でも、障害者雇用に大きな課題を抱える企業では、専門の支援スタッフとうまく連携していないケースが多く見られます。実際、専門機関や支援スタッフとの連携は、障害特性の把握とそれに適した環境調整、ツール導入などに欠かせません。

一般組織でも、「得意な分野を生かそう」という視点以外に、コミュニケーション上の環境調整、指示の出し方、働く場所や休みの取りやすさなど、制度面の更新を行う必要がありそうです。

障害のある人への働きかけに“経験”が影響(一般組織)

3つめは、一般組織に所属する回答者それぞれが、一緒に働く障害者に対して行っている働きかけの内容についてです。支援的コミュニケーションに関する項目について、「あてはまる」から「あてはまらない」の5段階での回答を求めました。

実際の設問は、以下の3項目です。

【支援的コミュニケーションに関する3項目の内容】

  • うまく仕事を進められるよう、仕事を手伝ったり問題解決に協力したりしている
  • 必要とするときに、話を聞いたり相談に乗ったりしている
  • 仕事での貢献に対して、感謝を示している

結果は、これらに肯定的に回答した人の割合が約6割、「どちらともいえない」が約3割でした。

このような働きかけを行うか否かの差に影響すると考えられる要素についても、本調査では尋ねています。大きくは「個人的な経験」と「職場での経験」に分けられ、障害のある人との日常的な接点や職場での配慮についての説明、話し合いなどを下位項目としました。

リクルートマネジメントソリューションズは、これらの結果について平均値を比較。障害のある人に対する理解を深める個人的経験の有無に関して、「働きかけの程度に一定の差が見られた」としています。

さらに、「それにも増して」働きかけの程度に差が見られた項目は、職場での経験の有無であると分析しています。職場での経験の有無によるポイント差は、下表のようになりました。

 

質問項目(職場での経験) あった群 なかった群 ポイント差
人事や上司から障害特性や必要な配慮についての説明があった 3.85pt 3.36pt 0.49pt
本人と障害特性や必要な配慮について話し合った 4.09pt 3.33pt 0.76pt
どのような支援をしていけばいいかについて、職場で話し合った 3.98pt 3.36pt 0.62pt

 

リクルートマネジメントソリューションズでは、「積極的に関われていない、十分に関われているかどうか自信がない、といった人が一定数いることを示しているかもしれない」としています。

 

こうした分析や影響を与える要素のポイント差を考えると、

  • 具体的な関わり方に関する知識や経験が十分でなく、どのように働きかけを行っていいか分からない
  • 自身が行った働きかけについて評価する基準を持っていない

と見ることもできるでしょう。

職場で障害特性の理解や配慮内容の話し合いを行ったり、障害のある人との関わりを深めたりすることが、共に働く上で非常に重要であるといえそうです。

「障害者雇用がうまくいかない」の対処策

「障害者雇用がうまくいかない」という悩みを抱える企業では、よりいっそうの支援者との連携、障害特性の理解と特性に応じた配慮のパターンなどの獲得が必要です。

障害者への配慮について「知らない」「分からない」状態は、障害者雇用を始めたばかりの企業が直面しやすい課題でしょう。しかし、これを放置すると、障害者は業務の習得が困難になり、職場での居場所も見つけにくくなってしまう恐れがあります。

安定した就労と職場定着には、

  • 障害のある人と一緒に働くという経験
  • どうすれば一緒に働けるかというノウハウの蓄積

の2点が重要であることが、今回の調査結果から示唆されました。

より具体的にいえば、次の3点が働きやすい職場づくりにおけるポイントとなります。

  • 障害特性を理解する
  • 配慮内容を話し合う
  • 職場における関わりを深める

実際の施策としては、定着支援やジョブコーチによるサポート、職業生活相談員による現場での支援を上手に活用し、最終的には職場のメンバーが自然にサポートし合える「ナチュラルサポート」を目指すとよいでしょう。

当マガジンでは、障害者雇用における好事例の紹介、さまざまな配慮内容の紹介、サポート方法の解説などを行っています。また、JEEDの公式サイトでも、支援や制度の解説動画を視聴可能です。

こうした先行事例を参照しつつ、障害のある人にとっても、その上司・同僚・部下の方にとっても働きやすい職場づくりを進めていきましょう。

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【調査結果 出典】

職場の障害者活躍支援とインクルージョン風土が職場にもたらす影響|リクルートマネジメントソリューションズ

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