2022/08/25
短時間労働精神障害者の特例措置が終了するかも? 他の企業はどう考えてる?
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障害者雇用率の計算で特例措置を適用対象となり得る短時間労働の精神障害者。本来の「0.5人」を「1人」としてカウントできるこの特例措置が、2023年に終了するかもしれません。障害者雇用を進める企業では特例措置をどう受け止め、今後どのような雇用方針を持っているのでしょうか。2021年度のNIVRによる調査研究から、特例措置を適用する企業の特徴・傾向を見ていきましょう。
もくじ
精神障害者でもフルタイム勤務ができないとダメ?
一般雇用でも障害者雇用でも、「正社員」として働く場合は通常「週40時間」という長い労働時間を求められます。週5日勤務すると考えれば1日8時間です。
既にフルタイムで働いている方にとっては「当たり前」と感じられるかもしれません。しかし、障害者から見ると、これは正社員への大きな壁となっています。特に精神障害がある方の場合、1日8時間という労働時間は「やりたいけれどできない」「自分の体調や精神的安定を考えると難しい」と考える方が少なくありません。
2018年度版の「障害者雇用実態調査」によれば、週の所定労働時間が30時間以上で働いている障害者の割合は、
- 身体障害者で約8割
- 知的障害者で7割弱
- 精神障害者で5割弱
- 発達障害者では約6割
精神障害を持つ方において、平均1日6時間以上働ける方は就労する精神障害者全体の半分未満です。
「長い時間働けないのなら雇わない」となれば、障害者の社会参加や自立にとって大きな障壁となってしまいます。そこで、2018年から5年という期限付きで、障害者雇用の実雇用率算定において「精神障害者である短時間労働者」に適用される特例措置が始まりました。
精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置
「精神障害者である短時間労働者の算定方法に係る特例措置」(以下、「特例措置」)は、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者の算定において、本来「0.5人」としてカウントするところを一定の条件のもとで「1人」としてカウントすることを認める措置です。
特例措置の適用には、精神障害者保健福祉手帳の所持者であるとともに、
- 雇い入れから3年以内の者
- 精神障害者保健福祉手帳の取得から3年以内の者
という2つの要件のいずれかを満たす必要があります。
近年、精神障害者を雇用する企業数は右肩上がりで、障害者を雇用する企業全体の3割〜4割を占めています。精神障害者を雇用する企業の中で特例措置を適用する企業は2割ほど。特例を適用される精神障害者の数自体も年々増加してきました。
しかし、この特例措置が2023年で終了するかもしれません。もし特例措置が短時間で働く精神障害者の雇用に大きな効果を発揮しているとすれば、特例措置が終了したあとの雇用が減ってしまうのではないかという懸念があります。
特例措置が適用されている事業所の特徴・傾向
実際に特例措置を適用して精神障害者を雇用している多くの企業は、特例措置についてどのように考えているのでしょうか。
特例措置を使っている企業の傾向や当事者の受け止め方等を調査したNIVRによる研究報告書No.161から、特例措置が適用された短時間労働の精神障害者を雇用している企業の特徴や傾向、そのような企業でどのように特例措置が受け止められ、特例措置の終了後どのような雇用方針を持っているのかなどを見ていきましょう。
精神障害者を雇用する産業TOP3と特例適用が多い産業
特例措置の適用・非適用を問わず精神障害者を雇用する企業全体と特例措置を適用する企業の傾向を比較すると、以下のような特徴が見られました。
<精神障害者を雇用する企業全体の特徴>
- 産業別TOP3は製造業、医療・福祉、卸売・小売
- 企業規模別では、従業員数が300人未満か1000人以上の企業が多い
- 企業規模が大きいほどフルタイムで働く方の割合も大きい
<特例措置を適用する企業の特徴>
- 産業別TOP3は医療・福祉、卸・小売業、サービス業(他に分類されないもの)
- 精神障害者の働き方の違いが産業別TOP3に影響している
- 医療・福祉では短時間労働者の割合が大きい
- 製造業ではフルタイム勤務の者の割合が大きい
特例措置の適用・非適用を問わないTOP3と特例措置が適用されている精神障害者を雇用している場合のTOP3で順位が入れ替わっているのは、短時間労働がどのくらい取り入れられているかが関わっているようです。医療・福祉分野では短時間で働く方が多い傾向があり、製造業ではフルタイムで働く方が多い傾向があります。
合理的配慮の提供
職場環境の整備や合理的配慮の提供については、特例措置を適用する精神障害者を雇用する企業では、そうでない企業よりも精神障害者の職場定着や合理的配慮について実施しやすいと答える傾向が見られました。
具体的には、
- 雇入れ
- 職場定着
- 職場復帰
などの重要な場面で、精神障害者の特性や状況を考慮した雇用管理を行うとともに、さまざまな支援制度の整備、就労支援機関との連携を行っているようです。
特に短時間で働く精神障害者への支援制度では、次のような支援が多く見られました。
- 1位「体調等に応じた職務・配置調整」
- 2位「雇用管理担当者との定期面接」
- 3位以下「フルタイム勤務への移行」「個別相談窓口の設置」「職場適応援助者の配置」など
ただ、特例適応者の雇用形態や賃金形態を見ると、パート・アルバイトや時給制で雇用しているケースが多いことも分かりました。
非適用者との差を比較すると、雇用形態については「パート社員」では特例適用者のほうが多くなっているのに対して、「契約社員」「正社員」では非適用者のほうが多くなっています。
一方、賃金形態においては「時給」では特例適用者のほうが多く、「月給」は非適用者のほうが多いという結果でした。
特例措置に対する印象・特例措置終了に関する認識
では、特例措置を適用すること自体は、企業でどのように考えられているのでしょうか。
特例措置を適用している企業に、適用のメリットを尋ねた設問では、
- 7割ほどが「雇用率達成のしやすさ」を選択
- 約5割が「定着の見通しの立てやすさ」「無理のない労働時間」を選択
- 特例措置の終了が「負担になる」企業は2割弱
となりました。
全体として見ると、特例措置の適用によって短時間労働の精神障害者が雇用率達成の点から見ても雇用しやすくなり、労働時間の調整といった配慮をしやすくなっているようです。措置終了後の負担については、気にならないと回答した企業が約5割あるものの、明確に「負担になる」と回答した企業も一定数見られました。
特例措置の終了に関しては、より詳しく認識を問う設問もあります。特例措置を適用している短時間労働の精神障害者は雇用率算定の上で「1人」とカウントされますが、特例措置制度そのものが終了した場合、同じ労働時間で働いてもカウントが「0.5人」に減ってしまう可能性があるからです。
もし特例措置が終了した場合、企業は現在特例措置を適用して雇用している精神障害者を雇い続けるのでしょうか。この設問では、
- 「雇用継続」
- 「適性のある者を雇用」
- 「短時間で雇用」
- 「フルタイム勤務者希望」
- 「終了後の短時間雇用困難」
という5つの方針を選択肢として、各選択肢が当てはまるかどうかを尋ねました。
結果は、
- 約9割が「雇用継続」「適性のある者を雇用」
- 1割未満が「終了後の短時間雇用困難」
です。
また、労働時間そのものを問う選択肢では、「短時間で雇用」「フルタイム勤務者希望」のいずれも「どちらとも言えない」を選ぶ企業が多く見られました。必ずしも労働時間が第一の条件となるわけではないことがうかがえます。
特例措置の効果と課題は?
これまで見てきた特徴や傾向から、特例措置の効果と残された課題を確認していきましょう。
特例措置を適用することの効果は、雇用率達成のしやすさ
特例措置の適用は障害者雇用率の維持や達成に有効であると見られます。
先ほど見た特例措置への印象で示されているとともに、事業所へのインタビューでも
- 「雇用率の達成が難しかったので、特例措置があることで助かった」
- 「精神障害者も働きやすく事業所にとっても雇用しやすくなる」
といった回答が寄せられました。
特例措置を適用すると、短時間勤務で雇用しても週30時間以上の労働者と同様に1人としてカウントできるため、精神障害をもつ方の状況に合った労働時間で働いてもらうことが可能です。企業としても急いで労働時間を増やす必要がありませんし、じっくりと合理的配慮の提供をしながら職場定着をサポートすることができると考えられます。
特例措置に関する課題は、当事者の状況とのバランス
一方で、特例措置について、企業からいくつかの課題も指摘されました。具体的には、次のような課題です。
<特例措置の課題>
- 特例措置を適用した精神障害者の中には、体調の変化などで週所定労働時間が20時間を下回ってしまう従業員がいる
- フルタイム勤務に移行するのが困難な従業員がいる
- 特例措置の期間が終了した精神障害者の雇用に慎重な姿勢をとる企業がある
特例措置は無理なく少しずつ労働時間を増やしていこうという方向性を想定したものですが、実際の現場では、必ずしもその通りにはいきません。そうしたギャップによって、特例措置の適用ができなかったり、特例措置の目的である順調な職場定着やフルタイムへの移行が困難な状況に企業側が戸惑ってしまったりすることがあるようです。
また、特例措置があることで短時間労働の精神障害者の雇用が進めやすいという印象をもつ企業では、特例措置の期間が終了することでその後の精神障害者の雇用について比較的慎重な姿勢を示す傾向も見られました。言い換えれば、「特例措置があるから雇用するが、それがないと算定上のメリットがなくなり雇用における負担感が大きい」ということでしょう。
こうした課題を解決するために、企業からは「超短時間(週20時間未満)であっても障害者本人に働ける力があり、仕事があるならカウントできる仕組みであるべき」などの声が寄せられました。
精神障害者雇用での短時間労働という選択肢
NIVRの調査から、短時間労働の精神障害者を雇用する企業にとって、特例措置が雇用率達成に役立つものと受け止められている傾向があることが分かりました。
一方で、特例措置が終了しても短時間労働の精神障害者を雇用し続けるとする企業も多く見られ、障害をもつ本人の状況に合った働き方ができることを重視する企業が大半を占めています。
短時間労働の精神障害者を対象とする特例措置は、精神障害をもって働く方が週20時間以上の労働を続けられることを求めており、3年以内に週30時間以上働けるよう徐々に労働時間を増やしていくという道筋がイメージされています。
しかし、現実的な問題として
- 週30時間以上の労働をさせれば本人にとって無理な働き方となりかねない
- 週20時間未満なら働けるのに雇用率ではカウントされない(無視されてしまう)
といった課題が企業から指摘されました。
調査結果を見ると、特例措置適用の可否や雇用率算定方法の点から「週20時間以上でないと雇えない」「週30時間以上働ける障害者でないと困る」といった考え方をする企業がないわけではありません。しかし、そこで単純に「もう短時間労働では雇わない」というのではなく、より現場の働き方に合った条件や算定方法の検討が必要という認識が企業側から出ています。
特例措置の終了を考慮した場合の課題を一言でまとめるなら、「精神障害者の特性に合った働き方を重視しつつ雇用率達成にもつながる仕組みをどう整えればよいのか」ということになるでしょう。
特例措置の終了が考えられる2023年、短時間労働の精神障害者が働く場をどのように確保し続けていくのか、どうすればよりインクルーシブな社会の実現につなげられるのか、より一層の検討、施策の実施が求められています。
(関連記事)
2019年障害者雇用率について|カウント方法と納付金制度
【参考】
調査研究報告書 No.161精神障害者である短時間労働者の雇用に関する実態調査~雇用率算定方法の特例が適用される労働者を中心として~|NIVR